EternalKnight
終焉へ導く者
<SIDE-Leon->
フェディスの背後に浮かぶ魔法陣から何かが出てきた。フェディスの体自体が死角をつくりその姿こそ見えないが、確かに何かがあの魔法陣から現れたのを知覚した。
それもSSSクラスに匹敵する程の反応、いや――SSSクラスそのものとしか思えない程に巨大なエーテルの反応をだ。
あの規模の反応となっては、SSSクラスの聖具契約者が転移系統の能力でココに訪れたとしか思えなかった。だが、不可解な点がある。
そもそもアレが何者なのかだ。破壊者のSSSはフェディスを含めて四人しかいない、コレはシェディに聞いた事なので間違いは無い。
そして、迷宮内にいた時に外部の反応を探知して守護者のメンバーでないSSSの反応を二つ見つけているし、残る二人はこのフロアにいる。
ならば、今このタイミングで現れるのは誰だというのか? フェディスの至近に転移の魔法陣を展開している以上、フェディスの仲間なのだろうが――
そこまで考えて、答えが見えなさそうなので思考を止めて、前提となる条件を省いて考える。
そうして考えると、重要な部分が見えてくる。問題なのは何故今になって現れたのかと言うだ。
仮にフェディスを手伝うのなら、俺が現れるまで待つ必要がなかった、セルとフェディスが戦っていた段階で現れればそれで良い。
俺の登場はフェディスも予測出来ていなかったのは彼女の反応を見れば明らかであり、そうであるなら尚の事、この状況まで転移して来ようとしなかったのはおかしい。
障害がなくなってから現れるのはあまりに意味がない。よって単純にフェディスの味方をする者ではない、と考えるのだが妥当になってくる。
そうなると至近距離、それも背後で転移魔法陣等が展開されれば、直ぐに見つけられるのが普通だと思うのだが――生憎彼女が普通の状態には思えない。
(溢れんばかりの殺意を浴びせられてるしな、現在進行形で――まぁ、愛しの兄を殺した仇に対する反応としては当然なんだろうけどな、それも)
それでも、直ぐに飛び掛ってくる様なマネはして来ない辺り、完全に冷静さを失っている訳では無さそうではある。
(冷静さ云々ではないだろう? 少しでも冷静ならまず真っ先に《根源》を完成させるのが道理だ。まだ《根幹》の眼に気付いていないなら話は別だが、それも考えにくい)
シュウの言う事は的を射ている。力が一片でも欠けて居ると言う事実に気付けない程フェディスは鈍感ではない。
そして、それに気付ければ自ずと答えは出てくる筈なのだ。隠し場所は見た目で分かりやすい事になっている訳だし。
(全く、何で態々あんな部分にそう言う仕込みをしたのか理解しかねるな。契約前に潰されてた片目を再利用するには、ああいう方法が一番良いと言うのは分かるんだが)
と、いうかアレは完全に眼を使い物になるようにするってのが本来の目的だろ。寧ろ《根幹》を奪われた際の保健ってのが追加の意味でしかない筈だ。
その一欠けらを回収しようとしない、その行動に意味があるとは思えない。
何せ距離的にそれを防ぐ事は俺には不可能で、完全な形に戻った《根源》には俺とシュウの全力でも太刀打ちできないからだ。
それでも、俺と言う存在に対して殺意と敵意を剥き出しに、それを実行しないのは、それだけ俺に恨み憎悪を抱いているからだろう。
だがしかし、それでもその行動は愚行だ。遙か過去にあれを打倒し、分割して封じれたのは仲間の助力があったからに過ぎない。無論、その仲間も今はいない。
故に、彼女が行うべきだったのは《根源》を完全な状態に戻す事だ。それさえ成せば、俺を倒す事は恐らく容易なのだから。
(そうだな、俺達と《根源》の相性は悪すぎる。能力が通じないのならどうする事も出来ない。普通の肉弾戦じゃあ能力の突破なんて論外だしな)
無論、そうなっていたとしても俺は諦めるつもりは無い――少なくともすぐに逃げはしない。
《根源》を封印して数千年、その間別に力をつけようと努力した訳ではないが、それでも強さが当時のままだとは思いたくない。
だが、元々勝利を収めるのは不可能に近い勝負だ。勝てないと判断すれば撤退し、アイツを探しだして再び封じるつもりではいる。
最も、逃がしてくれるとは思えない気もするが――と、いうのは実際に《根源》が完全に力を取り戻した時に考えれば良い。どういう理由であろうと今はまだ不完全なのだ。
それは俺達だけで倒すなら今しか無いと言う事実を端的に物語っている。
(倒せるのか、お前に? 無論、聞きたいのは相手の強さの問題じゃあないぞ、レオン)
倒すさ、倒してもう一度封印してみせる。
(……そうした所で、結局は同じ事の繰り返しになると思うぞ? 決着をつけるなら、倒すだけじゃあ足りないだろ?)
お前の言いたい事は分かる。だけどそれは認められない、俺はゲーティに任されたんだよ、あいつの事を。
(知っている、だからこそ任された意味を考えろ。そしてそもそも、おまえ自身が言っていたではないか、やっている事は『世界』との契約でしか無いと)
それは否定は出来ないけど、それでも俺は――アイツを殺す事なんて出来ない。例えどれほど恨まれようとも、ゲーティとの約束を果たしたい。
(だから、いっているだろう? 任された意味を考えろと、何を任されたのか考えろってな。最も、俺はゲーティム本人じゃないから真意は分からないがな)
任された意味、何を任されたのか? それは、過去に幾度となく自問してきた事だ。今更になってその答えが得られるとは思えない。
思考は加速する、一瞬を切り刻んで永遠へと変質させるように、俺の意識は思考の深みに嵌っていく。
思考が速度を上げる度、それに応じて視覚から得られる情報がゆっくりと、ゆったりとしたものに停滞していく。
そんな中で、俺は見た。その瞬間をじっくりとこの瞳に焼き付けてしまった。フェディスの胸の中心から、赤く汚れた黒い何かが生え出す、その瞬間を――
「――ぇ?」
加速していた思考がその一瞬で停止する。それと同時に、停滞していた世界が一瞬で本来の速さに戻る。
だが、体感の上での速さが元に戻った所で事実は何も変わらない、何一つとして変わる事は無い。
フェディスの胸の中心から生えるそれは、それは腕だった。赤色に汚れた黒い左腕だった。
「何よ……コレ」
呟きが、聞こえる。自分の胸に視線を落として、苦痛に表情をゆがめながら、呆然と言葉を紡ぐフェディスの姿が見える。
考えるまでも無く、それはあの魔法陣よりも現れた存在の腕に他なら無い。
だが背後で展開されている魔法陣の事を知らなかったであろうフェディスには、未だに何が起ったのかを理解しきれていないらしい。
そうしている間に、胸の中心から生えていた腕が引き戻されて、結果的にその腕が塞いでいた傷口が露になってそこから鮮血があふれ出る。
腕一本が貫いていただけの孔。そこから溢れんばかりに流血して、漏れでた血は数秒を待たずして金色の光へと還って行く。
早く、早く傷を塞がないと、そうしないとフェディスが、フェディスが死んでしまう。約束したんだ、アイツとゲーティと、フェディスを守ると――
だと言うのに、展開されているのを知っていて、どうしてそのままあの魔法陣を放置してしまったのか?
一度はあれがフェディスの味方の物では無い、と言う所にまで考えが及んだ筈なのに、どうしてこんな事になってしまったのか?
あの魔法陣から現れる存在が強力な存在だと言う事も分かっていた、だと言うのに警戒が足りなかった。だから、こんな結果になってしまった。
考えている間に、胸から鮮血を止め処なくこぼすフェディスの膝が折れ、地に屈する。その背後に、黒い魔法陣からようやく全身を這い出させた男の姿が見える
アイツか、アイツがフェディスを――いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。俺には治癒系統の能力なんて無いけど、それでも何かが出来るはずだ。
(気持ちは分かるが止めておけ、あれだけフェディスの至近距離に相手はいるんだぞ? アイツの相手をせずにフェディスを助ける事なんぞ出来る訳無いだろ?)
だけど、早くしないとフェディスが危ない。そりゃエーテルは余りに余ってるんだろうけど、それでも……それでもアイツの傷ついてる姿は見たくない。
(そうまで言うなら、あの男をさっさと倒せばいい。そうすれば何をしていようと自由だ――とは言ってもまだあの穴の向こうにもう一人いるんだけどな)
だったら、そいつも含めて全員倒して消すなりこの世界から追い出すなりしてやる。直ぐに、速攻でだ。
(速攻ねぇ……なら要するに解放するって事でいいんだよな、レオン? 流石にそれなしだとSSSの相手をするのはキツイだろ)
まぁな、それは兎も角、お前の待ち兼ねた解放だ、存分にその力で俺を導いてくれ。
俺は、一瞬でも早く連中を潰してフェディス――と、セルもだな、兎も角、二人を助けなきゃいけない。だから全力だ、手加減は必要ない。
(応よ――しかし本気でやるのなんて、ホントに何千年ぶりだろうなぁ、レオン? あぁ、そう言えば反応を隠す必要とかはないのか?)
隠す必要は無い。守護者の拠点の最深部で巨大な反応が出るだけだ、外でとは事情が違う。
無駄口を叩く時間も惜しい、だからさっさと始めて潰すぞ、フェディスを害した野郎とその協力者を、俺達の全力で。
(――了解、了解したよレオン。それじゃあ始めようじゃないか、俺達の最高を)
そのシュウの言葉を聞き終わると同時に紡ぐ――唯、その一言を。
「(限定解除)ッ!」
叫ぶと同時に、制限されていたシュウの力が解き放たれ、全身に力が漲り圧倒的な開放感に包まれる。
右手に収まるシュウの刀身には蒼いフォトンが浮かび上がり、俺とシュウの完全なる六としての真の力が解放される。完全なる六、即ち最高位――EXクラスとしての力が。
完全なる六、クラスEX《終焉》の契約者、終焉へ導く者レオン、それが俺に与えられた新の称号。《広域次元世界》との契約で手にした力だ。
「その蒼のフォトンは……貴様《終焉》か? なるほど、もう止めに来たのか《広域次元世界》の撲――まさか一つとして手に入れていないのに現れると思っていなかったぞ」
言いながら、フェディスを貫いた黒い男は始めてこちらに視線を投げてきながら言葉を続ける。
「しかし、何故《終焉》を出した……こちらは《根源》を狙っているのだから《必滅》を動かした方が早い筈だが――まぁ、どちらにしても私は相手をする気はないがな」
呟く様にそう言いながら黒い男はフェディスの手に握られた《根源》を掴み、奪いとる。彼女の力を、彼女の持つエーテルの大半を収めた、不完全な《根源》を。
穿たれた胸の傷からエーテルを失っている、フェディスの手から。――そうなれば、フェディスはどうなる? 決まっている、分かっている。単にそれを認めたくないだけだ。
(それでも、あの娘自身もそれなりのエーテルは持っている筈だ。本当にあの娘が心配なら、目の前の男とその仲間を今すぐにでも屠れば良い)
結局やる事は最初から変わらない、って事か。だけど、それで良い。面倒な条件があるよりはよっぽど分かりやすい。それでも、時間は惜しいけれど、コレだけは聞いておく。
「――てめぇ、一体何のつもりだ。何が目的でフェディスに手をかけた!」
概ね推測はついている。ついているのだが、先程までの男の言動から鑑みるに、この男は普通では知りえない情報を持っている様に見えた、故に聞いては見る。
もっとも、真実を全て話すなどとは欠片も思っていないが――
「何が目的だ、だと? 貴様《完全なる六》の一柱だというのに、この状況でまだそんな事を抜かすのか? そんな物、決まっているだろう?」
当然だとでも言いたげに、黒い男は紡ぐ。
「《完全なる六》が一柱、《根源》が復活すると聞いてな? 単にそれを奪いに来ただけだ。俺の願いを叶える為には、どうしても必要な物だったからな?」
返って来た応えは予想通り過ぎる物で、誰もが夢想する物だった。
最高位の聖具を奪い、自らの力とする――何かを求める永遠者なら一度は行き着く筈の思考の極地ともいえる考えを、黒い男はあっさりと口にした。
普通なら夢物語で終わる筈のその場所に、この男は後一歩の所まで近付いた。だけれど、ココから先へは進ませない。そんな事は俺がさせない。
「お前の目的が何かは知らないが、やらせはしないぞ。俺がココでお前を倒して、貴様の野望を終わらせてやる」
言いながら、シュウの切っ先を真っ直ぐに黒い男に突きつける様にして俺は構えを取った。

TheOverSSS――17/28
UltimateSeven――2/7
PerfectSix――1/6
KeyToSeven――1/7
――to be continued.

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あきゅろす。
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