EternalKnight
外世界放浪記-始-
<PROLOGUE-AFTER->
閉じた瞳を、静かに開く――俺にはまだ、やらなければいけない事があるから。
《完全なる六》その全てを――否、少なくとも危険因子である《真理》と《根源》を――封印、或いは目に届く範囲で監視する、それが……俺に与えれらた使命。
それが……《世界》と交わした契約。故に、今現在契約者の居ない《真理》を封印する為に俺は動かなければならない。
そこに義務は存在するが、そんな物等無くても俺は《真理》と戦うだろう。奴は今や俺にとっては親友の仇同然なのだから。
「なっ……で……」
瞬間、声を――否、零れ出た音を聞いた。
どうしてすぐにでも《真理》を追いかけ様としなかったのか? 一秒でも早く、奴を叩き潰したいというのに――絶対に彼女にこの状況を見られる訳には行かなかったのに。
漏れ出た声は――今、一番この場に来てはならない……絶対にこの状況を見られてはならない彼女の物で――
その声で俺は――これから先に起こりうる中で一番最悪の未来が自分を待ち受けているだろう事を悟った。
だけれど、もう引き返せない。引き返す事等許されない。それでも俺は――約束を守ろう。親友との、大事な約束を――アイツの妹を見守ると言う、ただそれだけの事を。
例えその見守る対象から、俺自身が恨まれたとしても――この命が、或いは彼女の……フェディスの命が散るまで、見守り続けよう。
だけれど、その前に……《真理》を追わなければ行けない――奴を封じれば、俺は彼女の《根源》だけを監視し続けられるから。だから――
「なっ……で、なんでっ! 何がどうなってるのよ、レオンっ! ――どうして貴方が兄さんをっ!」
悲痛な叫びが響く――だけれど……説明した所で、彼女は俺を許してはくれない。
今まで俺達の聖具がどういう存在なのか知りもしなかった彼女に――俺達が隠していたせいで知っている筈がないフェディスに――状況を説明している時間は無い。
納得させられるだけの時間は無い。今は《真理》を追わなければ行けないから。
「すまない――今は説明してやるだけの時間が無いんだ、フェディス」
その言葉を、彼女がどう取ったのか俺には解らない。解らないが、彼女の抱いた感情なら判った。――言うまでも無く、それは憎悪だ。
それでも――憎まれる事くらい分かっていたから、だから俺は、そのまま目の前に門出現させて《真理》を追う為にその中へと飛び込んだ。
彼女から逃げる様に……《真理》を封印する為に――

<SIDE-Leon->
虹色の空間を移動しながら、昔の事を思い出していた。――八千年……否、九千年程前の事だったと思う。
《世界》から完全なる六としての力を託された時からは百年程後の事だと思う。
(先程から『だと思う』ばかりだな、レオン――もっとも、あれほど昔の事を細かく一桁代まで何年前だとか覚えていても気持ち悪いだけだが)
……別にいいだろ、昔の事を思い出してるだけなんだし――否、あの約束は今でも続いてはいるんだけどさ。
しかし、果たしてこれは、約束を守れているといえるのだろうか? 俺には、そうは思えない――
コレでは、見守るどころか単に《根源》が復活しないように見張っていると言った方が正しいだろう。
否、すぐ近くでマークしている訳じゃない以上、見張ってすらいないと言える。
これでは約束ではなく『世界』との契約内容をただ実行しているだけにすぎない――やはり俺は、約束など守れて居ない。
(見守る――な。それもあれだけ恨まれていれば不可能な話だろうさ――それに、お前が見張らなければならないのは《根源》だけじゃない)
そうなのだ《創世》が眠りについている今、彼がその眠りから醒めるまで、少なくとも俺が他の完全なる六を押さえる抑止力にならなければならない。
そのせいで約束を守れないなどと言い訳する気は無い――事実、此処百数十年、俺は先程までいた世界から外の世界には出ていないのだから。
暇は、十二分にあった。それでもフェディスを見守ることさえ出来なかったのは、シュウの言う様に、俺が敵だと彼女が今でも思っているからだ。
そしてこの誤解は、既に未来永劫解ける事は無いだろう。――あの時、俺が手短にでも説明していれば、また違う未来もあったかも知れない。
だけれど、過去を悔やんでもしょうがない――過ぎ去った時を取り戻す事など、例外が無い訳ではないが、まぁ出来はしないだろう。
その唯一の例外と言えるだろう《時空》でさえも、あれだけ昔には遡れない――それこそこの広域次元世界全てに匹敵する量のエーテルでもなければ、戻れる筈が無い。
(逆に言えば、この世界にある全てのエーテルを使えば、不可能ではないかも知れない、と言う事だがな)
この世界の全てのエーテルを集める……それは即ち、全ての世界、全ての生命を終わらせて自らの糧にすると言う事だ――そんな事が許される筈など無い。
否、そもそも俺は巻き戻しの詳しいルールを知らない。
時を司る聖具のセオリーでいけば、時間を切り取られた物と、その能力で使用したエーテル以外が過去に戻る筈なのだが――
そうなれば、どうなるのだろう? 全てがエーテルに換わって、それが能力として消費されれば、世界はどうなる?
構成するエーテルが消費されてしまった以上、時間が戻った先にはエーテルが無い、そうなれば世界は形を作る事が出来ない。
それはつまり――究極の過去の改竄。全てを零に戻す方法。
……まぁ、流石にそんな事はありえないだろう。そもそも、実行できる存在が居ないだろうから確認のしようが無い。――まぁ、確認なんぞしたいとも思わないが。
(……そもそも、あの規格外の迷宮を作り出せる《時空》の能力が、時を司る聖具のセオリー通りだとは俺にはどうしても思えないんだが)
まぁ、そりゃそうか――等と、無駄な思考をしている間に目的の世界の座標に近付いてくる。
目的もなく外の世界を漂っていた訳ではない。しっかりと計画した行動を行っている。
まず、今後をどうするか決める為に現状を把握しにいく。現状の把握――その為に、知り合いの情報屋の元にこうして訪れる訳だ。
目的の座標にたどり着き、その世界――と、言っても情報屋が作った擬似世界だが――の門を開いてその中に足を踏み入れた。
門の先、門の内側――その中は、見覚えのある空間が広がっていた。それは、窓の無い小部屋。情報屋の構える店の一室にしてその入り口、そして、唯一の出口。
擬似世界であるに関わらず、結界じみた特殊性を持つ世界、それが――情報屋シェディの住まう場所だ。
此処に来るのは、二百年ぶり程度だろうか? 今までは百年に一度は訪れていた筈なので、随分と久しぶりになる。
しかし、今回は何故か雰囲気と言うか、場の空気と言うべきだろうか? それが、今までと違う気がする。
(そうだな、既に誰も居なくなっている……狭いからこそ手に取るように判る。この世界には今現在、誰も居ない)
――居ないって、あの爺さんが居ないのは割と何時もの事だろ。飛び回ってるんだし――そんときゃ、カウンターにある連絡先見れば良い。
そう、シェディは情報集めの為大抵外世界を飛び回っているのだ――そして、それを呼び戻す為の連絡先が、隣の部屋のテーブルにある。
そんな思考を巡らせながら、一つしかなかった外への出口であるドアを開いて、隣の部屋に踏み入った。
そこにはメモ等なく――否、メモが置かれている筈のテーブルすら存在しなかった。その代りに、部屋の真ん中にデカデカと目立つ看板が立っている。
看板には様々な種類の文字で『移転しました、移転先は資料をご参考ください』と記されている。
実際は十数種ある文字列の中で読めたのが僅か三つだけなのであるが、そのどれもが同一の内容である辺りからも、他も同じ内容と見て良いだろう。
(まぁ、書き記す場合だと、語学の知識がないとどうにもならんからな――会話だけなら世界からの補正でどうにでもなるんだが……)
と、言うか――爺さんがこれだけ書けば十分だと思う量が十数個ってのが驚きだよなぁ……世界って殆ど無限にあると思うんだが。
(だからこそ、無限に等しい言語の中から常連が全員理解できる範囲に押さえた、と言う考えの線もあると思うがな)
――成る程、それなら納得できるかも知れない。と、言うか別にそれで納得出来ようと出来まいと、どっちだっていい。
今必要な情報はシェディの移転先について――ただそれだけだ。しかし、肝心の資料とやらは何処にも無い。
それらしき物が無いのではなく、部屋に殆ど物が無いのだ、これでは探しようも無い――しかし、探さなければいけない。
「はぁ……もっとわかりやすい場所に置いとくべきだろ、資料……」
そんな愚痴を漏らしたが、結局俺は、何もない代わりに割と広いその部屋を探し回る事になったのだった。

<SIDE-Leon->
「……見つからん」
そんなに広い訳ではない部屋をどのくらい探したのか――同じ場所を最低でも二回以上探した覚えがある程に、俺は部屋の中を探し回っていた。
つーかどこに資料があるんだよ……もっとわかりやすい場所に置けよ、あの爺……
(と、言うか――わかりやすい場所にあったのが全て持ち去られた後、って話じゃないのか?)
それも一瞬は考えたんだけどな、それならそれで無くなった事が判るような作りにするのが普通だと思わないか?
(成る程、それも確かに一理ある――が、これだけ探して無いとなるとそれが用意されていなかったと考えるのが普通だろうな)
そう――だよなぁ……こんだけ探しといて無いのはありえないよなぁ――この部屋、隅から隅まで調べた訳だし。
そんな事を考えながら、もう一度部屋を見渡すように、視線を彷徨わせて――気付いた……まだ、一箇所だけ探して居ない場所に。
否……流石にそれは無いだろ。そんな否定が真っ先に脳裏に過ぎる――しかし、僅かでも可能性があるなら、抵抗はあるけれど調べるに越した事はないだろう。
(……ゴミ箱、なぁ――確かにお前は一から探す対象として見てなかったが、流石にそんな所に資料って銘打ってる物を置かないだろ?)
俺だってそう思う――と、言うかこの場所にあるのはあの爺さんの性格から考えられ――なくは無いが、一応商売なのだから、ふざけた真似はしない筈だ。
しかし、一度疑念を抱いてしまった以上、調べない訳には行かない――否、調べるべきだ。多少の汚さなど、気にしてはいけない。
そんな事を自分に言い聞かせてから少し考えて、俺はゴミ箱を軽く蹴るようにしてその中身を巻き散らかせた。
――もう使ってないから、別に良いよな。そんな事を自分に言い聞かせてから、俺は床に広がったゴミの中に何か無いかを探す為、視線をそちらに向けた。
その中に、メモらしき物を見つけた――数はざっと見ても全部で十枚以上はあるだろう。
裏を向いている物の内容は勿論確認できないし、表になってある物もそこに書かれた言語を読めないのでどうにもならない。
仕方なく、手を伸ばして裏を向いている物も一つ一つ確認し、読める言語が無いか探す――そして……
探し出して六枚目に差し掛かった所で、読める言語で書かれた物に行き当たった。そこに記された内容は――
『こちらの資料は法典結晶フェイン様専用です、専用の資料が用意されていない方は通常資料をお取りください』
と、言う内容だった――これから読み取れるのは資料には、一般用と常連用の二種類あり、常連用は一人一人別々に分けて置かれていた――と、そう言う事だろうか?
そんな事を考えながら他のメモに目を通していくと、そのメモはあった。先程とは違う言語だが、確かに俺に読める文字で字が記されている。内容は――
『こちらの資料は果ての存在レオン様専用です、専用の資料が用意されていない方は通常資料をお取りください』
――先程とほぼ同じだった。そう、俺用の資料はあったのだ――準備されていたのだ……しかし――何処にも存在しなかった。此処から導き出される結論は――一つだろう。
(通常用資料が全て出払った後、どこかの誰かがお前の資料を持っていった――と、まぁそう言う事だろうな)
冷静に予測を立てるなよ! 此処は俺等が怒る場所だろ、どう考えても!
取った相手だって、専用資料だって判ってて取っている筈だ。さも無きゃメモを隠すようにゴミ箱に捨てる意味が無い。
否、二百年近くここに寄らなかった俺が悪いと言えば悪いんだが、幾らなんでもそれは酷いだろ……何の為の専用資料だよ、畜生……
つーか、勝手に俺の資料持ち去った奴って一体誰だよ――俺に無駄な時間使わせやがって、許せねぇ――
(無駄な時間って、ついこの間まで暇だ暇だって自分で言ってただろうが)
それはそれ、コレはコレだ――ルールぐらい守れないのかよ、最近の永遠の騎士連中は……
「あー、もう腹立つ……つーか情報無しでどうやって探すんだよ――地道に放浪とか嫌だぞ、俺は――」
何気なく、声にだして愚痴ってみるが、心の中で愚痴るのと何も代わり映えはしなかった。

――to be continued.

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