EternalKnight
<宿命の担い手>
<SCENE110>
「AtTheTimeOfFate」
紡がれた――
おそらくあの男のダメージを完治させる為の詠唱が。
魔方陣は強力な光を放ち――
「何!?」
中心部にいた男を突然鎖が拘束した。
「《宿命》! コレはどういう事だぁ!」
男が叫んでいる……どうなってるんだ?
「どうもなにも……状況でわからないのかしら?」
「何が……目的だ?」
――仲間割れか?
(そのよう……だな)
「あなたには悪いけど……私の目的の為に消えてもらうわ」
「くっ……ふざけるなぁ!」
「どうあがいても無駄よ?」
仮に……男が女に倒されたところで――
俺はあの女に勝てるのだろうか?
(傷を与えていた《運命》の方がまだ楽だっただろうな……)
「発動の条件は厳しいけど――」
「UltimateSeven以外なら確実にしとめられる技だもの」
「なん……だとぉ……」
《運命》の表情が怒りから絶望に変わる――
「――そろそろ楽にしてあげるわ」
「やめろ、望みなら何でも聞く! やめてくれ!」
「じゃぁねぇ……死んで?」
女はただ指を[パチンッ……]とならした。
巨大な魔方陣が収縮していく――
内部のエーテル濃度が上がっていく。
そしてそれに応じて……男の体が膨れ上がっていく。
鎖が食い込んでいるが、ソレすら無視して膨れあがっていく。
「嫌だ。死に……たく、無……い。た……すけ……て、く……れ」
かすかに、《運命》であった面影を残し膨らんだモノが呻く……
「……これがあなたの宿命なの、素直に受け止めなさい?」
「い……や………[パァンッ!]
そこで、限界を超えて膨れ上がったモノは、男はあっけなくは弾けとんだ。
それが……俺達を苦しめていた男の、本当に……本当にあっけない最後だった。
[カラン……カラン、カラン]
男の持っていた杖、いや《運命》という名の聖具が地面に転がる。
どうする、あの女と戦っても――
(絶望的だろうな、勝機など微塵も見えん)
くっそ……俺達はここまでなのか?
俺が死ねば、もちろん相棒も真紅は砕かれるだろう。
護りたいだけの人を……護れないじゃねぇか――
くそ、くそ、くそ!
(――相棒)
女が地面に転がっている《運命》を拾って、こちらに歩み寄ってくる。
「さて……君達だけど――」
女が近づいてくる、だめだ……体が全くうごかねぇ――
絶望に染められた恐怖からなのか。
それとも、あの女の力で動くことを封じられているのか?
全ての力を使い切ったからなのかは解らない――
「今は、気分がいいから見逃してあげるわ」
な……に?
「そもそも君達のおかげだしね?」
何を……言っているんだ?
「それとも……今この場で死にたい? ソレが望みなら殺してあげるけど?」
「クッ……」
(相棒……ここは)
解ってる……こんなところで死ぬわけには行かない。
「何も言わないって事は、見逃してほしいって事ね?」
そして……突然、俺に背を向けた。
「それじゃあね――」
「この空間の処分は任せるって、倒れてる二人にでも言っといて?」
そう言うと女の前に門が現れる。
「じゃあね……機会があればまた会うかもね?」
そして……女は、門の中に消えていった。
ヤバイな……もうそろそろ、限界……だ。
(そうか……とりあえず敵は居なくなったのだ、休むといい)
それも、そうか――
俺の意識は、そこで途切れた――

<Interlude-アレン->
全身の力が少しずつ戻ってくる――
「っあ……」
瞳を開くと、そこにはリズィの顔があった。
「大丈夫だった? あっちゃん」
「あぁ……で、今はどうなってる?」
「私にもわからないけど……」
俺達が生きているという事は……
《運命》を殺すなり追い返すなり出来たって事か……
「リズィ……グレンは?」
「グレン君なら、すぐ近くで倒れてるよ?」
「意識は?」
「無いみたい」
「そうか……」
体を起す……確かにすぐそこでグレンが倒れている。
「グレンが起きるまで、アイツの聖具にでも事情を聞いておこうか――」
「そうだね」
「まだしっかりと動けそうに無い……取ってきてくれるか?」
「任せて」
リズィがすぐ近くのグレンの手に握られる聖具を取ってくる。
「一本しかないんだけど、グレン君の聖具って二本じゃなかった?」
「《運命》と戦ってた時は二本だったけど……まぁその一本に聞けばわかるだろ?」
「それもそうだね」
そして、俺は《救い》でグレンの聖具に触れた。

<SCENE111>
「ふぁっ……」
大きくあくびをして目を開く――
「やっと起きたか……」
「アレンさん――」
「事情は《双極》の片割れに聞いた……よくやったな?」
(お前は説明が苦手だろう?)
まぁそうだけど……他人の聖具と会話できたっけ?
(忘れたのか、相棒……お前も一回《叡智》と話をしたであろう?)
そうだった、自分の聖具で触れて、話す意思があるなら会話できるんだったっけ?
(その通りだ)
「そういえば……真紅は!?」
「《双極》のもう片方だろ?」
そう言うとアレンさんは紅の剣を俺に差し出した。
俺は《真紅》を受け取る――
(お兄ちゃん、大丈夫だった?)
あぁ……何とかな。
「さて、全員気がついたみたいだし……この世界を閉じるか」
「閉じる? さっきあの女も処分しろって言ってましたけど、どういう事ですか?」
「それはな……えっと、リズィ頼む?」
「えっとねグレン君、元々この世界……今私達の居るこの空間の事ね」
それはわかるけど――
「――ここは《運命》が作った擬似的な世界。本来存在しない世界なの」
わからなくなってきた……
「それで、その擬似的な世界を放置してると色々と問題があるの、魔獣が巣にしたりとかね」
「だから使わなくなった擬似的な世界は壊す――」
「それを世界を閉じるって言うんだけど……」
だめだ……さっぱりわからん。
「その時にその世界を作っていた分のエーテル関連物が開放されるの」
(なるほど――)
相棒……わかるのか?
(あぁわかるぞ?)
後でわかりやすくお願いします――
(あぁ、教えてやろう。相棒に基礎的な知識が無いのは俺も困るしな)
「で、普通はその分は貯めたりするんだけど――」
「今回はみんなの回復に使うべきでしょうね」
「じゃあ、外に出るぞ?」
そう言ったアレンさんの前に門が現れる。
その門を通り俺達は門の内部……様々な色の混ざり合った無重力の空間に出た――
そこでアレンさんがどこからとも無く剣を取り出して――
今まさに俺達の出た来た門をその剣で両断した。
両断された門は、形を崩して歪な形をした結晶となっていく。
「コレは?」
「エーテルの結晶よ、大量のエーテル関連物が一気に開放されると出てくるの」
「へぇ……」
「それでだグレン、これからの話だけど――」
「あなた達についていくって話ですよね?」
この世界に残る事は……出来ない。
おそらく《双極》の所持者である俺が居れば、この世界にはこれからも魔獣が現れるだろうから――
「あぁ、それでだ。この世界の人たちに別れの挨拶……するだろ?」
俺は無言でうなずいた。
「それで……期限は、そうだな……三日間程でいいか?」
「そんなにいりません」
「……いいのか?」
(そうだぞ相棒、本当にそれでいいのか?)
あぁ、変に長いと……残りたくなるかもしれない。
残るわけには……いかないから。
俺は無言で首を縦に動かした。
「そうか……じゃあ行こうか?」
「――えっと、ついてくるんですか?」
「お前……門の開き方を知ってるのか?」
「それじゃあ行きましょう」
「わかればいい、開くぞ?」
アレンさんの目の前にまた門が現れる――
「いくか……」
俺は再び門をくぐった――

<SCENE112>・・・深夜
帰って来た……なんかすげぇ長かった気がする――
(話数にすると約八話だな)
話数?
(なんでもない、気にするな)
「で……ここは?」
アレンさんの問い。いや、どうして俺に聞くんだよ?
「えっと、俺の通ってた学園の屋上みたいだですけど――」
「知ってる所だな? なら問題ない」
「あのぉ……もしかして――」
「――そうなの」
「門の出口は近くに強い反応が無いと近くのどこかに出るの」
「反応がないと……勘ですか?」
「そう、大体の場所だから……誤差が結構でるのよ」
「まぁ、移動速度から考えればたいした誤差じゃないだろ?」
「誤差が出るって、無関係な人の前とかに出ないんですか?」
「それは大丈夫だ――」
「微弱なオーラでも区別は出来ないけど人が居ることはわかるからな」
「そうですか――」
だったらいいのか……な?
(いや、知らない場所だとアウトだろ――)
(移動速度もクソも無いと思うが?)
だよなぁ……
「そんなことはいいんだ、さっさといくぞ?」
「はい――」
「っと、忘れるとこだった、ほれ」
アレンさんが先程のエーテルの結晶を投げてくる。
門を壊して出た結晶は四つ、その内の一つだ。
形は歪で、今手に持ってるのは野球のボールくらいだ。
「――コレは、何に使うんですか?」
「自分のオーラ量の回復に決まってるだろ?」
「どうやって回復させるんですか?」
そんなことは説明してなかった筈だ……
「自分の聖具で砕くか……食うかだな」
「食う!?」
「大して硬くないぞぉ? 味もしないし――」
そう言ってアレンさんは残った内の一つの歪な形をした結晶を一口食べた。
「――聖具で砕きます」
「まぁ、好きにしろ」
銀の剣で結晶を砕く――
砕け散った結晶は相棒に吸収されていく。
同時に俺の全身が急速に満たされていく……全快かな?
(だな、ほぼ限界まで回復している)
って、事は――
「アレンさん?」
「ガリ……ん? どうした?」
――結晶かじってるのって、見ててアレだな。
相棒で砕いたのは正解だった。
って、そうじゃなくて。
「せっかく結晶使って回復させてもらったんですが――」
「回復した分ほぼ全部使ってもいいですか?」
「ガリ……まぁ、自由に使え」
「はい!」
許可ももらった事だし――
「スゥ……」
深く呼吸して全神経を集中させる。
一切の曇りも無く、クリアになった脳内に図面を広げる――
自身の体以外でこれだけ複雑な図面を処理するのは……相当きつい。
だけど……成功させて見せる!
脳で展開された図面を脳の回路が焼き切れる程高速で処理していく――
「Creation……」
そして、紅の剣を投げる。
紅の剣は形を崩して、人の形に収束して――
赤い髪の少女……唯一の肉親である真紅の形にとなり――
ゆっくりと地面に降り立った。
「お兄ちゃん、ありがと――」
「これで私も、みんなとしっかりお別れができるよ」
「すごいな……」
「話には聞いてたけど、ホントに肉体の構築なんて出来るのね――」
話に聞いてた?
(ああ、俺が話しておいた)
(《運命》にダメージを与えた事、それにあの女の事等だな)
それでか……まぁ、いいや。
「肉体を持つ聖具もあるらしいけど……かなり数が少ないらしいからな……」
って、事は他にも人型の聖具はあるみたいだな。
(そうだな――)
そして、俺達はアレンさんたちが結晶を食べ終わるまで待っていた。

<SCENE113>・・・深夜
二人が食べ終わった所で――
屋上に備え付けてある時計を見ると、短針が三の数字を少し回った所だった。
「――行くぞ?」
さっきまであんた等が結晶食ってて待ってたのに、それは無いだろうに。
って、アレンさんはどんどん手すりの方に行ってるんですけど?
「いや……そっちには――」
階段なんて無いし……って!?
突然アレンさんが手すりを飛び越えて屋上から飛び降りた。
「何してんだあの人! ここは四階建ての校舎の屋上だぞぉ!?」
「アレンさんっ!?」
「グレン君、シンクちゃん、あっちゃんは大丈夫だから」
何?
(相棒、《EternalKnight》の身体能力なら落ちても問題ない高さだぞ?)
……納得できねぇ。
ってか、いくら夜中でもアレンさん達の目立たない(?)聖具はいいけど――
俺の聖具……まぁ、真紅は人型になってるから問題ないけど――
相棒は目立ちまくりだと思うんだが、剣だし――
(俺は今までのように指輪型になれるぞ?)
それなら問題ない、指輪型に戻ってくれ。
(ただし、形が変わるだけで、身体強化、会話が出来る等は変化が無いからな?)
目立たなけりゃそれでいい……ってか、そっちの方が絶対いいじゃんか。
(そんなことより、穢れ無き者も飛び降りたぞ?)
考え込んでたら屋上には俺と真紅しか居なかった。
相棒、指輪型に戻ってくれ
(わかった)
相棒は形を崩して俺の右人差し指に指輪となって現れた。
「リズィさんも行っちゃったけど、お兄ちゃんはどうする?」
「正直飛び降りるのは抵抗あるなぁ――」
「私も……でも、待たせる訳にもいかないし――」
ここは意を決して飛ぶか……
「俺は飛ぶけど……真紅はどうする?」
「お兄ちゃんが飛ぶなら、私も一緒に行く」
「――わかった」
俺達は真紅の手を取り二人で手すりに近づいていく――
そして、俺達は二人で同時に手すりを越えて飛び降りた。

to be continued・・・

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