EternalKnight
絶望の来訪者/仕切りなおし
<SIDE-Kyoya->
吹っ飛ばされた勢いを殺して体勢を立て直しながら、カノンとの攻防を繰り広げているクロノの姿を確認する。
遠めに見ればカノンの方がスピードが有りクロノが圧倒的に不利に見えるが、それでも放たれる攻撃を全て捌きながら、離れた所から攻撃を仕掛けている仲間達の攻撃で生まれた隙を縫って反撃まで時折織り交ぜている。
無論その反撃は、援護の物もクロノの物も全てカノンに防がれている訳だが、それでも、対等とは言えないまでも十分に戦えている。だが、そう長くは持たないのは目に見えている。
今の均衡はあくまでクロノ自身の《FusionOfStarAndMoonAndSun》と《HeavenlyRiver》の併用と言う無茶の上に、俺の《ToGloriousFuture》を重ね、カノンの側も《Prayer》でなんとか拘束を掛けているから成り立っている物なのだ。
そのどれか一つが失われただけでも均衡は容易に崩れるだろう。クロノ自身の能力は本人が無茶をすれば続けられるだろうし《Prayer》もさほど大きな消費ではないのだが、俺の《ToGloriousFuture》は持続時間が制限されている、そう長く持つ能力では無いのだ。
そして、能力が途切れぬ様に事前に能力を掛ける事もまた簡単ではない。《ToGloriousFuture》は、発動時に俺から一定範囲内にいる全ての対象に効果を与える能力だ――その範囲内にカノンが入ってしまえば、やはり均衡は容易に崩れてしまうだろう。
どうすれば良い? 幾ら相手の速度が制限できた所で、真っ当に戦えるのがクロノ一人では厳しすぎる。そのクロノにしたところで《HeavenlyRiver》を用いてようやく五分かそれ以下の戦いしか出来てない。
そもそも《ToGloriousFuture》をクロノに重ね掛けが出来なければそのまま勝負が決してしまい兼ねないこの状況で、どんな手をどう打てば良いと言うのか?
否、考えた所で仕方ない。今は唯、出来る事をするだけだ。クロノに《ToGloriousFuture》を掛け直す算段が出来ない限り、均衡が崩れるのは時間の問題なのだ。
そんな事を考えながら動きを止めていると「大丈夫ですか? キョウヤさん?」と、いつの間にかツバサ達が心配そうに近づいてきていた。
「大丈夫だ、問題無い――が、状況は見れば分かると思うが良くない。なんで、お前と叶もクロノと一緒に戦ってやってくれ、接近戦が出来る奴が一人でも多い方が良い」
その俺の言葉に、ツバサ達は困ったように顔を見合わせ「出来ればそうしたいですけど、キョウヤさんよりも遅い俺達が今のカノンに接近戦を挑んでも、クロノさんの邪魔にしかならないと思うんですけど……」と、申し訳なさそうに言ってくる。
ん? ツバサ達に俺の能力って説明してなかったか? いや今は如何でも良い。俺が説明していなかっただけか、ツバサ達が忘れているだけなのかは今は関係ない。
「心配するな、戦える様に俺がお前の力を引き上げてやる、どのくらいの事まで出来るかは実戦で試してもらう事になるけどな――それから、コレはあんまり気にする必要は無いが持続時間はそんなに長くない。あまり当てにはしすぎるな」
「能力を引き上げるって――それが出来るならご自身かクロノさんを強化すればいいんじゃないですか? 底上げしてもらえる分には受けますし、クロノさんの援護もしますけど」
どうやらホントに覚えが無いらしい――おかしいな? 確かにウチの派閥に入った時に説明したと思うんだが……
「もう底上げしてる状態だよ、情けない話だけどな。つーか俺の場合は身体能力を強化する能力が周囲に居る奴等全員に効果が及ぶ集団強化能力しかないからな。元々自前で強化能力を持ってるお前等やクロノの方がカノンとやりあうには適してる」
底上げはあくまで底上げなので、強化の幅は同じなので、元がツバサよりも強いクロノでもカノンに届かない以上、ツバサの能力がカノンに追いつく事は無い。
だがしかし、こちらには数の理がある――少しでもカノンの動きについて行ける者が多い方が、勝利の可能性は高まる。
「って事でいくぜ、ツバサに叶。っと、効果範囲はそこまで広く無いからもうちょっと近くに寄ってくれ、大体三メートルぐらいまでだ。入ったな? なら改めていくぜ《ToGloriousFuture》」
唱えると同時に、俺の周囲を包むように球形の魔法陣が展開し、その内側に居る者に加護を与えていく。とは言え、俺自身には既に掛かっているので効果時間を延長させる程度の意味しかない。
だが、今まで加護を受けていなかったツバサには新たな加護が追加される。少なくとも、カノンと正面から打ち合えなくても、クロノの援護を出来る程度にはなってくれると状況も少しは変わるのだろうが――

<SIDE-Kanon->
明らかにこちらの方が速いのに、俺の放つ攻撃の悉くをクロノの刃は止め、弾き、受け流しながら、俺の攻撃を防ぎ続ける。時折、遠距離から放たれる他の永遠者の能力を防ぐと、その瞬間を狙って反撃にも転じてくる――が、そんな物に捉えられる程遅くは無い。
前回の戦いで見せられたクロノの必殺の一撃を放たれれば、俺とて危険なのだろうが、クロノがあの技を打って来る様な気配は無い。最も、抜刀術だと思われるあの能力は、その特性上どうしても鞘に収めるという一瞬の溜めが必要なのかも知れない。
でなければ、この戦いにおいて未だにあの技を撃ってこない事と、前回の戦いでアレを放つ瞬間に、刃をエーテルで作った鞘に収めていた事に説明がつかない。
実際問題、隙を突いて反撃してくるとは言っても、あくまでこちらの攻撃のとぎれた瞬間に手を出してきているだけに過ぎないので、一瞬の溜めを実現させられる程ではないのだ。
最も、個人的にはもう一度あの技を見てみたいとは思うのだが――言った所で撃ってくれるとは思えない。と、言うか敵に言われた様に戦場で動く奴が居たとすればそれは唯の馬鹿だろう。そんな事を考えながら、クロノに休む暇を与えぬ様に《刹那》を振るう。
それにしても、何故この速度差で未だに打ち合いが続いているのかが疑問だ。未来視や、それに並ぶ知覚能力でも持っているのだろうか? 無論、聞いた所で答えが返ってくるとは思っていないのだが。
しかし、ゼノンの能力を借り出しても、この人数で俺と真っ当に戦えるのがクロノだけか……最高位やゼノンが居る死地だと思ってココまで来た事を考えれば、期待はずれとしか言えない所だ。
能力を最大限に使わせているという所までは評価に値するが、所詮その程度と言う事か。
ゼノン曰く俺と戦えそうだったらしい実力の持ち主である守護者の首領とも戦ってみたかったが、王様が殺してしまったとかで今はもう居ないらしいし、これ以上は楽しめそうにな――否、まだ楽しめるか?
クロノを除くこの戦場に居る他の守護者への興味を失う直前で、多人数戦での基本となる全方位に展開した知覚能力が、クロノと打ち合う俺の背後に結構な速度で迫る覚えのある反応を二つ捕捉した。
――しかし、妙に速くないか? いや、それを言えばクロノだって前回よりは格段に速くなってるのか……って、事は敵側に能力の底上げが出来る奴がいると考えた方がいいな。まぁ、今はそいつに感謝すべきだろう。
能力の強化具合と、クロノと同じタイミングで本人がそこまで強くなかったキョウヤ辺りがその能力の保持者と見て問題なさそうだが、それは如何でもいい事だ。
クロノ程の速度は期待出来ないが、こちらの動きにある程度対応できる相手が一気に二人増えるとなれば、少しは楽しめるという物だ。
「ンだよ、盛り上がって来たじゃネェかよ、なァオィ!」
叫びながら、打ち合いの最中に重い一撃を混ぜる事でクロノの刃を弾き飛ばし、体勢を崩させ、その隙に刃を弾く際に込めた力をそのまま利用してクロノに背を向ける様に体勢を変えて、背後から迫っていたツバサ達に牽制する様に《刹那》を振るう。
その牽制の一振りを前にツバサ達が一瞬動きを止めた瞬間を狙って、空間に生み出した足場を蹴って、ツバサ達の脇を抜ける様にしてクロノから距離を取る。
体勢を崩した直後とは言え、放たれれば俺の全力をもってしても回避の難しい必殺の一太刀を持つクロノが直ぐ背後に居る状態を長く続けるのは自殺行為になりかねないと判断したから。
そして、俺から距離を開こうと動けば、距離を開く事は容易に出来る――この場において自分が最速なのだから、引けばそれを追って来られる者は存在しない。
故に、仕切りなおしは俺の側からなら容易に行える――が、恐らく守護者の連中はこちらと張り合う為にかなり無茶をしている筈だ。それを考えれば長期戦になればなるほど楽しさが無くなっていくのは目に見えている。
疲弊した相手と戦っても、何も楽しく無い――倒すにしても、相手が盛大の効率で力を放てる間の方が断然に遣り甲斐がある。長期戦にしない為にも、そう何度も仕切りなおすのは避けた方が良い。
だからとはいえ、自分が死ぬかもしれないタイミングでも仕切りなおすのを控え様と思うほど馬鹿でもないのだが。
「とりあえずはァ仕切りなおしだ。そっちに残ってる時間がどンぐらいのもんかは知らねェが、能力の使いすぎで焼き切れて自滅、なァんてしてくれんじゃァねェぞ?」
「そうなる前に貴様を倒すので問題は無い。お前に抗し得る戦力が三人だ――ココからは先程の様に攻めさせはせんぞ?」
いいながらクロノがその手に握る刃をこちらに突きつけてくる。しかし、抗し得る戦力が三人、ねぇ? 確かに他に比べりゃ俺について来れなくも無いが、正直ツバサ達に関しては一対一で打ち合えば直ぐに決着が付きそうな、最低限の戦力でしかない気がするが……
まぁ、その最低限のどうやって使ってくるかも戦略や戦術の一つか――まぁ、精々俺を楽しませてくれる事に期待するか。
と、そんな事を考えていると、クロノとツバサ達の元へキョウヤが近づいてくるのが見えた――流石にキョウヤが打ち合いをする戦力に混ざるって事はないだろうから――俺の読みが正しければ補助能力の掛けなおしって所か。
あれだけの強化を他者に与える能力だ、長続きしないのは仕方が無いのかも知れない。まぁ、今の力を維持するのに必要な措置だというのなら、ココでその芽を摘むのは一般的には正しいんだろうが、俺の目的から言えば下策だろう。
そんな事を考えている間にキョウヤは能力を発動させ終わったのか、クロノ達の元を離れていく。見た感じ先程と変わっているところは無いので、やはり能力の上書きによる持続時間の向上が狙いだったのだろう……まぁ、如何でも良い話だが。
重要なのは、如何に俺を楽しませてくれるかだけだ――が、そう何度も強化のし直しを待ってやれる程優しくはない。
何よりキョウヤの補助的な強化は兎も角、クロノなんかの能力は本人への負荷が大きい筈なのだ、それを考えれば、次に能力の掛け直しが必要になるまでにはこの戦い全てに決着をつけた方が良いだろう。
「全員本気で来いよ、守護者ァ。出し惜しみなんてしてっと直ぐに死ぬぜェ? 今からは本当に加減無しだァ優先して狙う気はねェが、邪魔になるようなら前線に立ってるテメェ等以外でもぶち殺すぜェ?」
無論、コレは単なる発破ではなく、本気だ。正直な所遠距離からのSS以下の援護は何だかんだで鬱陶しいのだ――態々殺して回るような真似はしないが、攻撃出来る範囲内に居るなら攻撃しない理由は無い。
「そんな事を……させると思うか?」
「ならなんだァ? テメェに止められるとでも思ってんのか? つーか、そうされたくないならそんな事をしてる暇が無くなるぐらいに俺を楽しませろって、そンだけの話だぜ?」
クロノ達の相手をしながら、邪魔なSS以下を叩く。正直クロノ達を無視してSS以下を叩いた方が圧倒的に速いのだが、それでは面白くない、俺が楽しめない。
まぁ、俺の発言が挑発の為では無い事を理解して貰う為に、とりあえず一人、殺しておくか。一番近いところに居るのは――ツバサと一緒に居た赤髪か……クラスが上がれば有望な奴なんだが、まぁ能力も面倒だし、殺すか?
そう決めると同時に「グレンッ!」と、クロノの叫びが響く――一瞬何かの能力かとも思ったが、周囲のエーテルに変化は無い。叫びの意味が気になるところだが、周囲に影響が無いなら問題は無い、速やかに標的を殺すだけだ。
そんな事を考えながら、俺は《刹那》を上段に構えながら、形成した足場を蹴り、赤髪との距離詰め、構えた《刹那》を振り下ろした。

TheOverSSS――16/28
UltimateSeven――3/7
PerfectSix――2/6
KeyToSeven――2/7
――to be continued.

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