EternalKnight
言葉
<SIDE-Leon->
再生と同時に、耳の奥で嫌な感じの音がする。正直な話、気分の悪くなる音だ。否、それ以前に今俺の耳の奥で知覚しているのが本当に音なのかすらも怪しい。単に音の様に聞こえるだけなのかもしれない。
何せ鼓膜を超上的な速度で再生させているのだ。鼓膜が音を拾う理屈を理解できていない俺にはなんとも言えないが、音というよりは、再生の過程で感覚が狂い、音だと誤認してしまっている――と、考えた方がまだ現実味がある気がする。
――いや、そうじゃなくてだ。
(ほう、珍しいな。自分で意識を沈めて自分で戻ってくるのがこんなに早いとは……流石に成長している、という事かな?)
成長してるとかじゃねぇよ、初めからこんなだったよ俺は! いつもはお前が俺を弄ってくるのが原因であって、それが無けりゃあんな事になったりしねぇよ。
(随分な物言いだな。その言葉しっかりと記憶させてもらうぞ?)
好きにしろ、憶える事に意味なんて無いけどな――それから、そうやって念話で俺の思考時間を引き延ばそうとしてるのはバレバレだからもう止めとけ。
(馬鹿な、あのレオンが俺の計略に気付くなんて……)
『付き合ってるときりがなさそうなので、取り合えず無視しようか』
「えーっと、レオン? 聞こえてる?」
そうしている間に鼓膜の再生は終わった様で、先程から俺の目の前で何事か言っていたフィリアの声も、ようやく聞き取れるようになった。
「あぁ、今聞こえるようになった。つーかさっきまで鼓膜が破れてたんだけどな、俺は。あんな爆音出すならもっと分かり易く説明してくれよ」
「レオンなら分かってくれるかと思ってたんだけどね、私は。ついでに言わせて貰うなら、そこの彼みたいに私の指示に従ってればそんな事にはならなかったと思うんだけど?」
いや、もっとしっかりと説明をしていれば良かっただけだろ、今のは。とは言え、一応呼び出すのは早くなるに越した事は無い訳だから、フィリアの行動を完全に否定するつもりも無い。
(いや、流石にそれは攻めろよ、説明なんて一分程しか掛からんだろ、絶対)
『正直な話、流石にコレはシュウの言うとおりだと思う。しかし、暫くすればクロノとゼノンとキョウヤが来て話は途中で打ち切られ、有耶無耶になるであろう事は容易に予想できるのに、終わってしまった事を蒸し返しても仕方ない。』
「まぁ、終わった事に対してグダグダ言ってても仕方ないし、その話はもういいさ。それで、通信――つーか放送って言うべきか? 兎も角、それはうまく行ったのか?」
「概ねは、ね。とりあえずゼノンとキョウヤからはこっちに向かうって応答はあったわ。それから、クロノはゼノン曰く負傷してるから、治療させながらこっちに運ばせてるって行ってたわ」
クロノが負傷、ねぇ? それもすぐには動けなくなるレベルの負傷となると、相手は必然的にSSSと見て間違いないだろう。で、その事を知っていたのがゼノンって事は、アイツがクロノが戦っていたSSSとの戦闘を引き継いだって所か。
まぁ、戦闘に関してなら俺の知る限り守護者の中じゃ二番目に強い訳だし――いや、セルの居ない今は守護者の中で一番強いのか。
「そうか、クロノが負傷してるってのが気にはなるが、こっちに向かわせてるって事は、命に別状は無いって考えて大丈夫だろう。ここまで戻ってこれれば、お前の能力である程度は回復出来る訳だし」
「信頼してもらえてるのはありがたいんだけどね、概念とか破壊されてたら、流石に私も治療なんて出来ないわよ?」
それに関しては理解している。と、言うか、実際にそうであるなら今頃消滅していてもおかしくは無いので恐らくそれは無い筈だ。
「あの、一ついいですか?」
俺とフィリアの会話が停滞したのを見計らってか、それまで黙っていたネロが手を上げながら言葉を紡ぐ。つーか寧ろ黙っていたと言うより、例の爆音で負ったダメージが回復するまで静かにしていただけなのかもしれない。
そんな事を考えながら俺は「どうした、なんか気になる事でもあったか?」とネロに続きを促す。
「いえ、さっきから二人の話に出て来てる方達の事なんですが、その方達ってどんな方なんですか?」
「どんなって――言われてもなぁ? 説明するのも面倒だし、何よりもう暫くすれば向こうからやってくるし、下手に俺達に聞くよりも自分で見てどんな奴かを判断した方が言いと思うぞ?」
正直な所、あいつ等は個性の強い連中では無い。しかし、それ故に下手に説明するより直接会ってもらった方が人となりは把握しやすい。
(お前の基準では何処から何処までが個性の強い連中なのか、俺には分からんのだが?)
別に、無個性だとは考えて無いぞ、シュウ。そもそも性格面云々は相手によって対応なんかも代わるし、俺が一概に言っていいものでもないだろう?
ネコ耳ネコ語なユフィや、先程出会ったアホな子やロリコンみたいな感じなら、あらかじめ教えておいてやった方が良いのだろうが、幹部を務める二人とクロノなら予め説明しておく様な必要は無いだろう。
「そう、ですね――分かりました」
その俺の答えに少しがっかりとした様に、ネロは短くそう応えて口を噤んだ。
(なぁ、レオン? 今のって一人だけ会話に参加出来ずに居たから混ざろうとしてたんじゃないのか?)
あー、うん。恐らくそんな感じだな、アレは。しかし、本当にそうだって言うのなら、なんか思ってたのと随分イメージが違うんだが? なんかこうもっと孤高な感じなんだと思ってたからさ、俺は。
(ふむ、お前の言わんとしている事は大体分かるが、私見では慣れない口調やら態度のせいでぎこちなくなっているだけなのだと、俺は思うが?)
確かに、普段から一匹狼通してる奴が協力を求めようとして協調性を出そうすれば、そこに無理が生じるのはある意味必然と言える。
しかし、だとすればどうすれば良いんだろうか? クロノに嘘を見通して貰い、その結果として協力体制を築くのであれば、そういった無理はしない方が良い。
余計なストレスになる事は必定だし、だからと言って途中で素に戻して仕舞う事も難しい。それを避けるには、ストレスになる前に完全に打ち解けるか、初めから無理をしない事ぐらいしか方法は無い。
相手が数人なら打ち解けるのも難しくは無いのだろうが、守護者の総員は二十を軽く超える。それだけのメンバーと打ち解けるには相応の時間が必要だが、そもそも時間は殆ど無い。
よって、初めから無理をしない事が一番望ましいと言える。現在ならまだ接触している相手が俺とフィリアだけなので、無理をしているのを止めさせるには今しかない。
(まぁ、確かにあの妙にしっくりこない喋り方を止めさせるのには最適なタイミングだろうな、今は――どうせキョウヤ達を待っている間は暇な訳だし)
もっとも、キョウヤ達の移動速度を考えれば、そう長い時間が使える訳ではないのだが――そもそも長くなる様な話でもない。問題点があるとするなら、その話をする為のきっかけが無いというぐらいか?
(いや、態々きっかけを作る必要なんて無いだろ? 単刀直入に提案すりゃ、向こうだって無理して喋ってる訳だから素直に乗ってくるだろ)
そうか? いきなり無理な喋り方をしなくて良いとか言われても困るだろ、普通?
(知らん、と言うか唐突でもなんでも結局最後には同じ事を言うつもりなのなら、スパッと言った方が良いだろ、回りくどいし)
……シュウの意見に流されるべきか否か、悩ましい所ではあるが、悩んでいるだけ時間が無駄になるのだ、何も案が無いなら唐突でもなんでも言いたい事を言うしかない。
「なぁ、ネロ――聞いてて気になったんだが、お前、さっきみたいな喋り方するのって苦手だろ? だったら無理せずに喋り易い様に喋ってくれてもいいんだぞ? 別に、そんな細かい事を気にする様な堅物は居ないだろうし」
話題の振り方としては唐突に、内容としては直球に、それで居て出来うる限り強引さを排するように、俺はそう言葉を紡ぐ。
「ええっと……こちらとしてはありがたいんですが、本当に良いんですか?」
唐突に振られた話に戸惑うような素振りを見せながら、ネロはフィリアの方にも視線を向けながらおずおずとそんな事を聞いてくる。
「私も構わないわよ、喋り方なんて。あなたの話しやすい様にしてくれて構わないわ――それにしても、レオンってば本当にそういう所に気を配るわよね」
「気になったんだから仕方ないだろ、別に。あと、一応言っておくが、馴れ合いたくないとか思ってるなら今の喋り方のままでも構わないぞ? ただ、喋り方は定着しちまうと、別の喋り方に変わると結構な違和感を持たれるって事だけは覚えておいてくれ」
とりあえず、伝えたかった事は伝えてみたつもりだが、さて……ネロはどう応じてくるかな?
(と、言うかそういう言い方は半ば強制の様な気がするんだが、俺は?)
そうか? 確かに断り難いような言い方はしたけど、最終的には自己の決定に委ねられるだろ、この場合。それに、あの違和感のある喋り方から考えりゃネロが無理してるのは目に見えてるんだから、選ぶ答えは一つしかないだろ?
(それは分かるがな。まぁ、好きにすれば良いさな)
あぁ、好きにさせてもらうよ。 と、シュウとの念話を適当な所で切り上げて、眼前で黙するネロの顔に視点を固定し、返答を待つ。が、そう長く待つまでも無く、ネロは答えを決めたように、落としていた視線を持ち上げて俺の顔を正面から見返して、口を開く。
「いや、その好意に甘えさせてもらうよ。正直あのままだと喋りにくかったしな――に、してもそんなに違和感あったか、さっきまでの喋り方?」
その口から紡がれた言葉は堅苦しい物ではなく、当然の様に先程までの違和感は消えていた。
「確かに、言われてみればさっきまでの喋り方ってなんかぎこちなかったかもしれないわね? けど、そんなの普通は分からないと私は思うんだけど、その辺どうなのよ、レオン?」
「いや、違和感って言うかな、なんか喋りにくそうに見えたんだよ、俺には。なんて言えばいいのかわからないけど」
(あー、最近似たような経験をしたからじゃないのか? アルティリア救国の時、士団員に怪しまれない様に無理して喋ってたろ、お前?)
あぁ、成る程。それで無理してるのが分かったのか。つーか本当に人生何処で何が役に立つか分からんもんだな、ホント。
しかし、それを説明するのもまた面倒そうだよな……等と考えながらどうやって話を流そうかと考えていると「おい、なんでセルさんの反応が何処にも無いんだ!」そんな風に声を荒げてゼノンが広間に入ってきた。
本来ここに在るべき反応が無い、それが意味する所の意味など一つしかない。だが、認めたくない気持ちは俺にも理解できる。いや、立場が逆であったなら、俺もゼノンと同じ様に取り乱していたかもしれない。
その事についても話さなければいけないし、それ以外にも説明しないといけない事は多くある――無論急ぎ決めなければいけない事も控えているので悠長にはしていられない。
だが、何度も説明するよりは一度に纏めて話す方が良い。少なくともあと二人、キョウヤとクロノが訪れるのを待つ必要がある。だから俺は何も言わない、ネロも口を閉ざして話そうとはしない――しかし、フィリアは違った。
「……状況を考えれば分かるでしょ、それぐらいの事」
そう、それぐらいは考えれば分かる事だ。セルの反応が今ここに無いという事実が等しく一つの事象を示しているという事をゼノンが理解できていない筈がないのだ。
「何故だ――何故あの人が居なくなるんだ。あの人は、セルさんは……最強だったじゃないか。守護者の中で一番強かったじゃないか! なのにどうして……お前が生きてるのにあの人が居ない!」
わめく様に、ゼノンは言葉を吐き出す。その瞳はいつも俺に向けていた敵意の色では無く、憎しみの炎が灯されている。
「ちょっとゼノン! そんな言い方は無いでしょ? 大体、セルの事で悲しんでるのは別にあなただけじゃないのよ!」
そのフィリアの声に、ゼノンは一瞬身を竦ませたが、それもほんの一瞬で、その直後には敵意でも憎しみでもない怒りの炎を瞳に宿らせて、さらに言葉を紡ぐ。
「っ……フィリア、どうしてお前はいつもそいつの肩ばかり持つんだ。そいつは守護者でも何でもない、唯のハグレじゃないか!」
瞬間、乾いた音が広間に響き、その一瞬後に感情を押し殺したような小さな声で、フィリアは続けた。
「ハグレでも何でも、レオンは私の友人よ。そして、セルにとってもそうだったわ――あなたになら分かるでしょ? 同じ集団で共に戦う仲間も大切だけど、友達だって同じくらい大切なんだって、そんな簡単な事なのよ」
その言葉に、怒りに任せて叫んでいたゼノンは叩かれた左頬に手を添えたまま、言葉を失った様に口を閉じた。

TheOverSSS――15/28
UltimateSeven――2/7
PerfectSix――1/6
KeyToSeven――1/7
――to be continued.

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