EternalKnight
HERO's
<SIDE-Tubasa->
予想していたよりも随分簡単に終わった仕事の後、仕事先の世界が少し生前に居た世界と似ていたからと言って二日も物見遊山をしていたのが間違いだった。
そんな事をしていなければ、今となってはほぼ集結してしまった眼前の戦いに、間違いなく参戦出来ていただろう。
――別に、戦う事が好きなわけじゃない。戦わなくて済むならそれに越した事は無いって言うのは分かっている。それでも、俺はもっと早く宮殿に帰還しているべきだった。
そうしていれば、守護者側の被害は少しでも減らせていただろうから。もっとも、それは逆に敵対者を屠ると言う事に繋がってしまうのだが、どちらにしても犠牲が出るのが戦いなのだ。
そうであるなら、せめて見知らぬ敵よりも見知った仲間を助けたい。それが、俺の偽らざる本音だ。
まだ永遠の騎士に成ってからは100年程しか経っていない俺だけど、それでも俺は準最高位だから――経験が浅くても戦力にはなれると思う。
もっとも、戦いがほぼ終結した今になってそんな力が帰還した所で、大した意味は無いのだろうけど。
それでも、治癒能力の一つも使えない俺だけど、何かの役には立つかもしれないから――そんな事を考えながら、俺は宮殿へ向かって移動するスピードを上げた。

<SIDE-Leon->
一通りネロの話を聞いて、そこから得た情報と、既に知っていた情報を素に状況を頭の中で整理していく。
最重要である事実は、愚者の洗礼因子を持つ聖具《呪詛》が敵であり、その目的が《完全なる六》を全て己が手に入れる事である、と言う事だろう。
次に重要である事実は、その《呪詛》と言う聖具は殺害した人物の魂を呪い、魔獣に――己が手駒にできると言う事だ。加えて言うなら、手駒が殺害した人物も魔獣となり彼の手駒になるらしい。
魔獣と言う存在が滅びずに増え続けているのにはそういう裏があった、という訳だ。だがしかし、それ自体は別段問題ではない。雑魚がいくら増えた所で、それは烏合の衆でしかない。
故に、問題になるには数ではない。寧ろ問題なのはごく少数存在する質の高い戦力、即ちSSSクラス聖具を保持する手駒の存在だ。
加えて、このSSS聖具所持者達は《呪詛》の力によって聖具の力とは別体系の強化理論――と、言うか魔獣になる事で得られる身体能力や特殊能力――があり、素が同程度ならほぼ間違いなく凌駕されるらしい。
そんなSSSクラスが最低でも四人いて、しかもまだ人数が増える恐れもあるってか……正直キツイな、それは。
まぁ、実質一人は表立ってこそこちらに加担出来なくともこちらに味方していると考えて良いのが唯一の救い、と言った所か。もっとも、彼の話が全て本当であるなら、だが。
俺が彼を信用したのは《呪詛》の敵であるという部分だけであって、全面的に信頼している訳ではない。彼の話が全て真実だとは現時点でが正直思っていない。
何処までが本当で、何処からが嘘なのか、それを見極める最良の手段は手近にあるのだが、今この瞬間にはそれを行使することは出来ない。
故に、この時点で耳を貸すべきなのはこちら側がにとって不安要素である部分だけしかない。その部分に関してはまず嘘を言ったりはしないだろう。
そしてその逆に、こちらに都合のいい話はそれが真実だと確認できるまで信用するつもりはない。どちらにしても《呪詛》は倒さねばならないので戦うつもりだが、この青年の掌で踊る事になるという展開は絶対に御免だ。
もっとも、こちらが事実を見極める方法を有している事から、どれだけ青年が巧みに立ち回ってもそんな展開になる事は絶対にあり得ない。例えそれが、俺が既に信じてしまっている《呪詛》と敵対していると言う彼の立ち位置そのものが嘘だったとしても、だ。
(まぁ、超高性能嘘発見器が居るしな、守護者には)
いや、嘘発見器ってお前――概ね間違ってないけどその呼び方はどうなんだよ、シュウ。
(構わんだろ、どうせ俺の声はお前にしか聞こえていないのだし。早い話、お前が気にしなければそれで済む事に過ぎんぞ、こんなものは)
それはそうだけどだな、なんか気になるんだよ、そう言うの――等と、自ら内側でシュウと掛け合いをする事で自分の世界へと埋没しかけた俺の意志を「えっと、俺から伝えられるのはこれだけです」と言うネロの言葉が引きずり挙げた。
会話が途切れても俺がしばらく思考に浸って反応しなかったからこその反応なのだろうが、その声のお陰でシュウの罠に嵌り思考の海へと埋没せずに済んだのでココでは感謝しておこう。
もっとも、言葉に出してそうした所で相手にとっては意味不明だろうから声には出さないが。
(中途半端に疑ったり感謝したり忙しい奴だなお前も)
つーかお前が割り込んでくると色々面倒だからお前はもう喋るな。
(ふむ、何を言い出すかと思えば、そんな事を俺がすんなりと承知すると一瞬でも思ったのなら、今更ながらお前の学習能力の無さに驚かされる事になる訳だが?)
や、まぁ言ってみただけだけどな――って違うだろ、だから何で俺はまたシュウとの念話に花を咲かせてるんだよ! っつかホントに学習能力が無いのか、俺の頭脳。
「分かった。、貴重な情報をありがとな。これだけの情報なら知ってるのと知らないのとじゃ大きな違いだったろうからな。つーか、お前が居なけりゃそもそも《呪詛》の野郎が何処に隠れてるのかさえ分からなかった可能性がある」
実際、ネロから聞いた《呪詛》の隠れ家の位置は、推測だけではまず見つけられない様な場所だった。門の外の世界で言うその場所の座標は、間違いなく誰でも知っている。
全ての座標の中心点、座標を示す数値が全て零になるその一点の世界、命を失った魂が集い転生を行う世界、即ち《輪廻の門》に、《呪詛》は拠点を作っている。
もっとも、無限に広がる虹色の世界の中心が本当にその場所かどうかは定かではない。分かっているのは俺がシュウと契約して人をやめた時点で、既に《輪廻の門》を零点とした座標の呼び方が存在していたという事実だけだ。
つまり、何故《輪廻の門》が零の座標に存在するのかという疑問を解決する術は、俺よりも昔から永遠者である者達に聞くしかないという事になる。
もっとも、あの戦争の事を考えると俺よりも長生きしている永遠者が残っているという可能性は非常に低い。と、言うか俺の知る範囲にはそんな奴は居ない。
文字通り、俺が現状では最古から存在する聖具使いだとみて、まず問題ないだろう。つい先程まではほぼ同時期に永遠者になった者が生きていたが、今ではもう俺一人だ。
俺には何も出来なかった。約束していたのに、誓っていたのに。誤解を解く事も、その命を救ってやる事も。だけど――否、だからこそ俺は《呪詛》を殺す。
広域次元世界の意志より与えられた使命を考えれば、アレを排除するのは俺の責務でもあるのだが、そんな事はどうだっていいのだ。そんな物が在ろうと無かろうと俺が自らの意志で、奴だけは殺す。
しかし、それを成す為には俺一人の力では厳しい。たとえ最高位の力を持っていようと、一人で出来る事は限られているのだ。だから、今は一人でも多くの協力者が欲しい。無論、信頼できる相手である、というのが第一条件ではあるのだが――
そう思いながら、目前に居るネロに視線を向ける。彼が本当に信頼できる相手かどうかは、これから調べればいい、なにせ守護者にはシュウに言わせる所の超高性能嘘発見器が存在するのだから。

<SIDE-Guren->
「ようやく片付いたか……」
多大な人数で押し寄せてきていた破壊者側の永遠者達の猛攻がようやく止んだ。とはいっても、全ての破壊者を倒したわけではなく、大半の者には逃げられているのだが、あの猛攻だったのだから仕方ないといえば仕方ない。
実際、こちらに数人の戦死者が出て居るだろうし、逃走した敵を追撃出来る程の余裕が無かった。
それに、下手に逃亡者を追うよりも仲間の手助けを行ったほうが安全性が高い。後の展開を考えるならより安全で、その上で自由に動ける仲間が大いに越した事は無いのだ。
とりあえず、戦闘を行っていると思われる様なエーテルの動きは感じ取れないので、今回の襲撃は終わったと思っていいだろう。
周囲へのエーテル探知こそ緩めれないが、コレで多少は気を抜いていても問題ないだろう。等と考えていると、補足しているエーテル反応がこちらに近づいてきているのが分かった。
この反応は確かフェインさんとリルの反応で間違いなかった筈だ。概ね皆考える事は同じようで、近くに居るメンバー同士で合流しようとしているのだろう。
しかし、結局フェインさんはリルと一緒居るんだな……いつも面倒を押し付けられるとか言ってるけど、やっぱ良いコンビなんだよ、あの二人は。
(そうだね、リルちゃんの方も何だかんだと言ってもよくなついてるみたいだし)
(と、言うか非常に今更な突っ込みだと思うが、一応お前等より長く生きてるんだから呼び捨てとかちゃん付けで呼ぶのはどうかと思うぞ?)
いや、そうは言われてももう俺達の中では定着しちゃってるし、何より特に誰にも咎められていない以上、別に直す必要は無いと思うんだが?
(うん、私もそう思う。リルちゃんも何も言ってこないんだし、銀さんが気にする必要は無いと思うよ)
(いや、別段深く気にしていた訳ではないし、お前達がそう言うならもう何も言うまい。そもそも彼女と打ち解けて呼び方から敬称が無くなった時点でその事実に触れなかったのは俺だしな)
別に意見するなって言ってる訳じゃないんだが、そう思うなら突っ込むなよ、相棒。
(うむ、俺も今しがた突っ込む必要など無かったという事実には行き付いた。まぁ、今度からはもう少し考えてから話すさ)
まぁ、思いつきで念を送ってくれても別にいいんだけどな、別に。その度に不毛な掛け合いが続くのも悪くは無いだろうしさ。
時間だけなら幾らでもある訳だし――いやそうでもないかもしれない。
永遠の騎士として生きている以上、何らかの戦い巻き込まれる可能性は十分にある。例えば、守護者の一員として与えられる任務や、先程の様な破壊者等の襲撃なんかがそうだ。
もっとも、任務は兎も角として破壊者側からの襲撃は、そう何度も起こる物だとは俺には到底思えないが。
「おーい、グレンくーん」
等と考えている間に、そんな風に俺の名を呼びながら手を力強く振るリルとその隣で苦笑しているフェインさんの姿が見えてきた。
手を振るリルに俺は軽く手をあげて応え、それと同時に意識を集中させる。
リルと合流するならシンクは武装化してるよりも人型で居た方がいい、故に今までも幾度となく描いたイメージを自ら意識の内で描いていく。
人型から武装化させるよりも、武装状態から人型に戻すほうが細部まで細かくイメージを走らせる必要がある為時間がかかる。
それでも、意識の集中からイメージの形成までに要する時間一秒程で、そこまで出来れば後は普段武装などを構築する時となんら変わらない。
唯一変化があるのは、消費するエーテルの量が武装等を呼ぶよりも圧倒的に多く消費される事だろうか? とは言え、そのエーテルも再度武装化の際には再び元に戻ってくる事が分かっているので気にはならない。
「Creation」
そうして俺は、幾千度も唱えた慣れ親しんだ言霊を紡ぐ。それと同時に、俺の描いた幻想は具現化する。左手に握られていた紅の刃はその形と崩し、俺の最愛の妹の姿へと変異する。
分解から再構築までに掛かった時間は、言霊を紡いでから一秒に満たない。それだけの間に人型に成ったシンクは、軽くのびをしつつ「んー、やっぱりこっちの方が開放感があって良いかな」そんな感想を漏らす。
「悪いな、俺としても、ずっとそっちの姿のままで居さしてやりたいんだが、どうにも力不足でな。俺一人じゃ駄目なんだよ、相棒とシンクの力がなきゃ何も出来やしないんだ」
「お兄ちゃん? そんなに自分を非難しなくてもいいと思うよ? 本当なら殺されちゃってる筈の私が、今こうしてお兄ちゃんの目の前に居られる――それだけで私は十分にうれしいんだから」
(シンクの言うとおりだぞ、相棒。他の連中の事情は知らんが、俺達に限らず聖具と契約者の関係なんてのは持ちつ持たれつってのが普通であるべきだろ? 俺やシンクだって、お前が居なきゃ何も出来ないんだしよ)
『確かに、相棒の言うとおりなのかも知れない。だけど、それでも俺の実力が不足しているというのは明確な事実だ――等と、相棒に思考を読まれない様に注意しながらそんな事を考える。だが、結局今より強い自分になる方法等思いつけなかった』
「うゆ? 難しい顔して何を考えてるん、ぐーたん?」
だけれど、俺のそんな思考は、いつの間にかすぐそこまで来ていたリルの声で打ち切られた。

TheOverSSS――15/28
UltimateSeven――2/7
PerfectSix――1/6
KeyToSeven――1/7
――to be continued.

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あきゅろす。
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