EternalKnight
絶望の来訪者/開戦
<SIDE-Tubasa->
(《刹那》か……名前から察するに概ね時間に干渉するタイプの能力と見ていいのよね、実際かなりの速度で動いてるみたいだし? でもそれだと、時間を遅くしてるのか、使用者が速くなってるのかで対処法がまた変わってくるのよね……)
ここまで黙っていた叶がようやく俺に念を送ってくる。どうやら相手の聖具の名から能力の方向性を見出し、対処法を考えているみたいだ。
(対処法って言うか、敵の能力の方向性を考えてるだけよ? 正直、あのタイプの能力は同系の能力じゃないとかなり対処し辛いと思うわ。まぁ、それでも何とかしなきゃいけないって言うのは分かってるんだけど……)
《旧神聖典》を発動させていても目で追うのがやっとの速度を相手に、真っ当に戦って勝てる要素は無いに等しい。ならば、何か対策を講じなければいけないのだが……何一つ良い案が浮かばない。
そもそも、圧倒的な速度差がある以上、策を講じた所で何の効果も生まない可能性の方が高い。下手に何かをしようとして、それにもたついている間に殺られましたでは笑えないにも程がある。
(速度差がある以上、一対一でやるのがそもそも厳しいのよね……かといって、二人居れば良いって訳でも無いし、そもそも増援が来るまでの時間稼ぎが目的なんだから、人数云々は言っても仕方ないわよね?)
時間稼ぎか……自分で言い出しといてなんだけど、コレはかなり厳しいかもしれないな、全く。増援が来るまでどれくらいかかるか分からないけど、兎に角、全力で凌がないといけない。
こんな俺でもSSSクラスと言う戦力なのだ、この後に控えている戦いの為にも、ココで死んだり重症を負う訳にはいかない。最も、死ぬのはこの後の戦い云々が無くても御免被りたい所ではあるけど。
そんな風に考えていると「さてェ、折角待ってやったんだ――加減はしてやるから、間違っても直ぐに死んじまったりするんじゃァ無ェぞォ?」と、カノンが黒い大剣をこちらに突きつけながら、心底楽しそうに言葉を発する。
加減、か……そこまでして戦いたいのかと思う程、本当に戦う事が好きらしい。此方としては時間を稼ぐ事が目的である以上、手加減をしてくれるなら、それは願ったり叶ったりな訳だが。
「まぁ、加減つッてもォ? 最低限俺が楽しめる程度の何かを見せてくれるぐらいの実力がなきゃァ、勢い余って殺しちまうかも知れねェけどなァ? ッつー事でェ、間違ってもテメェの方は手ェ抜い足りするんじゃァねェぞォ?」
そんな事は、言われるまでも無い。最大限時間を稼ぐ為には最大限の力を使って凌ぐしかない。例えそれが、相手に遊ばれているだけだとしても――時間を稼げるのならそれで良い。
「望みどおり、全力でやってやる――お前の方こそ、手を抜きすぎるなよ? 余り舐めて掛かってくる様ならその首を刎ね飛ばすぞ?」
言うと同時に、詠唱を行わずに《魔を断つ旧き神剣》を右手に顕現させ、それを握って構える。
今この戦いで重要なの、如何にカノンに気に入られ、このまま遊んでいたいと思わせるかだ。その為なら、普段言わないような挑発的な台詞だって口から紡ぐのを躊躇っていられない。
「カ八ッ――良いなァテメェ、その口達者な所だけァ少なくとも認めてやって良いぜェ。だがよォ? あんまァ口先だけだと醒めちまうんだよ、逆によォ? その辺を理解した上でそういう風にぺら回してるんだろうなァ、えェオィ?」
心底楽しそうに、心のそこから嬉しそうに、カノンは表情を歪めて笑いながら、こちらに言葉を返してくる。それを「口先だけかどうかは、お前が確認すればいいだけだろう?」そんな更に挑発的な言葉で返したところで、視線の先に居たカノンの姿が、ブレた。
「ッ!」
10メートル程あった彼我の距離が一瞬で限りなく近づき、甲高い音と共に《魔を断つ旧き神剣》とカノンの持つ黒い大剣がぶつかり合う。
「アレにギリギリでとは言え反応できンのか……まぁ、あの速度なら距離はあったがさっきのSSにも防げたんだから、当然っちゃァ当然か……まァ、取りあえず及第点ではあるなァ?」
ぶつけ合う刃越しに、至近距離でカノンが呟く言葉が耳に入るがその内容はあまりにも信じがたい内容だった。
――今の一撃の速度に対応できてやっと及第点と言う評価基準らしい。《旧神聖典》を発動させた状態で見てもブレてしっかりとその姿を捉えられない程の速さが最低限のラインだと言うのか? だとしたら、アレは本当に次元が違いすぎる。
背筋に嫌な汗が流れるの感じながら、絶望的な差を感じて震えそうになる体を必死で抑えて、今現在刃を拮抗させているカノンに向き合う。相手がどれだけ絶望的に強くても戦い、時間を稼がなければいけないから。
「ゼノンの野郎やクロノ程じゃァ無ェが――なかなか気に入ったぜェ、ツバサ。だが、少し経験不足過ぎるのは頂けないってェ所か? 今の様子だと、聖具の契約者になってから300年も経ってないだろ、テメェ?」
確かに、カノンの言う通り、俺はまだ永遠の騎士になって100年と経っていない新参だ――だが、永遠の騎士になった時点で成長も老化も止まる以上、外見で見抜くことは不可能な筈なのだが、目の前の男にはどうしてそれが分かるのか?
「その顔は当たりって事だなァ? まァ、そりゃそうか。永遠の騎士になって300年も生きてりゃァ、互い拮抗してる状態で何も次の手を打たねェなんて考えられねェしなァ? 俺みたく、手を抜いてやってるならまだしもよォ?」
それだけ言い終わると同時に、カノンは拮抗していた状態の刃を引いて目で追える速度で後退し、その手に握られた黒い大剣を構え直してから、さらに言葉を紡ぐ。
「今のはァ経験の浅いテメェの将来性や発展性に期待してくれてやった、一度きりのチャンスだァ――手は抜いたままでやってやるが、今度は隙があったら殺すぞ? 今のみてェな事は無ェから期待すんなよ?」
「アドバイスには感謝するが、初めから期待はしてないから問題は――無い!」
最後まで言い終える前に、俺は前へと踏み出し、右手に握る《魔を断つ旧き神剣》でカノンに斬りかかる。
無論、俺のそんな一撃がカノン相手に効果がある訳がなく、軽くいなされ、それによって体勢を崩した俺にカノンが大剣を振り下ろす。
その一撃を空いている左手で《旧神の印》を展開して防ぎ、その間に体勢を立て直して、振りぬいた右手の《魔を断つ古き神剣》を手首を反して薙ぐ様に振るう――が、それもカノンにはかする事もなく虚空を斬るだけだけに終わる。
見ている限り《旧神の印》で攻撃を防がれた時点で大剣を引いて一歩ぶん程下がっただけの事しかしていないのだが、こちらの動きが先読みされているかの様の当たらない。そして、攻防はこの程度では終わらない。
刃が外れた事によって、今度はその刃を振るったせいで懐が空く――そう言う隙を何度も見逃してくれる程、カノンは甘くは無い。刃の届く範囲から一歩ぶんも離れていないカノンが、その隙を突く様に懐に潜り込もうと距離を詰めてくる。
だが、俺だって外れれば隙の出来る攻撃を、自分よりも速い相手に打ってその対策を考えていない程馬鹿じゃない。
左手に展開していた《旧神の印》の発動を解いて、今度は左手にも《魔を断つ旧き神剣》を展開し、懐にもぐり込んでくるカノンに一太刀浴びせ様と左の手でその刃を振るおうとする。
その一太刀も、カノンの大剣の柄尻で握り手を殴られる事で動きを止められ、その間にカノンの右足がミドルキックの要領で無防備になってしまっていた俺の脇腹に突き刺さり、その勢いで俺はその場から吹飛ばされる。
吹飛ばされた事を距離を開く事に利用するため、わざとそのまま吹飛ばされつつ、適度に距離が開いた所で空間に足場を形成して、左手の刃をそのままに右手と右足でその足場に踏みとどまり吹飛ばされた勢いを殺す。
「やるじゃねェかよ、ツバサ。今のはスピード以外は加減せずにやったつもりだったんだがァ、まさか足を使わされる羽目になるとは思わなかったぜェ?」
おもちゃを見つけた子供の様に嬉しそうに、カノンが近づいてくる。その速度を持ってすれば一瞬で詰められる距離を、俺にだって一秒あれば詰められそうな距離を、得物を追い詰めるかの様に、ゆっくりと近づいてくる。
何がやるじゃねぇか、だ。まるで相手になっていない。今の攻防でのカノンの速度は見える範囲だったし、決して速すぎるという速度ではなかった。
速いから当てられないという訳では無い――だというのに当たらない、かすらせる事すらも出来ない。何が足りないのかは分からないが、圧倒的に、そして絶望的に次元が違いすぎる。コレが、経験の差と言う物なのだろうか?
だが、諦めるつもりもないし、諦めていい状況でも無い。カノンが俺で遊ぶつもりなら、とことんまでそれに付き合ってやって時間を稼ぐ――俺には、そんな事しか出来ないけど、今はそれだけ出来れば構わない。
「だが、今のはその剣を両手で出せると俺が知らなかったから成立した、言ってみりゃァ不意打ちだ。まァ? そういう予想をしてなかった俺にも問題はあるんだがァ……同じ手が二度通用すると思うなよ?」
「ご忠告どうも……なら似たような事はしないように以後気をつけさせて貰うよ」
同じ手は二度通用しない、か……そうなると本当に、どこまで時間を稼げるんだろうな、俺に。
「さて、くっちゃべるのは終りだ。さっきは仕掛けさせてやったし、今度はこっちから行かせて貰うぜ?」
言い終わると同時に、カノンは黒い大剣を構えてこちらに迫って来る、やはり、見えない程早くは無い。
距離を詰めてきたカノンの手に握られた黒い大剣が振り下ろされる――大剣であるにも関わらずその剣速は速い。だが、この速度なら捌くだけなら不可能では無い。
振り下ろされる黒い一撃を《魔を断つ旧き神剣》を二本顕現させて双方をぶつける事で勢いを殺し、そのまま左側に流す様に誘導し、途中でその役目を終えた右手に握る刃の構成を放棄して、空いたその手を突き出し、もう一度刃を構成する。
未だ黒い大剣は左手の刃に誘導されたままであり、それによってこの瞬間、カノンの動きはかなり制限されている筈なのだ。その状況下での胸の中心部を狙う刺突の一撃なら、流石にかわされる事は無いだろう――と、思っていた。
少なくとも手傷を負わせる事は可能だとそう思っていたにも関わらず、カノンはあろう事か自らの聖具を手放す事で行動の制限をなくし、右足を一歩引く形で半身になってその刺突を回避し、空いている左の拳を振り上げて今度は俺の顎を殴りつけてきたのだ。
その一撃で、俺の体は再び吹飛ばされる。その視界の端で、カノンが手放した自らの聖具を拾っている姿が見えた――幾らなんでも出鱈目すぎる、根本的な差が開きすぎている。
相手が手を抜いてくれているから、速さにはなんとかついていけるだって? だからなんだというんだ? ついて行けた所で、基本的な差が開きすぎているのだ、スピードの差が縮まった所で、他の差の壁を乗り越える事が出来なければ何の意味も無い。
兎に角出鱈目なのだ。経験の差は仕方が無い、速さの差は聖具の能力の方向性だと思えば納得できる。だが、それに加えてあの力はなんだ? 聖具を手放していたんだぞ? どうしてあそこまでの力が引き出せる?
数瞬手放したぐらいで聖具の加護が消える訳ではない――だが手放している間は確実にそれを所持している時うよりも加護の力は薄くなる筈なのだ。故に永遠の騎士同士の戦いでは聖具を手放すなんて状況はほぼありえない。
だが、それはあくまで一般的であるだけであり、状況によっては今のカノンの様に一時的に聖具を放棄すると言う行動が必ずしも悪いと言う訳ではない――そもそも、問題なのはそこではない。
アッパーカットで吹飛ばされたと言う事実、それが問題なのだ。幾ら強化されているとは言え、聖具の加護が薄まっている状態で、人一人をこうも易々と打ち上げる様に吹飛ばせる物なのだろうか?
先程の蹴りの様な横方向へ吹飛ばす事や、同様に後方へと吹飛ばす事ならそれ程難しい事では無い――問題なのは縦方向、上に向けて吹飛ばされている、と言う事だ。
そんな事は、ベースが人の腕力と言う縛りにある以上、聖具の加護があったとしても、随分と難しい気が――否、そうか……今までは思い出す暇も無かったがカノンからは魔獣の反応も出ていた。それならそこまでおかしな事でも無い。
おかしな事では無いのだが、それが分かったところで何の解決にもならない。SSS聖具の能力でスピードに魔獣としての化け物じみた腕力を併せ持つ存在……成程、化け物で仕方ないって事か。
本当に、つくづく運が悪い。こんなの一人で戦わされるなんて、無茶にも程がある。だけど、その無茶を成さなければ成らない。
何だかんだで会話をし、カノンに遊ばれながらではあるが、俺は死ぬ事無く時間を稼げている。或いは、全員を纏めて相手にする為にカノンが待っているだけなのかもしれないのだが――
その慢心を後悔へと変えてやる。俺一人の力では無理だけれど、仲間の力を借りれば、勝機はある――そう、信じている。

TheOverSSS――16/28
UltimateSeven――3/7
PerfectSix――2/6
KeyToSeven――2/7
――to be continued.

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