EternalKnight
腐れ縁
<SIDE-Leon->
そんな事を考えていると、ツバサと呼ばれる《旧神》の反応は直ぐそこまで迫ってきていた。この距離なら、俺の視力ならぎりぎりその顔を見る事が出来る。
そう思って、長い通路をまっすぐにこちらに向かってきている永遠者の顔を見る為に目を細めて――驚愕し、自分の眼を疑い、脳裏に僅かに浮かんだ可能性をも一瞬考慮し、直ぐに打ち消して凡そ間違い無いであろう答えに辿り着いた。
まだ俺が辿り着いた答えが真実かは分からない。それでも「……腐れ縁すぎるぞ、幾らなんでも」言葉は自然と俺の口から零れ出た。
その顔には見覚えがある。それは、体感時間にしてほんの数日前まで行動を共にしていた青年と瓜二つだった。
その顔には見覚えがある。俺がシュウの契約者になる以前から知っていた……俺がその命を奪ってしまった無二の親友の若い頃の姿に、その青年は瓜二つだった。
他の守護者の連中にツバサと呼ばれている彼が、ほんの数日前まで人間であった、そして今も人間のままで居る筈のロイドと別の人物であるのは明白だ。
そして、そもそもロイドの外見がアイツに似ていた理由を考えれば、その答えに辿り着くのに時間は掛からかった。確証は無いが、俺の脳裏に浮かんだ理にかなった推測を否定する材料もまた無い。確認する方法は、アカシックへの干渉以外には無い。
もっとも、確証が無いだけで、ほぼ間違いなく俺の推論は当たっているのだろうが――
ロイドの過去をそれこそ彼に宿る魂が以前にどんな物に収まっていたのかを調べて俺が知った事実、それが今の俺の推論が確実な物で在ると信じられる証拠だ。
ロイドの魂は数世前にアイツの魂と接触している。いや、どちらがどうだったかまでは判別出来なかったが、彼とアイツの魂はそれぞれ聖具と契約者という関係にあり、聖具側の行った同化のせいで、そこで二つの魂は限りなく一つに近い状態まで溶け合った。
その後はなんとか元の様に二つの魂へと戻り、どちらかの死亡という形でその戦いの決着がついた。
結果一度溶け合った二つの魂の情報は曖昧になり、魂の情報として質が高かったアイツの外見が双方に反映されてしまう事になったのだ。
あの時はアイツの側の魂がロイドの物では無いという事しか分からず、アイツが聖具側だったのか契約者側だったのかも俺には分からなかった。
聖具か、契約者か。聖具側であったのなら、同化しようとしていたのにそれが失敗してしまっている以上、契約者に見切りを付けられるのは当然だろうから、その時点で消滅していてもおかしくは無い。
そして、契約者側であったのなら、聖具を保持した状態のまま死んでいるので次の転生先は聖具に成る事が決まってしまっている。人として死した魂が次の生で人として生まれなおす可能性は非常に少ない。
確認する方法がアカシックへ干渉し魂の履歴を見る事でしか出来ないので、絶対の法則とは言えないが、人から人へと転生したという前歴の持ち主を見た事は俺には少なくとも一度も無い。
その事から、ロイドの魂が同化しようとしていた聖具側であると考えられた。そしてそれは、今の彼がロイドの前世に同化されかけた本人だという事も意味している。
それに関しての質問をすれば、限りなく俺の推測が事実に近い事が証明されるのだが……果たして、どうやって聞いた物だろうか?
(うむ、お前の中では間違いなくあの青年がゲーティの転生体だと判断してるみたいだが、俺はそれの裏づけを取りに行くべきか? 出来れば連続でアカシックへ干渉したくは無いんだが、お前がどうしてもと言うなら、今回は動いてやってもいいぞ?)
頼みたいのは山々なんだが、今はやめておいてくれ。そう何度も短いスパンでアカシックに干渉するのは危険だ。もう暫くしたら頼むかもしれんから、その時によろしく頼む。俺としては大事な相方のお前に無茶をさせるつもりは無い。
(……そう言って貰えるとありがたいんだがな、レオン?そういう台詞はむず痒いからやめてくれないか? 俺とお前の関係はそんなものじゃ無いだろう?)
んじゃ言い方を変えよう、さっきアカシックに干渉して、その結果情報の海に性格引っ張られて、おかしな事になってた奴には任せられない。正直さっきみたいな変なテンションのお前の相手をするのは面倒なんだよ、俺も。
『勿論、それも事実ではあるが、やはりシュウに無茶はさせられないと言うのが最大な理由だ。もっとも、アカシックへ干渉せずとも、俺の推論が外れているとは、自分でも思っていないのだが』
(何かとってつけた理由な様な気もするが、まぁそれで納得しておいてやるか……話を戻すが、それならアカシックへの干渉は暫くしなくて良い、と言う事で良いだな?)
あぁ、とは言ってもそれが今ではないだけで、いつかは必ずやってもらう事になるんだがな。どれだけ理にかなっていても、それが絶対の真実とは呼べない以上、絶対の真実を知るにはアカシックに干渉するしかないからな。
等とシュウと話している内に、件のツバサと呼ばれている青年はフロアの入り口にまで辿り着いていた。
「えっと……宮殿が襲撃されてるって知覚したから急いで戻ってきたら追い返した後で、戻ってきたら直ぐにキョウヤさん達にココに行けって言われて訳も分からずにここまで来たんですけど、一体どういう状況なんでしょうか?」
このフロアに居る守護者メンバー、それに俺とネロの姿を確認するように視線を彷徨わせながら、聞き覚えのある声で彼はそんな疑問を誰に問うようにでもなく口にした。
――聞き覚えのある声。ロイドの声を聞いても特になんとも思わなかったし、今ココで彼の声を聞くまではアイツの声がどんなものかだったまでは思い出せなかった。それが彼の声を聞いただけ思い出せた。アイツも、こんな声をしていた、と。
やはり、彼はアイツの転生体だと考えてまず間違いないだろう。本当に、どうしようもない腐れ縁だと自分でも思う。けれど、勘違いはしない。彼は聖具との契約前のアイツと瓜二つだし、声だってアイツと同じだ。それでも、彼はアイツとは違う。
彼は彼でしかなく、アイツの代わりなんかじゃ決して無い。だから、もう一度その魂とめぐり会えただけで……どうしようもない、そんな腐れ縁を感じられるだけで俺は満足だった。
そうして俺が感慨に浸っている間に、ツバサと仲が良いからなのかグレンがツバサに「どう、と言われて簡単に説明できる状態じゃないんだが……」とツバサに話しかけていた。
「取りあえず大事な部分だけでも俺から説明しとくと、さっきの襲撃でセルさんがやられたから守護者のリーダーが変更になったんだよ」
その簡単な説明とやらが終わるまでは待っていようと思っていたのだが、グレンの言葉はそこで途切れたままで、一向に続く気配は無い。
「えっと、グレンさん? 今ので話は終りですか?」
「簡単な説明って言ったろ? 悪いが後はそこに居る新リーダーにでも聞いてくれ……まだ、俺も今回の話を全部呑み込めてる訳じゃないんだ」
――やっぱり、まだ納得出来てないか……逆の立場なら俺だってそうなっているだろうから仕方ないとは思うが、一気に色々と話し過ぎた気がする。
(いや、アレは単に理解力が足りてないだけだろ? お前の説明は俺も聞いていたが、そこまで受け入れがたいと思われるような話し方ではなかったぞ? まぁ、色々と用語を使いすぎていて、基礎知識の足りない者には難しく感じられただろうがな)
うっ……そうなのか? ってかそれなら今度はもう少し用語を使わずに説明してやらないと駄目だよな? 少なくとも、永遠者としてはまだかなり若いだろうから。
グレンみたく用語のせいで話をちゃんと理解できてなかった奴が他に居ないとも限らないし――って、勝手にそういう話にしてるけど、真面目にグレンにとっては受け入れがたかっただけって可能性は考慮しなくていいのか?
(どちらにしても、説明は分かりやすい方がいいだろう? お前が言った様にツバサは少なくとも永遠者としては若い方だろうしな)
まぁ、それもそうか。なら今度は出来る限り分かり易くなる様に頑張って説明してみるか。まぁ、まずはその前に――
「始めまして、ツバサ君。俺は終焉へ導く者レオン、レオン=ハーツィアスだ。事情は後で説明するが、セルに変わって守護者のリーダーをやらせてもらう事になった。よろしく」
言いながら、俺は右手をツバサの方へと刺し出す。そして、その差し出された手を迷わずに掴み、握手を交わしつつ言葉を紡ぐ。
「ご丁寧にどうも。俺は古き聖紳ツバサ、ツバサ=サエグサです、まだ永遠の騎士になってから100年経ってない新米ですけど、よろしくお願いします」
100年……か。読みどおり、まだまだ若いな。ついでに言うなら、ロイドの魂の履歴を探った時の同化と分離の次期ともかみ合うな。
「さて、挨拶も終わった所で早速本題に入らせて貰いたいんだが、いいかな?」
その俺の問いに、ツバサは迷う事なく頷いたのだった。
待ってる他の守護者のメンバーには悪いと思うが、ココは出来る限り分かり易く説明してやらないとな――等と考えながら、俺は三度目の状況の説明を始めた。

<SIDE-Leon->
「と、言うのが今の状況なんだが――分からなかった所とか、分かりにくかった所はなかったか?」
正直同じ事を何度も何度も喋るのは精神的に辛い、と言うかめんどくさい。とは言え、リーダーと言う役所についている以上、今後も同じ説明を繰り返すという行為は何度もしなければならないのだろうが……いや、そこは優秀な部下に任せれば良いのか?
今は宮殿の外で周囲を警戒してもらってこそ入るが、こんな非常時でなければそんな事はしないだろうし、丁度いいだろう。と、言うかそれこそが彼等達幹部の仕事の本質なんじゃないだろうか?
等と、下らない事を考えながらツバサの応えを待っていると「いえ、レオンさんが分かり易く説明してくださってお陰で今の状況は大体飲み込めました」と、ツバサは難しい表情のままそう言ってきた。
その後ろで、なにやら「成る程、そういう話だったのか」と納得しているグレンの姿も確認できた……やはり、俺のさっきの説明が悪かったのだろう。
しかし、ツバサは何故あんなに難しい表情をしているのだろうか? 彼の言葉をそのまま受け取るなら、話が理解できなかった、と言う訳ではなさそうなのだが?
「理解できたって割には随分と難しそうな顔をしている様に俺には見えるんだが、何か思う所でもあるのか? 他に気になる事があるなら聞いてくれていいんだぞ? もっとも、俺には答えられない内容って可能性もある事は考慮して欲しいが」
「そんなに難しい顔をしてましたか? いえ、レオンさんがそういうならそうなんでしょうが、ただ今回の戦いでかなりの数仲間がやられてしまったんだと、そう思っただけです」
あぁ、そうか――宮殿に着いたばかりの彼は、他の団員と違って他のメンバーが死んだ事に踏ん切りがまだついていなくて当然なのか……そんな時間はなかった筈だし。
「なんというか、話した事も無い人も結構居た筈なのに、残ってるのは殆どが見知った顔なんですよね、何故か。でも心の何処かでそれに安堵している自分が居るのが何となく分かっちゃって――」
「親しい連中が生き残って良かったと思うのは普通の事だ、誰だってそういう風に思う事ぐらいある。それにこう言っちゃなんだが、生き残れなかった奴は単純に実力と運がなかったってだけなんだよ、結局。お前が気に病むような事じゃないから気にするな」
気に病むのは、親しくない仲間を助けれないどころか、目の前で死んでいく親友も助けられない、俺みたいな奴のする事だ。少なくとも、先程の戦いに参加すらしていない彼が気に病むのは間違っている。
運と実力がなかった――自然と口についたその言葉は、助けられなかった仲間達への言い訳なのかもしれない。って駄目だな、思考が暗い方向へ向かってる。取りあえず、今はツバサになんて応えればいいのか良く考えないと駄目だ。
「気になるのなら、これからの戦いで一人でも多くの仲間を助けられるように尽力すればいい。ただし、自分も仲間達に守られてる事を忘れちゃいけない、誰かに死んで欲しくないと思うのと同じだけ、お前も誰かにそう思われてるって事を忘れないでくれ」
その俺の言葉はどこまで彼の心に響いたのかは分からない、だけれど俺のその言葉にツバサは先程の思いつめた表情ではなく、何かを決意したような光を瞳に宿らせて「分かりました」と小さく頷きながら応じたのだった。

TheOverSSS――15/28
UltimateSeven――2/7
PerfectSix――1/6
KeyToSeven――1/7
――to be continued.

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