EternalKnight
絶望の来訪者/名乗り
<SIDE-Guren->
「いくぞ、相棒、シンク――StartOfFlame、MeltingSword」
この二つの同時起動は、エーテルの消費が激しいので余り好きでは無いのだが、俺に出来る最善の準備策はコレぐらいしか無い。後は唯、敵の反応を良く見てそれに対応するだけだ。
とは言っても、それで対応できる可能性があるのは初撃だけにす過ぎない上に、あくまで対応できる可能性であるだけで絶対に防げるという訳では無い。
……俺が生き残れる可能性ってどんなもんなんだろうな、相棒?
(さてな? そんな物は考えたく無い――が、可能性は零では無いと信じている。故に相棒、諦めるにはまだまだ早い、最後の一瞬まで諦めなければ必ず可能性はある)
(そうだよお兄ちゃん、諦めたらそこで本当に終わっちゃうから。だから諦めたりしちゃ駄目――私も、力になるから)
心配しすぎだ、二人とも。俺は別に諦めてなんか居ない。どんな事が起きたって、どんなに絶望的な状況になったって、俺の中に諦めるって選択肢は無い。シンク、相棒お前達が居る限りは、死ぬつもりは無い。
『少し強がり過ぎだったか? 本当はあんな冗談みたいな強さの奴を相手にして生き残れるなんて思ってないのに、シンクと相棒の手前、つい強がってしまった。最も、生きる事を諦めるつもりはさらさら無いのだが』
そんな事を考えていると、隣からツバサの詠唱が聞こえてくる。
「護る事を、我等は祈る。平和な世界を、我等は愛す、俺は叶を。我等は謳う、遠くまで響くように、祈り、愛し、謳い続ける。我等は貫く、誓い、愛し、貫き続ける――ここに旧き神の書物を写す、いざ、ここに紐解かれよ《旧神聖典》」
その詠唱が終わるのと同時に、ツバサの背に展開されていた五枚のプレートが光の文字になって解け、その文字が今度はツバサの背に五亡星の魔方陣を描いていく。
それに伴って、ツバサのエーテル反応が急激に膨れ上がるのを感じ取った――その瞬間、遠くに存在する敵の反応が、消えた。
「ッ!」
それを知覚すると同時に、全神経を集中させて、己が身を守る事に専念する。自然と己が首を守る為に構えた相棒とシンクを握る手に力が篭る。そして――
相棒とシンクを握る手に、唐突に強烈な衝撃が襲い掛かり、その衝撃によって俺は構えていたその位置から大きく後方へと吹き飛ばされた。
衝撃で飛びかけた意識を必死に繋ぎとめ、飛ばされる自分の背にエーテルの壁を作り、そこにぶつかる事でなんとか後方へと吹き飛ばされる勢いを殺してその場に留まる事に成功した。
飛びかけた意識も、壁に激突した衝撃でなんとか真っ当な状態へと回復している――もっとも、意識が保てているだけで、壁に叩きつけられた事による痛みは残っているのだが。
とは言え、意識を途切れさせた状態になり、この状況にツバサを一人残してしまったかもしれないと言う事を考えれば、俺が痛めつけられる程度で済んで良かったというべきだろう。
「カハッ、わざと構えてる部分を攻撃してやったんだがァ、威力自体はそこまで手ェ抜いたつもりは無かったぞ、今のはァ。 SSSじゃねぇのにアレに耐えたか、テメェ――なかなか良い筋してるじゃねェか? とは言え、クラスの差はどうにもならねェよなァ?」
先程まで俺が居た所から、聞き覚えのある声が聞こえてくる。手加減されて、初見じゃ無い状態でアレだと言うのなら、遭遇したのが始めてなら俺は既に死んでいただろう。
否、どの道このままだと殺されるのは目に見えている――二対一と言う数の上での優位は変わらないが、個人の戦力を考えれば、一人多い程度の数の優位が役に立つとは思えない。分かっていた事だが、速度の差が致命的過ぎる。
(相棒……悪いが、俺達はその役に立つとは思えない。一人多い、程度にすらなれそうにない)
俺の思考を遮る様に、申し訳なさそうな相棒の声が聞こえる。その言葉の意味が理解できず、相棒にその真意を聞き返そうとして――
「気に入ったんで、テメェは生かしといてやる。SSSまで上がりゃァ楽しませてくれそうだしなァ? だから今回はそこで見学でもしとけや。次に俺と打ち合えば折れるぜ、そのひび割れたテメェの聖具なんてよォ?」
――カノンと名乗っていた男の言葉で、その真意を知ってしまった。慌てて両の手に握る相棒とシンクを見てみると、カノンの言うとおり、どちらも刃が欠け、ひび割れている。
(シンクの方に関しては一度人型に戻して再び刃にすればヒビなどの問題は解消出来るだろうが、流石に俺自身を再構築する事は出来ない。二本で同時に受けてどちらもひび割れたんだから、一本での結果なんて試すまでも無いだろ?)
「っ……」
その言葉に反論できない――相棒の能力を使ってツバサを支援することが出来たとしても、カノン程の相手に通じるとは思えないし、仮に通じた所でカノンの怒りを買えば、俺が生き延びる方法は無い。
最悪、俺を守りながらツバサが戦わなければいけない様な状況を作り兼ねない以上、俺への興味を失ったカノンを相手に余計な行動は取らない方が良い。それは理解出来る、だが――理解は出来ても納得出来ない。
これからツバサが、仲間が、カノン程の力を持つ強大な敵と戦うと言うのに自分には見ている事しか出来ないというその事実に、自分を納得させる事が出来ない。
だが、俺が納得出来ようが出来まいが、そんな事は状況に一切影響を及ぼさない。諦めて戦いを傍観する事しか俺には出来ない。
この状況では誰が悪い訳でも無い。否、強いて言うのなら攻め込んできたカノンが悪いのだが、それはこちらの都合に過ぎない。
単に運が悪いだけなのだ、単純に、偶然に、それぞれが契約していた聖具の位階によってこの状況が生まれた、唯それだけの事でしかない。
もっとも、聖具と契約出来ている時点で運が悪いという表現をすべきでは無いと言う事ぐらい理解している、故にこの場合は――SSSと契約している相手とツバサの運が良すぎると評価すべきなのだろう。
そんな下らない事を考えている間に、SSS同士の戦いが幕を開けようとしていた。

<SIDE-Tubasa->
グレンさんを一撃で吹飛ばした、黒い大剣を持つ男の視線がこちらに移る。
「さて、もっと早ェ段階から攻め込めたのを、テメェ等が能力を発動させるまで待ってやったんだ。ゼノンやクロノ程の強さは期待しねェが……俺を楽しませるぐらいはしてくれよ?」
その男の声は、こちらを舐めているかの様な口調なのに一切腹が立ったりしない。否、声だけを聞いたのなら、怒りを向ける事はなかったのだろうが、不快な思い位はしたかもしれない。だが、現実にそんな事にはならない。
先程のグレンさんを襲った一撃で分かってしまった、理解してしまった――同じSSSだというのに彼我の間に存在している圧倒的な戦力差が。
敵の動きを追う事は出来る。全ての身体能力を上げる《旧神聖典》を発動している今なら見えない程速い訳ではない。だが、発動している今でさえその動きについて行けるのかと聞かれれば、否としか応えられない。
SSSと言っても、まだ人をやめてから100年程度しか経っていない自分はまだまだ未熟だと、理解はしていた。セルさんやゼノンさんが戦っている所は見たこ事が無かったが、それでもあの二人から感じる根本的な力の差は常に感じていた。
だが、ココまで違うとは思っていなかった。黒い大剣を持つ男がセルさんやゼノンさんよりも強いか弱いかなんて事は俺にはとてもじゃないが読みきれないが、考えるまでも無く、俺よりも圧倒的に強いという事だけは分かる。
同じSSSでもココまでの差があるのかと、痛感させられる――完全に、強さの次元が違う。あの男は俺なんかが相手をして良い領域に居ない。
だが、ココで引く訳には行かない。否、そもそも引くと言う選択肢を選べる様な立場に居ない上に、圧倒的な速度差を持つ相手から逃れる術などありはしない。戦うしかないのだ……例えどれ程絶望的な差があるのだとしても。
「ッんだよ、無視かァ? それともブルって声も出ねェか? どっちでも良ィんだが、俺を楽しませらんねェってんなら、サクッと殺っちまっても良いんだぞォ、えェ、オイ? 」
黒い大剣を片手で振りながら、鋭い視線を俺に向ける――エーテルの量から考えれば、五分とはとても呼べないが、勝てない相手ではない。
だが、それは不可能では無いというだけだ。攻撃が当たればダメージは与えられる、それが分かっただけに過ぎない。果たして、目で追うのがやっとの相手に対してそんな確信を得られた所で、一体何の役に立つと言うのか?
それでも、戦うしかないという事実は変わらない。しかし先程から聞いていると相手は戦い自身が楽しむ事を目的としている様に聞こえる。能力の発動まで待ってやっただの何だのと言う発言から、それは間違いない。
勝つ事が目的なら、態々こちらが能力を発動するのを待つ必要等何処にも無いのだ。ならば、そこに付け入る隙があるかもしれない。勝てるとは思っていないが、少なくとも時間を稼ぐ程度の隙ならあってもおかしくは無い。だから――
「誰が、ブルって声も出ないって? 楽しませられないならサクッと殺しても良いだって? あまり守護者を舐めるなよ化け物」
精一杯の虚勢で、震えそうになる自分を押さえ込んで、言葉を紡ぐ。
「確かにお前は俺より強いんだろうが、その程度の事で引く様な奴は守護者には居ない。例え相手が何であれ、何処かの誰かを守る為に戦うのが守護者ってもんなんだ、お前を通せば仲間が殺られるのは目に見えてる以上、お前を通すつもりは無い」
例え相手がどれ程強大で、絶望的な差が自分との間に横たわっていたとしても、諦めない。全てを賭けてでも戦って、時間を稼ぐ。俺にはそんな事にしか出来ない。
「自分の方が弱ェと理解した上で引かねェか……良いねェそういうノリは嫌いじゃァねェぜ? っと、そういえば守護者のSSSよォ? さっきからお前等の拠点の方にゼノンの反応が無いんだが――奴ァはどうした?」
「今は宮殿には居ない――それ以上は話すつもりは無い」
相手が反応を調べているのなら嘘をつく意味が無い――が、ゼノンさんが今何処に居るのかを教える義理も無い。
俺の言葉を聴いて男は心底つまらなそうに「ッんだよ、ゼノンの野郎は居ねェのか」そんな言葉を漏らした。
「まぁ、幸いクロノの方は居るみてェだし、噂の最高位も居れば十分に楽しめるか――否、チョイ待て、最高位が居るって、そんなにデケェ反応も無ェぞ? どうなってやがるんだァ?」
最高位と、言うのはレオンさんの事だろうが、どうやらレオンさんの反応については知らないらしい。
ゼノンさんと同じ様にレオンさんも今は宮殿に居ないのだが、どうやらそれにも勘付かれたらしい。が、コレに関してはレオンさんの反応を知らないらしいので黙秘した方が言いだろう。
「……」
「成程、それについて答える気は無ェって事だな、そりァ? まぁ良いさ、居るなら居るで楽しめるし、居ないのなら仕方がねェってだけだ――最悪、今居る連中で満足できなけりゃ、待ってりゃ帰ってくるだろ、ゼノンにしても、最高位にしてもよォ?」
やはり、戦いを楽しみたいだけの戦闘狂と見て間違いない。それにしても、幾らなんでも宮殿に残っている守護者全員を相手にして、生き残れると思われているのは些か自信過剰過ぎるのではないのだろうか?
いや、アレだけの速度とエーテルを保持しているのならば、或いは本当にそれを成し遂げられるのか――否、流石にそれはありえないだろう。どれだけ強くても、今宮殿にいる守護者を全員同時に相手になど、出来る筈が無い。
「まぁ、そんだけ分かりャ良い――こうして話してる間にも時間は過ぎていくんだ、別に時間が惜しいって訳でも無ェんだがァ、さっさと名乗りあって始めようぜェ、守護者ァ」
名乗る、だって? 相手の名前を知る事に意味なんてあるのか? 或いは、聖具の名からこちらの能力を予想する気なのか? 否、そもそも相手の方が格段に実力は上なのだ、そんな事をする理由が何処にある?
「……んだァ? クロノと言いお前と言い、守護者の連中は戦場でのマナーって奴も知らねェのかよ、どいつもこいつも?」
戦場でのマナーって、そんな物は聞いた事がないんだが……まぁ俺達の聖具はどの道、聖具名なんかが知られた所で能力が判明しそうにないし、名乗るぐらいなら良いだろう、どの道俺のすべき事は時間稼ぎだ。
「俺の名は、旧き聖神ツバサ。SSSクラス聖具《旧神》の契約者、ツバサ=サエグサだ――コレでいいか?」
「OK分かった、素直な奴は嫌いじゃ無ェ。俺の名はカノン=アトライブ、SSSクラス《刹那》の契約者、刹那を駆る者カノンだ――それじゃあ名乗りも終わった事だし、そろそろ始めようか、ツバサ?」

TheOverSSS――16/28
UltimateSeven――3/7
PerfectSix――2/6
KeyToSeven――2/7
――to be continued.

<Back>//<Next>

23/118ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!