EternalKnight
最果VS死操〜糸〜
<SIDE-Leon->
ジュリアスの上半身が落下していく――だけれど、切断面からは血の一滴すら漏れ出さない。勿論、エーテルの塵になって消える訳でもない。
これで終わりだったら、楽でよかったんだけどなぁ……どうやら、現実はそう甘くは無いらしい。
崩れ落ちる上半身が地面に落ちきる前に、中空に糸が現れて――崩れ落ちるジュリアスの上半身を支え、それを下半身と縫い合わせた。
しかし――今のでこちらが聖具持ちであるのはばれただろうし、此処までの苦労が水の泡かと思うと切ないなぁ……なんだか。
と、なると奴さんも聖具の加護をかけて来るんだろうなぁ……基礎能力の差とかを考えても、こっちがシュウである分のアドバンテージを考えれば微妙な所か……
否、世界の外に居る連中に気付かれない出力で戦うんなら強化率に差は殆ど無い――寧ろこっちが不利な位か……
(それ以前に、永遠の騎士だと思われていれば、どれだけ力をセーブして戦っても、どちらかが追い詰められれば結局最後には能力を解放して戦う事になるだろう?)
そう、だよなぁ……ならばいっその事――と、思考していると、正面に立つジュリアスがにやりと笑いながら口を開いて喋り出した。
「驚いた――まさか貴様も永遠の騎士だったとはな……しかも、聖具の反応も消して、自身の反応を人間並みにしているか――貴様、相当出来るな?」
まぁ、守護者やら破壊者に干渉されたくない奴なら行き着く先は一緒だろう――もっとも、それに技術が伴わなければ意味など無いが。
「さぁな、俺の実力、知りたきゃ自分で確かめな――もっとも、ここで俺らが派手に戦ったら世界の外の連中に俺達の所在に気付くがな」
と、そう言って、右腕に握ったシュウを改めてジュリアスに向ける。先程シュウが言ったように、どの道追い詰められれば互いに力は解放するのだが――
「そんな事は分かっている――が、私の目的はこの世界でなくても果たせる。故に世界外からの介入があったとしても、何の問題も無い――まぁ、少しは惜しいが」
言って、刃を突きつけた俺に対抗するように、ジュリアスもその手に握る紅の刃をこちらに向けて突きつける。
さらに、右手首に付けられた腕輪からは、先程上半身と下半身を縫い合わせた糸とは別の、エーテル製の糸が伸びだす。
……糸そのものは細くて俺の視力でも目視するのも難しい程だが、エーテルを過分に纏っているため、その位置は手に取るように分かる。
だが、エーテルが見えない者にとっては、ほぼ不可視の糸とみて良いだろう――ライルの話の通りなら、恐らく親衛士団長を解体したのもあの糸だろう。
しかし、いくらエーテルを過分に纏っているとは言え、あんな細い糸では相手を切る前に糸自身が切れてしまう。
エーテルで糸の補強している――割には過分に込めすぎている様にも見えるし……どうなってるんだ?
そも、たかだか強くて細い糸程度を永遠の騎士相手に態々使うか? 普通に考えればありえない。なら、あの糸の真の狙いは?
俺も、ジュリアスもどちらも相手に剣を突きつけたまま、動かない。ジュリアスが伸ばした糸も、微妙な長さで止まったまま動かない。
戦況は膠着している――しかし、今のままではこちらの分が悪いというのは、恐らく間違いない。
聖具の加護で得れる力の恩恵はこちらの方が上だろうが、そもそも基礎的な部分で差がある以上、引き出せる力に制限があるこの状況は芳しくない。ならば――
この世界で今後生きていく事を諦めるしか、無いだろう。否、そもそもこちらが聖具持ちだとバレた段階で、そんな考えは消しておくべきだったのだ。
(ならば――アレを使うと……そう言う事で良いのだな?)
あぁ、そう判断してくれて構わない。Sクラス程度一人分の反応と、Sクラス程度の反応が戦ってるのとじゃ、守護者の動きも破壊者の動きも違ってくるだろうからな。
シュウにそう考えを伝えてから、俺は静かに呟くように「EndOfTheEarth」と、その力の名を紡いだ。
同時に――視界は暗転し、次の瞬間には、見慣れた……けれども久しぶりに見る最果ての大地が目の前に広がっていた。
勿論、先程と距離関係は一緒の状態で、ジュリアスもこの世界に訪れている。
しかし、それだけ――俺とシュウとジュリアスとその聖具意外には、この最果ての大地には虫の一匹たりとも存在しない。
「何事かと思えば……なるほど結界の形成か――どんな効果だかは知らんが、派手に戦えば等と言っていた貴様がこんなに派手な能力を使うとは思わなかったな」
突きつけた剣を下ろし、それでも構えは解かないまま、ジュリアスが言う。
だが、この結界はそもそも、外にエーテルを漏らさない為の物だ。多少は目立つだろうが、中位の聖具持ち同士が戦うのに比べればよっぽど目立たない。
「勘違いすんなよ、結果的にはコレが一番目立たないんだよ――内側に居るお前には分からんだろうがな」
(……結界の能力を簡単に明かして良いのか? 教えなければ相手へのブラフにもなるだろうに)
シュウの愚痴が聞こえるが気にしない――そもそも、そんな事をしなくても、この結界の中で俺が負けるなんて事はありえない。
最悪――あの力を解放して良いこの世界で、負ける道理が無い。
(慢心は褒められる事じゃないぞ? まぁ、そんな事は分かっているとは思うがな――ふむ、俺をそれだけ信頼してくれているのだと受け取っておこう)
シュウのそんな言葉を聞き流しながら、ジュリアスの言葉に耳を傾ける――構えを解かずにブツブツと呟く姿は相当に怪しいが、まぁ、それはそれだ。
「一番目立たない――と、言う事は……この結界は外部へエーテルが漏れ出すのを防ぐ類の物か? なるほど、良い能力だ。それならばこちらも――」
……まだそうだと肯定した訳じゃないんだけどなぁ――まぁ、結論を言えばそう言う事なんだが。
無論、中からは漏れないだけで、結界を形成した時点で、Sクラス聖具保持者が少し気合を入れたときに常時垂れ流してるぐらいのエーテルの反応は出るのだが。
「――少しばかり、本気を出せる」
その声と同時に、ジュリアスの纏うオーラの量が爆発的に増幅する――と、言ってもSクラス……否、Aクラス並の反応だが。
それでも、基礎能力の高いフィーエの体に擬態している以上、その戦闘力は結構な物の筈だ。
――もっとも、それでも今のシュウの力を全開にするだけ、十分に戦える相手なのだが。って、事で――シュウ、ちょっとばっかり、気合入れていくぜ?
(なぁ……どうせ最果を発動したんだから、完全に解放させてくれよ……1000年ぶりだぜ? 1000年ってお前、馬鹿じゃねぇの?)
……なぁシュウ。なんかお前、キャラ変わってないか? もっとこう――クールつーかなんつか、そんな感じだっただろ?
(うるさい。それだけストレスが溜まってるんだよ!)
分かったよ、考えとくさ――だから今は、俺に力を貸してくれ。
(まぁ、良いだろう――しっかりと約束は守れよ、レオン)
そのシュウの言葉を聴くと同時に、ジュリアスの言葉に答えを返すように――俺は言う。
「少しばかり……ね、そりゃ良かった――だが、その程度の力で調子に乗るのは……良くないぜ?」
そうして、次の瞬間――シュウの力が《最果》の力が、解き放たれた。
圧倒的とは言えない物の、それでも十分すぎる力が、全身に満ちていく――聖具なしでの戦闘力の差を考えても、十分にそれをひっくり返せるだけの力を感じる。
否、本来Sクラスが持っていい力の限界を、超えている力――並みのSSクラスすら、今の俺からすれば敵じゃない。
っと――まぁ、過信しすぎるのもよく無い事は分かっては居るが、それでも、この段階の解放ですらも150年ぶり程度なのだ。
――この開放感を味わわないのは些か惜しいだろう。
「なるほど……結界の中だからそれだけの力を出せるのか、元からそれだけの力なのか知らないが、随分とまぁ大した力だ」
興味深そうに、ジュリアスがこちらを眺めている……コレだけの力を見てビビら無いあたり、相当な隠し玉でもあるのか――或いは場数を踏んでいるのか。
まぁ、俺にはそんな事は一切関係ない。もう少しばかりこの開放感を感じて居たかったが、長引かせるつもりは無い。
ジュリアスに向けたままだった刃を、そこでようやく下ろして、俺は改めてシュウを構える――無論、向こうから仕掛けてくるまで待ったりはしない。
――この一呼吸の後に仕掛けようと、そう考えて居た矢先「――だが、勝てない訳じゃ……無いっ!」そう叫びながら、ジュリアスが地を蹴り、こちらに突っ込んで来た。
まさかのタイミングに一瞬呼吸が詰まるが、それを直ぐに持ち直させて意識を迎撃に傾ける。無論、隙さえあれば反撃に出るつもりでも居る。
そもそも、こちらの方が総合的に上回っているのだ、油断さえしなければ――と、そう意識した瞬間、背後にエーテルの気配を感じた。
拙い――と、そう思った時には、背後より文字通り奇襲するように現れた糸が、俺に巻きつく――その寸前でそれすらも、ブラフだった事に気付いた。
目前には、剣を構えて足を止めるジュリアスの姿があり、糸はシュウを握る右腕の絡まっている。細い糸は、纏ったエーテルによってその強度を上げていた。
引き千切ろうと思えば千切れなくも無い――が、目前のジュリアスが動けば斬るとでも言わんばかりに剣を上段に構える。
そうして、俺を見下すように――実際にはフィーエの肉体を使用しているので見上げて居るのだが――言葉を放つ。
「確かに強いが――その程度で調子に乗るのは、感心できないな」
なる程、確かに油断を良くない。だがしかし、本当にこの程度で俺達に勝てると思っているのだろうか? ――もしそうだとすれば、舐められた物だ。
調子に乗るのは良くないと言う言葉にも同意しよう――ただしそれは、俺がジュリアスに投げ掛けるべきものだ。
何故なら――この程度をどうにかする事など、容易いからだ。
「全く持って同意するよ――お前、少し調子に乗りすぎだ」
右手に何処からとも無く伸びて巻きついている糸を強引に引きちぎり、左手では上段に構えた剣を持った左腕の手首を掴んで、強引に構えを解かす。
それを目の当たりにして愕然とするかと思いきや、まだやる気がある様だった。文字通り、力技――それでねじ伏せれる程の性能差が、俺とジュリアスにはあると言うのに。
だというのに、俺の掴んだ左腕を未だに振り払おうとしている。無駄な足掻きでしか無いのに――
と、そこで――微弱な反応ながら、背後から忍び寄る様に近付いてくる反応に気付く――糸だ。引きちぎられただけでは不満らしい。
だったら、徹底的に叩き込んでやる――そんな物は効きはしないと言う事を、思い知らせてやる。
――だからこそ、あえて糸を無視する。左拳は、ふり切れられるぬ様に強く握る。握る力を強くするにつれ、ミシミシと音を立てる。
そして――糸が俺の首に巻き付こうとした瞬間。ジュリアスが、擬態されたフィーエの顔をありえない風に歪ませて、ニタリと笑った。
(レオン、その糸には切断概念が付与されてる――対処はアレで行くぞ!)
一瞬理解できなかったその歪んだ笑みの理由を、焦った風なシュウの声を聞くと同時に理解した。
切断概念――対象の強度を無視して接触対象を断ち切る力。ただ切断する事にのみ特化した概念。故に、どんなに細い糸にでも、付与すればそれは絶対の刃と成る。
概念に打ち勝てるのは、より強い概念だけだ――だから、対処法は決まっている。
詠唱は間に合わない、故に破棄するが――AかS程度の能力なら、そもそも詠唱を上げる必要は無い。シュウが、既に準備を終わらせている。
瞬間、シュウの刀身に蒼い光のラインが浮かび上がり、俺の脇を抜けて今まさに首に巻きかかろうとする糸を、シュウで断ち切った。
――勿論、シュウを握った右手から一番近い位置を通る糸を。それで、ジュリアスの意のままに動いていた糸は、すべての制御失ったようにその動きを止めた。
(どうでも良いがレオン――さっきまでのお前、凄く悪役っぽかったんだが……言動とかの、思考の内容とか)
……糸の相手をしている瞬間に緩ませてしまったせいで、ジュリアスは俺の腕を振り解き、後方へと逃げる様に跳躍して距離を取った。
そうして俺は、首元に残る細いだけの糸を引きちぎる。エーテルの加護も、切断概念も付与されていない糸を。
(無視された……)
シュウのそんな声も無視して、ジュリアスに視線を向ける。そのジュリアスは、ある程度距離を取った所で動きを止めた。そして、叫ぶ。
「なんだ、なんだその能力は! ありえない――Sクラス程度で、詠唱も無しに私のSlashStringを完全に《無力化》出来る能力など……私は認めない!」
無力化――確かにその表現で間違いない。正しくは、発動した能力を《終わらせる》能力。刀身に接触した能力を強制的に終わった状態にする力。
――なのだが、それを態々説明してやるつもりも無い。そもそも、あれは、完全な状態のシュウの力の断片であり……本来、Sクラスが持って良い力の領域を超えている。
説明した所で、理解できても納得できる筈が無い。だからこそ俺は――
「認めて貰う必要なんざ無い――どうせお前は、ここで俺が終わらせてやるんだからな」
――そう告げて……改めて刃を構えた。

――to be continued.

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