EternalKnight
回帰
<SIDE-Leon->
「元々はセルが――どうしたって言うんだ、フィリア?」
俺が強引に言葉を遮った事に疑問を持ったゼノンが、フィリアに詰め寄りながら言葉を発す。
「それは……」と、言葉を詰まらせながら、フィリアは詰め寄ってくるゼノンから遠ざかろうとする様に一歩だけ後ずさりながら、俺の方へと視線を投げかけてくる。
その視線に気づいたゼノンは、フィリアから視線を外して、俺の方へその視線を向けてくる――その瞳には疑念の光が満ちていた。
(別に隠す必要は無いんじゃないのか? 知られた所で別に問題があるわけじゃないだろ?)
それは分からない。知られた所で気にしない奴は気にしないんだろうけど、気にする奴には無責任だと思われる。なぁ、シュウ? お前は無責任な奴って信頼できると思うか?
(それはまぁ、無責任な輩が信頼を得るのは難しいだろうが――無責任も何も、お前の場合は理由あっての事だろう?)
理由ねぇ? まぁ確かにその通りと言えばその通りだけどよ、正直アレは理由にはならないだろ? 思惑は色々あったけど、結局は引きこもって何もしてなかっただけな訳だしさ。
何にしても、こんな状況になってしまった以上、はぐらかす訳には行かない。
(先程隠す必要が無い、等と適当な事を言ったのは俺だが、本当にいいのか、レオン?)
良いも悪いも、ココで話を逸らせるとは思えない以上、素直に明かしてしまうのが最善の道だろうと、そう判断しただけの話だ。
心を決めて、此方に向けられる視線に立ち向かう様に一歩踏み出して、俺は「伝える必要が無いと思ったから黙ってたんだが……どうしても気になるって言うのなら、俺から直接話させてもらう」と、言葉を紡ぐ。
その俺の言葉にゼノンは疑惑の眼差しを向けながら続く言葉を待ち、クロノはフィリアが喋ろうとした際に心を読んでいたのか何かに納得した様子で口を閉ざし、キョウヤはそのクロノの姿を見て安心したように強張っていた肩の力を抜いていた。
今から話す事は、聞き手によって受け取られ方が大きく異なる一つの事実だ。だからこそ、聞き手の感性によっては無責任だと捉えられるであろうからこそ、今まで俺は口を閉ざしてきた。
そのお陰で、この間まではその事実を知るのは守護者のリーダーであったセルと残っているメンバーの中ではセルに次いで古参なフィリアだけだった。
否、フィリアに関しても偶然知られただけであり、本来ならその事実を知るのは守護者の結成時のメンバーである《俺を含めた》四人だけだ。
「とは言え、どの部分から話せばいいか分からならいか、必要な部分だけ纏めて初めから話させてもらうが、構わないか?」
このフロアに居るネロを含めた全員に問いかける様に、俺はそう言葉を紡ぎ、全員に順番に視線を送る。
向けられた視線に対する回答は、皆それぞれ別の方法でこそあったが、その全てが肯定の意を示すモノで――それを確認してから、俺は話すべき事を頭の中で纏めながら言葉を紡ぎ始める。
「守護者の誕生に纏わる話なんだがな――そもそも、守護者の創設メンバーってのが何人で、誰と誰が居たか知ってるか?」
「さぁ? 事実は知らないけど、四人だったとかセルに聞いた事があったと思うが――まさか、その中にレオンも居たのか?」
特に個人に質問したつもりは無かったのだが、問うような俺の言葉にキョウヤが応えを返してくる。
「あぁ、その通りだ。根幹のセル、創始者ラハルト、変わらぬ者カール、そして俺、終焉へ導く者レオン。それが守護者結成時のメンバーだった」
「ラハルトさんとカルエストさん達もか……」
どうやらゼノンはラハルトとカールの事は知っていた様で、そんな言葉を口から漏れ出させていた。
「一ついいか? その四人はなんで組織を作るまでに至ったんだ? 何だかんだ言っても広域次元世界ってのはかなり広い訳だし、いきなり同じ考えを持ってる奴四人が集まるなんて事はあるのか?」
俺の発言に疑問を抱いたキョウヤが積極的に質問をしてきてくれる――正直、全てを話すより大筋を話してこうして疑問に感じた事だけを聞かれた方が纏める側としても話やすい。
「それについて話すならもっと前から話す必要があるんだが、元々俺は守護者って言う組織が結成される前から与えられた巨大な力……完全なる六の一柱として世界を守ろうと活動していた」
六つの内五つの完全なる六がそれぞれの契約者を持って戦ったあの大戦とも呼んで良い戦いの後で、広域次元世界の意志より与えられた力の代価として、世界を守る事と他の五つの最高位の復活を防ぐ事が俺の義務となった。
「なんだが、一人で守るには、広域次元世界の無限に等しい広さと、私利私欲で世界に傷跡を与えていく上に、倒す傍から増え続ける破壊者を名乗る永遠の騎士の数は余りにも絶望的過ぎた」
どれだけの力を持とうとも、一人で出来る事には限りがあって、その結果として守れずに滅ぼされた世界がいくつもあった。
それでも使命であり、義務である以上、諦める事も、吹っ切れて守れる範囲だけ守ると言う自分への言い訳もできなくて――そうして悩んで、悩み続けた。
「それでな、そんな絶望的な状態でずっと世界を一人で守ろうと戦っててな……ある時、一人だから駄目なんだって、そんな簡単な事にようやく気がついてな」
考えればすぐに出そうな結論にいつまでも至れなかったのは、ゲーティとの死別が大きく影響していたのだと、今になって思う――が、それは本当にどうでも良い話だ。
「で、一緒に戦ってくれそうな奴等を探してるとさ、エーテルを搾り取られ、涸れて消滅する事を待つしかない、滅びたと言って良い世界で生き抜いている三人組と出会った訳だ」
「まさか――それが?」
話の流れから、その続きを察したゼノンが、それでも信じられないと言った風に言葉を紡ぐ。だが、ゼノンの予想は外れては居ない。否、ココまで来れば馬鹿でも予想は外さない。
「あぁ、セルとラハルトとカールの三人だ。そして、彼等に俺の管理していた力の断片を与え、共に世界を守っていく事を誓い合った」
破壊者に己が住む世界を壊滅させられた者達――彼等に俺の知りうる真実と、それと戦える力は欲しくないかと――そう尋ねた時、彼等はその問いにすぐに頷いた。
「そうして、破壊者に対立する組織として、世界を守る者達として戦う組織として、守護者は結成され、世界を守りながら、同じ意志を持つ聖具に選ばれた者達を仲間に加えていく。まぁ、この辺りは今の守護者と似た様なもんだった」
ここから、話は確信に迫っていく。
「そして、ある程度まで人数が増えた段階で、組織として命令系統を統一する為にリーダーとその直下に幹部と言う枠を作る事になった。で、そのリーダーの座に、最高位を持つ俺が座る事が決まった――が、俺はその座を蹴って、守護者を抜けた」
「アンタが守護者じゃなく今現在ハグレだから守護者を抜ける事までは予測していたが、どうしてまたそのタイミングなんだ?」
ゼノンの言っている事は良く分かる。何故リーダーに任命された段階でやめたのかと、そこに疑問を抱くのは当然の事だ。
だが、理由は一つしかない。完全に組織として命令系統が出来上がってしまえば、自由に動けなくなるから――そうなってしまえば、俺はゲーティとの約束を果たせなくなる可能性が出てくるから、たったそれだけだった。
「――約束があったんだよ、どうしても守りたいと思っていた、約束が。その為に守護者のリーダーとか幹部って立ち居地は邪魔だと思った。本当にただ、それだけが理由なんだ」
自分で組織を作っておきながら、他人にそれを任せて自分はやめて――無責任と言われても仕方ない所業だと、自分でも分かっている。
それでも、その約束は、当時の俺には――否、フェディスが殺されてしまうまでの俺にとって一番大切な、最優先すべき事柄だった事は間違いない。
「まぁなんだ、フィリアが言いかかったのは元々リーダーの座は俺が座るべき場所だったってそれだけの事さ」
「だけど、アンタはその約束とやらを言い訳にして責任から逃げた。だったら尚更アンタを新しい首領に出来ない」
言われなくて、そのぐらいの事は分かっている。約束を言い訳にして逃げて、結局その約束も果たせないで……こんな愚図に守護者のリーダーが務まる訳が無い。だから、別にいいのだ。
「だから、俺がリーダーをやる云々はフィリアが言ってる事で、俺自身は身の程を弁えてなりたいなんて言ってないだろ? フィリアも、別に俺なんかよりも適任な奴が居るだろうから俺の事は気にしなくても良い」
俺には、親友との約束一つ背負えないのだ――守護者のリーダーの座なんて重たすぎてきっと潰れてしまう。だから、そんな役は誰かに任せよう。ゼノンなんて責任感が強いから適任だと思うのだが――
「何を勘違いしているんだ? 私はお前を新しい首領に出来ないと言っただけだぞ?」
「は?」
一瞬、いや今この瞬間に至ってもゼノンの言葉の意味が理解できない。新しいリーダーに出来ない? それは一体、どういう意味だ?
「だから、俺がリーダーになる事に反対って事だろ? 何をどう勘違いしているって「《新しい首領》――には出来ない、と言ってるんだ」
俺の言葉を遮って、自分の言いたい事を伝えるか様に《新しい首領》と言う部分言葉を区切ってゼノンが言う――それでようやく、ゼノンが言わんとしている事に気がつく。
先代のリーダーとして、一度投げ出した責任を果たせと、そう言っているのだ。もっとも、実質はそういう立場に近かっただけで、実際はリーダーだの何だのと言う組織的なものでは無かったのだが。
「お前の言いたい事は分かった。けど、なんでだ? こう言っちゃなんだが、お前は俺の事を嫌ってると思ってたんだが?」
過去に投げ出した事への責任を取れと――確かにゼノンの性格ならそういう風に言われてもおかしくは無い。だが、俺への態度と言うか対応から考えれば、そう言う話の流れになる事など無いと、そう思っていた。
「本音を言わせて貰うと、アンタを首領の座に就くのは気に入らない。だけど、セルさんやラハルトさん、そしてカルエストさん達が認めて、感謝と尊敬を向けていた守護者の創設者にこそ守護者の首領は相応しいと、そう思っただけだ」
「感謝と尊敬って――俺はそんなに偉くは無い。単純に自分一人の力じゃ足りないからあいつ等に力を貸してもらって、結局全部押し付けて逃げ出しちまったどうしようもない屑なんだよ、俺は」
守護者を抜けた後も、何度か拠点に訪れた事がある。そこで顔を合わせたあいつ等は、一度も俺を責めたりしなかったけど、それが俺には重たかった。
逃げ出して責任を放棄した俺を、あいつ等はどういう風に見ているのだろうと、その本音を聞くのが怖かった。
「アンタが自分自身をどう思っていようと、私はあの人達から直接聞いた。アンタが自分自身をどう思っているのかなんて関係ない、私が首領を任せていいと思えるのは、あの人達に認められたアンタ以外に居ないんだよ、少なくとも――今は」
なのに、だと言うのに――あいつ等は自分の部下に、仲間に、守護者の創設者と言うぼかした言い方だけれど、感謝と尊敬していると、そう言って居たのか?
不意に、熱いものがこみ上げてくる。こんな感覚は何百年ぶり――否、何千年ぶりだろうか? そんな下らない事が頭の中でぐるぐると廻っているのだが、困った事にこみ上げてくる感情が抑えられない。
慌てて、自分の目元を片手で押さえ俯いて、こみ上げる感情が収まらせる様に深く息をして、決心する。こみ上げる熱い感情を胸の奥底へと仕舞いこみ、顔を上げる。
「分かった――分かったよゼノン、フィリア。何処までやれるか、そもそも俺に人を纏める力があるのか、何も分からないけど……それでもやってやるよ、守護者のリーダーって奴を。キョウヤもクロノも、構わないよな?」
と、キョウヤと先程から話の流れに入ってこずに傍観を続けていたクロノにも確認の言葉を向ける。
少なくともこの場に居る守護者の主要人物全員の同意は貰いたい――とは言え、一番それが難しそうだったゼノンから同意を得れている時点で結果は決まった様なものなのだが。
「別にいいぜ、つーかレオンになら安心して任せられる。ゼノンがリーダーになったら融通が利かなさそうだし、俺がやるとたぶん適当になっちまうだろうしな」
「構わない――と、言うか私にその役が回ってこないのならそれで良い」
それぞれの言葉での同意を貰い、改めて強く実感する。俺は守護者のリーダーになったのだと。否、違う――俺は戻ってきたのだ、過去に逃げ出したあの場所に。

TheOverSSS――15/28
UltimateSeven――2/7
PerfectSix――1/6
KeyToSeven――1/7
――to be continued.

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