EternalKnight
取引
<SIDE-Curse->
最初にフロアを出て行ったカノンを追う様に、レイビーを除く残った王下の魔獣達も逃げる様にフロアの出口へ向かい、直ぐにフロアには俺とレイビーだけしか残っていない様になった。
「何のつもりだ、レイビー? お前にはカノンに色々と説明してくれと頼んだ筈だし、加えて言うなら俺は今しがた出て行け、と言った筈だぞ?」
「それは僕も重々承知しているんですが……流石にこれから王がやろうとしている事を考えると、こちらの用事を先に済ませなければ行けないと、そう判断したまでです」
先に済まさなければならない用事、だと? 俺の最終目標へと近づく行為よりも優先されるべき事などある訳が無い。なのにコイツは何を言っているのか? まさか、王下の一位である自分は消せないとでも思い上がっているのだろうか?
「《根源》を完全な状態にし《七鍵》に取り込む行為よりも優先すべき事だと? そんな物が在るとでも思っているのか?」
「思っているも何も、僕の口から言うのもなんですが――優先せざるを得ない事を忘れてますよ、王?」
優先せざるを得ない事? コイツは一体何を――
「王、貴方の今のもっとも小さな目的は《根源》の完成ですよね? では、それをするのには一体何が必要なんですか?」
「何が、等と簡単な事を聞く、それは勿論不完全な《根源》と――」
そこで、俺は言葉に詰まる。そういえば俺は、手元に無い守護者の首領の右目を一体どこに仕舞ったのだろうか? 或いは、記憶している最後の瞬間、何処にそれがあったのか?
最後に記憶しているのは、守護者の拠点で《終焉》と対峙していた際だ。その時は少なくとも俺は左手でその目を持っていた。その左手は――最後の最後で《終焉》の担い手に切り落とされたのではなかったか?
「えぇ、不完全な状態の《根源》とその力の何割かを取り込んでいる守護者の首領の右目……これが必要なんですよね?」
言いながらレイビーはその眼球を握っていた掌の中から出して、俺に見せ付けるように握ったその右手を軽く振った。それを見て軽く安堵すると同時に怒りがこみ上げてくる。
「忘れていた俺にも問題はあると思うが、随分と回りくどい言い方だな、レイビー? 感謝はしているがそうやって勿体つけて言った理由はなんだ? 特に何も考えていないなら、手早く渡して終りだっただろう?」
そういいながら、レイビーの方へと俺は左手を差し出すが、それに応じてレイビーは一歩後ろに下がる。
「えぇ、ですから王には少しお願いしたい事がありまして……僕の望みを聞いてくれるなら、王にこれはお渡しします。無論――王が僕を殺して奪い取れると言うことは承知の上です。出来れば、僕は死にたくはないですけどね」
「命を危険に晒してまで望む願い、だと? お前はもっと生に執着しているかと思ったが、案外そうでも無いのだな?」
その俺の言葉にレイビーの表情は表情を歪めて「そんな訳無いでしょう? 僕が生きたい、もう二度と死にたくなんてない。だから王、僕がこうしているのは、貴方が僕の願いを聞いてくれると、そう信じているからです」そう紡ぐ。
「その自信の根拠は? 生憎だが俺はお前の事を優秀な手駒だとしか思っていないぞ? はっきりと言えば失うのは惜しいが、結局はそこまでだ――絶対に必要な物でも無い」
「そんな事は僕だって自覚しています。ですから、これは取引ではなくお願いなんですよ、王。僕の出す条件は、決して貴方に不利な物では無い。ただ単純に、僕はもっと強くしてもらいたいだけなんです――他の誰よりも、強く」
……強くして欲しい、か。何を思ってそんな事を言っているのかは分からないが、隷属の呪いによって強化されているレイビーをこれ以上の強化する事は俺には出来ない。
「王下の一位の座では不満か? はっきりと言うが今以上の強化を施す方法を俺は持っていないぞ?」
「不満では無いですが、不安なんですよ。そもそもなんで僕に一位を与えたんですか、王? 二位を与えられたカノンは僕を化け物と評してましたが、僕に言わせればアレの方がよっぽど化け物だ」
自らの無力さを感じたが故に、力を求めるか。確かにそれは真っ当な思考かもしれない。だが――はっきりと言えばカノンの評価の方が正しい。あんな能力を宿しておいて、自分よりも相手の方が化け物だとは、よく言える――いや、単にアレを忘れているだけか。
まぁ《禁忌の柩》は発動時にまず自分が反転する訳だから、レイビーが覚えていないのも仕方ないと言えば仕方ない。
「なるほど、言いたい事は分かった。が、先程も言った様にこれ以上強化する手立ては無い。今以上を望むなら自己の強化に励むか、或いは新たな聖具を探し、それを説き伏せ自ら力にするか程度しか無い」
そも、今以上に強化できるのなら隷属の呪いをかける際にでもそうしておくだろう。手綱を握れるなら、駒は強ければ強いほど良いのだから。
落胆した様に、諦めた様に、レイビーは「……そう、ですか」そう項垂れた。
「だがなレイビー、俺は適当に序列を決めた訳じゃないんだ。今のお前とカノンが戦えばお前の方が絶対に勝つ。お前は覚えていないのだろうが、お前の《禁忌の柩》は余りにも強過ぎる能力だ。多用していい物でも無いが、それを忘れるな」
「……分かりました。僕にはその実感はありませんけど、王がそういうのならそれで間違いない。少なくともそう信じておく事にします――ご迷惑をおかけしました、王。これはお返しします」
言いながら、レイビーは俺の方へと歩み寄り、守護者の首領の右目を俺に差し出してきた。
それを受け取りながら「分かればいい――が、お前の思いつきの行動のせいで、危うく優秀な手駒を一人減らしてしまう所だったのだが、その責任はどうやって取ってくれる?」そんな風にからかう様に問いかける。
しかし、その俺の問いにレイビーはきわめて真剣な表情で「死と言う形以外でなら、どんな罰でも受けるつもりです――その程度の覚悟は、してきましたから」そんな事を言ってのける。
冗談の通じにくい部下と言うのは、なんともまぁ扱いに困る。別に俺は何を罰するつもりも無いのだが……と、そこまで考えて、今すぐに実行してもらいたい事があった事を思い出す。
「そうだな、俺はコレより暫くこのフロアを使って作業を行うのだが、その作業にはお前は邪魔だ――さっさとこのフロアから出て行け」
その俺の言葉にレイビーは一瞬呆けたような顔になり、次の瞬間には「分かりました、長々とご迷惑をおかけしました王よ」そう言い残してレイビーはフロアを後にした。
ようやく静かになったか……これで、先ずは《根源》を完全な状態へと復活させる作業が出来る。とは言え、そこまでなら別に周りに誰が居ようが出来るのだが――かと言って別に見せる様な物でも無い。
問題はその後、完全な状態になった《根源》を《七鍵》へと取り込む作業だ。一つ目に取り込んだ自分自身は、特に苦労する事なく取り込めたが、それは他とのバランスを気にする必要が無かったからに他ならない。
いくら《完全なる六》の一つを取り込んだ所で、それを使いこなせられないならそんな物は宝の持ち腐れでしかない。《完全なる六》を全て手中に収めた所で意味が無いなら必要も無い――その為に俺は《七鍵》を作り上げた。
複数の聖具を制御する為の器、それだけの為の存在。それが俺の産み落とした《七鍵》と言う聖具であり、誰も成し得る事などあり得ないであろう奇跡を、《広域次元世界の意思》と対等な存在になる事を実現する為の力だ。
《広域次元世界の意思》と対等な存在――それは即ち《神》に匹敵する存在になると言う事だ。いや、元々この世界を創り出したのは俺なのだから、その座は俺にこそ相応しかったのであって、単純に俺がその座に居ない今が異常なのだ。
長かった、本当に長かった。だが遂に目的の物は直ぐそこまで来ている。二つ目の《完全なる六》の覚醒、後は《完全なる六》が順次復活していくのを見届け、この手にそれらを収め自身を含む《究極の七》を一つにする事で《絶対の一》へ至る道が開かれる。
右手には不完全な状態の《根源》、左手には守護者首領の眼球をそれぞれ握って「では、始めるか。神へ至る者の物語の始まりを――」俺はそうつぶやいた。

<SIDE-Leon->
《呪詛》の率いる魔獣の群れと戦うのに適した人材と言える者以外は、はっきり言って何人居ても意味が無い。後方支援をしてくれる人材も確かに重要だが、それが何人居ても、実際に戦う戦力が無ければ意味など無いのだ。
その点から考えて、仲間や協力者になってもらう人材は上位聖具の所持者――詰まる所、永遠の騎士以外にはあり得ない。
無論、ついこの間まで滞在していた世界にいたライルや親衛士団の団長等程の戦力があれば下位の魔獣程度になら遅れはまず取らないのだろうが。永遠の騎士以外だと、全ての因子が存在している外の世界か輪廻の門の内部以外には同時に存在出来ないのだ。
その上で、仲間になってくれる永遠の騎士を探すのに最も適した場所は何処か? ハッキリ言って、永遠の騎士の絶対数はそこまで多い物じゃない。今から新しい人材を探している暇も無いし、仮に直ぐに見つかった所で、技術を磨いている時間が無い。
ならば、どうするのか? 考えても、既に永遠の騎士である物を仲間か協力者として引き入れる以外には浮かばない。が、守護者という組織と破壊者と言う組織を除けば、組織化している永遠の騎士の団体など《呪詛》の率いる軍勢以外には存在しない。
破壊者側は、僅かにでも協力してくれる希望はあるが、立ち向かうべき敵である呪詛側は論外もいい所だ。
他にも永遠の騎士は少なからず存在しているが、少数の集まりや個人でしか無い。居場所も定かではない彼等を探し、交渉するだけの時間があるとも無論思えない。少なくとも、下手をすれば新しい永遠の騎士を探して育てた方が早いかもしれない程に厳しい。
では、どうやって短い準備期間で仲間や協力者を探すのか? そのあてになりそうな場所を、俺は二箇所――まぁ、内の一つは微妙だが――知っていた。
まぁ、片方ではまず間違いなく収穫があり、残る一方も協力してくれるかは微妙でも無駄足には絶対にならない事は分かりきっている。それが分かっているのなら、動くしかないだろう――が、リーダーと言う地位に居る以上、勝手な行動は出来ない。
だが、勝手に行動できないのは今の俺が一人じゃない証拠であって決してデメリットにはなり得ない。何故なら多くの仲間が今の俺には居て、俺はその全員に指示を出せる立場に居るのだから。
(……指示を出せる時点で仲間と言うよりは部下になると思うんだが? お前と言う個人を認めている連中は仲間だと思ってくれていても、周囲に流されている者達や立場上仕方ないと思っている者も確実に居るだろうからな)
今はそれでいいさ。要するに、認めてもらえば良いってだけだろ? 簡単じゃないだろうけど諦めなけりゃいつか認めてもらえるさ。だけどその為には、先ずは《呪詛》をどうにかしなきゃいけない、違うか?
(分かっているなら良い――しかし、正直《呪詛》を倒した後は守護者という組織に用は無いと思うのだが、さっきの発言を聞く限りだとお前はそのリーダーで居続ける気の様だが?)
何だよ、悪いか? フェディスが死んじまった以上、その敵討ちが終われば《広域次元世界の意思》に与えられた使命――要するに世界の危機を救う事だけど、兎に角それ以外に成すべき事なんて無いだろう?
その上で、守護者のリーダーって立ち居地はかなり便利だと、俺は少なくとも思うんだが? もっとも便利じゃなくても続ける気では居るけどな。
(別に、誰も悪いとは言っていない。何もしようとせず一つの世界に隠れるように引きこもっていたお前が、成長したものだなぁ、と感心していただけだ。第一、悪いも何も俺はお前の力であり友だ、道を踏み外さない限りは、お前の意見を尊重するだけさ)
……臭い事言ってんなよ、シュウ。お前は、そういうキャラじゃねぇだろ? つーかまだアカシックに干渉した影響残ってるんじゃないか?
(かもしれんな、自分でも臭すぎるとは思う。だが、人が折角良い事を言ったのにそんな反応を返されると、やはり今後も弄り回してやろうと言う感情しか浮かばんのだが、その辺はどう思う?)
いや――その質問、俺の意見を聞く意味とかあるのか?
(よく分かっているではないか、レオン。無論の事だが無いぞ?)
『うん、間違いようがない。コレはいつものシュウだ――アカシックに干渉した際に起こる性格の変質って、マジで持続的に続くように出来ないのかな、マジで。まぁ、かと言ってこの間みたいなへんなテンションになられてもそれはそれで困るのだが』

TheOverSSS――15/28
UltimateSeven――2/7
PerfectSix――1/6
KeyToSeven――1/7
――to be continued.

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