EternalKnight
隷属の呪い
<SIDE-Curse->
俺が広間に戻ると、そこには始めてみる奴隷が二人居た――人数は以前と変わっていない。そういえば、先程の戦いの際にアルカスに適当に見繕わせたのだったか?
丁度先程の戦いで二人を壁にして使い潰してしまった為、丁度いいといえば丁度いいか。反応から察すにどちらも、以前使い潰した雑魚とは比べられない程の量のエーテルを保有していると見ていい。
反応の大きさから考えて、聖具はまず間違いなくSSSクラス、魔獣としての能力は成り立てなので仕方ないが、Aクラスで間違いない筈だ。に、しても人数が二人だけとは言えSSSを引き入れるとはアルカスもなかなかどうして役に立つ。
そんな事を考えていると「あぁ、戻られましたか王――腕の方も再生できたようで何よりです」とレイビーがこちらに気づき声をかけてくる。
「いや再生まで出来ていない、強引に新しい腕を組んで繋げているだけにすぎん。そも、最高位に――《終焉》に与えれれた傷がそう簡単に再生出来ると思っているのか? お前やフェナハの方の傷も残ったままだろう?」
二人は確か俺の様に体の一部を落とされた訳では無いが、それでも大小は別として《終焉》によってダメージを与えられている。
「そうですね、確かに薄皮一枚ですがこの傷を治せる気がしません……恐らく、ダージュの概念封殺の上位に当たる類の能力なんでしょうね、今はエーテルで傷口を覆って流出を抑えてますが、それでもこのままなのは良くなさそうだ」
「あてなんか酷いんですよ? 腕一本取られてる王様に比べると浅い傷でしょうけど、お腹に良いの一太刀貰ったから、これがもう痛くて痛くて。一応レイビーと同じ方法でエーテルの流出こそ防いでますけど、それも痛みが引く訳じゃないみたいだし……」
フェナハは自らの腹部を手で押さえながら、眉を顰めつつそう愚痴る――のだが、何故そうしているのか、俺には不思議でならなかった。
「お前は馬鹿かフェナハ? 痛みがあるなら痛覚を遮断すれば良いだけの事だろう?」
「痛覚の遮断も良いかなぁとはさっき思ったんですけどね。やっぱり局部的に――それも痛覚だけですけど感覚器官を麻痺させるって妙な違和感を感じちゃうんですよ。幸い傷みにも随分慣れてきたし、切羽詰らない限りはあてはこのままで居るつもりです」
違和感ねぇ? 痛覚の遮断は便利だと思うのだが……まぁ、強制した所で俺にメリットが在るわけでもないし、本人の好きにさせてやるか。
「まぁ、好きにするが良い。だが、次の戦いの際、それを言い訳に足を引っ張るのは許さんぞ?」
「それぐらいはあてもしっかり理解してますよ、王様。それにさっき言いましたけど、切羽詰る様な事があればちゃんと痛覚の一つや二つぐらい直ぐに遮断しますって。別にあてももう一回死にたい訳じゃないですから」
理解している――か。まぁ、それなら良い。興味があまり無い話をだらだらと続けるのは趣味ではないし、話題を変えよう。
「それで、新しく我が下僕となった哀れな者達の名前と能力は?」
「アンタが《呪詛》か? 《禁忌》みてェな化け物じみた餓鬼を飼いならしてるから特別ヤベェのかと思ってたんだがァ、案外反応がショボいんだな? そこらのSSSと変わらねェぜ、それじゃあよォ?」
言いながら、四位の魔獣の特徴を残した黒い刀身に深紅の柄の巨大な剣を握った四位の魔獣が一歩前に出てきた。随分と強気に言葉を紡いでいるが、確かにそれだけの自信を持っても良いと言える程度にはエーテルを保持している様だ。
「ちょい待ちぃな《刹那》、一応ウチらはそこにおる王様のお陰で助かったって事、忘れてへんか? 人間は止めてしもうたけど、それでもウチらがこうして存在できとるのは彼のお陰やろ?」
「そりゃお前だけだろうが《災渦》。俺ァは別に魔獣になんぞならなくても死にゃしなかったよ。単に、魔獣としての力って奴を手に入れてみようと思った――唯それだけだよ」
不遜な態度の男をセツナと呼ぶのは、黒と銀の二色で構成された巨大な鎌を持つサイカと呼ばれた女だった。彼女の方はセツナと呼んでいた彼に比べると見劣りしてしまうのだが、それでも十分な程のエーテルを所持している。
しかしコレは……SSSクラスであればこそと言うのもあるのだが、なかなかに良い人材だ。力を求める者と、ある程度こちらに恩義を感じている者――どちらも、駒にはしやすい。
「力が欲しかったてアンタ……いや、もうええわ。アンタがそういう奴やて事は今に始まった訳やないしな」
サイカと呼ばれていた女が呆れた様にそう呟き終えるのに会わせて、俺は二人こちらから声をかける。
「セツナとか呼ばれていたか? お前の察したとおり、俺が魔獣と言う呪いのシステムを組上げた《呪詛》だ――魔獣を束ねる者として、そこに居る俺の部下からは王と呼ばれているが、お前達の呼びたい様に呼んでくれれば良い」
「ん? あぁ《刹那》は俺の聖具の名だよ。つーかよォ、俺が部下になるのは確定みたいに言ってるが……悪いんだが、俺は俺の好きにさせてもらうぜ、王様ァ?」
ふむ、どうやら自分の事を今までどおりの自由な存在なのだと思い込んでいるらしい――が、その考えは改めてもらわねば困る。
「――自分の立場は良くわかっていないと見えるな、《刹那》の担い手。お前の意志がどうであれ、お前の魂は既に俺に呪われている――取り返しがつかないほど致命的にな?」
「あァ? そりゃァ一体どういう意味だよ? アルカスは絶対服従だとか言ってやがったが……今の所、そうせざるを得ない様な制約があるとも思えねェんだよ、俺にはよォ?」
どういう制約があるか――か。俺の意志一つでいつでも殺せると、口で説明した所で、それを認めるかどうかが問題だな、この男の場合は。
三位までを飛ばして初めから四位として魔獣になる為に必要な手順は、他の魔獣の力を引き出す際の追加の呪いと変わらない。即ち魂の汚染よりもより強力な呪い――魂の隷属と言う名の、奴隷を生み出す術だ。
「制約では無いが、俺に従う気になる様に幾つかお前に教えてやろう――あぁ、コレは何も《刹那》だけに言っているのでは無いぞ? サイカ――と、言うのは聖具の名か? どちらでもいいが、お前もよく聞いておけ」
「従う気になる様に教えるだァ? そのテメェの話が真実だって証拠でもあんのか? 無いならそんな話は聞くだけ無駄だろうがよォ? テメェは自分に都合のいい事ばっかり言ってりゃいいだけなんだしなァ?」
やはり、聞く耳は持たない――か。
エーテルの保持量は十分で、レイビーを《化け物》だと見抜く程の手練で、何よりも俺の話に嘘が混じっているかもしれないと疑うその性格、手駒になればレイビーに次ぐ王下の二位の座を与えても良いと思える程の人材だったのだが……
いや――結論を出すには少し早いか? 《刹那》は話など聞くだけ無駄だと言っていたが、聞かないとも言っていなかった筈だ。ならば、まだ可能性はある。いや、場合によっては現存の王下を一人見せしめに使っても良いかもしれない。
どの道、先程の戦いで二人の王下が欠けたのだ、この二人が王下の一員と成らぬなら、別に名の通りの七人と言う体裁を守る必要も無い。
《刹那》が手駒になりそうであるなら、今居る王下を一人潰して、俺の今からの話が真実だと認めさせれば良い。戦力で見れば、レイビー以外の誰の変わりとしてでも《刹那》なら機能してくれるだろう。
いや、流石に《軍勢》の代わりにはならんか? 強さは兎も角、奴の能力は非常に有用だしな。しかし、まだ絶対に手駒になら無いと決まった訳では無いのだから、諦めるつもりは無い。
――処分をするにしても《刹那》に完全に拒絶されてからで十分に間に合うのだから、そもそも何も焦る必要など無いのだ。
「そう思うのはお前の自由だ――が、せめて話を聞くぐらいはしていけ。聞くだけ無駄な話かもしれないが、聞いておく必要がある話かもしれないだろう? それに話を聞いて貰ったからからと言って俺から何かを要求する気も無い。決めるのはお前だ」
「なるほど――確かにィ、聞くのはタダだわなァ? で、それを信じるか信じないかも任せるってか? うまい言い方をしてるつもりかも知れないがァ、今更テメェに言われるまでもなく俺にはその自由な権利があるんだよ、王様よォ?」
言って、《刹那》は口の端を吊り上げる。ますます手駒として欲しくなったが……彼の事は諦めた方がいいのかも知れない。
彼に科せられる呪いがどんなものなのか理解させ、その上で適当な王下を殺してその事実を認めさせる事が出来ればと思っていたが、そもそも話を聞く気が無いのならどうしようもない。
「確かにお前の言うとおりだ《刹那》そもそも聞くのも聞かないの信じるのも信じないのも、俺がそれを与えられる様な物ではなかったな――しかし、お前は面白いな、是が非でも部下に欲しくなったよ、俺は。もっとも敵対するというのなら処分するまでだがな」
「この俺を処分するだってェ? なかなか面白ェ事言うじゃねェかよ、王様ァ? で、どうやって俺を処分してくれるんだァ、王様よォ? 言っとくが、今ココにいる連中全員で俺を殺りに来ても、《禁忌》以外じゃ殆ど数の足しにすらならないと思うんだがァ?」
大した自身だ――が、それは恐らく虚勢でもハッタリでもない。だがしかし、俺は何も力ずくで処分するとは言っていない。
「数や戦力云々の問題では無い。魂の隷属の呪いを受けた存在は、例え何者であろうとも俺に歯向かえない――ただ、それだけだ」
「何者であろうと歯向かえないだァ? んなもん、俺が今こうしてテメェに反発してる時点で全く信憑性がないんだがァ、その辺どうなんだァ王様よォ?」
手駒に加えられないのは残念で仕方ないが――敵対されるぐらいなら今すぐ消すのが上策だろう。
「信じる信じないはそちらの判断に任せると言った筈だぞ? まぁ、信じようが信じまいが結果は変わらないがな」
その俺の言葉に《刹那》の担い手は「テメェが殺されるって結果がか?――そうだな、確かにそりゃァ変わらねェなァ?」そう応じながらその手に握った大剣を俺に突きつける様に構える。
それに応じて、周囲で俺達の話を聞いていたレイビーとケビンとダージュを除く他の王下の連中も思い出したように急に聖具を構えだす。今この状況が特に危険な物でもなんでもないという事を正しく理解できているのは二人だけか……まぁ、どうでも良いのだが。
しかし、これ以上は流石に時間の無駄だろう。別に急いでいる訳でもないが、腕の応急処置は既に終わった訳だし、さっさと《根源》の完全復活させそれをセットしたいので、もう終わらせよう。
そう思った矢先、俺に刃を突きつけていた《刹那》は目を細めてながら「成る程、最後までその自信を崩さねェか……」と呟いて、突きつけていたその大剣を下ろした。
その不可解な行動に、聖具を構えた王下の連中が動揺しているのが分かる――その中でアルカスとサイカの担い手とダージュだけは何故かより緊張した様に息を呑む。
サイカの担い手に関しては《刹那》の事を知っているだろうし、アルカスに関しても戦場で《刹那》を見つけてきた以上、その能力等について知っていておかしくは無い。《刹那》が破壊者であったのなら、ダージュが《刹那》を知っている可能性はある。
そこから推測すれば、少なくとも武器を下ろした程度では安心出来ない様な何かがある、という事か?
「……何のつもりだ?」
「あァ、単に聞きてェ事があるだけだ――つってもまァ、答える答えないはァそっちの判断になるんだがァ……王様よォ、さっきテメェが言ってた歯向かえないってのはなんだ? 結局の所良くわかんねェんだよ、俺にはよォ?」
こちらの話を聞く気になったのか? それとも単にこちらの隙を作ろうとしているだけか? 話を聞く気になったのならありがたいが、その可能性の方が低そうなのも確かか……まぁ良い、気を抜かずに話をすればいいだけだ。
俺が《刹那》を処分するのに必要な時間など、やろうとさえすれば一秒に満たない時間で実行できる。距離を今のまま保てば、どんな奇襲を仕掛けられようと動作に初動が必要な関係で、それが俺に届く前には《刹那》を処分できる。
「文字通りの意味――と、言いたいが無論の事違う。端的に言えば、俺はいつもでお前を消滅させられる、と言う事だ。加えて言うのなら、全ての呪いの中心点である俺が死ねば、魔獣と言う存在は全て消滅する――故に、魔獣である者は俺には歯向かえない」
第二の呪い、魂の隷属。魔獣としての総合的な能力を引き上げつつ俺の意思一つで殺せる様にする細工……なのだが、実際の所はどちらか片方のみを仕込む事も出来る。そうしないのは、強化した魔獣が俺に背かない様にする為だ。
その俺の説明を聞いた《刹那》は「消滅させられるねェ? そりゃァ、かなりつまらなそうだなァ……」と、本当につまらなそうにそう呟いていた。

TheOverSSS――15/28
UltimateSeven――2/7
PerfectSix――1/6
KeyToSeven――1/7
――to be continued.

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あきゅろす。
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