EternalKnight
絶望の来訪者/もう一人
<SIDE-Tubasa->
「さァ、そろそろ再開と行こうかツバサァ。二人居るからってェ油断してっと直ぐに終わらせちまうぞ!」
叶に背を向けたカノンが叫びを上げながらこちらに迫ってくる。無論、二人居るからと言って油断したりはしない。そもそも俺程度の力が二人分集まった所で、カノンの本気には届くと思えない。
だが、手を抜いているカノンが相手だと言うのなならば、一人なら兎も角、二人で戦って遅れを取る程、自分の事を弱いとも思っていない。
迫るカノンを迎え討つ為に、両手に《魔を断つ旧き神剣》を構築して構える。
(正面から受けれる、ツバサ? 出来るならカノンの動きが止まった一瞬を狙って背後から仕掛けられるわよ?)
――意識はそっちに行ってても念話は出来るのか……連携が楽でいいな。
それはそうと、普通になら受けきる自信なんて無いけど、正面から打ち合ってみる。真っ向から力比べをすれば勝てる気はしないけど、直ぐに追撃をかけて貰えるなら問題ない、一瞬動きを止めるぐらいの仕事はこなしてみせる。
(分かったわ。でも、あんまり無茶はしないでね?)
そりゃこっちの台詞だよ、叶。お前は戦いなれてる訳じゃないんだから、くれぐれも無茶はしないでくれよ? お前は俺の大事なパートナーなんだからさ。
『出来る限り叶を安心させるように、わざと歯が浮くような言い回しを選んで伝えて、俺は迫るカノンに集中する』
もう、お互いの考えを伝え合う時間すら残されていない。故に、今すべき事は唯一つ、放たれるカノンの一撃を止める、ただそれのみ。
カノンとの距離が縮まり、互いの攻撃圏内に入る――そして、上段に構えられたカノンの大剣が振り下ろされる。その剣が描く軌跡を予想するのは簡単で、その速さも対応出来ない程でもない。
その軌跡が俺の体を両断する様な軌跡を描いていたとしても、その軌跡を描けぬ様に途中で止めてやればいい。
唯一問題があるとすれば、その一撃に構成された二本の《魔を断つ旧き神剣》が耐えられるかと言う事だけだが、それも、流石に一瞬すら持たずに両断される様な事がなければ問題ない。
振り下ろされる一撃を止めた後に、刃を拮抗させる時間はごく僅かだと考えて問題ないのだ――ならば、振り下ろされるその一撃を止められない道理は無い。
両の手に握る二本の刃を交差させて、振り下ろされるカノンの一撃を受け止める。
刃がぶつかり合うと同時に甲高い金属音が鳴り響き、火花が散る。刃を握る両手に、衝突の余波が振動となって伝わる。止めた、後は叶が仕掛けるまでの数瞬を押し切られない様にすれば――
そんな思考は、交差させた刃の向こうに見えるカノンの歪んだ口元を見るのと同時に掻き消えた。そして、その次の瞬間には、大剣から離されたカノンの左手が、交差した刃の隙間を縫って俺の胸元に伸びて来て――掴まれる。
「片方が攻撃を止めて、もう片方がその隙に攻撃する――ねェ?」
やはり、気付かれて――ッ!?
そう悟った時には既に遅く「悪い戦法じゃァねェが、相手が悪かったなァ、ツバサ?」そのまま俺は左手だけで背負い投げられる。カノンの後方――叶が丁度カノンに仕掛けるつもりだった、その場所へ。
「――っ!?」
俺の思考が叶に伝わったのか、それとも叶の反応が早かったのか、カノンに投げられた俺を叶が握る《魔を断つ旧き神剣》が傷つける事は無かった。だが、カノンに向かって突き進んでいた勢いを殺す事は出来なかったのか、投げ飛ばされた俺の体が叶に衝突する。
だが、俺を投げるだけでカノンの攻撃は終わらない。俺を投げ飛ばすと言うその動きは、背後から迫る叶に俺をぶつける為だけに行われた動作では無かったのだ。
俺を投げ飛ばす事で、右手に握る大剣の位置をほぼそのままに自由にし、後方へと投げる事によって自ら体の向きを反転させ、大剣を握る右手を次の一撃を放つ為の予備動作を終えた位置にシフトさせていたのだ。
そして、俺は投げ飛ばされた事で体勢を崩し、俺にぶつかった事によって叶も体勢を崩している。これだけの隙を、もう見逃してはくれないだろう。
体勢を崩したまま、それでも放たれる横薙ぎの一撃から身を守ろうと、両手握る刃の構成を放棄して《旧神の印》を展開する。
そして、衝撃が訪れる。展開した《旧神の印》はその範囲を小さくしたお陰でなんとか両断される事なくカノンの一撃を防ぐ事に成功していた――だが、その勢いを殺しきる事はできず、俺と叶は体勢を崩したまま吹飛ばされた。
――こちらは二人居るのに、速さにも大した差が無いのに、それでも圧倒されている。
「どうしたァ? 二対一でもその程度かァ、 数が上である事を最大限に利用して、もっと俺を愉しませてくれよなァ、ツバサァ!」
そう叫んで、吹飛ばされた俺達が体勢を立て直す前にカノンが再び大剣を上段に構えて迫ってくる――もう一度《旧神の印》で防ぐか?
否、同じ事をしている様じゃ駄目だ先程の一撃は片手で放たれた物だった、両手で持っている今その威力が先程と同じだとは考えない方が良い。けど、それなら一体どうする?
可能かどうかは兎も角回避や反撃と言う選択をするのなら、体勢を立て直さない事には不可能だ――が、そんな時間も無い。
結局、体勢が崩されている今可能なのは、精々が防御の為に《旧神の印》を展開する事くらいしかない。
片手での一撃で吹飛ばされた――なら両手で放たれるその一撃を防ぐ事など可能なのだろうか? 脳裏にそんな嫌な疑問が浮かぶが、現状取れる選択肢がそれしか存在しない以上、速やかに完璧にそれをなす事しか俺には出来ない。
カノンがこちらとの距離を詰めてくるまでの僅かな時間でそれだけの思考を纏めて、俺は再び《旧神の印》を展開してカノンの攻撃に備える。
「言ったよなァ、ツバサァ? 同じ手が二度通用すると思うなってよォ?」
そんな声と共に、カノンが振り下ろした刃の軌道は唐突に変化し、強度を上げる為に大きさを抑えた《旧神の印》でカバー出来る範囲を容易にすり抜けて、今度は俺の首筋を捉える様に巨大な刃が滑らかな軌跡を描く。
回避など元々出来なかった、防御は意味を成さず素通りされた――もう、打つ手が無い。俺は、俺達は、ココで……死ぬのか? それを自ら察すと同時に、迫る刃の動きが鈍っていくのが分かった。
否、迫る刃だけではない、全ての速度が停滞していく。それも否、要するにただ単に死を前にして体感時間が引き延ばされているに過ぎない、自らも含める全てが停滞している以上、そうなったからと言って俺が助かるわけではない。
他人事の様に、状況が客観的に見えてくる。本当に、俺はココで死ぬのだろうか? こんなにも世界は緩やかに流れているのに、俺には死の運命しか残されていないのか?
――叶の声も、叶の心も届かない。ここは俺が死を感じ取ったと同時に生み出した俺だけの世界だから。
世界は刻一刻と停滞していく、死が訪れるまでの残り時間が短くなれば短くなる程、時間の流れが遅くなっていく。
決して停止する事は無く、時間は無限に引き伸ばされていく――だがしかし終りは必ず訪れる、終りが訪れないモノ等、何処にも存在しないのだから。
刃が迫る、ゆっくりと迫る――避けられない死、それが訪れるまで時間が引き延ばされ続ける地獄……そう、ココは地獄以外の何処でもない。
(――地獄ねぇ? そんな物は存在しないだろ? 仮にあった所で少なくとも僕にはこんなに生ぬるい場所だとは思えないね)
そんな地獄の中で、聞き覚えのある声を聞いた気がした。 それは誰の声だったのか……勿論覚えているし忘れる筈が無い、今の声は――
その名が脳裏に過ぎる前に、あるべき筈の無い、一つの事実に気付いた。カノンの大剣が描く軌跡が、いつの間にか俺の首を刎ねる未来を描く物から別の物に変貌している事に。
否、それだけではない。カノンの大剣はゆっくりと、それで居て確実に俺から遠ざかっていく。
その事実を認識すると同時に、俺から遠ざかっていくカノンの刃の速度は加速していく――否、違う。俺の体感時間が元に戻りつつあるだけにすぎない。
それはつまり、死の危険からは逃れられたと俺自身がそう認識したと言う事に等しいのだが……一体なんでカノンは刃を引いた?
疑問は残るが、そんな事を考えている暇は無い。今は兎も角、カノンとの距離を開けて体勢を立て直すべきだ。
完全に元に戻りつつある体感時間の中でそう結論を出して、俺は叶の手を取り、その場から離れる為に――それで居てカノンには背を向けない様に後方へ下がる為に形成した足場を力強く蹴った。

<SIDE-Kanon->
もう少し愉しみたかったが、ココまでか。もうそろそろ拠点に居た守護者の連中もココに来る様だし、トドメを刺しておくか――
そんな風な感想を抱きながら、俺はツバサの展開した障壁を掻い潜って、その首を刎ねる為の一撃を決めようとしていた――だがその一撃を決める前に、不意に自分の首の後ろに小さなエーテルの反応が生まれた事に気付いた。
ツバサの攻撃か? と、一瞬脳裏に疑問が浮かぶが、この瞬間に打って来る意味合いが見えない。相打ち覚悟でこちらの攻撃の瞬間を待っているのかも知れないが、それにしたってもっと早い段階で出来た筈なのだ。
何のつもりなのか分からない――が、だからと言って無視して良い訳が無い。SSSクラスの能力は当たれば致命傷になりうる攻撃が少なくないのだ。最悪の可能性を考慮するなら、無難に攻撃を止めて正体不明のエーテル反応に対処すれば良い。
まぁ、無理をしてここで決着をつける必要は無い。元々俺自身が愉しむ為の戦いだ、寧ろツバサを生き残らせた方がすぐそこに迫っている多くの守護者達との戦いにおける敵の戦力が増す事になるのだから、そちらのほうが断然良い。
元々、手を抜いて態々生き残らせるというのもアホらしかったので、最低限俺の敵になりうるかを見極める為に、力を制限して相手をしてやったのだ。
俺がココで正体不明のエーテルに反応して、それによってツバサが生き残る事になったのなら、これから訪れる一対多の戦いにおいてツバサの事を最低限、戦いの舞台に立つだけの力はある敵と認識して、他の守護者連中を一緒に相手をするだけだ。
刹那の時間でそこまで思考を纏めて、ツバサの首を刎ねるつもりで放った一撃の軌跡を捻じ曲げる。正体不明のエーテルの発生位置から自身の体を守る様に《刹那》を動かしつつ、そのエーテル反応の発生源から体を遠ざける。
背後では、体勢を崩したままのツバサがその体勢のまま強引に足場を作り後方へと跳躍し、俺から距離を取っていた。
背中から攻撃される可能性も考慮し、背後に気を配っていたが、どうやら気にする必要は無かった様だ。
確かに体勢を立て直す事は大事かもしれないが、俺ならば背を向けている敵を放置して距離を取る事を優先するなどという選択はしなかっただろう……否、何かが変じゃないか?
今俺が反応し、防御或いは回避を選んだエーテルの反応、コレは、本当にツバサが生み出した物か? その割には、動き出すのがワンテンポ遅かった様な気がする。
そうこう考えている間に、正体不明のエーテル反応は己に与えられていたプログラムを成し始める。それによって、発生した現象は――
思わず一瞬呆けてしまった俺の耳に金属音が響き、手には軽い衝撃が走る。今のがツバサの能力か? ありえない訳では無い、俺はツバサの能力を全て知っている訳では無いのだから。
だが、それにしては変だ。曲がりなりにもSSSの能力が単に中空に刃物を生み出し射出する程度の物であるはずが無い。
では、一体今の現象はなんなのか?そして、思い出す――今この場には、俺とツバサと、ツバサが生み出したコピー以外に、もう一人居たのだという事を。
思わず視線を今この場に居るも一人、赤髪の青年へと向けると、その口元は楽しげに歪んでいた。それが、事実をナニよりも物語っている。
「カハッ――良いなァ、良いぜェ、面白ェよテメェ等ァ!」
思わず笑いがこみ上げてくる。そうだ、コレが一対多の醍醐味じゃァないか。コレがあるから一対多の戦いは、格下の群れでもそこそこに楽しめるのだ。そう、こういう俺の予想外の出来事が起こらなくては面白くない。
「お前等はよくやったよ――守護者の残りが来るまで、時間を稼いだんだからよォ? だが、戦力が揃った以上は……俺も本気を出すぜェ?」
その俺の言葉がツバサ達に届いたのかは兎も角、俺がその言葉を言い終わるのと同時に、SSSクラスの反応が二つと、それ以下の反応が六つ、新たに戦場に現れた。

TheOverSSS――16/28
UltimateSeven――3/7
PerfectSix――2/6
KeyToSeven――2/7
――to be continued.

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あきゅろす。
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