EternalKnight
絶望の来訪者/記憶と記録の邂逅
<SIDE-Guren->
「グレンッ!」
その、クロノさんの叫びを聞いた次の瞬間には、黒い巨大な刃が俺の体を襲っていた。余りに一瞬の事で声を出す暇すらなく、その一撃で自分がどうなったのかすらわからない。
辛うじて、こうして考える事が出来ている事から自分がまだ死んでいないという事と、繋がりが途切れたような感覚と何かが砕ける音から相棒が今の一撃で破壊された事を理解した。
そして、相棒が破壊されるという事は、相棒が核を成し二つで一つの聖具であるシンクは――
「先ずは一人ッてなァ? どうすんだ、クロノ、ツバサ、キョウヤ? 今回はハズレみたいだが、ゼノンの能力借りて使ってる奴が死ねば全滅だぜェ?」
声が聞こえる、敵の声だ。相棒の声も、シンクの声も聞こえない。相棒もシンクも本当に破壊されて死んでしまったのか? 或いは、今感じる全ては、死を目前にした俺が勝手に生み出した幻想なのか――
そもそも、自分が今どんな状態なのかもわからず、痛みも何も感じないのだ。死にかけているのか、死んでしまったのか、それとも全て夢なのか――今の俺には、何一つ分からない。
今聞こえた敵の声さえも、現実の物かさだかではない。それぐらいに、今の俺が感じる全ては曖昧なのに、相棒との繋がりが切れた事だけは、はっきりと分かる、その事に違和感を感じる。
感じた所で何が出来る訳でもないけれど――今の俺にはその事実だけしか確かな物が無い。そんな事を頭で考えている内に、いつの間にか音も聞こえなくなっていた。
これで、本当に何も無い。相棒との繋がりが切れたという事実以外、本当に、何も――或いはこの何も感じない状態こそ《死》なのかもしれない。

<SIDE-Kanon->
「先ずは一人ッてなァ? どうすんだ、クロノ、ツバサ、キョウヤ? 今回はハズレみたいだが、ゼノンの能力借りて使ってる奴が死ねば全滅だぜェ?」
《刹那》の一撃で聖具を砕きその肩口から袈裟切りにした赤髪に背を向け、クロノ達を挑発する様に口元を歪ませながら振り返り、そんな言葉を紡ぐ。
聖具の破壊に致命傷――今すぐに治療能力持ちが治療を始めた所で、助かるかは微妙な所だろう。最も治癒が間に合った所で聖具を砕かれている以上、奴が戦力になる事は無い。
「貴様ぁ!」
その俺の言葉に釣られてツバサが動き出す――怒りに呑まれた者の動きは単調になるが、オーラの放出量が上がればその分速さが増す、相手がツバサだけではない今、動きが単調になりがちであろうと、動きが早くなるのは戦力アップに繋がるはずだ。
「待てツバサ、気持ちはわかるが怒りに身を任せるな! 冷静になれ!」
俺に向かって突き進んでくるツバサを止め様と、キョウヤがツバサを呼びかけるが、火のついた怒りは簡単には消えない。
「来い、ンでもって絶えず俺を攻撃して反撃の隙を与えるンじゃァねェ――それが出来ねェならァ、また一人死ぬぜェ?」
突っ込んできたツバサの右手に握られたエーテルの刃を《刹那》で受け止めながら、挑発するように、忠告するように、四人の敵に言葉を投げかける。
「――させない。もう誰一人、お前にやらせはしない!」
「だァから、その為に反撃の隙を与えるなってンだよォ!」
ツバサの言葉に応じながら、ツバサの右手に握られるエーテルの刃を弾き飛ばす。
それと同時に、ツバサの左手に構成されたエーテルの刃が俺に向かって振り下ろされるが、それを握るツバサの手首を空いている左手で掴む事で止め、その隙に引き戻した《刹那》で左手を掴まれて俺から距離を取れないツバサの首筋をめがけて振るう。
その一撃を、弾き飛ばされた刃の構成を解いたツバサの右手が新たに構成した防御陣が防ぎ、それに応じようと刃を引く。
そして、次の一撃をどの場所に放つかを考え様とした所で、それを考えるのを止めて、掴んだツバサの手を離してその腹部を蹴ってツバサを弾き飛ばしつつ、その反動を利用してその場から移動する。
次の瞬間、先程まで俺が居た位置に高密度のエーテルの刃が通り過ぎる……いや、フォースを板状に展開した力場の刃、って所か?
その攻撃の発生源へと視線を向けると「望みどおり、絶え間なく攻撃してやる――反撃の隙も与えずに、ココで貴様を倒させてもらうぞ、カノン!」キョウヤがこちらにその手に持った短剣を突きつけながらそんな言葉を吐いていた。
「ようやくその気になったと思ったら、俺を倒すだァ? それが可能かどうかはさておいて、そンぐらいの気概でやってもらわなきゃ楽しく無ェ。俺はさっきから本気だったが、ココから先がテメェ等の本番って事で良いんだよな、キョウヤ?」
「こっちもさっきから本気だったさ――ただ、それに望む覚悟が変わっただけだ。ツバサも言っていただろ? もうこれ以上お前に仲間をやらせないってな」
仲間がやられてようやくその気になった、って所か? 遅すぎる気がするが――まぁいいだろう、仲間がやられた方がその気になれるというのなら、何人でもこの手で雑魚を屠ってやる。そうするのが、一番楽しめそうだから。理由はそれだけで良い。
「なら始めるぜ、キョウヤ、ツバサ、クロノ――ココから先は勝負じゃなくて殺し合いだ、つまんねェ奴から殺していくぜェ!」
そう叫ぶと同時に、先ずは視線の先に居るキョウヤの元へ向かって俺は一気に加速して、一閃。右手に握る《刹那》をキョウヤの首筋を狙って振るう。
幾ら真っ当に戦えそうな四人の中で一番遅いとは言っても、流石に距離を詰める動作から入った為か、その刃はキョウヤの握る短剣を覆うフォースの刃に受け止められる。
――が、無論その一撃で決まると思っていなかった俺は、同時に左手でキョウヤの襟元を掴んで激突させた刃を引き戻しながら襟元を掴んだまま左手も引き戻し、それに引っ張られてバランスを崩したその額に一瞬後ろに引いて勢いをつけた己の額を叩きつけた。
その一撃で意識でも飛ばしたのか一瞬無抵抗になったキョウヤの体をそのまま左側に投げ捨て、そちらから迫ってきていたツバサの複製の足を止め、その間に反対の右側からこちらに迫ってきていたツバサの方へと向き直り、そちらとの距離を詰める。
その最中「Asyl」と言う誰かの詠唱らしき言霊を耳にするが、少なくともキョウヤ達の声では無い事は確かである以上、その詠唱は無視して距離を詰めきったツバサの首筋を狙って《刹那》を振るう。
今度は先程程距離が開いていなかった事と、怒りに身を任せていた事で防御が疎かになっていたのが原因か、俺の振るった刃はツバサの首筋を捉えた。だがその一撃は首と胴を切り離すには至らず、ツバサの首を数センチ程斬った所で急激にその勢いを殺された。
原因は、恐らく何らかの結界能力の作用と見て間違いない。ツバサの首筋に刃が届くその直前で、周囲のエーテルの濃度が急激に薄くなった。タイミング的には先程見逃した詠唱が関係しているのはまず間違いない。
加えて、その影響とは別に力の抑制を受けたのは間違いない、エーテル濃度が薄くなった事と大剣で首を跳ね飛ばせない事はイコールではない。
《刹那》をツバサの首から離しながら、周囲のエーテルの流れをより意識して察知すると、その能力の発生源の特定は直ぐに終わった。
エーテルの濃度が薄い空間は球形に広がっていたのだ。そして、球形に広がるそのエーテル濃度の薄くなった領域の丁度中心に、蒼髪の守護者の一人が居るのを発見する。クラスは、Sか或いはAと言う所だろう。
実際の所どんな能力なのかは知らないが、良くてSクラスで俺の攻撃を一度防いでいるのだから、十分に優秀な人材だろう――が、それで言うなら先程殺した赤髪の方が優秀だった。故に――
「邪魔だな――二人目になるが、消すか」
首筋からエーテルが漏れ出すツバサに聞こえる様にそう呟いてから背を向けて、俺は足場を形成して蹴り、今度はその蒼髪の守護者を屠る為に《刹那》を構えた。

<SIDE-OppositePerfection->
深淵の様に暗い空間に、俺は《一人》漂っている。そもそも自分を一人と称す事に違和感を感じるが、実際に人その物な外見が実感できる以上、俺は一人でこの深淵の中を漂っている事になる。
こんな事は、以前にも一度あったような気がする。
【――聞こえるか?】
突然に響いてきたその声は、何処かで聞いた事のある物だった。否、こんな展開は以前にも一度あった、コレは――
【きっと、(誰だ!)ってな感じの反応してんだろぉなぁ……って、言うのは一回目までの話で、流石に二回目の今回はそんな事はいんわないだろうと思うけどな?】
100年程前、グレンと契約して間もない頃に俺は今のような状況を体験している。
【まぁそんなことはいい、お前に伝えたいことがある。とは言えココから一度目でも俺の力が必要だと判断した場合だけだ。つまりは、今お前が絶対絶命だって言うのはわかってる】
だけれど、100年前とは確実に、絶対的に何かが違う。
【ちなみに先に言っとくと俺は情報として残されてるだけだから、お前が話しかけてきても反応できない】
それは聞いた。が、自分の力が必要だと判断した場合だけメッセージを変えている意味は何だ? 過去に同じ様な事が起こった時とは少し、しかし確実に違うぞ、今喋っている内容は?
【最も、お前が危険に晒されないとこのメッセージを聞く事は出来ないのだから何を今更って思うかも知れないが、そこは残されたメッセージで決まった事しか喋れないんだから許して欲しい】
その意味と真意は何処にあるのか? そもそも100年前に言っていた、俺が今話しているこの声の主はそれよりもさらに過去の俺だと言う話も気になる。確か、記憶と力を封印した、とかなんとか言っていた気がするが……
【まぁ、今この話を聞いている時点で封印していた俺の力と記憶を全て取り戻せるんだから、細かい説明は俺がココでするよりも、記録から思い出したほうが明らかに早いんで、そうさせてもらう】
力と記憶を取り戻す――それが意味する所は何か? 力が手に入るのは良い大歓迎なのだが、記憶を取り戻すというのはどんな感覚なのだろうか?
特に、相棒と出会う以前の事は殆ど覚えていない俺にとって、過去を思い出すという事は、今まで積み上げてきた俺という人格を塗りつぶしかねない――それを許容してしまっていいのか? 力を手に入れた所で、それが俺ではないのなら意味など無いのだ。
【そうだ、俺ってかお前の性格を考えたら今の自分の人格はどうなるんだなんて心配してるだろうが、心配は無い。俺はあくまで過去のお前の記録であって、今のお前の記憶じゃない――何をどうした所でお前は力を取り戻し、忘れていた昔の事を思い出すだけだ】
過去の記録を思い出すだけで、今の俺が築いてきた記憶は消えない――か。都合がいいとは思うが、それを否定出来る要素はないし、何よりそうであって欲しいと、俺が望んでしまっている。
【と、言うかお前は過去と力を封じられた俺なんだから、考え方の根底とかその辺は全部一緒な筈だ。つっても、今の記憶であるお前が過去の記録である俺を知らない様に、過去の記録の俺も今の記憶のお前は知らないんだけどな】
理に叶っていると思う。否、それも当然なのか――このメッセージを残しているのは過去の俺なのだ、自分が納得している理論を並べれば、必然的に俺に同意を得られる事になる。
【まぁ、あくまで理論上の話だ。誰も試した事の無い事を絶対に大丈夫だ――とは俺には言えない。だが、このままじゃ俺達は消滅する。だから記憶と力を戻す事に拒否権は無い。俺は滅びる訳には行かない立場に居るんだ、思い出せばお前にも分かる】
拒否権は無い、か。そもそも絶体絶命のこの状況で、新しい力を手に入れるチャンスを自分が手放すとでも過去の俺は思ったのだろうか?
今の自分の想いが過去にの自分に上書きされて消されるかもしれない? だからどうした、そんな下らない理由で、相棒とシンクを見殺しにして、自分も滅びるのは御免被る。
どちらも同じ俺であるなら、記憶が上書きされても新しい記憶を作り上げていけば良いだけなのだから。
【お前が……俺が同意の上で今からの行為に賛同してくれる事を願っている。受け取ってそして勝ってくれ、俺達の記録と力で】
メッセージなのだから仕方の無い事だが、最後の最後まで俺と過去の俺の対話はかみ合う事なく――或いは、対話とは呼べないかもしれないが――俺は自らの奥底から溢れ出た記録と情報と力の奔流に意識は途切れた。

TheOverSSS――16/28
UltimateSeven――3/7
PerfectSix――2/6
KeyToSeven――2/7
――to be continued.

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