EternalKnight
絶望の来訪者/神の光
<SIDE-Kanon->
組み上げた足場を蹴り、《刹那》を構えたまま蒼髪との距離を一気に詰める。どうやら、今展開されている結界は攻撃能力にのみ影響を与える物らしい――俺のスピードが先程までと変わらないのがその最大の証拠と言っていい。
最も、ツバサの首に多少ではあるがダメージを与えられた事から考えれば、攻撃その物を完全に規制している訳では無い事は明らかだ。強いて言うのなら攻撃能力の大幅な弱体化か、しかもエーテルを使っていなくても反応する厄介な結界だ。
或いはエーテルの有無に関係なく攻撃を弱体化する結界であるのなら、エーテルを乗せた可能な限り強力な一撃を蒼髪にぶつけて見るという手も無い訳ではないが、エーテル濃度の薄いこの結界の中ではそれを行うのは少々面倒だ。
ならば、やはり先程のツバサへの一撃同様、速さを最大限に生かしただけの特にエーテルを纏っていない一撃で仕掛けるべきだろう。少なくともSSSであるツバサにダメージを与えられた方法だ、いくら結界の発動者とは言え、無傷と言う訳には行かない筈だ。
そんな事を考えながら蒼髪との距離を一瞬で詰め、構えた《刹那》を振るう。勿論、狙うのは蒼髪の首筋への横薙ぎ――何の障害も無ければ速やかに首を跳ね飛ばせるだけの一撃だ。しかし、その一撃は蒼髪の首を両断する事はなかった。
鈍い感触が《刹那》を握る俺の手に伝わってくる。肉を裂いた感触はあった、だがその内の骨を断ち切る事が出来なかった。否、幾らか骨に食い込んだのは間違いないが、その骨を断ち切れなかったのもまた事実だ。
最もツバサの時程傷は浅くない。余程優秀な治癒能力者が居なければまず助かりはしないだろうし、仮に優秀な治癒能力者が居たとしてもこの戦いの間に戦線に復帰するのはまず不可能だろう。だが――
「ンだよ、肝心の結界は消え無ェのかよ。展開すっと一定時間残り続けるタイプかァ? この手の結界はまず術者に展開の意志がなきゃ維持できないタイプだと思うんだがなァ」
相手側へのみの攻撃の規制と言うのなら一定時間展開され続けるというタイプでもおかしくは無いと思うのだが、そんな一方的な能力をよくてSクラスの聖具が持っているとも思えない。
「まァ良いか。どっちにしても聖具を壊せば消えるだろォしな」
結界その物が残っていても、それを制御する聖具が壊れれば、それは意味の無い物でしかないのだ。少なくとも理屈の良く分からない攻撃を規制する結界をなんとかしなければ俺が楽しめない。
命の危機のほぼ無い戦いなど、ゼノンとの戦いで飽きる程繰り返してきたのだ。今更そんな物を求めたりはしない。
次にゼノンと出会ったら、それを俺達の戦いの果てにすべきだ。今この場にでも、俺を楽しませてくれる者達は存在するのだ。ゼノンを殺した所で俺を楽しませてくれる奴は探せば幾らでもいる筈だ。
故に、先ずは――奴が全力で、全てを賭けて俺と戦える様に、今この場で守護者の連中を全員潰す。
当初の目的とは少しばかりずれているが、俺が楽しめるならそれで良い。元より根本は同じなのだ、俺の願いは一つ、単に命を掛けて戦いたい、自分の全力を振るいたい――唯、それだけなのだ。
「セディア!」
何処かで聞き覚えのある女の声が聞こえた。セディアと言うのはこの蒼髪の名前だろうか? まぁ、そんな事はどうでも良い。今は蒼髪の持つ聖具――は反応から見て指輪だろうか? 兎も角それ――を壊すだけだ。
「あばよ、名前も知らねェ聖具――呪うなら自分の能力の弱さとクラスの低さでも呪ってろ」
蒼髪の首の中程で止まっている《刹那》を引き抜き、それを蒼髪の右手にはめられた指輪を潰す為に軽く振り上げる。《刹那》を引き抜いた際に傷跡から鮮血が散り、俺の顔に返り血が付くがそれも瞬く間にエーテルへと還って行った。
「ぁ――、――――、――ぅ」
返り血に気を取られた瞬間、蒼髪が口を動かして何かを言おうとしたが、中程まで首を切られた事により空気が抜け、それが言葉になる事は無かった。蒼髪が何を呟こうとしたのか、そんな事は俺には分からないし興味も無い。
今すべき事は速やかに彼の聖具を破壊しこの結界を無力化する事だけだ。そう短く自分の中で判断を下して、俺は軽く振り上げた《刹那》にSSクラス程度までなら破壊できる程度にエーテルを込めて、蒼髪の右手にはめられた聖具を壊す為に振り下ろした。
肉を砕く鈍い感触が《刹那》を通して俺の手に伝わり、その次の刹那には腕の骨を砕く感触が伝わってくる。だがしかし、目標の聖具の反応は消えない。
並みの聖具なら砕ける程度の力で攻撃はした筈だった。少なくともSクラス程度なら何の問題もなく砕ける程度にはエーテルを込めた筈だった。それなのに何故、彼の聖具は壊れないのか?
そんな疑問に対する解答は、疑問を抱いた一瞬後に、自らの迂闊さと共に脳裏に過ぎる。攻撃能力の大幅な弱体化、それが今消そうとしているこの結界の能力ではなかったのか?
そんな結界の中で、SSクラスまでなら破壊できる程度の攻撃で、Sクラスの聖具を破壊する事が出来る筈がない。
「ンだよ、めんどくせェなァ……つー事は何かァ? 少なくともこの結界の中じゃコイツは破壊出来ねェって事かよ?」
契約者を潰しても能力が消えない上に聖具は破壊できないとなれば、この結界は自然消滅するまでこの場に残り続ける事になる。そこまで長く持つ事は無いとは思うが、それでも馬鹿正直に結界が消えるまで危機感の薄い戦いをしたいとは思えない。
普通なら、この場を離れて戦えば良いだけなのだが、相手の目的が俺を倒す事でないであろう事を考えると、場所を変えようとした所で守護者の連中が追ってくる道理はない。
結界の反応が消えるまで引いて、消え次第再度攻撃を仕掛けるという手も無くは無いが……折角盛り上がってきた所に水を注された様で気に食わない。
「否、既に注された後――だなァ、こりゃァ」
先程反撃の間を与えぬ様に仕掛けるとだのなんだ言っていた敵対者の四人の動きが既に止まっている事からもそれは明白だ。
結局の所どういう能力か完全には把握し切れていない俺と違って、奴等は結界がどういう能力であるのかを正しく把握していると考えて良い。その上で奴等が仕掛けてこない事を見ると結界の維持される時間はまだ暫く在ると考えた方がいいのかも知れない。
仕掛けた所で、Sクラスの聖具すら壊す手段を持たない今の俺に奴等を倒す事は不可能だろうし、逆もまた然りと言う奴だ。こういう状況が一番好きではないのだが、この状況を打破する手段を時間による解決しか思いつかない現状、俺に打つ手は無い。
本気で一端距離を取るべきだろうか? 少なくとも、距離を取れば《時の枷》の劣化能力からは開放されるだろう。あれは何度も効果が切れる前に重ね掛ける事で効果を発揮する能力であり、持続時間は長くない筈なのだ。
そして、《時の枷》が外れてしまえば、今この場に俺の速度に追いついてこられる者は存在しなくなる。その上で結界が消えれば、遠距離から本気で距離を詰めて仕掛ければ恐らく倒せない相手は居ない。
もっとも、そんな方法で敵を屠った所で何も楽しくは無いのだが……まぁ、とりあえずこんな面倒な状況を作りやがった蒼髪にトドメでも刺すか。本気でやれば、先程の腕の様に生身の部分なら肉だろうが骨だろうが両断することは可能だ。
距離を取るのは最低その後で良い。まず無いとは思うがこのまま放置して距離を取った場合、まだ死んでいない以上何らかの方法で生き残らせるかも知れない。
そして、この蒼髪が生き残れば結界は再度展開される事になる。そもそもこの蒼髪が助かるとは俺には思えないが、どんな能力を持っている奴がいるかわからないのもまた事実だ。なんにしても、この蒼髪はここで殺して置くべきだろう。
「しッかし、テメェ等も薄情だなァ? もう誰も殺させないだの何だの言っときながら、こうして結界を展開したこの蒼髪が死に掛けて敵の前に居るってのに、誰も動こうとしねェんだからよォ?」
今から誰が動いた所で俺がこの蒼髪を殺すのを邪魔出来ない。そもそもそれだけのスピードが在るなら俺と戦う為にそのスピードを発揮すべきだ。故に、少しでも連中にやる気を出させてやろうと挑発じみた言葉を投げかけるが、誰もその言葉には反応してこない。
ツバサ辺りなら釣られて突っ込んでくるかと思ったが、それも無い。とは言え、突っ込んで来られた所で結界のせい互いにダメージらしいダメージを与えることはまず出来ないのは間違いないので、来ないなら来ないで構わないのだが。
そんな事を考えながら、俺は《刹那》を振り上げその刀身にエーテルを込めて、その刃を蒼髪の脳天に振り下ろす。
その一撃で、驚くほど簡単に蒼髪の体が両断され、断面から鮮血が噴出し、その内に収められていたエーテルで模られた内臓が零れ落ちる。それらは瞬時にエーテルへと還って行くのだが――おかしい、手応えが薄すぎる。
否、それ以前に、何故先程まで展開されていた結界が消えている? そして――何故SSSの反応がもう一つ増えている?
「薄情、ですって? 弟の最後の賭けを無駄にしない為に、貴方の下らない挑発にも乗らなかった私達の仲間を薄情って、貴方は言うの?」
反応の先、聞き覚えのある声のする方向へと視線を向けると、そこには先程殺した男と同じ様な蒼い髪の女が立っていた。その顔に覚えは無い、ならば何故その声に聞き覚えがあるのか? 否、それよりもいつの間にか《時の枷》も外れている。
突如現れた蒼髪の女がどんな能力を持っているのかわからない。だが――少なくとも俺に敵意を向けてきているのは間違いない。ならば、誰で在ろうとこの力を持って倒す、今までずっと、そうしてきた様に。
「このタイミングで出てきたんだ、まさか弱いって事はねェだろォがァ!」
叫びと共に、視線の先の蒼髪の女との距離を詰める為に、瞬時に形成した足場を蹴る。
しかし「lightOfTruth」女が紡いだその詠唱と同時に女の背後に巨大な光輪が発生し、その光輪がまばゆい光を放つと同時に、発動していた《Ksana》の効果が突然かき消され、俺は急激に失速した。
「ンだァ、今のは?」
思わずそんな言葉口から漏れ出す。自身に掛けた身体能力の強化をかき消されただと? 様々な能力を今まで見聞きしてきたがそんな能力は知らない。
否、そもそも聖具の持つ能力など得てしてそんな物だ。出合った事の無い能力を持つ聖具との戦いなど日常茶飯事と言って良い。
それに、打ち消されたのは《Ksana》の効果だけだ――それが俺の圧倒的な速さを生み出している根本ではあるが、それだけに頼っている訳ではない。
「面白ェ能力じゃねェか、流石にこの局面で出てくるだけの事ァあるなァ、テメェ――名前はなんてンだァ?」
「神光のアリア――貴方がさっき殺したセディア=アルケインの姉よ。セディアを殺した貴方の名は忘れないだろうから、私も名乗ってあげるわ、別に覚えててもらわなくても構わないけれど――」
言いながら、アリアはその手に光り輝くエーテルの剣を握り、こちらに突きつけてくる。
《Ksana》は消されたが《TimeAcceleration》で敵の動きを束縛する事可能だし、それが無くても身体能力には自信がある。加えて、今の俺は本来の身体能力に加えて魔獣化する事で身体能力が底上げされているのだ、能力が無かった所で十分に戦える。
流石に《Ksana》なしで今ココにいる守護者全員の相手をするのは難しいが、この蒼髪の女を片してしまえば今まで通り《Ksana》を使用する事は可能な筈だ。
そもそも先程の光輪の光を受ける事が自身に掛けた能力を打ち消す条件であるなら、放たれた光を回避する事は遮蔽物の存在しないこの空間では、他の守護者も影響を受けている筈だ。
ならば、条件は同じ、寧ろ魔獣化している分俺の方が有利だと考えて間違いない。先程の能力の質を考えると、女の聖具はSSSの中でも一芸に秀でているタイプと考えて間違いない。普通に戦って俺に勝てる道理は――
そこまで思考を巡らせた所で《それ》に気付いた。或いは、常に周囲のエーテルの流れを読んでいる俺がその瞬間に発見したのだから先程の女と同じ様に《それ》はその瞬間にその場に顕現したのだろう。
SSSクラスを優に凌駕する、圧倒的なエーテルの保有量と密度。《それ》の正体を確認する為に俺は蒼髪の女との距離を詰めるのを諦め、その場に足場を作って留まり《それ》の反応の方へと視線を向ける。
そこには、先程切り伏せた筈の赤髪が、切り裂かれた衣服の下に傷一つ無い姿で、その右手に先程までしていなかった銀色の手甲を身に着けて立っていた。

TheOverSSS――18/28
UltimateSeven――4/7
PerfectSix――3/6
KeyToSeven――2/7
――to be continued.

<Back>//<Next>

30/118ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!