EternalKnight
堕ちた者-終-
<SIDE-Leon->
《剣皇》が《墜》の精神世界に入ってから既に十分ほどが経過している。
十分――それは、過去に一度だけ事例がある《墜》を元の永遠者に戻した時にシュウがその時の《墜》の精神世界に入っていた凡その時間だ。
勿論、事例がその一件だけである事から、それが速いのか遅いのかすらも判断出来ない。だがそれでも、ほぼ同じ条件で、シュウはそれを十分程でこなしていた。
まぁ、実際の所は個々の手際にもよるのだろうし、一概にはなんとも言えない。
否、そもそも初めて実行すると言う条件が同じだけで、仮にもアカシックレコードに接続できるシュウと比べるのは酷な話なのだが――
まぁ、それでも《墜》の周囲に微弱ながら吹いていた黒い風が消えた辺り、先に契約していた聖具をどうにかする事は出来て居るらしいので、心配には及ばないだろう。
……――否、どうやら俺の他人の心配をしている暇は無いらしい。
まぁ、守護者である事を考えれば、当然そうなると予測出来た範囲の事なのだが……長い間引きこもっていたせいか、今の今までまったくその展開を想定していなかった。
「拙ったな……つーかこの状況、どうやって説明するんだよ……」
そんな愚痴を漏らしつつ、少し離れた場所に形成されていく門から目を逸らす様に見上げた空は、先程と変わらず雲ひとつ無く晴れ渡っていた。

<SIDE-ImperialSword->
そうして、黒の帳で覆われた世界は色を取り戻し始める――恐らく《墜》化も解除されたと見て良いだろう。
「ここは……?」
色を取り戻し始めた世界を見渡しながら、ハヤトは小さくそんな風に言葉を洩らした。
それもそうだろう、黒の向こう側に広がっていた風景もまた、ただの一色だけで構成される世界だったのだ。
否、コレを一色と言うのは些か風情がなさ過ぎる気もする――が、一色として以外では表現できない色が、この世界を、ハヤトの内面世界を構成している。
それは深く、そして高く、どこまでも続くような――空の色……空の様に青くて蒼い、小さな世界だった。
ここが、俺の契約者の世界――か。まぁ……悪くは無いだろう。
「ここは、何処だ? えっと……《剣皇》――で良いんだよな?」
(呼び方は好きにしてくれて良い。長い付き合いになるだろうし、堅苦しいのはやめといた方が良いとだけは言っとくがな)
と――そうじゃない、この世界の事を聞かれてるんだったな、今は――
(――で、だ。この世界の事なんだが……なんと言うか、お前の心の中にある世界だ――って、言われて信じられるか?)
「……俺の内側にある世界とやらが、なんで空みたいな色一色なんだ? さっきまでだって黒一色だったし……」
まぁ、当然そこに疑問は行くだろう――が、そんな事は俺に聞かれても分からない。そもそも、内面世界に入る機会など普通は滅多に無いのだ。
(黒かった方の理由はお前が化物だったから――なんだが、今の空色の世界については俺にもわからない。何せお前の心の中だからな)
そもそも、内面世界の風景は個々に違う物である筈だ。
あくまでそれを形成する者の心がなんらかの形で影響して作られる世界である以上、同じ物など先ず有り得ないと言って良いだろう。
――まぁ、無限に等しい程魂が存在する以上、似たような世界は探せば存在するのだろうが――同時にそれとめぐり合う事も滅多に無いと言って良いだろうが……
「そうか――けどまぁ、そんな事はどうでも良くなった……《剣皇》お前今、化物だった――って、言ったよな?」
(あぁ、言ったな――……所でハヤト、俺の呼び名はそのままシンプルに《剣皇》で良いのか? 長い付き合いになるんだしもっと愛称的な呼び名の方が――)
俺個人としては、レオンが彼の聖具をシュウと呼ぶ様に――もっと親しい感じで呼んで欲しいのだが――まぁ、ハヤトがそう呼ぶと決めたのなら仕方ないだろう。
念の為に、一応最終確認のつもりでそう聞こうと思ったのだが――
「そうか、俺……元に戻れたんだな……」
――そんな風に感慨に耽るハヤトの耳に、その声が届いたとは思えなかった。

<SIDE-Leon->
さて――この状況はどうすれば収まるんだろうか?
目前には眉を顰めるアリアの姿が見え、足元には《剣皇》が内面世界にて説得を試みているだろう《墜》が倒れ付している。
俺の視点から見ればこの程度だが、アリアから見れば訳の分からない事だらけだろう。
自分達の代わりに戦っていた筈の二人が一人に減っており、自分達と敵対し戦っていた相手は地面に倒れたままピクリとも動かない。
――俺がアリアの立場なら、まず何処からツッコムか困る状況だな、コレは……
「……とりあえず、この状況がどう言う事なのか説明してほしいんだけど?」
――等とくだらない事を考えている間に、アリアが在り来たりな……それでいてそれ以上に返答に困る事は無い質問を投げ掛けてきた。
否――まぁ、真っ当な奴ならこの状況でそれ以外事を聞けないと思うが……
しかし弱ったな……どうやって言いくるめれば良いのやら……
本当の事を話すのは論外だとしても、嘘を並べて誤魔化すのもまた、難しい。
故に、出来うる限り本当の事を話し、どうしても話せない部分のみを嘘にした方が無難だろう。
――それでも、織り交ぜた嘘が矛盾を生まない様に気をつけなければいけない……俺に、それが出来るだろうか?
まぁ――出来る出来ないはこの際関係ない……何にしたってやるしか無いのだ。そして、此処での沈黙に意味は無い。
「この状況っていうとアレか? 地面に倒れてる《墜》の事とかか?」
先程のアリアの質問に対して、僅かな思考時間分――ホンの一息の間だが、間が空いた……
「それも含めて、ここに居ないアンタのツレの話も聞きたいし、他にも色々と聞きたい事は幾らでもあるわ」
……まぁ、考えれば――否、考えるまでも無く、俺とアリア達には面識が無い――故に、互いの事など何も知らない。
ならば、聞くべき事ぐらいなら幾らでもあるだろう――まぁ、俺は知りたいとは思わないので何も聞く気は無いが……
「成る程――なら、とりあえず今この瞬間に聞いておく必要がある物の事だけ聞いてくれ――関係の無い質問は、後で十分だろう?」
事前にこう言っておけば、今は最低限の質問しかしてこなくなる筈だ――結局は問題の先送りでしか無いのだろうが、考える時間があるだけ後回しにした方が良い。
下手な質問をされてその返答でボロを出し、嘘を見抜かれでもしたら面倒な事この上無い。
もっとも、嘘が嘘とばれてもそこから真実を知られる等と言う事はまず有り得ない話しではあるのだが――
それでも、嘘をついていたという事実自体がマイナスの要素になりうる――それでは意味が無いのだ。
偶然とは言え守護者のメンバーとコンタクトを事前に取れ、そこからの仲介でセルと合いやすい状況が出来つつある今、それは絶対に避けたい。
否、そもそも――嘘だと思われれば《宮殿》到着時の手間が寧ろ増えるぐらいなのだ……それこそ本当に最悪だ。
《剣皇》の契約者の件も俺には何のメリットにもなら無い以上、ここでの時間は本当に無駄以外の何物でもなくなってしまう。
故に、よく考える必要がある。何を隠し、何処まで教えるのかを――
「だったら――まず一つ……貴方と一緒に居た筈の……一緒に戦っていた筈のウォーケンはどうしたの?」
まずはそこから――か。だが、そもそも今この場で聞く必要のあるの質問は二つしかない。
《剣皇》の行方と《墜》について――その二つだけだ。
故に、答を用意するのは簡単だった。出来れば《墜》について触れてくれてからの方が《剣皇》の件は説明しやすかったのだろうが、仕方ない。
短い時間で捻り出した嘘を、真実の中に混ぜる。無論、その過程でどうでも良い事が嘘になったりしたが、それは些細な問題だろう。
「それを説明するには、まず一つ――アンタの勘違いを解消させる必要がある……否、この場合隠していたこっちが悪い事になるんだがな」
勘違いの解消――コレは事実だ。まぁ、コレも出来れば知られたくなかった類の話なのだが、コレを認識してくれなければ話が進まなくなるが故に、真実を語る。
「勘違い? まぁ、それは良いとして隠してたって、何をよ?」
「正しくは騙していた……になるんだがな――なんと言うか、そもそもウォーケンなんて聖具使いは居ないんだ……あれは聖具が人の形を取ってただけだの存在なんだよ」
人型に慣れる聖具――人として形を保つ聖具……そんな聖具は非常に稀有にだが、しかし確実に存在する。
《擬態》の様に能力として人型になれる物もあれば、待機形態が人型である物、他には聖具としての本来の形状が人型である物――等、様々なタイプがある。
まぁ、滅びる寸前のエーテル存在を同化して取り込み、その肉体の情報を再現する事で人型になり、かつ自ら眷属を武器として戦える《剣皇》は特殊な例になるのだが――
流石に守護者所属なら、その程度の知識は持っているだろうから、此処で話が途切れる事は無いだろう。
「……答えになって無いわよ? 貴方の言う事を信じたとして、ウォーケン……貴方の仲間が居なくなっている事実には何の代わりも無いわ」
「言っただろ? 説明するには前提としてそれを知っておいて貰う必要があるんだよ」
その前提を認めてくれなければ《墜》と契約する為に精神世界に潜っていると言う事実を伝えた所で、意味が無いのだ。
「……それを信じるとして、結局ウォーケン……その聖具は何処に行ったのよ? 見たところ、貴方が持っている訳でもなさそうじゃない」
「あぁ、俺は持ってない――アイツが居るのは、今此処で倒れてる奴の内面世界の中だ」
そう言いながら、足元で倒れている《墜》に視線をやった――その視線の先を追う様に、アリアの目線も動く。
今此処で倒れているのは《墜》だけなのにアリアが態々俺の視線を追ったのは、その事実を認めれなかったからだろう。
まぁ、真っ当に考えれば有り得ない話な訳だし、当然と言えば当然の反応か――
《墜》存在を救うことは出来ない――彼等に声は届かない。一瞬でも早く消してやるのが彼等への慈悲となる。
それが――少なくとも五百年程前までの――一般的な《墜》存在への解釈だ。そこから考えれば、俺の言っている事は半ば暴論に近いだろう。
「……それを証明する方法は?」
疑念に満ちた表情でアリアは俺に問いを投げ掛けてくる――だが、その言葉に対して間髪要れず「――悪いが無い」と、短く応える。
その返答に対してアリアは一呼吸分程の間を置いて「なら《墜》の内面世界に入った目的は?」と聞いてくる。
証明は出来ないが、目的なら判る――否、そもそも聖具が他者の内面世界に干渉する理由など、一つしか無い。
――つまり、アリアはまだ事実を認めれないのだ……或いは、認めたくないのかもしれない。だから、はっきりと告げる――《剣皇》の目的を。
「《墜》存在を元に戻し、かつ自らの契約者にする事――だ」
「無理よ、そんなの……一度《墜》化してしまったら、元には戻れな筈……いいえ、絶対に元になんて戻れないわ」
……何故そこまで否定するのか――絶対に戻れないと言う保障は何処にも無い。寧ろ絶対に戻れないと言う事を証明できる理由など有り得ないのだ。
「それは思い込みだ――事実として俺は過去に《墜》から元の永遠者に戻った奴を一人知ってるし、元に戻るときにその場に立ち会ったんだからな――」
と、そこまで言った所で、地面に倒れたままピクリとも動かなかった《墜》の体が、かすかに動いた気がした。
瞬間、アリアは半歩、後ろに下がって距離を取る――だが俺は動かない。動く必要が無い。
四肢は肥大化したままだが、既に、獣の様な獰猛さを剥き出しにした本能の力を、感じない。
そうして、俺とアリアに見られながら《墜》だった男が上体を起こしてから、ひとしきり周囲を見渡して、俺に問う。
「アンタが、レオンさんか? 《剣皇》に聞かされたイメージと随分違うけど……まぁいいや――俺は新しく聖具《剣皇》の担い手になったハヤト=イケガミだ、よろしく」
言葉を、発した――知性の無い叫び声ではなく、知性の宿った言葉を――それは紛れも無く、彼が《墜》ではなく永遠の騎士である事を意味する。
そして、その姿を見ながら、アリアは呆然と立ち呆けている。
それを知ってか知らずか、先程まで《墜》だった男――ハヤト――は「あぁっ!?」と、素っ頓狂な声を上げて、俺を見た。
「これ、この腕どうなってるんだ、それに足も――なんかデカイ、デカイよな、コレ――なぁ、レオンさん、コレどうなってるんだよ?」
何故俺に聞く……ってか予想以上に明るいキャラだな、コイツ。どんな方向に心の歪みなおしたんだよ《剣皇》の野郎……
と――そうじゃない、落ち着け俺。状況を冷静にまとめよう――うん、それが良い。
「落ち着け、ハヤト君――君がさっきまで《墜》存在だったって言うのは《剣皇》に聞いてるな?」
冷静に、ハヤトやアリアだけでなく自分も落ち着けるように、状況をまとめる――俺の考えが正しければ、少なくともそれでハヤトの方落ち着く筈だ。
「それは聞いてるけど――だけど、俺はもう元に戻ったんじゃないのか? この腕とか足とか見る限りとてもそうは見えないんだが……」
やはり、ハヤトは《墜》化の原理をしっかりと理解出来てない――否、説明が及んでいない辺り《剣皇》も理解してはいないと考えた方が妥当だろう。
「否、お前の《墜》化は既に解除されてる――そうやって、理性を持った意識が表層に出てるのが何よりの証拠だ。まぁ、その体も徐々に元に戻っていくさ」
精神の歪みが肉体を徐々に人から遠ざける事で《墜》化は進むのだが、一度変質した物はすぐには元に戻らない。
故に、精神の歪みが直った所で、そこから元の形状に戻るのには時間がかかるのだ――歪みによって肉体を変質させたのと同じだけの時間が――
「それは……どのくらい掛かるんだ?」
不安そうに、ハヤトがそう俺に問う――だが、ハヤトのコレまでの過程を見てきて居ない俺にはそんな事は分からない。
「さぁな――そこまで変質するのに掛かったのと同じだけの時間が掛かるってのは確かだ」
まぁ、変質しているのは、歪に巨大化している四肢だけな辺り、元に戻るのにそれほど時間はかからないのだろうが――
「……まぁ、それも仕方ないか」
俺の言葉を聞いて、一瞬落ち込んだ様に見えたハヤトだったが、それをすぐに打ち消し、起こしていた上半身を再び倒すように地面に大の字に寝転んで、そう紡いだ。
「所で……貴方達、私の事忘れてない?」
その声で、忘れかけていた――否、出来れば考えたく無かった事を思い出す……そうして俺は、声の聞こえてきた方へと視線を移す。
そこには、当然アリアの姿があった――そう、彼女への説明がまだ途中だった。ハヤトが目覚めた事でうやむやになればと思っていたが……そう上手くはいかないらしい。
もっとも、今の俺とハヤトの掛け合いで《墜》は上手くすれば元に戻せるって所は理解して貰えただろう。まぁ、それ以外にもまだ質問は山の様にあるのだろうが……
「忘れて無いさ――で、これで分かっただろう《墜》化しても元に戻せるってな?」
「それは理解できたけど、貴方達さっきから《剣皇》って言ってるけど、それって二八士の《剣皇》の事――よね?」
今度はそっちか……まぁ、それに関しては誤魔化す方が面倒だし、そこまで必死に隠したい事でも無い。二十八士は……SSSは他にも何人も今も存在している訳だし。
……俺が完全なる六の一柱だとばれるのに比べれば、些細な問題に過ぎない。
「あぁ、そうだ――因みに、ウォーケンはその《剣皇》その物が自分の力で創った仮の肉体で、持ってた《剣聖》は自ら力の断片だった――ってのが真実だ」
「成る程、それなら全部が上手く繋がるわね……――《剣皇》が自分の契約者を探して回っているって言うのも、セルさんから聞いた事はあるし……」
あぁ、そう言えばセルにそんな話した事もあったっけな……まさか、その話がこんな所で役立つとは思っても見なかったが――まぁ、運が良かったと素直に喜ぶべきだろう。
「でも、それだと貴方は何物なのよ――二十八士の《剣皇》と共に行動してて、セルさんとも知り合いで、《墜》化の解除方まで知ってるなんて……只者じゃないんでしょ?」
……もっともな話だ。今アリアが上げた三つの点から考えれば、どう考えても並の永遠の騎士で無い事ぐらい分かる。
――だが、正体をばらす訳には行かない。気が付かれてもいけない――それだけで……存在に気付かれるだけで、広域次元世界全体が動きかねないだけの、存在だから。
「そうでも無いさ――俺はただ、無駄に長く生きてるだけのSクラスだよ……それが真実だけど、信じる信じないはお前の判断に任せるさ」
どちらにしたって、本当の事を教える気は無い。どちらにしても、時が来れば自然にバレる事にはなる。
――もっとも、俺自身はその時が来ない方が良いとは思っているのだが……
「――で、だ。《墜》に関しては決着がついた訳だけど……コレからどうする? 俺としては早く《宮殿》に行きたい訳なんだが……」
そう――俺の目的はそっちだ。《墜》に関しては《剣皇》の為もあったし、仲介を得る為でもあったが、あくまで俺にとってはついでに過ぎない。
今こうしている瞬間も、破壊者側の準備は進んでる筈なのだ――否、下手すれば既に侵攻を開始したかも知れない。
仮に全く動いて居ないとしても――一秒でも早く守護者側も準備を始めるべきなのだ――何にしても準備をするなら、早いに越した事は無い。
「まぁ、貴方の正体がなんであれ、敵って事はなさそうだし――連れて行って上げるわ、宮殿まで。それで……そこで寝てるハヤト君は、どうするの?」
「さぁな……本人の意思に任せるさ――で、どうするんだハヤト? 俺達と一緒にくるか?」
契約者が見つかった以上、《剣皇》との約束は果たされた事になる。そして今、判断を下すのは《剣皇》では無くその契約者たるハヤトに委ねられている。
投げ掛けた俺の言葉に反応して、ハヤトは身体を寝転ばせたまま、その応えを返す。
「いや、悪いが俺は遠慮させてもらう――何せこの身体だしな、これじゃあ見た目、正義の味方は名乗れそうにないし――しばらくはこの世界に留まっとく予定だ」
正義の味方――ねぇ? 成る程、そう言う方向性を持たせて《墜》化を解いたのか……まぁ《剣皇》らしいっちゃ、らしいけどな。
「そう――でも、残るなら群がってくる魔獣や、破壊者の連中に気をつけてね――成り立てのSSSって、特に破壊者に襲われやすいみたいだから」
と、それだけ言葉を残して、アリアは地面に寝たままのハヤトに背を向けて、瞳を閉じた――恐らく、門を形成するつもりなのだろう。
……俺が作れば一瞬なのだが、もう創り始めているアリアにそれを言うのも忍びない気がして、それをせずにハヤトの方に視線を移す。
「それじゃあな――《剣皇》によろしく頼むぜ、ハヤト――」
「……あぁ、しっかりと伝えとくよ――それから、俺もこの腕とかが治ったら……俺もあんた達の元に行くよ」
今度は上体を起こして、決意の灯った眼差しでハヤトはそう告げる――それが、何の為の決意かは問うまでも無い。
俺の居る場所……否、俺がこれから向かう場所は、近い内に大きな戦いの場となる。その場を、自らの初陣にするつもりなのだろう。
正義の味方としての、初陣に――
「あぁ、好きにしろ。俺にはお前の行動に口出しする権利なんて無いからな……お前の思うように、生きれば良いさ」
そこまで話した所で、門の出現を感じ取り振り返ると、アリアの目の前に見慣れた門が構築されていた――準備が、整ったらしい。
それを見て俺は「じゃあな、ハヤト――また会おう」短くそう告げて、ハヤトに背を向け、アリアの元に歩み出した。
目指すは宮殿――守護の永遠の騎士の拠点。そこで待つのは、破壊者達との戦い。そして恐らく数千年ぶりの……奴との再会。
目の前には門の前に立つアリアも姿が見える――その脇を抜けて前に出てから「それじゃあ行くか」と、短く背後のアリアに声をかけて、その答を待たずに俺は門を潜った。

――to be continued.

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