EternalKnight
生存者、再生者
<SIDE-Leon->
キョウヤとクロノは同じタイミングで宮殿最深部、つまり今俺達がいるフロアに辿り着いた。
ココに辿り着くまでの道のりでクロノと出会ったキョウヤが、負傷しているクロノのペースに合わした事によってそうなった、と言うのが一番現実味のある推測だが、今それを考える事に意味はない。
「……なぁレオン、聞きたいことがいくつかあるんだけど、いいか?」
黙っていた既にフロアに居た四人からあえて俺の名を指定して、キョウヤは言葉を紡ぐ。その言葉に俺が無言のままうなずく事で応えると、キョウヤは言葉を続けた。
「まず一つ、今ココにいないセルさんは死んだのか否か。二つ、そこにいる見覚えのない青年は誰なのか。三つ、何故俺達を招集したのか――っと、まぁ最初はコレぐらいで区切るべきか?」
フィリアの放った一言によって沈黙してしまったフロアに、キョウヤの声が響く。対して、キョウヤと共にココに着いたクロノは、未だ何も言葉を紡がない。
「まぁ、もっとも気になるにはその辺か――んでだ、結果だけ言わせて貰うなら、セルは死んだ。そこにいるにはネロって名の第四位階の魔獣で、お前等を集めたのは今後の事を話す為だ」
「はぁ……全部予想できてた範囲内だけど、三つ目以外は当たってて欲しくなかったよ、正直。つーか突っ込みどころが多すぎるぞ、おい」
呆れた様にキョウヤはため息と共にそんな言葉を口にする――が、気持ちは分かる。と、言うか逆の立場だったらまず同じ様な事を言ってただろう。
「自分でもそう思ってるんだが、三つも質問されたらまず応えだけど返すしかないだろ? 一個ずつ細かく説明するより、そっちの方が早く済む。詳しく言うのなら後からいくらでも出来るしな」
「そうかよ。つーか、それだけ急いでいるって事は、それなりの理由があるって事で良いんだよな?」
セルの死に取り乱していたゼノンと違い、キョウヤは事実を淡々と受け止めて話を進めさせてくれる。
しかし、目の前で最期の瞬間を見た俺やフィリアがその死を受け入れているのは兎も角、ある程度予測していただろうとは言え、よく知る仲間の死の知らせを容易に受けとめたキョウヤの精神性には少し驚かされた。
もっとも、その辺りは生まれた世界の情勢などで考え方、感じ方が変わる事を考えれば、普通の事なのだが。
「あぁ、かなり拙い事になってる――と、言うかそれに付いて説明する過程でキョウヤの質問の一つ目と二つ目には必然的に触れる事になる」
その俺の言葉に「一つ目と……」と、地面に向けられていたゼノンの視線が俺の方へと向けられ。
「二つ目、ねぇ?」と、キョウヤの視線がネロの顔へと向けられた。

<SIDE-Guren->
「11人……これで本当に、全員なのか?」
信じたくない現実に、思わずそんな言葉が口からこぼれ出てしまった。
宮殿の周辺に存在していた反応を元に、先程の戦いで生き残った守護者メンバーの人数は、僅かそれだけだった。もっともキョウヤさんやゼノンさん達は、先程フィリアさんに呼ばれていて今はココにいないのでカウントしていない。
それを除いては11人――いや、俺自身も含めて12人に、後は宮殿の外へ任務に出ている者と、現在宮殿内部で話し合いをしている幹部メンバー達しか守護者には残っていない。
元々そんなに人数が多い訳ではなかったが、半数近いメンバーが遣られてしまったと成るとやるせない気持ちになる。例え、それが殆ど交流の無かったメンバー達だったとしても、だ。
救いと言えるかどうかは微妙だが、俺がよく知るメンバーは殆ど皆生き残っていた。もっとも、全員が全員という訳でもないし、何より俺にとっての救いでしかないが。
そんな風に思う俺の肩に手を置きながら「あの規模の戦いですし、これでも被害は少ない方ですよ――今は、お互い生き残れた事を喜びましょう」とフェインさんは言葉を紡いで、肩から手を離して俺から視線を外した。
生き残れた事を喜ぶ――か。確かに生き残れた事はうれしいし、仲の良い友人達が殆ど生き残っている事もうれしいとは思う。だけど、それでも素直に喜ぶ事は出来ないと思った。
だけれどそれは、俺に言葉を投げかけたフェインさん自身もそうだったのだろう。そうでなければ、それだけ言って言葉を止めたり視線を外す様な人ではないと、俺は知ってるのだ。
俯いてしまう視線を上げて、改めて今この場にいるメンバーに視線を向ける。
すぐ隣で俺に背を向けているフェインさん。その脇には、全く似合わない物悲しそうな目でフェインさんを見つめるリルの姿も見て取れる。流石に彼女も、今がどういう状況かは判断出来ているようだった。
そこから少し離れた位置で、宮殿の入り口にあたる門をじっと見ているのはエリスさんで、その視線の先にある門の前にはアレンさんとリズィさんが背中を合わせて何かを話しあっている。
セディアさんとアリアさんは互いに黙ったまま手を握り合い、俺から一番遠い距離にいるユフィさんとトキハさんは向かい合って難しい顔をしながら話をしている。
門から一番遠い距離にいるクオンさんは何をするでもなく、虹色の世界に身を任せてふらふらと漂い、その姿をロードぺドが黙って眺めていた――って、流石にこういう時くらいそういう行動は止めろよ。
などという平凡な突っ込みを自分でしながら強引に落ち込む気持ちを持ち上げようとするが、そんな気休めが意味を成すはずも無く、気持ちは再び沈んでいく。
落ち込んでいた所で意味が無いのは分かっている。分かっているのだが、どうしてもモチベーションを上げる事が出来ない。
怒りを向けるべき矛先である敵は既に退却し、そのアジトのある世界は未だ不明であり、敵が退却している以上、守る為に立ち向かおうとする想いも必然的に消えてしまっている。
残っているのは仲間を多く失った事による喪失感と、多くを守れずこぼれ落としてしまった自分への不甲斐なさだけで、そんな状態でモチベーションを上げろという方が土台無理な話だった。
(なぁ、相棒――こんな事を言うのはなんだが、俺達は俺達にやれる事を精一杯やったと、そうは思えないか?)
思ってるよ。俺は精一杯やったってそう思ってる。けど、思ってるからこそ自分が不甲斐ないんだよ。っと、この話って前もしなかったか?
(そうだな、以前にも似たような事を話した。それで、またお前が悩んでるから話したんだよ。だが、自分で気づけたならそれでいいさ。世の中には――世界には、それぞれに出来る事と出来ない事が存在する。だから、自分に出来る事の限界を見誤らないでくれ)
あぁ、分かったよ。無理して分不相応な物もまで背負い込むのはもう止めだ。これからは俺は俺に出来る事をやってく――唯、それだけだ。
沈んだ雰囲気の中で、自らの胸にそんな誓いを立てて、俺は口を噤み、瞳を閉じて状況が変化するのを待つ事にした。

<SIDE-Curse->
肘から先を中程から切断された左腕から、俺を構成するエーテルが金色の粒子となって大気に還って行く。終焉を迎えた傷口を塞ぐ事等できず、塞げない以上エーテルの流出も抑えられない。
完全なる六の一柱である《創世》か、或いは地属性の最上位の魔術以外では修復不能の傷――それをどうにかする為に、俺は《輪廻の門》の最深部にある自らの研究施設へと足を向けていた。
そういえば《広域次元世界の意志》に並ぶ為に絶対に必要だった物であった《七鍵》の完成させて以来、あそこには入っていなかった気がするが――まぁ、大した問題ではないだろう。
応急処置的なものに過ぎないが、既に対策は考えてあるし、その方法では重要なのはあの場所であって、部屋自体は関係ない。そも、たとえどれだけ放置していようが、積もる埃も巣を張る蜘蛛もこの世界には存在しない。
そんな下らない事を考えながらも足は進み、程なくして俺は《輪廻の門》最深部に到達していた。
そうしてその最深部にあるフロアに足を踏み入れると、そこは見慣れた――だがしかし懐かしく感じる自身の研究室が、最後に見たであろう時の記憶のままそこに残っていた。
もっとも、誰も入らない様にと言いつけているのだから当然といえば当然なのだが。
―――しかし、概念が完全に終わらされていて痛みを感じないのは良いが、お陰で少し悠長にしすぎてしまった。もっとも、今更そう思った所で意味は無いし、考えるだけ無駄なので思考を放棄する。
さて、《終焉》の能力で切断されたこの左腕はその時点で本来あるべき概念を終わらせられてしまっている。加えて、強引に終わらされた本来あるべき概念は、切断された状態を正しい状態だと認識してしまう。
それ故に再生させる事も出来無ければ、再びそれらが結合する事も無い。こうなってしまえば、それを修復する事は絶対に不可能になってしまう。
例外的にその状態を修復できる《創世》や最上位の地属性魔術では、概念の終わらされてしまった箇所を一度完全に分解し、何の概念も持たない状態へと戻し、それを再び構築する事で修復させている。
もっとも、その場合は修復というよりは再構築と言った方が言葉としては正しい。そして、今の俺にはこんな芸当は出来ない。少なくとも《創世》を手に入れるまでは無理だ。
そして、無論の事だが《創世》を手に入れそれを俺が使える様になるにはどんな形であれ両腕は必須になってくる。故に、応急処置――《創世》を手に入れるまではそれで何とかしのぐしかない。
もっとも、既に《根源》は手に入れた様な物なので、それもそう難しい話ではない。
では、その応急処置はどう行うのか? ――その疑問を解決するのはそう難しい話ではない。応急処置ではない正規の手順での治療法が分かっていれば、そこから自然と応急処置の方法等は出てくる。
左腕の肘から先が無い状態が正常であるなら、そこよりも上の部分から異常である状態で安定する様にすればいい。つまりは――
残った右の掌にエーテルを収束させて、その手で左の二の腕を掴み、全力で握りつぶして骨を砕き、それをそのまま捻る様にして引き抜く。
握りつぶした瞬間に訪れる痛みで漏れ出そうとする声を「ヅゥ……グッ」と、歯を食いしばる事で噛み殺しつつも、引きちぎった左腕を投げ捨て千切れた左腕に意識を集中させる。
痛みがある事を確認すると同時に痛覚を遮断する。それと並行して概念としては終焉を迎えてしまった部分を想像し、存在しない部位を操るための神経を思い描く。
その間にも、引きちぎった左腕からは先程までとは比べ物にならない量の鮮血が流れ出し、次々と黄金の霧へと変質して大気に還って行く。だが、完全に大気に還る前に、その神経を覆う肉を生成するかの様に収束し始める。
収束したエーテルは砕けた骨を再構築し、千切れた肉を再生させていく。
そして、その再生が肘辺りに到達した所で、流れ出した血が大気に還る事によって発生するエーテルを利用する事をやめて、自身の内側にあるエーテルだけで残りの腕を再生させていく。
それによって生成させる腕は先程まで生成していた物とは種類の違う物だ。否、正しく言うのなら永遠者の肉体としては異質な物とでも言うべきか?
純粋なエーテルを用いて修復した肘辺りまでの腕と、自身の内に内包された呪いの源になるエーテル――その二つは共に自身から発生させたエーテルではあるが質が全く違う。
しかし、自身のエーテルである事は変わらない為、二種のエーテルで編まれた腕には繋ぎ目の様な、二つが入れ替わった箇所は存在しない。それでも同じ法則で繋がっている為、違和感無く俺の肉体の一部にはなっている。
結果だけを言うなら、繋ぎ目の様な脆い箇所を残さずに、概念を終わらせられた腕とは別の腕、即ち魔獣としての腕を繋げたというだけの事に過ぎない。
とは言え、コレはあくまで応急処置だ。所詮は永遠の騎士という存在の劣化コピーでしかない魔獣の腕をうまく繋げただけに過ぎないのは言うまでも無い。
新たに編まれた腕の調子を確かめる様に黒い掌を何度か開いては握りなおす事を繰り返し「まぁ、無いよりはましか――」と短く結論付けた。
あくまで《動かせる》程度の腕であって、代替に過ぎない。本来の腕よりも反応が鈍いし、何よりもエーテルを廻らせにくい。《創世》の現在位置については目処がついていないが、六つの内の幾つかを手に入れる頃には現れるだろう。
そんな事を考えている間に、研究室全体に散ってしまっていた自身から流れ出したエーテルが帰ってきた。――コレがこの部屋でこの修復を行いたかった最大の理由だ。
それだけ確認して、俺は研究室を後にして、王下の連中が待っているであろう上層部を目指して歩き始めた。

TheOverSSS――15/28
UltimateSeven――2/7
PerfectSix――1/6
KeyToSeven――1/7
――to be continued.

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