EternalKnight
重複起動〜デュアルドライブ〜
<SIDE-Leon->
「はっ……ははは、あははははは!」
構えを取った矢先――突如ジュリアスが声を上げて、壊れたように笑い始めた。そうしてジュリアスは再度紅の刃をこちらに突きつけて来た。そうして、口を開く。
「良いさ、認めてやる。お前のその力は素晴らしい――それは認めよう。だがしかし……終わりと言うのは聞き捨てならないなぁ――勝つのは私なのだから」
この期に及んで、あれだけの力の差を見せ付けられて――ジュリアスは今尚そんな事を言う。それだけの自信の出所が、俺には理解できない。
奴の言う、フェーエが持つ切り札とやら、この戦力差すら、埋めるだけの物なのか――それは、幾らなんでもありえなさ過ぎる。そんな力を、人の身で体現出来る筈が無い。
だが、しかし――そうだとしたら、ジュリアスのあの自信に満ちた台詞の意味が分からない。単純に、壊れただけなのかも知れないが……それにしては狂気が少ない。
或いは、単なるブラフなのか――この状況でそんな物に意味は無い。そもそも、どんな切り札を持っていた所で、結局は……俺達の敵じゃない。
だから――悩む理由も躊躇う理由も、存在しない。
「随分と強気に出たな、おい――言ったからには逃げんなよ、ジュリアス」
「強気? 強気などでは無い、私は事実を述べたまでだ。故に、逃げるなどと言う事はありえない。貴様も逃げるのなら今のうちだぞ?」
……ハッタリ臭いが、あの妙な自信が少し気になる。もし奴の言葉が本当で、仮に今の俺達よりも強くなった所で、まだ俺達は全ての力を使っている訳では無い。
「一つ、参考までに話をしておこう――50年程前、SSSクラスが一人欠けたのは知っているな?」
正直、知らない。興味が無かったと言うのもあるが、封印された完全なる六が復活していないかと、フェディスが近くに来ていないかしか調べようとしていなかったのだ。
「知らないな、そんな事には興味がなかったんでな」
「まぁ、それならそれで良い――この時欠けたのが、二十八士の第九位《洗礼》の担い手であるヴァンデ=エフィンガと言う男だ」
遠まわしに言おうとしている事は分かる。つまりジュリアスは、そのヴァンデとやらを――
「殺したのは他でも無い、私なんだよ――この意味、貴様になら分かるな?」
――そう言う事なのだろう。だが、普通に考えればA、どう贔屓目に見積もってもSクラス程度にしか見えない聖具の契約者に二十八士の一角を倒せるとは思えない。
相性でもその差が逆転する頃はまずありえ無い。故に、単に相性とそれ以上に運が良かったと言うだけなのだ――だというのに、ジュリアスは、それを自慢するように言う。
(――舐めているのはどっちなのか、と言う話だ。まぁ、偶然と相性でとは言え、二十八士を一人倒したのなら少しぐらい浮かれた気持ちになるのも当然だろうさ)
まぁ、それもそうか――なら俺が、コイツを仕留めそこね、あまつさえ殺された《洗礼》とやらの持ち主を哀れんで、コイツを此処で終わらせてやるさ。
「貴様、何か勘違いしている様だな……貴様は私が単に相性の良さと偶然で勝利したと、そう思っているのだろう?」
思っている、確かに思って居るが――コイツは、そう言う要素を理解して、それでもまだ自分の力で勝利たと、そう言いきるのか。
「まぁ、普通の思考では私の強さは理解出来ないだろうな、そもそも私には貴様に話していない特別な要素がある、他と一線を引く為の要素が」
特別な、要素――それは一体なんなのか? コイツからは洗礼因子は愚か、神宝因子の反応すら感じない。俺達の様に、制限をかけている訳では無い。
「分からないという顔をしているな――まぁ、そもそもあれに関する知識が無ければ未来永劫分からないのだがな」
そう、自信満々にジュリアスは言う。こいつが知っていて、俺が知らない要素など、何一つ持っては居ないだろうが――そこまで言うのなら見せてもらうべきだろう。
そう思っていたから――だろうか? 今しがた紡がれた言葉の意味を理解は出来たが、反応するのに遅れた理由は――
その言葉が「ではヒントだ――まだ名乗っていなかったので名乗らせてもらおう」――あまりにもヒントらしくなかったからだ。
名乗りを上げる意味、それが理解できない。永遠の騎士が普通名乗りを上げる際に言うのは四つ。通り名、フルネーム、聖具の名称、そしてその階位――コレが普通だ。
今更通り名だのフルネームだのを聞いても仕方ない、聖具の名も然りだ。唯一断定出来ていない階位も、ある程度なら分かる。
能力をセーブしていてそれを解放すると言う事もありえない。そもそもSSS以上なら能力を制限していても洗礼因子の反応だけは消せない。
故に、力をセーブしたSSSクラスと言う線もありえない。だからこそ、分からない。ジュリアスの行為の意図が読めない。
否、或いは――ただ時間を稼いでいるだけなのか……? だが、それにしたって、何の為に?
こんな辺境の世界に、態々反応を隠してまでもぐり込む様な奴に仲間が居るとは思えないし、居た所で、結界を発動させている以上簡単に増援が来ると考える訳も無い。
まぁ、実際には出るのは難しいが入るのは至って簡単な訳だが――と、高速でそこまで思考を展開したところで、パチンっと、乾いた音が聞こえた。
無論発生源を直接見ているのだからその正体も分かる。ジュリアスが、指を鳴らしたのだ――先程の言葉の直ぐ後に。
その音と同時に、ジュリアスの周囲の空間が歪み始めた――歪みは大きく、禍々しく広がっていき――遂に、空間に穴を穿つ。
そして穿たれた穴から、魂が抜けた様に全く精気を感じない人型が、されど膨大なエーテルで余れた人型が――否、永遠の騎士が、ふらりと現れた。

<SIDE-Julius->
隣に穿たれた穴から、人形がふらりと現れる――そう、既に意思の無き私の操り人形……
「名乗る前に紹介しておこう、彼の名は――擬態する者ジュリアス。ジュリアス=ケルティヴィス、Sクラスの聖具《擬態》の『担い手だった』男だ」
その私の言葉に、レオンとやらの表情が驚きに変わる。それはそうだろう、いままで彼は私をジュリアスだと思っていたのだから。
に、しても察しが良い。普通ならあの言葉だけなら理解する事も出来ない筈だ。いや、たとえ何を理解できようと、これから起こる事を理解する事は出来ない。
まぁ、そんな事はどうでもいい――どうせ理解できようが出来まいが、彼はこの世界で死ぬ運命なのだ――どうなろうが、私知った所では無い。
SSSクラスすら葬り去る私の力を、彼は甘く見すぎている。ヴァンデを倒した話自体を信用していない。それが、残り僅かな時間を縮める物であるとも知らずに。
そして名乗る、改めて――私の存在を理解させる為に。何の為かは自分でも分からないが、あの力を使うときは、名乗る様にしているのだ
「そして私の名は――屍使いのジュリアス。ジュリアス=ケルティヴィスの『殻を被った』聖具《擬態》そのものであり、同時にAランク聖具《死操》の担い手だ」
人では無い、そして生物ですら無い永遠の騎士――それが、私の正体。
その言葉で、対立する男は何かに納得した様に「成る程――そう言う事か」と小さく呟いた。
だが、彼が納得したのは『担い手だった』と言った部分に対してだろう。だが、その程度では理解が足りない――勿論、それを教えるつもりなど無いのだが。
否、そもそも――教えるも何も、今から見せてやれば良い。私が――どういう存在なのかを……行くぞ《死繰》本当の力を、見せてやろう。
(イエス、マスター。我等の力を見せ付けてやりましょう)
そう応える右腕の《死操》とのリンクを切らず、寧ろより強くしながら、自らの力――mimicry――を解除していく。
そうして、人類最強の器の形から、本来の形へと戻り始める。
人としての形が崩れるのに伴い、視界は薄れ始めるが、その代わりに鋭敏化した感覚が周囲の状況を読み取っていく。
数瞬で行われるその工程の間程度の時間では、状況は変わらない。そうして、完全に人の形を失い、本来の姿、巨大な剣へと自らの姿を変えた。
私の持つ力の内、間違いなく最強だと断言できるあれを行使するには、擬態を解く必要があるから――そして、本来の契約者の肉体が、必要になる。
魂を完全に封じたジュリアスの肉体は、契約素行っている私の思うままに動く――故に、その体を操って、私の柄を握らせる。
瞬間、久しぶりの開放感が私を襲う。そして同時に、圧倒的な存在となった事を自覚する。
所持したエーテルの総量は変わらないが、一度に解放できる上限が無くなったかの様に跳ね上がったのが分かる。
そして同時に、ジュリアスの体に爆発的な負荷がかかっている事も認識できる。だが、魂を封じられた肉体はそんな負荷の中でも動く事を止めない。
そうして、ジュリアスの体を使って、私はレオンとやらに声をかける。自らの力を誇示する様に――
「さて、ヒントではなく答えになってしまったが――コレが、私がSSSクラスを倒せた訳だ……納得出来たか?」
そう言って、レオンとやらの元へと威圧する様に一歩、近付く。纏うエーテルの量は変わらずとも、圧倒的な存在感がそれだけで威圧感となる。
対立する、目の前に居るレオンとやらはその私を見て、悩むように頭を左手で押さえた。もっとも、どう悩んだ所で、結果は一つしか無い。
「諦めろ――貴様はここで消滅する。私のこの重複起動――デュアルドライブ――の力でな」
言って、ジュリアスの肉体に私を振り上げさせる。そして――自らの内にあるエーテルを凝縮し、圧縮し、私の刀身に集める。
圧倒的な高揚感が包む、極量のエーテルが収束する――SSSクラスすら滅する破壊の一撃を生み出す為に。
「デュアルドライブとか言ったか――そりゃ、その技の名か? それとも聖具二つを繋げてリンクさせる方法か?」
しかし、その圧倒的なエーテルの収束を目の当たりにして尚、レオンとやらは何の怯えも見せない。否、寧ろその表情は――
この状況でのその態度が理解できない。理解できないその精神に、動揺を隠せない。
「貴様……何故「質問には――答えろよ?」
紡いだ言葉も遮られる――何だ、コイツは? 一体、何故コイツは――笑っているんだ?
「……後者だ。それが――どうした?」
あまりの動揺に、その問いに素直に答えを返してしまう――だが、それが分かった所でどうなる訳でも無い。
力は既に溜まっている。この一撃を振り下ろせば、目の前の理解できない存在は消滅する。そうだと、分かって居るのに――何故か、振り下ろせない。
「成る程、んじゃあ訂正だな――聖具を二重でリンクさせるそれにはな、ちゃんと名前があるんだよ――それを試したのは、お前が始めてって訳じゃ無いからな」
言って、対峙する男はこちらへと歩み寄ってくる。一歩、また一歩と――
感じる力は先程と変わっていない、私の圧倒的優位は動かない――なのに、振り下ろす事が出来ない。
「それの正式名称は《直列励起》ってんだ――まぁ、覚えなくても良いけどな、どうせお前は此処で消滅するんだし」
その一言で、すべての緊張の糸が切れた。
「消えるのは、貴様だぁぁぁぁ!」
叫びと共に、刃を振り下ろす。そして――私に凝縮されていた極量のエーテルが解放され、極光が発生する。それは、SSSクラスすら跡形も無く滅びさせる力――破滅の光。
そう、破滅の一撃だった――だと言うのに、極量のエーテルは、何の破壊ももたらす事無く、消滅した。変わりに、圧倒的なエーテルを纏う存在を残して――
「馬鹿な……何故、あの力が消えた? 否、それよりも……貴様、一体――」
先程と殆ど変わらぬ姿で、男が爆心地であった筈の地点に佇む。その身から感じられるエーテルの量は、以前戦ったSSSクラス――洗礼者――のそれを凌駕している。
「あぁ、そうだな――お前も名乗ったし、俺も名乗っておこうか、礼儀として」
そう言ってから、レオンという名の男はさらに数歩、私に近付いてくる。その間に――たったそれだけの間に――纏われていた圧倒的なエーテルは掻き消えていた。
そうして、名乗りを上げる。
「俺の名は、果ての存在レオン、レオン=ハーツィアス。Sクラス聖具《最果》の使い手だ――少なくとも、今はな」
最後の言葉が気にはなったが――気にした所で無駄だろう。私は、この男に殺されるのだから。
先の一撃で、全てに近いほどの力を解放してしまった私には、もう力が残っていない。
重複起動――……直列励起とは関係ない本来の能力ですら、もはやマトモに使えないだろう。故に私の負けは……消滅は確定している。
一撃につぎ込める量が増えても、元が少なければ一発打てば終わりなのだ――それを防がれれば、敗北……否、死以外の道は無い。
レオンは剣を構えて、こちらに歩み寄ってくる。その動作には、何の緊張も無い。
まぁ、あの力、直接励起を知っていたのなら、一撃打てば無力化する、程度の知識はあっても良いだろう。もう、ハッタリすら通じない。
「私の、負けか……最強を自負していたんだが、こんなものか……」
「そんなものだ――……悔いの残らない様に、最期に教えてやるよ。俺は……完全なる六の一人だ」
その言葉と同時に、黒い刃が、巨大な剣となった私を、一撃の元に砕いた。エーテルの不足による強度の低下が原因だろう。
そんな事を考えている間に、器を壊された私の魂は、霧散するように薄れていった。

――to be continued.

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