EternalKnight
絶望の来訪者/絶対包囲
<SIDE-Guren->
この手に収まる《真紅》を手放して、拳を握る。今の俺に出来る、最善の手を打つ為に。握り締めた拳を振りかぶっている暇は無い、そんな事をしている暇等ありはしないし、そもそもその必要も無い。
《創世》ならば、どんな物でも創れる。例えそれが、形の無い《威力》と言う概念だったとしても、だ。
《刹那》を振り下ろそうとしているカノンに、圧倒的な速度差というアドバンテージを失った今の彼に、予備動作を放棄して放った一撃を回避する術は無い。
だから唯、その《威力》と言う概念をこの拳にのせて、放つ。狙いはカノンの顎――位置的にはアッパー気味な一撃ではあるが、予備動作なしで放ったその拳には勢いなどありはしない。
(勢い等いらんさ。そもそも勢いなんて物は《威力》を上げる為に必要な要素でしかないんだ、《威力》その物を創造して纏ったその拳に、そんな物は必要ない)
放たれた拳が、カノンの顎に突き刺さる。勢いの無いその拳は、しかしカノンの体を錐揉み状に殴り飛ばす絶大な《威力》を生み出す。
だが、どれだけ絶大な威力を誇ろうと、拳での一撃に過ぎない。コレで決着がつく程、カノンは生易しい相手ではない。
故に、追撃する。殴り飛ばした事で彼我の間に距離が開いてしまった事でカノンにもう一度加速術式を展開するチャンスを与えてしまったが、問題は無い。今度は此方に辿り着く前に先程まで組み上げて放棄した術式を叩き込めばいい。
「――Ksana」
カノンの詠唱が聞こえる。だが、もう遅い。先程放棄した術式は俺の中で再編され、より凶悪な術式となって完成した、後は力の名を紡ぐだけで良い。
もう一度此方に突っ込んで来た所で、先程の焼き直しにしかならない。誰の能力かはわからないが、術者や対象者に作用している能力を打ち消すあの能力がある限り、何度やっても結果は同じだろう、故に――カノンが次に狙うのはその能力の発動者の筈だ。
考えている内に早回しになったカノンの叫びが「――」聞こえる。意味は、聞き取れない。
否、先に此方に突っ込んできたとしても、「Creation」今度は此方の術式が展開する方が速いのだが。

<SIDE-Kanon->
「――Ksana」
唱えながら、次はどう動くべきなのかを考える。否、考えるまでも無く決まっている――アリアを潰さなければいけない。
彼女のあの能力は相性でいえばこれ以上無い程に最悪だと言って良い――否、彼女が居る限り、この場から生きて帰れる可能性は零と同じ様な物だ。
グレンを、最上位を追い詰めた所で、後一歩まで詰め寄った所で、不意打ちを食らって能力を消され、そこからグレンから理不尽な攻撃を食らってしまった。
否、アリアの能力は一度食らって分かっていた筈なのに、目の前の最高位と言う餌に釣られてそれを放置した俺に原因があるので仕方ないとして、グレンのアレはなんだ?
何の予備動作もなしの拳をぶつけられただけで殴り飛ばされる、だと? どれだけ身体能力が上がった所でそんな事が出来るはずが無い。故に、考えられるのは先程の詠唱によって何らかの能力が発動していた、と言う事だ。
と、言うよりは何か起こっていないと理屈が合わないのだ、詠唱無しで100程はあるだろう刃の群を壁状に展開させる事が出来るのに、詠唱までしておいて何も無いという事の方がおかしい。
聖具の名と能力の名から考えれば、何かを創る事の出来る能力の筈なのだが、何も創った形跡が無いというのはどういう事なのだろう?
(――或いは、形の無い《何か》を創ったという可能性もあります。相手は最上位ですから、常識なんてあってない様なものです)
形の無い何か――か。確かにそれなら創った痕跡は残らないだろうし、予備動作なしで絶大な威力を発揮したグレンの拳にも納得が行く。
と言う事は、グレンが作ったのは威力を上げる為の一要素か? 或いは《威力》その物と言う可能性もあるが、ある程度の予測が付いたのならそれ以上考える必要は無い。
今すべき事はアリアを殺す事か、或いはその聖具を破壊する事だ。《Ksana》にのみ頼って戦っている訳ではないが、流石にこの戦場でアレなしで戦うのは無謀だし、そもそも勝負にならない可能性が高い。故に、アレを打ち消せる彼女の能力は捨て置けない。
一対一なら、例え《Ksana》を打ち消されようが元の性能に加えて魔獣となっている俺の方がまだ有利なぐらいだろうが、それを今言っても仕方がない。
この状況を作ったのは倒せる内に敵の数を減らさなかった俺に原因があるし、何よりこの状況は俺が待ち望んでいた物だ。俺は何処までやれるのか? 自分の限界は何処にあるのか、それを知るのに、コレほどまでに適した場が、今までにあっただろうか?
――過去に、ゼノンとの戦いの中にあったかも知れないが、それはその当時の俺の価値観で見ての話に過ぎない。
今の俺の力を試すのにコレと同等以上条件の場所が果たしてあるだろうか? この広域次元世界全てを見渡しても他に存在するのかが怪しい、そのレベルの舞台だ。故に、存分に、この命を掛けて堪能させてもらおう。
先ずはアリアを、アリアをしとめればグレンを、とりあえずはそれを目標にすれば良い。その二人が終われば後はどの程度ダメージを貰っているかにもよるが何とでもなるだろう。終わらせられるのか、自分でも疑問ではあるが――だからこそ試すのだ。
「さァ、俺の限界を引き出させてくれよォ、守護者共ォ! 」
恐らく誰にも届いていないだろう叫びを上げて、形成した足場を蹴った。視線の先にアリアの姿を捉えて、唯真っ直ぐに突き進む。
彼女の能力はほぼ間違いなく対象者自体に作用する能力の無効化だ。そして《刹那》の能力は全て対象を《概念時間から隔離》する事によって初めて意味を成す。
それが意味する所はつまり《刹那》の能力は全て彼女の《神光》の能力の前に打ち消されてしまう、と言う事だ。
だがしかし、だからと言って俺がアリアよりも弱い、と言う訳ではない。彼女の能力は所詮発動した能力の無力化でしかなく、此方が能力を使う事で初めて発動する意味が生まれる受身な能力なのだ。
ならば、打ち消される前に倒せば良い。先程は俺がグレンの側にしかけた事によって無力化能力を発動させる時間が出来ただけにすぎない。
《Ksana》を発動して一気に接近して倒せばそれで良い。そして、彼女の無力化能力が無ければ、先程グレンを追い詰める事が出来た俺になら、十分に勝機はある筈だ。そう、思っていた。
「C――re――a――tion」
だが、加速した時の中で間延びして聞こえたその詠唱の完結と同時に、最高位の最高位たる所以を理解した。だが、それでも――
「感謝するぜェ守護者ァ。テメェ等のお陰で久しぶりに絶望ってェのを感じれた――だが、絶望は乗り越えてこそ華だろォが? 超えさせてもらうぜェ、俺自身の限界をよォ?」
奇跡が起きるとは思えなかったけれど、俺にはその状況を楽しまずには居られなかった。

<SIDE-Guren->
やはり、俺の方には来なかったか――だが、どちらに動いた所でもう遅い。
カノンが動き出した方向の先にはアリアさんの姿があり、そのエーテルの反応は今までとは比べ物になら無い程強大になっており、加えて反応の質自体が今までとは少し違う印象受ける。
この反応なら、気付けなくて当然か……けど、クラスが上がった際に反応の質が変わるなんて話、聞いた事無いよな?
(お前の疑問を解消する答え、と言うか予想でしかないが、恐らく正解であろう答えは既に俺の中で見えたが――今はそれを話している場合ではないだろう?)
それもそうか――等と考えながら、先程手放した《真紅》を拾い、詠唱を終えた術式を、脳内で組み上げた必殺の式を、展開する。
瞬間、超速で移動するカノンの周囲に彼を包む様に、無数の刃が球状に展開した。一つ一つが先の刃の壁の折に展開した物よりも高い強度を持つ数万に及ぶ刃の檻がカノンを捕らえる。
逃げ場の無い刃の檻に捕らえ、回避する隙間を与えずに膨大な量の刃を叩き込む。カノンの動きが速い為、檻に捕らえる為には展開する範囲を広げる必要があった為に、接近を許せば使えなかったが、ようやく捕らえられた。
そして、捕らえてしまえば此方の物だ。膨大な量の刃の奔流をかわす術等存在せず、その数故に食らえば唯では済まない。否、この一撃だけでも十分に終わらせられる。それだけの自信はある。
「――」
カノンが何かを言っているが、加速した時の中で紡がれたその言葉の意味を理解する事は出来ない。最も、理解出来た所で、何が変わる訳でもない。
だから、銀色の装甲となった《創世》で覆われた右手開いた状態を伸ばして、告げる。
「これで……終りだっ!」
言って、開いていた右手を握り、球状に展開していた刃の全てをその中心、カノンの元に向けて打ち出した。

<SIDE-Kanon->
無数の刃が迫ってくる。どれだけ此方が高速で動けようが、逃げ場は無いし、恐らく簡単に防げもしない。だがそれは今の俺の限界ならばの話だ。故に、限界を超えれば良い。
そもそも復活したは良いがゼノンのあの三連撃に対する回答は未だに見つかって居ないのだ。どの道限界を超えるのならば、それが今だろうと、ゼノンの前だろうと関係ない。
最悪この無数の刃に貫かれて俺は死ぬかもしれないのだ、そうなればゼノンとの決着がどうだとか、そんな事は言っていられないだろう。
幸いにして、迫る刃の速度は俺から見れば大した速さでは無い。その数故にかわす事は出来ないが、それが俺の元に届くまでに考えるだけの時間はある。
――如何にして限界を超えるか? 考えて簡単に答えが出るなら、それは限界とは言わない。そもそも考えて答えの出るような物なのかも分からない。
追い詰められれば答えが出るかもしれない等と、そんな生ぬるい事を考えていた訳ではない。だが、現実問題として追い詰められてしまった以上、そんな生ぬるい幻想を形にせざるを得ない。出来なければ、自分が敗北して死ぬだけなのだ。
乗り越えられない壁があれば、そこが果てだとずっとそう考えて生きてきた。だけれど今は目の前にある壁が自分の果てだとはどうしても思えない――或いは、思いたくないだけなのかもしれないが。
一人でそんな風に思考していて、ふと思う。何故俺は、最高位を相手にしてそんな風に思うのだろうか? 最高位の居る領域こそが、俺の辿り着けない果てだと、そう考える方がよっぽど理に適っている気がするのに、何故そんな風に思えるのだろうか?
分からない、自分でも理解できない。そして、限界を超える方法もまったく見えてこない。刃の雨が、全方位から迫って来る。その内の数本が手を伸ばせば届く距離に入る――もう時間が無い。
直ぐそこまで刃が迫っているのに、何のアイデアも出てこない。苦し紛れに《刹那》を振ろうとするが、遅すぎた。
直ぐそこまで迫っている刃の群れが、巨大な《刹那》を振りかぶる事を許してくれない。そして、振りかぶる事が出来ない故に刹那で迫る刃を砕く事も出来ない。
――詰み、か。柄にもなく、そんな事を考えてしまう。実際問題も手は残されては居ない。追い詰められて限界を超えるという、奇跡の様な幻想が俺に起こる事は無かった――事実は、唯それだけだ。
コレが、ココが、俺の果てと言う事らしい。そしてその果てに辿り着いた今になって思う。ゼノンとの決着を、付けておくべきだったと。或いは、その決着こそが俺の求めている果てなのかもしれない。
そして、そんな俺の考え等知る由もない数万に及ぶであろう刃の雨が、俺の体に殺到した。
殺到する刃を《刹那》を盾にして防ぐ。無論そんな事をしても防げるのは一方向からの刃が防げるだけであり、他の場所から雪崩れ込んでくる刃の雨が、容赦なく俺の体を貫いていく。
俺の体を貫いた刃はしかし、その場に刺さったまま残る事無く、突き刺さりその勢いが死ぬのと同時に金の光になって世界に還元されていく。それ故に、数万の刃によって俺の体に次々に新しい傷口が刻み込まれていく。
痛みがない訳ではない。俺にとっては一つ一つは叫びを上げる程の痛みではなかった。だけれど、理解する、自分はもう助からないと。
この感覚が、自身の時の流れが停まってしまう様なこの感覚が死なのだと、自然に理解してしまっタ。だガ、シかシ、イまはもウいタミヲかンジるコトすラない。そしテ、せカイはトうトツにセいジャくし、クロにソまっ――

TheOverSSS――18/28
UltimateSeven――4/7
PerfectSix――3/6
KeyToSeven――2/7
――to be continued.

<Back>//<Next>

34/118ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!