EternalKnight
EndLessEnd
<SIDE-Leon->
シュウの切っ先を突きつけて、黒い男にそう言い放つ。
「《完全なる六》の一柱が向こうから来てくれるのは歓迎なのだが、今は準備が不足している。せめて《根源》をセットしてからなら相手をしても良かったのだがな?」
「黙れよ。何が言いたいのかは知らないが、お前に選択権なんて物は無い。お前は今ここで、これから俺が消し潰すんだから――な!」
相手の事情など知らない、そもそも相手の準備が整うまで待つ必要も無い。
――故に俺は、言葉を紡ぐ際に最後の一音を発す瞬間に力を脚部に集約して、地を踏み蹴って前に出た。男に向かって真っ直ぐに進むように。
「相手は《終焉》だ。レイビー、ケビン、フェナハ、任せる」
しかし、俺が男の元に辿り着く前に、男はそんな言葉を口にする。
それと同時に、先程まで俺が居た位置からフェディス胸部にまで伸びていた黒い鎖が砕けて黒い光となり、その光が収束して魔法陣を描き上げる。
そうか、こうやってフェディスの背後に魔法陣を描いたのか。なら、あの魔法陣から現れるのは増援と言う事になるのだが、今更雑魚を増やされた所で俺の障害にはならない。
そう、雑魚であったなら。
「――なっ!?」
感じ取った反応の大きさに驚愕し、進む速度が一瞬停滞する。感知した反応は二つで、場所は黒い男の両隣の中空だ。
そこに素早く黒い魔法陣が描かれる。その魔法陣より感じ取れる反応は、どちらもSSSクラスとしか思えない程強大な物だ。
無論、SSSクラスが相手だろうと、力を解放した俺にすれば勝てない相手ではない。
(だが、簡単に倒せる相手でも無いだろう。それが一対三の様な状況になるなら尚更だ――油断などして無様を晒すなよ?)
流石にこの状況で油断できるほど、肝は据わってないけどな、俺は。
そうシュウに応じながら、脚部にさらにエーテルを収束させ、地を蹴って加速する。あの魔法陣から増援が現れる前に黒い男だけでも倒す為に。
接触時の初撃とてして、その加速を乗せた一撃を放てるようにシュウを中段に構えながら加速し、その一撃に最大の攻撃力を与える為に「――End」と、力の名を小さく紡ぐ。
瞬間、黒い魔法陣から上半身だけ出てきている金髪銀眼の少年が、何かを呟くのが聞こえた気がした。
それに構わずさらに加速し、攻撃園内に入ると同時に、中段に構えたシュウを振るう。無論、刃の奔るであろう軌跡の上には、黒い男の首がある。
これ程までに俺に接近されても、黒い男は動じない。このままホンの数瞬刃が閃くだけで、男の首と胴体は別れを告げる事になると言うのに、全く動じない。
そんな相手に構わずにシュウを振るう。例え策があろうがなんだろうが、例えどんな物であろうと、シュウの力で簡単に終わらせる事が出来る。
故に貰ったと。こちらが《完全なる六》である事を知っておきながら、油断した馬鹿の首を取ったと、そう思った。
だがしかし、現実はその一番ありえる可能性を否定して、肯定しがたい事実を現象として突きつけてくる。即ち――
「そんな、馬鹿な――」
絶対の力とも言って良い、能力を行使した状態でのシュウの一撃を止められた。
無論、理屈の上ではその一撃を止める事は可能だ。否、寧ろ知ってさえいれば、あの能力での一撃を止める事はそこまで難しい事ではないのだ。
ENDとは、文字通り終わりを意味する力だ。その力は発動後最初に刀身に触れた対象を終わらせる、と言う一点につきる。
この一撃によって破壊された箇所に関しては概念をも破壊されてしまう為、永遠の騎士にとってはその一撃を受ける事は即ち死に直結する。
だがしかしこの能力が対象とするのは、能力発動後に最初に接触した物質、或いはエーテル関連物である。
故に、受ける側は自身の周囲に物質的な障壁を展開できればそれで良い。
そうすれば、その障壁を消滅させる事に能力は行使され、実際自分が受けるのは終わりの力を纏った刃ではなくなる、と言う事だ。
そうなってしまえば、残るのは唯単なる普通の一撃でしかない。それを止める事手段など、星の数ほど存在すると言って良い。
故に、ここで重要になってくるのは、先の一撃を止められると理解した上で止めたのか否か、と言う事だ。
物質的な障壁を展開するのは不可能な事ではない。実際に使う者が少ないとはいえ、コツさえつかめれば誰にでも出来る程度の技術でしかない。
だからこそ、意識的に止められているとなると危険なのだ。いや、黒い男はシュウの事を《終焉》だと見抜いていた。
その上で先程あの二人を呼ぶ前に、俺が《終焉》の担い手である事を伝えているとなると、意図的と考えた方がいいだろう。
ならば――手早く片付けるにはアレしかない。と、そんな俺を見ていた黒い男の瞳は、そこで俺から外されてその直ぐ足元に向けられる。
そこに居るのは誰と誰だったのか、黒い男の目的は何で、その為に何をする必要があるのか?
分かっている、忘れてなどいない。だからこそ、俺の道を阻む障害を一瞬でも早く蹴散らさなければいけない。その為に、力が必要だ――絶対的な力が。
(……あれを使うのか? 全てを終わらせる、あの力を?)
あぁ使う。使ってやるさ――《EndLessEnd》を。だから紡ぐ、その力を扱う為に必要な、その祝詞を。
「我等は終焉へ導く者、例外を認めず、あまねく全てに終わりを与る者」
「詠唱か……レイビー、フェナハ奴の詠唱を止めろ」
無論、相手が律儀にそれが終わるまで待ってくれる、等と言うことはありえない。
案の定、黒い男は新たに現れた二人――レイビーとフェナハとやらに指示を飛ばす。
だが、三人がかりで妨害に来ると読んでいたこちらとしては、二人だけで仕掛けてくるというにはずいぶんと有難い話――ではなかった。
当然、こちらに仕掛けてこない事自体は詠唱が終わるまでの時間を稼ぐのが楽になる事を意味するので有難い。
だがしかし、その空いた一人がセルの髪をつかんでその体を引き起こしている現状は、どう考えても有難いと言い難い。だがそれでも、こちらがすべき事はひとつだ。
「我等は終焉を運ぶ死神にして世界の秩序を保つ者」
紡ぐ、詠唱を紡ぎ続ける。この詠唱の完成が勝利を掴むにはもっとも有効な方法だと、俺はそう思うから。そう思うのだけれど、きっとこのままでは――
黒い男は、セルの顔を自分の腰より少し高い位置あたりまで、髪を引っ張ることで持ちあげて、空いている方の手で、今度はセルの首を掴む。
奴が何をしようとしているのか分かる。理解したくはないが、それ以外にあんな事をする必要はないのだから、きっと俺の予想通りの事をするだろう。
それでも、俺がするべき事は変わらない。いや、きっと今から他の事を成そうとしても絶対に間に合わない。
或いは、今唱えているこの詠唱が終わった所で間に合わないかもしれない。最善を手にする事は出来ないかもしれない。
俺に成せるのは、結局最悪を回避する事だけなのだ。今までがずっとそうだった。どれだけ最善を尽くそうと、得られる結果は最悪を回避できた程度にしかならない。
だけど、だから――今度こそこの手で最善を掴んでみせる!
「我等は全てを終わらせる、これまで終焉を迎えてきた全てと、これから始まる全ての為に」
レイビーとフェナハと呼ばれた二人が向かってくる。それを迎え撃つ為に、シュウを構える。
迫る、迫ってくる――だがしかし、迫る二人はどちらもその手に得物らしい得物は持っていない。故に、攻撃範囲はこちらの方が広い。
無防備で突っ込んでくる訳はまずないので、何かしらの手札があるからこそ、ああして接近してきているのだろうが。
「《EndLessEnd-果て無き終焉-》」
詠唱が終わった今この瞬間より、相手がどんな手札を持っていようと、実質俺には関係がなくなる。だから、足を踏み出す。ただ渾身の力をこめて、前へ向けて。
立ちふさがる二人の敵を「邪魔だ!」そんな叫びと共に、一蹴する様にシュウを振るう。
それを、恐らく先程と同じ方法の、その発展でで防げると考えたであろう金髪銀眼の少年の展開する五重の障壁は、俺の放った一閃によって紙切れの様に両断される。
さらに、障壁による防御で防げると踏んでいたであろう少年は明らかに踏み込みすぎており、必然的に障壁の向こう側の少年の皮膚にも傷は刻まれる。
「――なっ!?」
障壁を突破された驚愕か、あるいは傷を負わされたという事実によって生まれた恐れか――事実は兎も角として、その一撃で少年には怯んだ事による隙が出来ていた。
その隙を突くように、立ちふさがる少年の脇を抜けて、未だ離れた位置にいる黒い男の元へと向かう。
そして、今度は少年に少し送れる形でこちらに迫ってきていた女が、俺の前に立ちふさがる。その手には、先程までは握られていなかった得物が握られている。
得物の形状はそれを担う女の身長と同程度の突撃槍で、その先端を俺に突きつけた状態で女は構えて止まっている。
だが、相手が誰で何を構えていよう関係ない。立ちふさがるならその全てを屠り、あのふざけた黒い男を倒すだけだ。
少年の脇を抜けた瞬間から一瞬も減速する事なく、寧ろより加速しながら、巨大な突撃槍を構える女の下へと進んでいく。
そして、構えられていた槍が開放される。そうして放たれるのはこちらの動体視力で辛うじて見える、程度の超高速の刺突。
元よりSSSとEXの間に、身体能力的な差は殆どない。故に、単純な能力なしでの戦いでならSSS側にも勝機は十分に存在する。
それでも、こちらは伊達に九千年以上生きてきた訳ではない。見える攻撃であるなら、ましてそれが突撃槍という武器による物であるなら、回避できない道理はない。
ぎりぎり目で追えた槍から逃れる為に、減速する事なくわずかに体制を変える事で、槍の穂先から逃れてその刺突を避ける。
無論、そんな避け方では先端以外には体が触れる事になるが、それではダメージなど受けないに等しい。
その上、槍そのものが巨大である事から、距離を詰めてしまえば攻撃を受ける可能性は激減する。だが、それは普通の突撃槍が相手の場合ではある。
SSSクラスの聖具が、そんな武器としての致命的な弱点を残している訳がない。当然の様に、穂先から逃れてその先の一撃を回避した俺を追い打つ能力が発動されるの感じる。
エーテルが動く、女と槍が持つエーテルが複雑に絡み合い、何かを引き起こそうとしている、それが感じ取れる。
それ程の量のエーテルが動く割には、そのエーテルの収束は早いし詠唱もない。だが――
小細工でEXクラス……それも《終焉》に勝負を挑む時点でその彼女の敗北は確定的だった。能力で戦ってもSSSではまずEXには勝てないのだから。
エーテルは収束していく、女が振るう突撃槍の周囲を渦巻くように。
それによって何が発生するかは知らないが、あれだけのエーテルなのだから、それなりの事象が発生するのは間違いない。だから、そんな物は発生する前に終わらせる。
女の脇を抜ける前に、突撃槍の側面をすぐ隣に感じながら、シュウを振るってエーテルが渦巻くあたりにその刃を向ける。
それによって返ってくるのは、確かな手ごたえと収束していたエーテルの霧散という事実で、それに驚愕したであろう女の息を飲む音を聞きながら、その脇を抜けていく。
障害は乗り越えた、残っているのは俺が討つべき相手、討たなければいけない相手――黒い男、ただ一人だ。
左手ではセルの首を掴んで持ち上げ、今まさにセルの赤い右目を抉り取ろうと右手を伸ばしている。それは、必然的にまだセルが無事だという事を意味する。
右手には既に《EndLessEnd》を発動したシュウが握られている。この距離ならばまだ間に合う、最善の結果を出す事が出来る。
駆ける速度は迅雷の様で、この数瞬後には黒い男に仕掛ける事が出来る。セルがやられる前に、黒い男を倒せる。
数瞬後の接触に備えて、構えた状態であるシュウを握る手に力が入る。いくら強力な力を纏った一太刀であろうと回避されれば元も子も無い。確実に――当てる。
刹那の時間が過ぎて、黒い男をこちらの攻撃園内に捕らえる。それと同時に、こちらから仕掛ける様にシュウを黒い男の首元に向けて放つ――様に見せて、踏み込む。
状況を考えれば、セルを盾に使おうとしてくる事ぐらいは予測出来た。故に、一度黒い男の脇を抜ける。
そして、そのまま反転し、その反転の遠心力をも刃に乗せて、背後から一太刀を浴びせる、そのつもりだった。
そうすれば、セルを盾に使われなかった所で、セルに攻撃が当たる可能性を大幅に減らせてる上に敵の背後をつけるのだから。そうするのが最善だと、俺は判断して行動した。
だがしかし、結果的にその動作によって、一瞬という時間を敵に与えられる事となり、俺の振るった一撃は、突然現れた二人の男によって、その軌道を逸らされた。

TheOverSSS――17/28
UltimateSeven――2/7
PerfectSix――1/6
KeyToSeven――1/7
――to be continued.

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