EternalKnight
一対三〜神技〜
<SIDE-Ryle->
走って出口に向かうレオン殿を追う様に、団長が動く。それを追うように力の限り地を蹴り、跳躍しつつも刃を抜いて団長に切りかかる。
速度は私とほぼ同等――だが、今この一撃に関して言えば、全力で跳躍した私の方が少し速い。
接近する勢いをそのままに刃を振り上げて構える、こんな攻撃を止めれない団長では無いが――それは、追撃を止めればの話だ。
追撃をやめなければ、この一撃は団長に当たり、相当のアドバンテージを得られるが――
当然の様に、団長はレオン殿の追撃をやめて、勢いに乗って迫る俺の迎撃に移る為にこちらに向き直る。
だが、これで良い。私の役目はあくまで足止め。レオン殿が前に進めれば、それで良い。その上で、やりたい様ににやる。
レオン殿には強がりで策が有るなどと言ったが、当然そんな物は無い。だから、自分の全力をぶつけるしかない。
団長に迫る、勢いは空中で殺せないが、元より引く気など無い――このまま突っ込む!
「はぁぁぁぁああ!」
叫びと共に、跳躍の勢いと自分の体重、腕力を乗せた刃を振り下ろす――が、当然の様に、次の瞬間には金属同士の衝突によって衝撃が腕に伝わり、甲高い音が響く。
今の一撃は、簡単に止められるモノじゃない。並みの使い手なら正面からでも受け止めきれず一撃で死んでいる。
だと言うのに、団長が振り向きと同時に片手放った刃は振り下ろされた俺の刃を受け止めていた。
確かに――アレで勝てるとは思って居なかったが、まさか片手で防がれるとは思って居なかった。
腕力、いや身体的能力にはさほど差は無いと思っていたのに――まだこれほどの差があったのか? それとも、なんらかの方法で力を受け流されたか――
確かに技巧を凝らす上では、地に足を着いていた方が上手く行くだろう。それに、相手は団長だ、この程度の事で勝てるなんて端から思って居ない。
すばやく展開していく思考でそんな事を考えながらも、跳躍の勢いを乗せた一撃を止められた俺はその場で止まり、着地するしかない。
地に足が付く前に、次の攻撃に備える。本気の団長とやりあった事は無いけれど、それでも分かる。一瞬でも気を抜けばアレが、あの神技が来る事が。
否、気を抜く抜かない以前に、――本気であるなら、距離が一定まで縮まっている状態で隙を見せれば即使ってきてもおかしくは無い。
故に、隙を作る事など有ってはならない。だと言うのに、それが分かっているのに――隙を作ってしまった……否、作らされた。
今この瞬間、剣は弾かれ未だ地に足は着いていない。その時間は一瞬の刹那ではあるが、確かに隙であり――あの力を放つ事前動作としては、十分な時間だった。
遅すぎる悪寒が走る――今のこの瞬間、アレを放たれれば敗北が――否、死が確定する。時間がゆっくりと流れていく。――未だアレは放たれない。
ゆっくりと、自分でも驚くほどゆっくりと、勢いを殺された体は重力に引かれて落ちていく。団長の構えた紅の刃はまだ動かない。その間もゆっくりと落ちていく。
そして――地に足が着くのを感じると同時に、全神経を有効範囲から逃がす事に集中させて、強引に地を蹴って、態勢を崩しながらも距離を取る様に転がる。
勿論、その程度で回避出来る技では無い事は自分が一番よく理解している。だが――今この瞬間、無様に受身も何もなく転がる様にそれから逃げた俺は何故か生きていた。
――さっきまでスローで進んでいた世界はいつの間にか元に戻っている。動悸は激しくなったままで、冷や汗のせいで嫌な冷たさも感じる。
生きている――生きているのか、私は? あの構えを見てもまだ? 否、考えるのは後だ、それよりも今は、態勢を立て直さなければ――
何故自分が生きているのか? そもそも本当に生きているのか――それすらも曖昧なままで、自分に出来る最速で、無駄を極限まで排除して、私は立ち上がり、団長を見る。
そして、自分が生きている理由を理解する。そう、考えなくても分かる事だった。団長を相手に一瞬でも隙を作った以上、あの神技をどうにか出来る訳が無いのだ。
団長は、アレを撃つ構えを解いていない。否、先程の位置から動いていない。つまりは、まだ撃ってすら居ないという事だ。
では何故、撃たないのか? 隙が無い状態でなら撃ってこないのも分からなくは無い。だがさっきの瞬間はほんの一瞬とは言え、完全に隙があった。
分からない――分からないが、考えても分かるとは思えない。一瞬撃てないのかもしれないと、甘い考えがよぎったが、そんなに都合が良い事があるとは思えない。
それでも、あれ程の神技で有る事を考えれば、使えないまでは行かなくても、その性能が劣化しているぐらいはあるのでは無いか?
それも、都合の良い解釈なのか――或いは、甘い考えが当たっているのか……だが、甘い見積もりで戦えば、その先にあるのは死しかない。
そもそも、あの神技は絶対的な差であり、基礎の力からして私は若干劣るのだ、どの道全力で戦わなければ勝てる筈が無い。
だから、私に出来る事は、先程の様なヘマをしない事と、自分に出せる全力を持って戦う事だけだ。否、勝つのなら……勝つ為には、あの神技すら凌駕する必要がある。
凌駕するのではなく、防ぐだけなら――此方が万全で、且つ数回だけ――なんとか出来る筈だ。
神技《千塵》――あの力は何度も見たし実際に受けた。無論本物の剣を使った状態でそれを受けた事は無いが……それでも、その経験から対抗策程度なら分かる。
それが打開策に繋がる訳では無いけれど――それでも、成す術無く殺られるよりは、よっぽど良い。
思考を纏めるのに、さほど時間はかからなかったが、それでも数秒はかかったのだが――その間も、そして今も、団長の抜け殻は未だに《千塵》の構えを解かない。
それがある以上、迂闊に近づく事など出来る筈が無い。だが、だからといってこのままで居る訳にはいかない。
レオン殿がジュリアスを倒してしまえば、その時点でこの戦いは終わる。そうなれば、私は一生何かに後悔し続けながら生きる事になると、そう思う。
自分で決着を付けたい。この想いも含めて、団長に関わる事の、何もかもに――
悠長に待っている時間など無い。だから――死地に赴くつもりで、こちらから攻める。どの道、こちらの方が総合力からして下なのだ、相手が動いてからでは――遅い。
「……決着をつけましょう、団長」
その言葉が届いてると思えない。だけど、それでも――何故かそう言わずには居られなかった。

<SIDE-Savath->
状況は最悪だ。ココから勝利を得る方法など、奇跡でも起こらないと有り得ない。そう、思うのに――戦う事を止めれない。
奇跡が起こって勝てたとしても、その先には絶対に勝てないジュリアスとの戦いが待っている――否、レオンがジュリアスに勝てば、その戦いは無いのか……
なんにしても、俺が生き残れる確率はとんでもなく低い事に違いは無い。生きてる士団の皆を助けるなんて、不可能なんじゃないかと、そう思える。
それでも、不可能と確定した訳じゃない――それに、体を弄ばれている仲間の、戦友の亡骸をそれ以上使われない様に一つでも多く破壊する必要もある。
やらなければならない事は山の様にある。まだ体は十分動く――だったら、その先に何があるとしても、俺は戦い続ける。俺には……それしか出来ないから。
そんな思考に至って、ようやく今の自分の考えが自分の信条だと思っていた事に矛盾していた事に気が付く。
「おっかしいなぁ……仲間も大切だけど、何よりも自分の命が大切だと思ってた筈なんだけど――」
どうやら、それは間違いだったらしい。自分の命と比べても捨てられない物は、存在したのだ。それが一体何かは、よく分からないけど――
それでも――例え戦った先に死があると分かっていても、逃げる気なんて起きない。だから、戦うしかない。
周囲には、ルゼルとジルムとノイエの抜け殻が存在する。この三つをもう使えない所まで叩き潰す事が、俺が今から最初に成すべき事。
そう、最初に成すべき事――だ。だから、ココで死ぬ訳にはいかない。とは言っても、後先考えて全力を出し惜しんで良い相手でも無い。
だから――最初から、持てる力の全てを使う!
「風よ、我が声に応えよ。精霊の息吹よ、我が声に応えよ。今、我が元に突風の加護を。今、我が刃に聖風の加護を。さぁ、共に行こう、風達よ。我が敵を屠る為に――」
力を解放する為の詠唱――一発撃つだけで酷く精神力を消耗するが、威力は折り紙付きだ。まともに当てれば一撃で相手をミンチに出来る程の威力を秘めているのだから――
詠唱を完結させる直前で止めて、バルディッシュを構える――チャンスが来れば、その名を解放して使えば良い。
――消費する精神力から考えても、一人に付き一発を最高のタイミングで使う以外に勝機は無い。それでも、やるしか無い。
戦術なんてとても呼べはしないが、戦い方は決まった。それと同時に、俺の準備が済むまで待っていたかの様に、三人の抜け殻がこちらに向かって動き出す。
勿論、構えているからと言って、ここで三人同時に攻撃してくるのを待つ程、俺は馬鹿じゃ無い。狙うのは一人一人倒していく事――この際、順番はもうどうでも良い。
そして、出来るのであれば――攻撃の瞬間に無防備に近くなる事から、残りの相手が俺に攻撃出来ない状態が望ましい。――流石にそれは高望みしすぎか……
思考の合間にも近付いてくる、三人から距離をとる様に、後ろに下がるように軽く跳躍する――が、別に距離を取る事が目的じゃない。寧ろ、逆だ。
跳躍が終わるのと同時に――即ち着地と同時にしゃがみこむ様に姿勢を低く落とし、重心を前に移しながら、足に力込める。
三人の躯がすぐそこにまで迫って来ている――だが、それで良い。そんな思考をする一呼吸分の間を空けて、俺は足に込めた力を解き放った。
瞬間、爆ぜる様に地を蹴り出して、静止した状態から急加速し、三人の躯の元にこちらから突撃をかける――
否、正確には的は絞ってある。三人の内、俺からみて右端に居たジルムの躯が、矢の様に突撃する俺の第一の標的。
出来れば、他の二人を狙いたかったが、位置的にジルムの位置が一番狙いやすいのでから仕方が無い――それに、どの道全員倒すのだ、順番など些細な問題だろう。
近付く、近付いていく――ジルムの躯は目の前まで近付いて行く。不意を打って反撃に出た今が、一撃を叩き込むには絶好のチャンスなのだろう。
だが、それは出来ない、ここでブレードゲイルで一撃を当てれば、確かにジルムの躯がもう操る事が出来ない程まで破壊できるだろう。
しかし――それは同時に、残ったルゼルとノイエの躯に、無防備な自分を晒すと言う事でもある。だから、今はブレードゲイルは使えない。
ならば、どうやって無防備な自分を、攻撃する相手とは別の躯に晒さずに済むのか?
その答えは既に得ている。要するに――敵を一箇所に集めているから、攻撃後の短い隙を攻められるのだ。つまりは――敵を分断すれば良い。
「うぉぉぉぉおおおお!」
叫びを上げて近付いていく――そして、ジルムの躯までの距離が得物の攻撃範囲内に入った瞬間、振りかぶった状態だったバルディッシュをジルムの体に薙ぐ様に叩き付けた。
その一撃に、確かな手応えを感じると同時に、地面を蹴って軌道を強引に右に曲げる――その先には、先程の一撃で吹き飛ばされたジルムの躯が地面を転がっている。
背後の気配はまだ遠い、この距離なら――攻撃の後の僅かな隙に、反撃を受ける事も無い。――行ける、これなら無傷で行ける。
まさか此処まで上手く行くとは思ってもみなかったが、都合の良い事が起こってくれるのなら、それに越した事は無い。
転がるジルムの躯を追いかけながら、バルディッシュを大きく振り上げて、詠唱を完結させる為に力の名を紡いで言霊に乗せる――
「――ブレードゲイル!」
詠唱の完結と同時に、風が――突風と聖風が、急速にバルディッシュに収束していくのを感じ取る。
そして俺は――倒れた状態から起き上がろうとするジルムの躯の頭に、突風を纏う刃を振り落とした――
刃が、解き放たれた風が、ジルムの躯を蹂躙する様に――原型が分からなく成る程に――徹底的に破壊する。まさしく、一撃必殺。
ここまで破壊されれば、もう利用する事なんて出来ないだろう。
唯一残念なのは、こんな状態じゃまともに弔ってもやれないと言う事だろうが――それでも躯を弄ばれるよりも、余程良い。
だから、躊躇わない。かつて仲間だったモノが自分の手で赤い残骸になるのだとしても――躊躇わない。躊躇っていれば、俺が死んでしまうから。
俺が死ねば、誰も操られる躯を止めれないだろうから――

――to be continued.

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