EternalKnight
独断専行
<SIDE-Curse->
「これで……残り五つか」
完全な状態となった《根源》を《七鍵》の内部へと取り込む事に成功すると同時に、俺の口からそんな言葉が漏れ出した。残りなどとは言っても全部で六つしか無い物が五つも残っているのだから、まだ終りは遠い。
とは言え、他の五つを手に入れる為の足掛かりとなる一つ目を手に入れた以上、残りの全てが俺の物になり《七鍵》に収められるのはそう遠い未来では無いだろう。
そんな事を考えながら、先程とは段違いに高密度なエーテルを内包した《七鍵》を再び自身の胸の中心へと埋め込んでいく――それに伴って気味の悪い感覚が全身に波紋するが、それが訪れるのは僅かな時間でしかない。
《七鍵》を埋め終え胸に沈み込んだ腕を引き抜くと同時に吐き気に近い感覚は消えうせ、《根源》を取り込んだ事によって段違いのエーテルの密度を得た《七鍵》から全身に力が行き渡って行くのが感じ取れた。
収められた聖具の相互干渉も良好の様だし、我ながらいい出来の聖具だ。コレを完成させるのに随分と時間を掛けたが、この出来なら俺の目的を果たす事になんら問題なく機能してくれるだろう。
「さて《七鍵》の調整も終わったし、そろそろ王下の連中を呼び出してこれからどうやって残りの《完全なる六》を集めるか考えんとな」
これからすべき事を口に出しながら、俺は目を閉じて王下の七人へ向けてその旨を伝える為の念を飛ばした。その、俺の飛ばした念に王下の七人がそれぞれの答えを念で送り返してくる。
その内の六つは俺のかけた招集に応じ、直ぐにでもこの広間に集まると言うものだったのだが、一つだけ俺の命を聞けぬという応えがその中に混じっていた。
――早速俺の命を聞かないつもりか? いや、別に呼び出しているだけに過ぎんのに、そんな事に反発するか? ある程度はこちらの命も聞くつもりでいると言っていた言葉が嘘で無いのなら、この程度の命令に応じない理由が無いと思うのだが?
その真意を掴むために俺はカノンにのみ別の念を送る『何故集合に応じない?』と。
そして、俺の念に応じて帰って来たカノンの念は『今からじゃ集合出来ねェだけだ。ちょいと守護者の拠点を一人で攻めるんで、今から暫くは念を送るのァ控えてくれると助かる』そんな、俺の想像を絶してたものだった。
『カノン、お前は自分のしている事が分かっているのか? お前の行動は唯の無謀だ、一人で攻め落とすのが不可能だから貴様は他の破壊者と協力して守護者の拠点を攻めたのではなかったのか?』
レイビーの《禁忌》にあの能力さえ備わっていなければ文句なく王下の一位だったであろうカノンの強さに関しては理解しているつもりでいる。理解しているからこそ、カノンの行動が如何に無謀なのかと言う事がよくわかる。
カノンの持つSSSクラス《刹那》の力に本人の技量、それに加えて魔獣と成った事によって得た肉体的な性能と未だに発現していない魔獣としての能力が目覚めれば、それこそ《禁忌》のあの力を除けばSSSに彼を止められる者など何処にも居なくなるだろう。
だがしかし、それはあくまでSSSクラス同士の、一対一の状況に過ぎない。一体多と言う状況や、一対一であってもEXクラスを相手取ろうとすれば、その勝利は絶対の物とは言えなくなる。
その点から考えれば、EXクラス《終焉》が留まっていて、且つSSSクラス聖具の契約者を幾人か抱える守護者の拠点へ単騎で攻め込むと言うのは単なる自殺行為に過ぎない。
『あァ、ありャ単に言い出したのが《宿命》だったってェだけだ――流石に他が先に目をつけた得物を横取りするってェのは俺の流儀に反する――なんで、仮に拠点を落とせたとしても、あんたの欲しがってる《完全なる六》には手ェ出したりはしねェ』
『そういう問題では無い――貴様は俺の手札の一枚だ、勝手な事は許さん。それにそもそも、先程追い出したばかりのお前が帰って来れない程遠くにまで行っている訳が無いだろうが?』
カノンがこのフロアを出て行き勝手な行動に出たのはつい十数分前に過ぎない。逆に言えば、どれだけ遠くまで移動していようと、行きと同じ速度で戻ってくれば帰り着くのは十数分後だ。その理屈から行けば帰ってこれない道理は無い。
『さっきココから出て行ったお前が行きに掛かった時間は十数分だ、ならば同じ速度でこちらに戻ってくれば十数分で戻って来れるだろう?』
『まァ、さっきまでならそうだったんだが……さっき言ったろォがよ、暫くは念を送るのを控えてくれってよォ?』
さっきまでなら――だと? それは一体どういう事だ? カノンの言うさっきとはどの程度前の事を指している? いや、そもそも何故さっきまでなら戻ってこれて、今からは戻ってこれない?
『……どういう事だ? 俺にはお前が何を言いたいのか理解できんぞ?』
『わからねェのかァ、王様ァ? 俺ァ既に守護者の連中に発見されたって言ってんだ、今更引き返すなんざァ、俺の性にあわねェだろ?』
守護者に発見された、だと? ココから守護者の拠点までどれ程の距離が開いていると思っているんだ? ここから十数分やそこらで移動できる距離ではないのは誰が考えても明らかだと言うのに、何故そんな嘘をつく?
『本当の事を言えカノン、幾らなんでも十数分でこの輪廻の門から守護者の拠点へ移動する事など出来ん、それこそ魔獣としての能力の一つであるゲートを潜る事除けば、転送の門を使った場合にすら不可能だ』
そうだ、そしてその例外たるゲートを潜る事すらも、行き先の側に三位以上の魔獣、明確には意識の生きている魔獣が居ないと、そもそもゲートの形成が出来ないので不可能なのだ。
『十数分じゃァどうやったって辿り着けない、ねェ? 確かにィ普通に十数分を使ってりゃァ幾ら俺でも辿り着けねェだろうな? だがよォ王様ァ、俺の聖具の名は《刹那》だぜ? 刹那の時を操れる俺に言わせて貰えば、十数分ってのは殆ど無限と一緒だ』
馬鹿な《時空》ならまだしも、たかだかSSSに、準最高位にそんな事が可能な筈は……否、現にカノンがそれを成している以上その事実は認めるべきなのだろう。
逆に考えれば、《刹那》の力ではここから守護者の拠点までの距離は十数分でしか移動できないと言う事に過ぎない。
カノンは殆ど無限だといったが、真実時間を無限に引き延ばせば、そこに待っているのは時の停止だ、その領域に辿り着けばどれだけ距離が離れていようがそこへ移動する為に掛かる時間の流れは一瞬と言う事になる。
一瞬と十数分――この差は天と地程だと言って良い、つまりはその程度に過ぎないのだ。
『分かった、お前が今から守護者の拠点を攻めるのも、今更引き返すつもりは無いと言うのも理解した。そんな無謀をすれば、貴様の命はまず無いだろうから一つだけ命じておく、せめて一人でも多くの守護者を潰せ――以上だ』
『んだよ、初めっから俺が殺される事が前提なのかよ、王様ァ? 生憎だが、俺ァは強い奴と戦って楽しみてェだけなんだ、簡単に殺されるつもりはねェよ。無論、満足するまで引く気も無ェがよォ?』
殺されるつもりは無い――か。つもりが無くても、先の戦いで生き残った守護者と《終焉》を同時に敵に回せば、幾らカノンであっても殺されるのはまず間違いない。
いや待て、何かが自分の中で引っかかる。自分が知りえない事を何か知っている気がする。カノンが生き残る可能性が零では無いと、どこかでそう考えている自分が居る。この感覚は――何だ?
自身が聖具その物であり、自らの作り出した聖具と契約し、その聖具に別の聖具を制御させている俺には自身の聖具の声は聞こえない。或いは、俺自身の思考こそが聖具の声なのかも知れないが――仮にそうであるなら聞こえる事に意味が無い。
自らの作り上げた聖具《七鍵》に関しては、一つの魂を宿しながらも、一つの目的の為にその性能を極限まで特化させたが故に意識は存在せず、その内側に納められた《根源》の声は《七鍵》に封じられているだけ出るが故に届かない。
《七鍵》に出来る事は封じられた聖具の性能を引き出す事だけであり、その魂の発する念――即ち聖具の声――を俺に届ける事は出来ない。しかし、声が届かなくても、何かを伝えようとしているのならば、或いは、俺に何かを知らせる事が出来るのかもしれない。
「いや……くだらんな、馬鹿馬鹿しい妄想だ」
だが、声ではなくその能力――と言うよりは性質と言うべきか? 兎も角そういった類の力が働いていて、それを無意識化で俺が感知している可能性はある。
そして、実際にそうであるなら、そういう方向の力の存在を意識すれば自ずとそれが何を伝えて居るのかが――理解できる。……しかし成程、そういう事だったか。
『今、お前が生きて帰ってこれる可能性が零からコンマ1%程度に増えた。そこからなら俺の持つ《根源》の力でお前が生還できる可能性を限りなく100%に近づける事が出来るが――どうする?』
とは言え、それはあくまで俺が認識している上での勝てる確立に過ぎない。どんな不確定要素が混じりこむか分からない以上、コンマ1%程度の生存と言う可能性もあてにはならない。とは言え――
『あァ? 何言ってんだァ王様よォ? そんなくだらねェ事は絶対にしてくれんじゃァねェぞ? 自分が全力を持って挑んで、その上で生きるか死ぬか、勝つか負けるか分からねェから戦いってのは面白ェんだろうが?』
――カノンがそんな物を頼りにする訳が無いのは態々聞くまでも無く明らかだった。
『分かった、こちらからは何もしないから好きな様にやれ。元々そういう条件でお前の力を借りている訳だしな。お前程の戦力が抜けるのは大きな損害だが、目下の所唯一の敵対勢力である守護者に相応の被害が与えられる事を考えれば悪い選択では無いだろう』
先程気づいた事だが《根源》の力の中に――明確には《完全なる六》の聖具の力なのだが――覚醒状態にある《完全なる六》同士は互いの位置を常に察知できる、と言うものがあった。
そして、それによって知りえた情報として、今現在《終焉》は守護者の拠点から離れて何処かへ行っている様なのだ。
それはつまり、カノンと《終焉》が鉢合わせる可能性は低いと言う事を意味する。そして、その遭遇の可能性低さがカノンが生きて戻ってこれる可能性を零からコンマ1%に引き上げた結果に繋げた事になる。
もっとも《終焉》と鉢合わせなかった所で多くのSSSが留まっている守護者の拠点へ向かう事が自殺行為である事にはなんら変わりはない。
加えて、先程の戦いで守護者側のSS以下の連中にSSS同士の戦いの余波にあてられる事に対する耐性が出来ているのはまず間違いない。コレも、多少ではあるがカノンの生存率を下げている要因に成るだろう。
SSSとSS以下の差は大きいが、数が集まればその差すら埋めかねない――無論、守護者に残っている戦力ではそんな数は集まらないが、守護者側にもSSSが居る事から考えれば、やはりカノンの生存は絶望的としか言えない。
『大きな損害、ねェ? そう思ってくれてんのならありがてェ話だが、俺が死ぬのが決まっちまってるみてェな言い方はちと気に入らねェなァ? さっきも言ったが、俺ァ簡単にくたばるつもりはねェぜ、王様よォ?』
『あぁ、俺もさっき聞いたよカノン。だが、お前がどう言った所で俺の見解は変わらん――守護者の拠点へ攻め込めば、お前は死ぬ。絶対にとは言わんがかなり高い確率で、だ。だが、生き残る可能性は零ではない、そこまで言ったからには運命は自分の手で掴め』
もっとも、零ではないだけで、コンマ1%程度の可能性を掴む事など、運命の操作でもしなければ、掴み取る事は限りなく不可能に近いのだが。
加えて言うなら、イレギュラーの発生確率を一切考慮にいれず、単に《終焉》が居ないだけど守護者の拠点から生還できる可能性を求めただけに過ぎない。
《根幹》が《根源》の素材となった今の時点で守護者が抱えているSSSは確か四つ――それら全てが拠点にあるものとして考えているだけど、SS以下の聖具は十数存在しているというだけで個々の性能を鑑みた上で導き出した確立ではないのだ。
故に、今の時点で可能性は零と言う事も十分に考えられる。無論、その逆もまた然りと言う意味でもあるのだが。それをカノンに伝える意味は無い、伝えた所でカノンの選択は変わらない。
『かはッ――了解だぜェ、王様ァ。あんたの命令通り、一人でも多くの守護者を潰してその上で生き残ってアンタの言った様に運命を掴み取って、生き残ってやるよォ――っと、ようやく守護者の連中が群れて来やがったし、コレで最後にするぜ、王様ァ?』
『分かった、まぁ、精々頑張るがいい――期待はしないで、お前の帰還を待っておく事にしよう』
その俺の念に対して、カノンの返事が来る事は無かった。

TheOverSSS――16/28
UltimateSeven――3/7
PerfectSix――2/6
KeyToSeven――2/7
――to be continued.

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