EternalKnight
<強き獣>
<SCENE074>・・・昼
「さてっと、ここならいいだろ」
この公園で戦うのは――
なんだかんだでもう三回目だな。
[メキッ]
何もない空に……ヒビの入る音が聞こえてくる。
[ベキッ]
――今までと何か雰囲気が違う?
[バキンッ!]
そして、そいつは現れた。
熊のような、三メートルはあろう黒い巨躯――
腰の辺りまで届く銀の髪――
銀の髪の隙間から生えた二本の角――
両の手足についた研ぎ澄まされた鋭利な爪――
長く鋭く伸びた、食らいついたモノの命を刈り取る牙――
赤く輝く三つの眼――
「グヲォォォォオオオオ!!!」
「こいつ、やべぇな……」
オーラの量が……ではない。
確かにオーラ量もすごい、あの優男に匹敵しているだろう。
だがしかし……こいつを見ていると恐怖が全身を支配しそうになる――
俺は……何に脅えている?
答えは解らない――
こいつが放つ殺意になのか、オーラになのか――
その禍々しい姿になのか?
だけど……決して俺は恐怖に屈しない。
俺には……相棒と真紅がいるから――
「ソード、オブ、クリエイション」
静かに、けして恐怖に負けぬように、俺は祝詞をあげた。

<Interlude-聖五->・・・昼
少年はひたすら走って俺達から逃げる。
少年を追いかけるのは俺と、少年の友達……
少年達はどちらも中学生ぐらいだろうか?
そんな彼等に俺が追いつくのに時間は要らなかった。
後ろを走っている少年を追い抜かす――
「って、あんた誰だよ!」
「それは後だ、とりあえず翼君を捕まえよう」
「何で翼の名前知ってんだよあんた……知合いか?」
「いや、さっき君が叫んでたの聞いただけだけど――」
「でも、なんかほっとけなくてさ」
「変な人だな……まぁいいや――」
「って……話してる内にどんどん引き離されてるんだけどぉ!」
「俺が全力で飛ばせば追いつくさ――」
「じゃあ、捕まえたらその場に俺は居るから君も来てくれよ」
「わかったよ、あんたに任せた」
「おう、任せろ」
俺は前を走る少年に追いつくため一気に速度を上げた。

<SCENE075>・・・昼
右の手に光り輝く銀の剣を――
左手には限りなく深い紅の剣をそれぞれ構える。
形の同じ――
色違いの二つの刃を構えて、魔獣を見据える。
「ォォォ……」
魔獣も動きを止めて……こちらを見据える――
(厄介だな……)
優男より少しオーラ量は劣るが――
優男には根本的になかった何かを――
この魔獣から感じる。
人間からは決して感じないモノ――
純粋な恐怖を……
でも、恐怖はもう何度だって乗り越えてきた。
――今更何を恐れる?
(そうだ、怯えるな相棒)
(妹に恥ずかしい姿など晒したくないだろ?)
「当たり前だっての……」
突然、今まで動かなかった魔獣が体勢を低くしてしゃがみこんだ――
顔も下を向いている――
何を……する気だ?
魔獣がその顔を上げた瞬間――
魔獣は地面を蹴り、一瞬で俺の元に到達する。
十メートル近くあった距離は一瞬で限りなくゼロに近づく――
速い!?
目では追えるが……体が対応しきれない。
一瞬で脳内に強固な盾をイメージするが――
今からじゃ……詠唱があるから間に合わない!
次の瞬間――
俺の目の前にはいびつな壁……いや、盾が展開されていた。
「これは……」
魔獣の攻撃は盾によって阻まれている。
どうなったん……だ?
(発動が間に合いそうに無かったのでな――)
(強引に構築概念を無視して作り上げたのだ)
強制発動か、構築概念を無視ってことは――
(うむ、防御以外では使用できん)
防御専門の能力か……それでも十分使えるけどな。
っと……少し体が重いな――
まぁ《クリエイション》を使ったんだし当然か――
魔獣は再び一定の距離をとり――
体勢を低くしてしゃがみこんだ。
またあの攻撃か……
あれなら横移動をすればかわせる。
いや、あの速度が相手じゃ……動いてからじゃ遅い。
頭で理解できたところで体は動かない――用はかわせない。
ならば――
顔をあげた瞬間に移動すれば、攻撃に当たることはない。
魔獣が顔をあげる……今だ!
横方向に移動を開始するが――
魔獣は動かない……いや、俺の動きを見て踏みとどまった?
そして……俺が着地した瞬間――
魔獣は地面を蹴り、俺のいる場所に一瞬で跳躍してくる。
くそッ、またか!
脳内で再び盾のイメージを完成させる――
また詠唱をする時間がない。
瞬時に目の前でいびつな盾が構築されていく。
魔獣の攻撃は盾に阻まれて俺には届かない……
くそっ……このままじゃ、いつか俺がへばっちまう。
体から力がまた少し抜けていくのがわかった――
へばっちまう前に……こっちから攻撃をかけてしとめる!
地面を蹴り魔獣に接近していく……
《創造》で魔獣を斬りつけようとするが――
振るった刃はあさっりとかわされてしまう。
「あたらねぇ!?」
いや……あの速度を出せる相手に攻撃が当たらないのは当然・・・か。
魔獣は腕を振り上げて俺に攻撃を加えようとするが――
腕での一撃はたいした速度じゃない――
体制的にはかわせないけど――
かわせなくても防御くらいはできる!
《真紅》で攻撃を止める、たいした衝撃もない――
むしろ今までの魔獣にも劣るかもしれない。
(なるほど、やつの武器は速さか)
どうやらそのようだ――
いかに威力が低くても……あの速度でぶつけられては話は別だ。
(しかも恐らく脚部限定のものだろう)
それなら希望も見えなくはないか……?
速くても、停止している時間はある。
後はそこに相手の予想外の一撃が決まれば……いけるか?
魔獣が再度体勢を低くしてしゃがむ。
――このタイミングだ。
今ここで、相手の背後から槍を打ち出せば……
いくら速くても、攻撃があたってしまえば同じ事!
脳内で槍を思い描く……
「クリエイション!」
槍を魔獣の背後に構築して打ち出す。
しかし――
魔獣は背中に目でも有ったかのようにそれを回避する。
ばかな……あの攻撃に気づいたってのか!?
(エーテル探知……)
なんだよ、それ?
(あとで説明する)
(それよりも……クリエイションは防御にしか使えんものだと思え)
「どうして!」
(仕方ない、簡単に説明するぞ?)
頼む。
魔獣がまた体勢を低くしてしゃがみこむ――
(魔獣はオーラを探知する力がある)
それは最初の夜に聞いた!
(その力の延長で稀にエーテルの微弱な変化を読み取れる魔獣が存在する)
それがいったい……クリエイションが使えないのに何の関係があるんだよ?
(発動時……物質を構築する時にエーテルをを使っているんだよ)
(――クリエイションはな)
《創造》の能力は最初からそういう能力なんだから文句は言えない――
次の瞬間、魔獣が顔を上げる。
さっき同様、すぐに動こうとせず顔を上げた状態で、停止している――
今できることは、できるだけクリエイションを発動しない事のみ。
その為にはこの攻撃を防がなければいけない……
《創造》と《真紅》を交差させて攻撃に備える。
次の瞬間、魔獣が地面を蹴り俺の元に接近してくる――
[ガキイィン!]
「クッ……」
突進に近い攻撃を二本の剣で何とか弾く。
魔獣の攻撃を何とか弾く。
――が、魔獣はすぐさま次の攻撃のモーションに入る。
俺も体勢を立て直しながら防御の構えをとる――
再び突進――
[ガキイィン!]
このままじゃまずい……
どうする、どうすればいい?
[ガキイィン!]
このままじゃいつか……こっちの体力が底をつく。
バケモノと持久戦して勝てるとは初めから思ってない。
エーテル探知、それさえなけりゃ……待てよ?
知能が低い、エーテル探知、なら一つだけ方法があるか?
(その方法なら行けるか?)
どの道、今はそれ以外この状況を抜け出せそうにない。
「それしか……ないな」
「グヲォォォオオオ!」
魔獣が咆哮をあげて迫まってくる――
[ガキイィン!]
弾かれた魔獣が体勢をおろしてしゃがみこむ。
恐怖は……今でも体を蝕む――
だけど、ここで恐怖なんかに飲まれない。
いや……これからも、恐怖に負けはしない。
――負けるわけにはいかない。
俺は真紅と共に戦っていくのだから。
かっこ悪い所なんてみせたり出来ない――
決意は出来た、もう怯えない……そして、迷わない!!
勝利を引き寄せる為に脳内に三本の槍を組み上げる。
魔獣が顔をあげる――
このタイミングだ!
「クリエイション!」
三箇所で槍が構築され射出される。
俺は地面を蹴る――
あらかじめ、どこからどう打ち出されるのか魔獣には解っている。
そのエーテル探知の能力によって――
かわすのは簡単だろう、打ち出された三本をかわすコース。
知能の低い魔獣は、何の躊躇いもなく――
最も簡単なコースを選ぶ。
平面的な三方向から迫る攻撃――
それを最も簡単にかわすにはどうするか?
答えは《跳躍》である、つまり真上に飛ぶ――
すぐに次の攻撃にするなら間違いなく全力ではなく、攻撃をかわす為に飛ぶ。
空中ではどんなに元が早く動けようとも、速度を変えれたりはしない――
飛行の為の能力を持たない生物は、必ず一定の速度で落ちるのだ。
つまり、スピードが最強にして唯一の武器であるあの魔獣は今――
限りなく無防備だという事だ。
魔獣が着地する前に一気に距離を詰める。
「ハァァァアアア!」
二本の剣を振り上げて《創造》から先に振り下ろし、魔獣を袈裟斬りにする。
[ズバァ!]
「ゴォァァアアアア!」
魔獣の叫び声……すでに魔獣の巨躯は地面に到達している――
が、叫び声をあげているだけで動こうとしない。
いや、ダメージが大きくて動けないのか?
だが、光の粒子にならない限り消滅した事にはならないのは解っている。
故に、振り上げたままの《真紅》を振り落として、止めを刺す。
[グシャァッ!]
振り落とされた刃は……魔獣の頭部を二つに斬り裂いた。

<Interlude-聖五->・・・昼
追いついた!
俺は走って逃げる少年の腕をつかんだ。
「まて、落ち着くんだ!」
「!? 誰だよ……お前!」
む、いくら知らん奴でも年上への口の利き方かそれは?
まぁそんなこと言ってたら話が進まないんで、素直に答える。
「俺の名前は、西野聖五ってんだ――」
「君は……三枝翼君でいいんだよなぁ?」
「それがどうしたんだよ!」
「ソレより、なんであんたが俺の名前知ってんだ?」
「それはだなぁ……アレだけ大声で追いかけてる子に名前呼ばれてたからなぁ」
「苗字は何で知ってんだよ?」
「家の前で話してたオバサン達があの家の次男の話になった時に走り出したからなぁ」
「……そうか、お前はあのとき近くに居た奴か」
少しは話易くなってきたな、ここは一発言っとくべきかぁ……
「そうだ、それからなぁ――」
「見ず知らずの人には敬語とまではいかなくても――」
「そんな言い方はするべきじゃないぞぉ?」
「別に……俺の勝手だろ?」
「そりゃ、お前の自由だけどさぁ?」
「そう俺の自由だ――」
「それとどうして話し聞いてただけの奴がこんなとこにいるんだよ!」
「うーん、なんとなくほっとけなかったから・・・かなぁ」
そこに、さっきの追いかけてきていた少年が追いついてきた。
「捕まえてるジャン」
「なんだぁ? 裕太の知り合いか?」
「おぅ、さっきそこで……」
少年が来た道を指差しながら言った。
翼は不機嫌そうな顔している――
「まぁいい、で……結局あんたは何で俺を追いかけてきた?」
「さっきも言ったろ? ほっとけなかったって」
「そんだけじゃないだろ?」
「まぁ、他にも聞きたいことはあるけどな」
「他にも? そっちが本命だろぉが」
「違う、俺は純粋にほっとけなかったから、お前を追いかけてきたんだ!」
「信用できねぇな、そんな事なんか!」
「翼ぁ、さっきから聞いてりゃお前らしくないぞ?」
「……」
「お前、お袋さんの事……」
「ほっといてくれよ!」
翼はまた走り出した……
「まてよ! 翼ぁ」
雄太君も走り出そうとするが、それを俺が抑えた――
「ストップ、今追いかけても同じことの繰り返しだ」
「でも!」
「帰ってくる場所なんてわかってるんだからさぁ、それより――」
「それより?」
「彼の事、少し聞いていいかな?」
「はい、でもその前にお互い自己紹介しません? とりあえず」
「あぁ……そうだな」

to be continued・・・

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