EternalKnight
真名
<SIDE-Leon->
「忘れるなんて事はありえないし、まして言いたくないってのは自分で知ってるのを肯定してるのと同じだと思うんだが――その辺どう思う、ネロ?」
「だろうな、俺も今のコイツの慌てようで大体察しがついたって所だ。と、言うかコイツは名前も俺に隠してるんだけど、それもやっぱおかしな事なんだよな?」
契約者相手に名前を隠す、か。それはクラスを隠す以上にありえないだろ、実際。つーか名前もクラスも知らない状態で契約って、そんな事出来るのか?
(一応は可能だ。契約自体は両者の合意があれば成立する。故に、それ自体を行う場合は名乗る必要は無い。だが、契約した聖具の名を知らぬと言うのなら、その聖具の力を引き出す事など事実上不可能に近い。クラスも知らぬのなら尚更の事だ)
するってーと何だ、ネロは聖具の力を最大限引き出せないって事か? 自分よりも圧倒的に強い相手に挑もうとしてるってのに、それはキツイだろ?
ネロの聖具の正規の階位は分からないが、それでもエーテル量的には良くてBクラスと言える程度の量しか感じないのだ。その上で力を引き出せないなんてのは厳しすぎる。
並みの相手ならそれでも構わないのだろうが、話で聞いた王下と呼ばれる《呪詛》の率いる戦力――恐らく俺が《呪詛》と対峙した際にその周りに居た取り巻きの事なのだろうが――には到底及ばないだろう。
そして、当然の事ながら《呪詛》にも全く届かない。否、仮に聖具の力を引き出せた所で、Bクラス程度の聖具の力ではその溝を埋める事は事実上不可能だと言って良い。
とは言え、たとえ微力であろうと今よりも力を得られるのであればそれに越した事は無い。故に、頑なに名と階位を隠すネロの聖具に触れて、その聖具に干渉する。
(と、言いつつ結局交渉には失敗して、最後は俺がアカシックから情報引き出して終わり――とかだろ、今回も?)
否定はしない、つーか出来ないな。まぁ、そうならない様に最善は尽くすつもりだけどさ。
「少なくとも、普通の聖具なら自分の名前を隠したりはしないな。で、そいつと話がしたいから少しそれに触らせてもらっても良いか?」
「えっと、俺としては一向に構わないんだけどさ……コイツが凄まじく嫌がってるから触れて話そうとしても無視されて会話なんて無理だと思うぞ?」
話し合う事が出来なければ交渉もクソも無いよな、実際。
(最善を尽くす以前に、会話すら出来ないか。まぁ、予想通りの流れだな、このぐらいは――まぁ良い、あまり好きではないがサクッと彼の聖具の真名とクラスでも調べてきてやろう)
よろしく頼む。今更だけどホントに便利だよな、アカシックへの干渉。お前がアカシックで検索してる間は加護が殆ど無力化されるとは言えさ、触った者の情報をなんでも読み取れるって超便利だろ、実際。
(待ってるだけのお前はそうかもしれんが、俺の方は大変なんだよ。あの馬鹿みたいな情報の海の中でその渦に飲まれないように自身を維持しながら情報を探るのがどの程度大変か……その辺を踏まえて出来うる限り使用は控えてもらいたいな)
だから、あんまり頼ってないだろ? どうしても分からない事の解明にしか使ってないじゃねぇか、俺は?
(それはそうだが――先程のお前の発言から考えると、今後は多用しそうな気がしてな。早い内に釘を刺しておこうと思って言っただけだ)
流石に何にでも試そうとは思わない。少なくとも加護が一時的に無くなっていると言っても過言ではない状態になるのは俺も出来る限り避けたいしな。と、シュウへ言葉を送りながら、一歩前へ出てネロの方へと歩み寄る。
「あぁ、それについては気にしないで良い。俺は特別だからな」
何をするかを言うつもりは無いが、ネロはそれで納得してくれるだろう。何故なら彼は俺が最高位である事を知っているのだ。最高位が自分は特別だから大丈夫だと言っているのに、それに対して疑問を投げかける奴など居ないだろう。
最高位だから特別――実際シュウにアカシックの探索が出来るのは最高位だからなのだが恐らく他の似たような状況でも、自分は特別だからの一言で周りは黙るだろう。それだけ、最高位の言葉には重みがあるのだ。
と、シュウに絡まれた訳でもないのに一人で無駄に思考の海に沈む所だった意識を引き上げて、さらに一歩ネロに近づき、彼の手に握られている黒いグリップに手を伸ばし、触れる。
無理言ってるのは分かってるが、出来る限り手早く頼むぜ、シュウ。そうは言っても守護者の残りのメンバーに説明するのに多少時間が掛かるだろうから、無理まではしなくて良いからな?
(心配されなくても、真名とクラス探すだけならすぐに済むさ。本人がどれだけ隠そうとしてもアカシックレコードに刻まれた情報なんて隠しようがないからな――無理なんかは言われても絶対にしないさ)
と、その言葉を最後に、先程まで全身に満ちていた最高位の加護が消えるのを感じ取った。それが、シュウの意識がアカシックレコードへと干渉している証拠だ。
シュウの話が本当ならすぐにでも帰ってくるのだろうが――まぁ、その辺は本人のやる気しだいと言う感じだろう。そこまで思考を廻らせてから、俺はネロの持つグリップから手を離して一歩後ろに引いた。
「……なんだ、もういいのか? それに、どうして今さっき急に力を抜いたんだ? 気を張り詰めっぱなしにするのは良くないってのは分かってるし、何となくなら別に構わないんだけどさ」
「あぁ、今はもう良い。さっきは俺が特別だと言ったけど、流石にそれでも話す気が無い奴に話をさせるのにはちょっとした下準備が必要でな――急に加護が消えたのもその辺に関係してる」
今やっている事を説明した方が納得してもらいやすいのだが、その為にはアカシックレコードが何なのかとか、そういう次元の話からしなければいけないのは目に見えているのでその辺の話は端折っておく。
「そんな訳で、お前の聖具の真名とクラスが分かるのにはもう少しかかるんで待っててくれ」
「まぁ、それは別に構わないんだが――って、急にどうしたんだよ《無銘》?」
ん? そうかアカシックへの探索ってやられてる側は何も感じないから、何もされて無いのに俺が下準備とか言ったから、それに反応したのか。まぁ何をされたか分からずに怯えてようが、何も無いと息巻いていようがどっちでもいい。
真名もクラスもシュウから聞いて的中させて、存分に驚かせてやれば良い。名とクラスを明かせないのにどんな理由があろうが関係ない。
と、言うか隠すからにはそれなりの何かがあるのは間違いないのだろうが、少なくとも契約者には知らせておくべきだろうと、俺は思う。少なくとも、名も名乗らずに信頼を得ようなどという考えには俺は賛同できない。
――クラスなんかを隠すのは、まだ許せるのだが……っと、また話がそれているな。ホントに、コレじゃあシュウが居ようが居まいが一緒だな、マジで。
「どうしたネロ、どうかしたのか?」
「いや、なんかコイツが急に諦めたみたいにアンタと話がしたいって言い出したから、何事かと思ってさ」
先程まで拒絶の意志を見せてたのに、随分とまた急だな……ってかそうなるとシュウがアカシックに干渉してる事にまるで意味が無くなる――訳でも無いか、話の真偽を確かめるのには丁度良いだろうし、その辺は気にしなくてもいいだろう。
放っておいてもシュウがアカシックから情報を拾ってくるので、真名とクラスは分かるのだが、それを実行して直ぐに態度が変わった事が気になる。アカシックへの干渉されていると言う事実は、一部の例外を除いて認識できる様な物では無い。
そんな事が出来るのは、自身もアカシックへ干渉できる聖具程度の物で、その干渉の程度がどうであれ、最低でもSクラス以上でなければおかしい。
加えて、ネロの聖具の態度が変わったのが、干渉を始めた直後ではなく俺が何かをしたと言う事実はネロに伝えてからだったと言うのも気になるが、その答えに辿り着くには俺がこうして無駄に考えるより、ネロの聖具に聞いた方が早いのは明らかだった。
とりあえず、再度ネロの方へと歩み寄り、その右手の上に乗せられた黒いグリップに触れて念を飛ばす【突然何のつもりだ】と。その俺の問いに応じたネロの聖具の声は――
【どうも……お久しぶりです、レオンさん】
――聞き覚えのある声だった。しかし成程、確かにそうであるのなら、己の名など名乗れないし、明確なクラスも分からないだろう。何故なら、今はその力の大半を切り離されてしまっているのだから。
【いや、ホントに久しぶりだな、ひ……じゃない、えっと――今は《無銘》って呼ぶべきか?】
自らの強大すぎる力によって、何人もの契約者を食いつぶしてきた彼は、自ら力を封じる事を願い、俺は己が使命を果たす為にそれに力を貸した。彼の力があったからこそ、俺は《根源》を封印し、さらに三つの断片に分割する事が出来たのだ。
【あぁ、別に昔と同じ様に《必滅》で良いですよ。まぁ、今はそう名乗れるだけの力はありませんけど、どうせ元に戻る事になりそうですし】
ネロの持っていた聖具――その内に宿るのは、宮殿にその力の大半を封じてしまい、今は搾りカスといっても過言では無い程に己が力を失った完全なる六の一柱《必滅》の魂だった。
《必滅》のなんでもない声、それが敵の手に《根源》が渡ってしまっている今は途方もなく頼もしく俺には聞こえた。聞こえたのだが……このまま《必滅》の力を借りるのは気が引ける。
【元に戻るって、お前はそれでいいのか? 折角正式な契約者が出来たんだろう? だったら、無理に力を取り戻す必要は無いだろ――お前の力は危険すぎる】
無論、出来る事なら力を借りたい。俺の能力にとって《根源》の能力が天敵である様に、《根源》の能力に対して彼の能力は圧倒的な優位性を持っているのだから。
だが、しかし己が力を嫌い、自ら己の封印を俺に持ちかけてきた彼の力を、此方の都合で求めて良い物だとは俺には思えない。
【僕としてはそれで良いんですよ。本音を言えば嫌ですけど、僕の契約者が力を求めているんです。彼に真実を打ち明けようかと、迷ってましたけど――迷ってる内に引けなくなっちゃいました。いえ、貴方が最後の一押しになってくれたんです、レオンさん】
【嫌なんだろ? だったら隠してれば良いじゃないか。俺がお前の真名とかクラスとか調べてるって話も、適当に嘘でも言って誤魔化せばそれで良いと思うんだが】
危険過ぎる、全てを滅する破滅の力を持った魂。自らその力を封ずる事を望み、その果てにようやく正式な契約者を得て、全てを滅ぼしてしまうと言う宿命から逃れた彼を、どうして再びその宿命に飲まれる未来に引きずり出させなければならないのか。
【お前は今のまま居て良いんだ。ネロは《呪詛》を倒そうとしてるけど力が足りないって、そう思ってるんだろ? だけど、本人がそうと分かってるから俺達に協力を仰いだんだ。だったらお前が力を取り戻さなくても――】
【僕が力を取り戻せなければ、誰が《呪詛》の手に渡ってしまった《根源》の力に対抗するんですか? 僕等と《根源》を除く他の三つは一つも覚醒してないじゃないですか?】
確かに《必滅》の言うとおり他の三つはまだ封印された状態にある。しかし《根源》が完全な状態になれば《呪詛》の目的を考えれば少なくとも、《時空》の封印が解かれるのは目に見えている。
【少なくとも《根源》が完全に開放されれば、その力で《時空》は完全な封印状態じゃなくなる。とは言え《時空》が敵だの味方になるって事は無いんだろうが】
そう、封印から開放されるとは言っても、あらゆる因果から切り離された状態にあった時の迷宮の因果がこの広域次元世界のどこかと繋がるだけであって、時の迷宮の深部で眠る《時空》が覚醒する訳ではない。
時の迷宮の深部で眠る《時空》に関しては問題は無い。あれは我の強いシュウや、自ら宿命から逃れようとする《必滅》等と違い、契約者の力である事しか望まない。故に、契約者が現れなければ《時空》が動く事はありえない。
正直な話、時間の概念が入り乱れたあの迷宮を踏破出来るのはあの迷宮を作った《時空》を持つ物か、その《時空》の能力に対して絶対的な優位性を持つ《終焉》を持つ俺以外にはそれこそありえない。
数万近い数の、一糸乱れぬ人員が要れば或いはその深部に辿り着けるかもしれないが、《呪詛》の配下はどれだけ多かろうが所詮は獣に等しい魔獣ばかりで、全うに《呪詛》の命令で動ける物などほんの一握りだろう。
故に《時空》に関しては心配する必要がない。万が一《呪詛》がそれを手に入れる可能性があるなら、それこそ俺がシュウを奪われた時くらいだろう。もっとも、奪われる気は微塵もないので、実質それはありえないのだが。

TheOverSSS――15/28
UltimateSeven――2/7
PerfectSix――1/6
KeyToSeven――1/7
――to be continued.

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