EternalKnight
絶望の来訪者/二つの翼
<SIDE-Tubasa->
「なァ、オィ――何そのまま吹っ飛ばされてるんだ? 絶望して諦めたか? それともそうやって少しでも時間を稼ぐつもりかァ? 人数が多いほうが楽しめそうだとは思ったが――そォいうくだらねェ事考えるような雑魚なら、今この場で殺しちまうぞォ?」
吹飛ばされながら考えを纏めていた俺のすぐ傍から、カノンの声が届く。考えてみれば別におかしな事ではないし、不可能な事でも無い。敵が怯んでいて、自分に追撃できるだけの自信があるなら、俺だって同じ様にしているだろう。
カノンのアッパーカットで吹く飛ばされた俺はかなりの速度で吹飛ばされた――とは言え、別に戦闘に支障を来たすほどのダメージを受けた訳では無いのだ。
体勢を立て直さずいつまでも飛ばされたままでは、貪欲に戦いを求めているカノンが俺に対して不満を抱くのも無理は無い。
そして、吹飛ばされた勢いは確かにかなりの物だが、俺でも本気を出せば自ら意思で再現できそうな勢いである以上、あのカノンが追いつけない道理など無い。現に、今この瞬間も吹飛ばされる俺に並走する様に移動している。
背後に足場を展開して勢いを殺してその場に留まるとそれにつられてカノンも少し離れた所で動きを停める――その顔には怒りと落胆が混在して居る様に俺には見えた――が、そんな事を気にしている場合でもない。
「悪いな、あんたが余りに強いんで、ちょっと対策を練ってた所だ」
対策と言うよりは、カノンの力がどういう物なのかを考えていただけなのだが――カノンの気に入りそうな答えを返すのがこの場では無難に思えたので、俺はそう言葉を紡ぐ。
「成程ねェ――だがァ、そう言うのは戦いながら考えれてこそ、一端の戦士ってェもんだァ。まぁ、以後気ィつけろや? ンでェ、折角考えるのに時間を使ってたんだ、何か良いアイデアでもあったのかァ? えェオイ?」
その俺の返答に、少しは満足したのか、その表情から怒りと落胆の色が薄れた様に、俺には見えた――だが、そんな物は何の根本的解決にもならない。時間を稼ぐにしても――何か良い案が無いとこのままでは本当に殺されてしまう。
(ねぇ、ツバサ? 仲間と一緒に戦えば勝機はあるって、さっきそう考えてたわよね?)
叶のそんな念を聞きながらも、少しでも会話を長引かせようとカノンの言葉にも応じる。
「そんな物が簡単に見つかれば苦労は無い。出来ればもう少し考える時間をくれるとありがたいんだが?」
(だったら二人なら――二人で戦えば勝てるかどうかは兎も角もっと楽になるんじゃないの?)
そりゃ、一人よりは二人の方が良いけど、もう一人って誰だよ? グレンさんを戦わせる訳には行かない以上、この場は俺が一人で時間を稼ぐしかないだろ?
「態々確認を取る様な真似してんじゃァねェよ――認めると思うかァ?」
(もう一人は、私よ)
「っな――はぁ!?」
全く予想していなかった叶のその念に、思わず声を出してしまう。
「ンだァ、その反応はァ? なンだよ、適当な会話で時間稼いでる間に、テメェの聖具が突拍子もない事でも思いついたのかァ? 聖具持ちが訳わからねェタイミングで叫ぶ場合の殆どはそれが原因だってェ話を以前聞いた事があるんだがァ?」
もう一人がお前って――そんな事出来るわけ無いだろ? 唯でさえ全く歯が立たないカノン相手に、丸腰二人でどうすれば対抗できるって言うんだよ? あんまり自分で言いたくないけど、俺はお前の力が無きゃマトモに戦う事すら出来ないんだぞ?
(ねぇ、ツバサ? 100年ぐらい前の事だけど《混沌》の事、覚えてる?)
そりゃ覚えてるけど、それが今の状況となんか関係あるのか?
(あるよ――そもそも、あの時倒した《混沌》っていうのは《旧神》とは表裏の関係にある聖具なの。あの時も言った事だけど、そういう理由で私には《混沌》の能力の情報なんかも引き出せるのよ。それが再現できるかどうかは兎も角として、ね?)
《根源》の能力? あいつの能力は確かに強かったけど、今使って意味のある能力なんてあったか? そりゃあの分身する能力とかは強かったけどあの能力じゃ直ぐにカノンに破られるのは見えてる、そもそも、それとお前が戦う事に何の関係があるんだ?
(情報が引き出せるだけで、それが再現出来るとは言ってないわ、ツバサ。だけど、だからこそその情報を元に別の力を生み出す事が出来たのよ)
それが、俺とお前が二人で戦う力だっていうのか?
(えぇ、完全に同じ力じゃ無い分、利点も減ってるけど欠点は消えてるから――相手が《刹那》程の聖具の持ち主だっていうのなら、寧ろ今から使う力の方がやりやすいぐらいだと思うわ)
それで、その力っていうのは?
(焦らないでツバサ、今から私が唱えるから、ツバサも続けて。その神はあらゆる場に在り、あらゆる時に在り――)
「その神はあらゆる場に在り、あらゆる時に在り――」
「よォやく話し合いが終わったか……で、終わってそうそう俺の事ァ無視して長ったらしい詠唱か? 悪いがそれを食らってやる程、俺は甘くはねェぞ? テメェ等が楽しく喋ってくれてる間、俺ァかなり暇してたんだからよォ?」
カノンの声が聞こえる――何かを言っているが今は関係ない。その内容は如何でも良い。今は唯叶が唱える詠唱を反復させる事以外に興味を持つべきでは無い。
「(あらゆる祈りを聞き、あらゆる祈りを謳い、あらゆる誓いを謳い、あらゆる誓いを貫き、あらゆる世界を救う)」
「――ッンだよ、無視かよ。余程その能力に自信があると見てェだな、オイ。そもそもよォ、俺に待ってやる義理はねェンだよ――聞こえてるか? その能力を発動させたきゃァ、ちゃんと最後まで詠唱をこなせよ? 俺が今から適当に妨害してやるからよォ」
何かを言い終わると同時に、カノンが動き始める。速度は先程までと変わらない、俺と同等かそれを少し上回る程度の物で、その速度であるならば、例え叶の詠唱を追う事に集中しながらでも絶対に捌けないという程ではない。
「(我は聞き、祈り、謳い、誓った。汝が世界を救う神ならば、この場、この時に顕現せよ)」
そも、仮に捌ききれなかった所で急所さえ守れれば、その攻撃が致命打になる事は無いのだ。自分よりも少し速い程度の相手なら、その程度は体が反射的に動く事で十分に守る事が出来る。
「止められねェか――少し手ェ抜きすぎたかァ」
何か言いながらもカノンは攻撃の手を緩めない。だが、カノンから放たれる攻撃の数々を弾き、流し、時に牽制程度に反撃をし、捌き切れなった攻撃で身を削られながらも詠唱を続ける。
「(最も旧く、最も新しい神の書よ)」
「 カハッ、まぁいいさ――それだけの自信を持って放つ技ってェのを、じっくりと見せてもらおうじゃァねェか?」
「(――《もう一つの聖典-AnotherBible-》!)」
最後の一節、その力の名を紡ぐと同時に《旧神》が持つ新たなる力が誕生した。

<SIDE-Kanon->
「――《もう一つの聖典-AnotherBible-》!」
ツバサがその名を唱えると同時に、彼の背に構成されていた淡く輝く五亡星の紋章が再び光る文字へと解けていき、ツバサの体の回りを高速で駆け巡っていく。
俺の目を持ってすれば、その文字の柄を捉える事も不可能では無いのだが、見えた所で、俺には意味不明な記号の羅列にしか見えない。それにしても、今発動したのはどういう能力なのか?
流石にSSSの長い詠唱を持って発動する能力と言う事で警戒して距離を取ったが――ツバサの回りを淡く光る記号が高速で展開しているだけで、今の所は特に変化が無い。
あんなに溜めの長い技で何をする気だ? 記号の羅列がツバサの周囲に展開しているのを見ると、なんらかの攻撃能力とみるよりも、ツバサ自身の能力を上げる為の物に見えなくも無いのだが……
それでも、不用意には近づけない。いざ接近して何らかの罠か何かの様な能力だった場合がかなり面倒だからなのだが――
「ッてもよォ、ココでこのまま見てるだけッてェのもおかしな話か。まんまと時間を稼がれてる訳だしなァ?」
そうだ、相手の目的は時間稼ぎの筈なのだ、あの記号の羅列は時間を稼ぐ為に何か大技の前兆の様な演出をしているだけかもしれない。
と、言うかそもそも罠であれどんな技であれ、俺の本気を持ってすればまぁまず突破する事は簡単なのだ――何処に攻めあぐねる理由があるというのだろうか?
「そうやって動く気がねェってンなら、こっちから仕掛けてやるぜェ、ツバサァ!」
言うと同時に、構成した足場を蹴って、全身を淡く光る文字に覆われたツバサとの距離を一気に詰める。スピードは、一応今までと同じ速度だ。本気を出すのは何かあってからでも決して遅くは無い。
ツバサとの距離が縮まるに際して、俺は《刹那》を上段に構える。上段からの一撃ではまだ見ぬツバサの未知の能力に対応するのが難しいかもしれないが、その方が楽しめる――最悪、速さに物を言わせて回避すればいいのだから。
そして、ツバサをこちらの攻撃園内に捉える寸前で、彼の周囲浮かぶ淡く輝く記号が爆ぜる様に周囲に飛び散る。
その記号の一つ一つからは大した力を感じはしないが、そこそこの長さの詠唱を持って編まれた能力である以上、どんな能力があってもおかしくは無い――のだが、ツバサを中心に全方位へと飛び散った光る記号の全てを回避するのは不可能だ。
無論本気でかわそうと思えばかわす事も可能だが、それでは余りにも面白くない――戦いを愉しむた為にはこちらが追い込まれる必要がある。
そう考えたからこそ俺はその淡く輝く記号を回避せずに、されどさらにツバサに接近する事を中断して、自身の方へ向けて飛んできた物を回避せずに正面から受ける。
だが、しかし――特に何の変化も無い。ダメージも無ければその他の症状も無い様に思える。では、先程放たれた光る記号は何だったのか? その答えを、俺は直ぐに感じ取った。
ツバサの物と同程度の反応――否、同じ反応が少し距離の開いた後方に新たに一つ発生したのだ。そして、先程まで光る記号の渦が周囲に散った事によって、それに覆われていたツバサの姿があらわになる。
そこには、最初に背負っていた五亡星の魔方陣の代わりに淡く青く光る片翼の羽を背負う翼の姿だった。二つの反応に、片翼の羽を背負うその姿、それが意味する所は――
「成程、そォいう事かツバサァ? 一人で駄目なら二人ってかァ――悪いが俺ァ、ンな事で倒される程弱くァねぇぞォ?」
「そうかよ、こっちは元から俺なんかにお前を倒せるとは思ってないんで気にしちゃ居ない。俺に出来る事はキョウヤさんやクロノさんが来るまでの時間稼ぐ事と、その後に邪魔にならない様に二人を手伝う事だけだよ」
分かっていた事だが、やはり目的は時間稼ぎか――確かに経験が浅く、能力の質において絶対的な差があるツバサでは俺には勝てないだろうが、あくまで相手が悪いだけだ。筋は悪くないのだから、自分を卑下する必要は無いと思うのだが――まぁ良い。
「時間稼ぎねェ? どォせ全員を纏めて相手にするつもりだったンだから、ンな事ァする必要は無かったと思うぜェ?」
「じゃあ聞くけどな、暇を持て余しているお前が、俺と戦おうとせず素直に待っている可能性は?」
まぁ、相手がそれも仮にもSSSがいるなら、まぁ間違いなく味見はしていただろう。だが、それとコレとは話が違うのではないか?
「どの道俺とお前は戦う事になってたんだ――だから、時間稼ぎっての仲間が来るまで時間を示すんじゃなくて、俺が生きて仲間と合流するまで時間を稼ぐって意味で言ってるんだよ」
「カハッ、結局どっちも一緒じゃァねェかよ! だがまァ、そういう所も気に入ったぜェツバサ――速さはさっきまでの速度で抑えてやるからよォ、さっき生み出したコピーをうまく使ってェ俺を愉しませてみせろォ!」
同じ程度の実力の戦力が一人増える事は、戦力が二倍に成る事とは違うが、それに劣らない程度の効果を期待できる。
否、使い方によっては二倍以上の戦力にすら成り得る――が、今新しく能力が使える様になったツバサにそれを求めるのは酷という事なのは言うまでも無い。どちらにしても敵が強くなるのだ、楽しくない訳がない。
「悪いけど、私はただのコピーなんかじゃないわよ?」
背後から聞こえてきた聞きなれない声に思わず振り返ると、そこにはツバサと殆ど同じ格好をした白髪の女の姿があった。否、その背から伸びる淡く光る羽が、ツバサが右翼を生やしているなのに対して彼女の物は左翼になっている。
……ただのコピーを作る能力とは違うのか? 固有の意識を持っている様に見えるし、そもそもアレはどう見てもツバサの複製じゃあない。恐らく聖具側に複製の制御を委ねているのだろうが、その場合であっても外見がツバサとは別なのには意味が無い。
まぁ、理屈の方は如何でも良いか。聖具側が複製の制御を行っているとするならば、制御するにはある程度の意志力を要するという事になる、そう考えればこれ以上複製が増える事は無いだろう。
「そォかよ、だったら愉しませてくれよ、唯のコピーじゃないらしい嬢ちゃんよォ」
まだこちらに来るまでには時間が必要だろうが、拠点の方にいる守護者連中もようやく準備でも終わらせたのか動き始めている。ツバサ達とこちらに向かってきている守護者達が合流すれば、俺が本気で戦っても楽しめるだろうか?
「まァ、期待しながら待ってるぜェ――守護者の皆様よォ……」
ツバサ達には聞こえない様に小さく呟いてから、今度は「さァ、そろそろ再開と行こうかツバサァ。二人居るからってェ油断してっと直ぐに終わらせちまうぞ!」そう叫び、俺はツバサの方へ向き直って、中空に形成した足場を蹴った。

TheOverSSS――16/28
UltimateSeven――3/7
PerfectSix――2/6
KeyToSeven――2/7
――to be continued.

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