EternalKnight
襲撃〜宿命と破滅〜
<SIDE-Philia->
ユフィからの念の内容を纏めると、何やらレオンがこちらに戻ってくるつもりらしいから、迷宮を変化させ最深部までの直通ルートを作って欲しい、との事だった。
「相手はユフィの様でしたが、何の連絡だったのですか?」
私が念話を切り上げたのと同時に、セルが私にそんな問いを飛ばして来た。それに応じて、私はユフィの話を要約してセルに伝える。
「レオンがこっちに来たいといっているから、迷宮を弄って道を作ってください、ってな感じの連絡よ」
「レオンがですか? なら、何かこの場所が危険に晒される可能性でも感じたのでしょうね。そうで無いと戻ってくる理由にはなりませんし」
危険に晒される、ねぇ? 私が迷宮を構築している以上、仮に外で戦っている仲間に気付かれずに辿りつけても、ココにまでたどり着ける訳が無い。
もっとも、もし仮に何らかの方法で迷宮を抜けられた所で、私が死ぬなんて事はありえないし、セルが負けるなんて事もまず考えられない。
それでもまぁ、もし仮に迷宮を突破されるなりしてこの場所に侵入者を許した場合、それは危険に晒される、と言う意味にはなるだろう。
ここには、私を滅ぼせる力の片割れがあり、それとは別の、しかしそれと同列の力の断片も存在するのだから。
「そうだけど、その危険ってのはどのレベルなのかしらね? 半端な相手なら態々レオンが戻ってくるとは思えないし、そもそもココまでたどり着けないと思うんだけど?」
「そうですね、少なくともSSSクラスの相手が訪れるのは間違いないでしょう。自惚れでも何でもなく、私がSS以下に負ける可能性は限り無く零な訳ですから」
限り無く零、ねぇ? 私に言わせて貰えば、セルの能力ならSS以下の戦力で彼を打倒出来る可能性は零だとしか思えないのだけれど……まぁ、それはそれか。
兎も角、セルの持つSSSクラス聖具《根幹》の有する能力は、それだけ優秀で強力なのだ。伊達に守護者のトップと言う訳では無い。
例外的に、クラスはSSだけれど私なら彼にやられる事は無い。しかし、同時に私にも絶対に彼を倒す事は出来ない。
これはまぁ、相手がセルに限った話ではないが、それも今はどうでもいい話だ。
「そう言えば、確かに今回の首謀者であろう《宿命》がまだ戦場に出張ってきて無い様だし、ホントに奇襲狙いなのかも知れないわよ?」
もっとも、仮に奇襲だとして、ほぼ万全に守られたこの宮殿の一体何処から奇襲を仕掛けよう等と思っているのだろうか?
どれだけ気配を消そうと、結局は常にその形状を変えていく迷宮を突破する事は不可能だろう。
「そうですね、敵のSSSの反応は未だに二人分しか捕捉できていませんし、本当に残りの二人は奇襲狙いなのかもしれません」
残りの二人――現在反応を捕捉出来ているのは《刹那》と《災禍》の二つだから、残っているのは《破滅》と首謀者であろう《宿命》と言う事になる。
「だけどやっぱり、迷宮が突破されるとは思えないし、だからと言って他にココまで来る手段なんて無いと思うのよね」
「そうですね、貴方の形成した迷宮は確かにそう簡単に突破できる物でも壊せる物でもない。だけれどレオンは戻ってくると言った。つまり――」
どこかに穴があると、そう言いたいのだろうか? 或いは、迷宮を一切通らずにこの宮殿最深部へと到達する方法が存在すると言うのか?
「抜け穴があるのか、或いは迷宮を一切無視してここに訪れる事が出来るのか、って事でしょ?」
「えぇ、そう言う事になります。そして、迷宮の穴なんて物は仮にあったとしてそれを探す為には最低でも貴方の能力を念入りに調べる必要がある。が、そんな痕跡は無い」
ならば、そうであるなら、例え信じがたくとも残った選択肢が正しいと、そう言う事になるのだろうか?
「だったら、一番真っ当なもので聖具の能力として、そういうモノが存在すると言う線なんだけど――」
言いかけた私の言葉を遮って、セルが言葉を紡ぐ。
「しかし、そうなってしまうとそもそも何故レオンがそれに気付いたのかが分からないでしょう?」
まぁ、確かに言われて見ればその通りだ。その通りなのだがますます分からなくなる、結局レオンが警戒したのは何だったのか、と。
だが、そんな些細な私の疑問は、次の瞬間には現実によって解決される。それも、全く予想していない形の答えとなって、だ。
目前の空間が歪み、門が形成される。それはあまりに見慣れたモノでありながら、ただその場に形成されただけで、私達に驚愕を与える。
当然だ、当然の話だ。宮殿、即ちこの世界には常に形成している門が存在する。本来、既に門が形成されている世界に、新たに門を形成する事は出来ないのだ。
しかし何事にも例外は存在する。それが転送の門、WorldCrossGateを用いた世界跳躍なのだが、アレを行うには行き先の世界に長期間滞在している必要があるのだ。
だからこそ、その可能性を完全に見落としていた。長期間この世界に留まった事のある破壊者等居ないと、そう勝手に決め付けて。
実際問題、一体いつの間にこの世界に留まっていたのだろうか? 少なくとも私が守護者の一員となったその日から今に至るまで、そんなチャンスはなかった筈だ。
だとするならそれ以前の、私が守護者の一員となる前の話なのだろうか? しかし、そうだと考えると何故今まで実行に移さなかったのかと言う疑問が浮かぶのだが――
疑問とそれに対する自己の回答が脳内を巡る。そんな風に考えつくしている間に、空間を歪ませて現れた門が開いていく。
答えは出ないが、考えている時間など何処にも無い。いや、そもそも理屈を考える必要なんて無いだろう。
理屈が分からなくても、この門の向こうから現れる敵とは戦えるのだから。そして、考える事は後で幾らでも出来るのだから。
だから、今抱えている疑問を全て放棄する。何より、疑問が解けたところでこちらには何のメリットも無い。
どれだけ思考していようが、別に私自身は死ぬ事はないのだが、だからと言って唯それだけの的になるつもり等さらさら無い。
だから、無駄な事に割いていた思考を戦いの為に使用する。SSS相手にそんな程度で意味はあるのかとは自分でも思うけれど、それでもいないよりは良い筈だから。
そうして、転送の門が完全に開く。その門の向こう側から現れたのは二人で、そのどちらも、私の見知った顔だった。
レオン曰く、今回の襲撃の首謀者である、聖具《宿命》の契約者にして、《運命》すらもその手に収める者、宿命の歯車を回す者ファディス。
「予想通り、残ってるのは《根幹》と《無限蘇生-ImmortalLife-》だけみたいねぇ?」
「そうだな、他がいない辺りは上手くいったと言えるのだが、それにした所で彼等は簡単に屠れるような相手ではあるまい?」
そして、その隣に並び立ち、放たれた《宿命》の言葉に応じるのは、聖具《破滅》の契約者、破滅の序曲ダージュ。無論、どちらもSSSクラス聖具の契約者だ。
「そうは言うけどね、ダージュ? 《無限蘇生》に関しては単に完全に殺せないってだけでしょ? だったら注意する相手は《根幹》だけで十分よ」
「ふむ、確かにそういわれればその通りか。《無限蘇生》は攻略不能な最弱無敵の能力だが、それが故に居ても居なくても変わりはない、か」
《宿命》と《破滅》は、私を唯殺せないだけの、取るに足らぬ雑魚だと言った。
自分でもまったくその通りだとは思う、私の力はSSSや他の到達者から見れば正しく最弱無敵と呼ぶに相応しいだろう。
だけれど、それがどうした。例え最弱と言われようとも、同時に私は無敵なのだ。だから、躊躇う必要等無い。私は私に出来る事を、唯全力でこなすだけだ。
「黙って聞いていれば、随分と勝手な言い草ですね? 取るに足らない? 馬鹿ですか貴方達は?」
そんな決意を固める私の隣から、声が響く。それは決してボリュームを上げただけの声では無い。それでも、その声は響くように聞こえた。
その声で、私を蔑む様に見つめていた二人の破壊者の視線はセルの元に集まった。そんな破壊者に呆れた様な視線を向けて、セルは言葉を紡ぐ。
「貴方達も私も、準最高位の聖具と契約しただけでしょう? 唯それだけの癖に、己が努力により編んだ叡智を振るうフィリアを見下す権利が、何処にあると言うのですか?」
確かに、セルの言う通りだ、私の数千年掛けて積み上げてきた叡智が、ただ運良く準最高位と契約しただけの者に見下されるなんて言うのは納得が行かない。
そうだとも、彼等は私を甘く見すぎている。だから思い知らせてやろう、ここが私の力の中だという事を。私が自ら力で掴んだ、叡智の結晶を。
かといって、私一人の力では負けないけれど勝てもしない、その事実は揺るぎ無い。だから、私一人の力では勝てないから、力を合わせる。
私に出来る事をなして相手の足を引っ張り、セルが勝利できる状況を作り上げる。私自身を死なないだけの雑魚だと笑うなら、その雑魚に足を引っ張られて屠られれば良い。
「随分と言ってくれるわね。けど、私に言わせて貰えばそこの《無限蘇生》の努力なんて、運良く才能があったから目覚めた、ってだけの物にしか見えないのよ」
《宿命》は軽い怒気を浮かばせてそう言う。だが、そんな事はどうでもいい。今必要なのはセルが有利になれる状況を作る事、唯それだけだ。
敵の言葉を相手にしている場合じゃ無い。 私に出来る事はなんだ? どうすればセルに優位な状況を構築できる? どうすれば敵を不利に出来る?
いつ誰が動いてもおかしくは無い程に張り詰めた空気の中で、私は思考し、最良と呼べるかどうかは分からないまでも、現状を少しでもマシにする一手に思い至る。
思いついたのならば、行動に移す。一触即発の空気を私が壊す。他の誰かに壊されてしまえば、今私が思いついた一手を打つのは難しくなってしまうから――

<SIDE-Selwheat->
才能で得た力、か。確かにユフィの力は、才能がなければ辿り付けない領域の物ではある。だがしかし、それは彼女にのみ与えられた才と言う訳ではない。
同程度以上の才能の持ち主なら、決して多いとは言わないまでもそれなりには存在するし、属性の壁を取り払えばその数は単純計算でその五倍となる。
無論その中には、魔術の事など何も知らぬまま死んで行く者もいれば、上位聖具とめぐり合えず才が芽吹く前に死んでいく者もいる。
それらを乗り越えた……詰まる所、フィリアと同程度の才を持ちながら、上位聖具と契約してエーテル体となり時の枷から外された者、という者は実の所少なくない。
少なくとも、同時に存在できるSSS以上の最大数、二十八人よりは絶対に多いと断言できる。
だがしかし、フィリアと同じ領域にまでその才を芽吹かせた者は僅か五人。内一人は長寿とは言え契約無しに到達した別格だが、彼は既に天寿を全うしている。
故に、現在はその領域に存在する者は四人だけだ。では何故、他の同程度の才能を持つ者はその領域へと至れないのか?
答えは至極単純に、唯努力が足りないだけに過ぎない。上位の魔術になれば成る程、それを行使する為には膨大な知識量が必要になるのだ。
下位の術式に関しては、適正や才能のみで十分に行使できる。否、寧ろ適正と才能がなければ行使できない。
だからこそ魔術を知る者の大半は、高みを目指す際、行き詰った所で自らの適正では才は此処までなのだと、勝手に諦めて先に進む事を止める。
その事に気付き、尚且つその膨大な知識をその身に宿らせた者だけが、最高位の術式をその手に掴む。
それを才能だけで得た力だと言うのなら、深淵なる知識を得る事をも才能だというのであれば、一体何を努力と呼べば良いのだろうか?
にらみ合いを続けながら、私はそんな事を考える。空気は張り詰め、その状況はまさに一触即発と呼べるだろう。
だがその状況は、次の瞬間には激変していた。理由は一つ、フィリアが動きを見せたからだ。
動きとは言っても、彼女自身は先程までと同じ姿勢でしかない。彼女は唯、何の予備動作も見せずにその能力を行使しただけだ。だが、その能力は戦況を変える。
「「なっ!?」」
驚きに声を上げるのは破壊者の二人。そんな二人の反応を尻目に、素早くせり出してきた土の壁は合わさり、破壊者の二人を分断する壁が形成された。
この壁を簡単に壊す事は出来無い。が、不可能と言う訳ではない。故に――
「詠唱なしで内部構造の変化、ね。そう言えばこの場所自体も彼女の能力の中だという事を少し失念してたわ」
そう言いながら薄く笑う《宿命》に、壁を壊せるチャンスは作らせない。

TheOverSSS――17/28
UltimateSeven――2/7
PerfectSix――1/6
KeyToSeven――1/7
――to be continued.

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