EternalKnight
<動き出す歯車>
<SCENE003>――夕方
俺を包み込む様に輝いていた不定形の銀光は、ただ一点へ向かう様に収束を開始する。
その輝きは右手の元に柄の様に収束し、確かな質量へと構築されて行く。さらに光が収束し、銀の光はただ一本の剣となる。
(――聞こえるか、主よ?)
声が聞こえた。外からではなく内から話しかけられるような、不思議な感覚。
否、頭の中に《創造》の声が直接響いている様に感じられる。だけど、不快感は一切無い。
(うむ、聞こえておるな。契約は正確に行われたようだ)
コレが契約……この銀の剣が《創造》――って、俺が思ってることが伝わるのか?
(ふむ、気づいた様だな、主よ)
俺の手には《創造》が、銀色の無駄な飾りの無い美しい剣が握られている。
(見惚れているな。相手は雑魚だが、まだ未熟な主が手を抜いて良い相手ではないぞ?)
その声を聴き終わる頃には、頭上からまたもバケモノの一撃が迫っていた。
俺は咄嗟にその一撃を飛びのいてかわ……す?
(気がついたか?)
体が……軽い? 違う、全身から力が溢れてるのか?
(うむ、我と契約した事により身体能力が増幅されているのだ)
これなら……いける。あんな単調な攻撃しかしてこないバケモノぐらい、この力があれば倒せる!
(己の力を過信するな、次がくるぞ?)
「っ――え?」
気づいた時には、頭上からさらなる一撃が迫っている……っ近い!
だが、今の俺にならかわせる筈――
「っぉぉおお!」
地面を弾くように蹴り、一気に真横に跳躍する。そうして跳びのいた一瞬後に、先ほどまで俺がいた場所にアスファルトは砕かれていた。
跳躍の勢いを殺すように、且つ体勢を崩さぬように着地して、バケモノを見据える。
――ふぅ……何とかかわせたか。
(忠告したであろう?)
「わかった……で、瞬殺出来るんだろ?」
最初は俺も其処まで出来るとは思っていなかったが、ついさっきの自分の力を見て、それが簡単なような気がしてきていた。
(ふむ、詳しくは主しだいなのだが……)
「俺しだいか……なら、まったく問題無いな」
(過信するなと言ったであろう?)
「過信なんかじゃないさ。心配してくれなくてもな……」
守る為に、手に入れたこの力――
「使えないと、意味が無いだろぉがぁああ!!」
叫びと共に体の奥から力が、途方も無い様な強大な力が全身に満ち、爆発する。
(!?……これは、我も中々良い魂の持ち主と契約を結んだものだ)
「いくぞぉぉおおお!」
俺の為に作られたのかと思う程にシックリと手に馴染む美しい剣の刀身が、夕焼けの紅すら塗りつぶす銀光を纏う様に輝く。
俺の叫びに怖気づいたのか、バケモノが後退するように俺との距離をあける。だが――その程度距離を開いても、意味なんか無い。
「びびってんじゃ――」
体に溢れる強大な力をエネルギーに変える様に、満ちる力を足に溜め込み、地面を強く一蹴りする。
そうして生み出された、頂上的な力が一瞬で5〜6メートルもあったバケモノとの距離を限りなく0に近づける。
「――ねぇよッ!」
さらに、その勢いにのせて《創造》と言う名の銀光を纏う剣を化け物の腹に叩きつけた。

<Interlude-真紅->――夕方
私は走っていた、逃げていた。あの怪物の下にお兄ちゃんを置いて……たった一人で。
「いつも、私は守られてばっかり――」
頬を一筋の雫が伝う、悲しみと後悔の念から生み出されたそれは、涙。
全力で走り続けてたせいか、息は上がり、汗が流れ出し、足も止まる。
「――守ってもらってばっかりだよぉ、お兄ちゃん……」
私の流した涙と汗の雫は零れ落ちて、アスファルトに染み込んでいく。
――私はどうしたらいいんだろう。私が行った所でどうこうなる問題じゃない事はわかってる。
でも……それでも私は――お兄ちゃんがいなくなるなんて、死ぬなんて考えられない。
私一人が生き残っても意味が無い。だから私は、何も考えないで来た道を引き返しはじめた。

<SCENE004>――夕方
加速力を味方に付けて叩き付けた剣は、驚くほどあっさりとバケモノの肌を、腹を切り裂いた。
瞬間、ドス黒い血が、裂けた腹部から噴き出し、シャワーの様に降り注ぎ俺の体を汚していく。
「はぁ、はぁ……」
(なかなか良い動きであったぞ、主よ)
何とかなった、かな?
(そうだな、この場はこれで安全だろう)
「しかし、この全身にべったりついた血……どうしようかな?」
現在進行形で付着していっているんだが――
(そのうち勝手に消える、奴のようにな)
「っえ?」
《創造》の言葉につられて顔を上げると、目の前のバケモノは光の粒子を漏らして次第に薄れ、消えて逝く。
「何だよ……これ」
(説明は後にする、今は我が目立たぬようにしなくてはならん)
「どうするんだ?」
目立たなくって言ったって剣が目立たないはずが無い。警察にでも見つかれば即銃刀法違反で御用になるし。
(まぁ聞け、目立たなくするのは我の意志だ。呼び出すときは主の意思で呼び出すことになるだからな)
よく、言っている意味が解らないんだが……
(呼び出し方は、Sword of creationと唱えるだけでいい)
「ソード、オブ、クリエイション?」
いきなり英語……だよな? を言われたので、思わず復唱してしまう。
(そう、Sword of creationだ、忘れるで無いぞ)
「……わかった」
(それでは、我は少し休む)
その言葉を残して、形を持っていた銀の剣は解ける様に崩壊し、不定形な光の粒子になり、今度は俺の右人差し指に小さく収束して行った。
それは、とても幻想的な光景――
「……指輪?」
そうして収束した銀光が成した形状は、銀色のシンプルな指輪だった。剣よりは……まぁ間違いなく目立たないだろう。
気がつくと、俺の服にベッタリと付いた筈の血は全てなくなっていた。
先程までの戦いが嘘だったかのように、辺りは静寂に包まれる――が、ソレも長く続く事無く、曲がり角から現れた人影……真紅によってかき消された。
「真紅……どうして戻ってきたんだ?」
「ごめんなさい、でもお兄ちゃんが心配だったから……」
《創造》が指輪になってからでよかった、あと血が消えてからで。剣なんて持って血まみれだったら大騒ぎになるところだった。
まぁ、別に真紅に限った話じゃないけど。
「ところで、あの怪物は?」
困った……なんて答えようか? ホントのことなんて話せるはずが無いし……
「え、えっと、よくわからんけど、どこかに行っちまった」
少しどもりながら、自分でもそれは無いだろ、と思う言い訳をしてしまった。が、言い終わると同時に、真紅が俺に抱きついてきた。
「よかった、お兄ちゃんが無事で……ホントによかった」
真紅の頬に涙が伝っているのが分かった。俺は、そんな真紅を強く抱きしめた。そして――
「心配してくれてありがとな真紅、じゃぁ帰ろうか? 俺たちの家に――」
「うん♪」
涙を腕の裾で拭いながら、真紅が笑った。

<Interlude-???->
現在の我等の拠点――《運命》が確保した空間。拙者はそこで今回の参加者の一人を見ていた。
「これが七人目か」
先ほどまでも戦いを思い返しながら、ロギアに問いかける。
「残りは三と五と九だ、まぁ彼らも直に参戦することになるさ」
「巧くいっているな、ロギアよ」
「巧くいっている? そうなる運命なのだから当然のことだろう?」
「ふむ、それもそうか……」
この世界に来ているのは我等のみ……無論、拙者とロギアの事だ。
「なに、コレが終れば大量のエーテルが手に入る」
「どうでもいい、拙者は猛者と戦えるならそれ以上は何もいらんさ」
「もう向こう側は嗅ぎつけてこっちに向かって動いているぞ?」
「そうか、雑魚でないことを祈ろう」
この間の世界ではクラスAのそれも雑魚ばかりだった、つまらんかぎりだ。
「まったくだな、SSクラスが来れば貴様も楽しめるか?」
「別格であるSSS以外は階位など関係ない。まぁ守護者どもも楽しみだが……どちらにしても、今回は楽しめそうだ」
「ほう、素質のある奴でも見つけたか?」
「奴等は、なかなかの猛者になりそうだ……」
敵側から来る者、そして二番と今まで自分が見ていた一番の者……
「楽しみだな」
ああ、早く……早く奴等と殺し合いたい。

<SCENE005>――夕方
家に帰り着き、真紅が夕食の準備をしている間に俺は自分の部屋に戻って来ていた。
「はぁ……」
それにしても、さっきのバケモノは一体なんだったんだろうか?
「そうだ、アイツに聞くんだった」
呼び出すときはなんだっけ、確か……
「ソード、オブ、クリエイション……だったか?」
そう言った瞬間、右手の指輪が形を崩して剣の形になり再収束した。
(ふむ、何用だ主よ?)
あれ? 俺の考えてる事って伝わってるんじゃ――
(待機状態の時は主の意思を読み取る事も、声を聞く事も出来ん……)
「そうなのか?」
(そうだと言っておろう?)
「じゃあ……なんでさっきのは伝わるんだ?」
(さっきの? ふむ祝詞の事か。)
祝詞って言うんだ、あれ。
(アレは、伝わるのではない。主が祝詞をあげる事により我がかけた我への封印を解いておるのだ)
「……なるほど」
――なんかよくわからないけど、まぁ別にそんなことは些細な問題だ。
(理解出来てないな、主よ?)
「うっ――」
(まぁ、理屈が理解できなくても、出来るであろう?)
「そりゃ、出来るだろ。さっきの祝詞……だったけか? それを言うだけなんだしさ?」
(うむ、ならば問題は無かろう)
なんか話が脱線してるような……
(そうだな……それで、聞きたい事とは何だ?)
思考を読み取られるのって、いい気しないなぁ。
(気にするでない)
「じゃあさ、さっきのバケモノはなんだったんだ? それからおまえ自身が何なのかとかな」
(うむ、我の出来る範囲で説明しよう、これからの主の運命を左右することだしな……)
……
それから一時間ほど《創造》の説明を聞いた……長ぇ。
(以上だ、何か質問は無いか?)
「えっと、まとめるな?」
(うむ)
「お前は《異世界》にも存在する《聖具》ってモノの一つで、その聖具はお互いに力を得る為に壊しあう――」
(うむ)
「今、この町には十個の聖具があって、お前の契約者である俺も命を狙われるって事だな?」
「ここまではあってるか?」
(うむ、詳しくは違うが、まぁ主の知能では仕方なかろう)
なんかムカつくな、コイツ。けど今はそんなこと気にしてる場合じゃないからそれはいい、続きの確認をしなきゃな。
「――俺達を襲ったのは通称《魔獣》で聖具の強い力を求めてこの世界に来た」
「理由はわからないけど人を襲う――っと」
(うむ、間違ってない、少なくとも我はそのような知識を与えられている)
最後の《与えられている》ってのが気になったけど、追及しても仕方ないか。
「後は、能力の使い方だな?」
(そっちの方が重要なんだが、わかったか?)
「そっちは任せろ……っと一つ言っときたいことがある」
(何だ?)
「なんかさぁ、主って呼ばれるのむず痒いんだけど」
(ならどう呼べばよい?)
「一緒に戦うんだからさ……《相棒》ってのはどうだ?」
(相棒か……そうだなソレでよい、これからよろしく頼むぞ、相棒?)
「そうだな、生き残ろうぜ相棒……お互いにさ」

<Interlude-???->
数多も存在する世界……永久の命を手に入れてから数百年。
世界をつなぐ……門の内の世界の中、俺達は次の任務の世界へ移動していた。
また……破壊者達が世界に介入し、平和を侵そうとしている。
「許せるわけない……もう、どの世界も壊させはしない」
俺達のような人をこれ以上増やさない、そう誓った。
「あっちゃん?」
俺の顔をのぞいてくるのは、俺の最愛のパートナー。
「ん? どうしたリズィ――」
俺は俺の世界から彼女しか救えなかった。世界を故郷を……救うことが出来なかった。
そして、永遠の命を手に入れるときに誓った。
俺の力《救い》の名に俺は誓った。全てを救う者……救世主に、俺はなると誓ったんだ。
「――悲しそうな顔してるよ?」
心配そうにリズィが言ってくる。
「大丈夫、ちょっと考え事してるだけさ……」
「そっか、ならいいかな」と、屈託の無い笑顔で彼女は微笑んだ。
――彼女を護る、破壊者たちに侵される世界を護る。それが、俺の救世主たる誓い。

<SCENE006>――夜
「お兄ちゃーん、カレー出来たよー」
二階の自室まで届くような声で、真紅が呼んでいる。
「おう、今行く」
それじゃあ、聞きたい事はそんだけだ、また必要になったら呼ぶよ。
(うむ、なら我も休むとするか……)
そう言い残して《創造》は剣の形を崩して指輪になった。
それを確認してから、俺は自分の部屋を出て階段を降り、リビングに入った。
部屋に入ると中はカレーのいい匂いで満たされていて、食欲をそそられた。――うん、旨そうだ。
「はい、早く座って」
「はいはい」
俺が席に着いたのを確認して、真紅が手を合わす。一緒になって俺も手を合わせる。
「それじゃ」
「「いただきまーす」」
まず最初の一口、スプーンですくい上げ、口に運ぶ。すると、程よい辛さとカレー独特の風味が口の中に広がって行く。うん、やっぱり美味い。
「どう?」
俺が一口目を食べている間は、自分の皿には手を付けていなかった真紅が、味の程を聞いて来る。
「おいしいよ、真紅」
素直に、思ったように感想を言う。酷くシンプルだけど、それだけでも十分だろう。
「ありがと、お兄ちゃん♪」
その俺のシンプルな回答に真紅が微笑む。やっぱかわいいなぁ……って、こんな考え方をするのも既にシスコンの証なのだろうか?
悲しいけど、可愛いモノは仕方ない……認めるのもなんだが、俺はやっぱりシスコンだったみたいだ。
――だからこそ、本当にこの笑顔を守ってやりたいと思うのだろう。
「ところで、さっきの怪物の事だけど……」
さっきまで明るかった部屋の雰囲気が凍りつくように暗くなった。
「結局……どうなったの?」
「さっきも行ったろ、どこかに……逃げていったよ」
「ウソだよ!」
真紅が声を荒げる。嘘をつきたくは無いけど、だけどそれ以上に、真紅を巻き込むわけにはいかない。
――否、巻き込みたくない。だから俺は嘘をついてでも、真紅を巻き込んだりはしない。
「嘘じゃないさ……本当だ」
「……私、すごく心配したんだよ?」
「心配かけてごめんな、ホントに大丈夫だったから」
「うん……わかった、でもほんとに無事でよかった」
涙で潤んだ目でそう言ってくれる真紅。多分、何かあったことはバレているだろう。
でも、真紅は問いただしては来なかった。ごめんな……真紅。
その後はいつものように楽しく、お互い気を使わず夕食を食べた。
「ご馳走様、おいしかったよ」
「お粗末さまでした」
さて……どうするか。
「お兄ちゃん、お風呂入れるから入ったら入ってね」
「あいよ」
さて、風呂が入るまでこのままリビングでテレビでも見るか……

<Interlude-???->――夜
「……またか」
化け物が、今度は同時に三体。
「私は力を持っている、だから戦わねばならない」
そう、力のある者が、無いものを護らなければならない。
「行くぞ!」
体に、全身に、力があふれる。その力に反応してのか、バケモノ三対が一斉に動き出す。
瞬間、一体目のバケモノの一撃が迫る――
地面を一蹴りして後方に飛び――直ぐに動ける体制で着地する。
そして、着地と同時に地面を大きく蹴り再び前方へ――
そのままバケモノの一体の脇腹を両腕の爪で切り裂き、そのまま背後を取るポジションまで跳ぶ。
切り裂いた黒い爪はもう何度その血の色に……赤黒い色に染まっただろうか?
もう一度、着地と同時に跳躍、ただし今回は垂直に飛び、瞬時に蹴るだけの為の足場を作る。
五メートルほど上空へ舞い上がった私は、空中で体を捻り、空中を蹴り、先程のバケモノを頭上から叩きつける様に一閃する――
加速力をを付けた爪は驚く程簡単に、巨体を真っ二つにして地面に沈ませる。
地面に着地して、先ほど腹を割いたバケモノの真横からのなぎ払いをかわす。
そのまま攻撃の直後でガラ空きのバケモノの脇腹を黒い爪で引き裂き、そこから噴出する黒い返り血を浴びながら、地面を蹴り跳躍する。
最後の一体がその私を叩き落そうと腕を振り上げる。――だがしかし、迫る一撃を体を捻りかわし、バケモノから離れた位置になんなく着地する。
そこに全身で、タックルでもするかのように最後の一体が突っ込んでくる。
――が、それを難なくかわし、無防備な背中を黒い爪で一閃する。その瞬間にこの闘いの勝敗が決定した。
最後のバケモノが赤黒い血を噴出させながら膝を折りその場に崩れ落ちた。
「終わり……か」
私は光る粒子になっていくバケモノの骸に背を向けてその場を立ち去った。

――to be continued.

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