EternalKnight
一対三〜屍使い〜
<SIDE-Lloyd->
ライル達が先へ進んでいく――もう、後を追いかける事も出来ない。俺程度の速さじゃ、一人でこのフロアを抜ける事は出来ない。
この部屋を入ってすぐの位置から、俺はまだ動いて居ない。ここは――まだ安全な範囲だから。だけど、一歩前に出れば、戦いが始まる。
早く始めなければ、レオンさんがジュリアスを倒してしまうかも知れない。そうなれば、もう永劫にこの戦いは出来ない。
別に戦わなければいけない訳じゃないけれど……それでも俺は、ここで父さん達に勝ちたい。
強さは王の証明にはならない、そんな事は分かっている。でも、それでも……俺は、父さん達を超えたって言う証が欲しい。
「それが、どんな形だったとしても……」
そうでなければきっと……この国が平和になって、俺が王になっても、遠くない未来にきっと何かに潰されてしまいそうだから――
レオンさんの言ったとおり、俺が死ねば結果的に負けになる――だから、負ける訳には行かない……だけどそれ以上に、勝ちたい。
勝利が欲しいのは我侭で、敗北の許されない戦い。だけど――ソレを理由に逃げる事だけは、誰が許しても自分自身が許せないだろうから。
大きく息を吸って、瞳を閉じる。決意は決まった、これ以上うだうだ悩む必要なんて無い。そんな事をしても、決意が鈍るだけだ。
瞳を開いて息を吐きだし、刃を抜く。腕に感じる確かな質量に視線を移せば、刃は頼もしくその刀身を煌かせる。
俺には分不相応な程のこの剣と、俺の九年間の努力と、そして父さん達の力を知っていると言う知識が、俺の武器になる。
大丈夫だ、ライルも言っていただろ? 戦いにおいて大切な事は、相手を自分を知る事だって――
大丈夫、俺はちゃんと自分に何処までの事が出来るのかも、父さん達の行使する魔術の特性を知っている。
だから、俺は前に一歩足を踏み出した。自分自身の未来の為に――
その瞬間、さっきまで広間の中央で立ち尽くしていただけの父さんが、掌をこちらに向けるように掲げる。それと同時に、フロア中央に居る父さん達の方へと走り出す。
父さんの属性は火、腕輪によって強化されたその魔術の特性は空間の爆破。勿論、当たれば即死こそありえないが、相当な重症を負うだろう。
普通はそんなモノは避けれないが、腕輪を通して魔術を発動させる為、目標を定めた後、一呼吸分ほど遅れて発動する。それが、あの力の穴。
要するに、止まらなければ、的になる事は無いという事だ。だから、距離を詰める為に前に出る――
出来るなら、このまま一気に接近して切り倒したい所だが、そうも行かない。父さん達との距離は、自分に出せる最速を維持できれば、数秒で届く場所まで来ている。
だけど、いきなり最高速には到達できないし、何より――このまま進めば間違いなく自分は深手を負うか、悪ければ死ぬ。
何故なら――接近する俺を正面に見据えながら、リディア兄さんが右腕を振り上げたからだ。
それを確認すると同時に、俺は父さん達の居る位置を中心に見立てて、右回転になる様に走るコースを変える。その間も、父さん達から目を離さない。否、離せない。
父さんの魔術は動いていれば当たらない、レスティ兄さんの魔術は、危険では無いけれどそもそも回避のしようが無い。
だけど、リディア兄さんの魔術は違う――当たれば、良くて戦力が半分以下になる上、悪ければ即死すらありえる。
そんな思考の最中、リディア兄さんは振り上げた腕を薙ぐ様に軽く振るうのが見えた。見えはしないが、それが力の発動の合図になる。
風を切り裂く音が聞こえる、動くのは止められない。もし仮に止めてしまえば、爆破に巻き込まれるだけじゃなく、真っ二つにされるのが分かっているから。
リディア兄さんの属性は風、腕輪によって強化されたその魔術の特性は手刀から生み出される真空の刃。当たれば、ただではすまない。
風を切り裂く音が近付いてくる――範囲がどの程度なのか、何処まで近付いてきているかは分からないけど、とにかく今は、かわす為に動くしか無い。
「ッ――!」
だけど、これをかわすのはこの一発じゃない、全力をだしてかわしていては、後が無い。視界の隅で、もう一度手を振り上げ始める兄さんの姿が見える。
音が、近付いてくる――近付いて、離れて行く。背後からは相変わらずの爆発音が響く。
「かわせた――のか?」
思わず、口からそんな言葉が漏れる――その後、走りながらも声を出した事によって乱れた息を整えて、自分の状態を確認する様に意識を集中する――
一々細かく確認は出来ないが、意識を鋭敏化して調べた感じでは痛みや変調は無い。
確認が終わるの同じタイミングで、視界に納めたままのリディア兄さんが、先程振り上げた腕をもう一度薙ぐよう振るう。
先程の一撃は当たらなかったが、次は上手く行くと言う保障が無い、その上、このままでは近付けず、走り回って逃げる事しか出来ない。
それにまだ、レスティ兄さんの力が発動していない――そんな思考をしながらも止まらず走る。迫る風を裂く音と背後の爆発音が聞こえる。
瞬間、全身に悪寒が走る。否、俺は知っている。これは悪寒ではなく、実際に熱を奪われているだけに過ぎないと言う事を。
それが、レスティ兄さんの魔術――水の属性を持ち、腕輪によって強化されたその魔術の特性は、対象の熱を奪う力。
熱を奪われ始めた体は一瞬の鈍りを見せて減速する。勿論、減速した程度では爆破地点に残る事は無い。
だが――風の刃は違う。一瞬の減速が回避できた筈の風の刃をかわせなくして――走る俺に牙を剥く。
「――っ!」
次の瞬間、風の刃が俺を捉えた――

<SIDE-Leon->
ライルを残してきたフロアからひたすら真っ直ぐに進む――シュウ曰く、感知できた最後の一人の反応は、このまま真っ直ぐ進んで少し上がった所に存在しているらしい。
徐々に数が減る事と、人間の中では最強レベルの存在だったフィーエが前のフロアに居た事を考えれば、この先の反応は間違いなくジュリアスのモノだと予測できる。
(そろそろだぞ、レオン――分かっているだろうが、相手が永遠の騎士であるのなら、何が起こってもおかしくは無いぞ?)
確かに、何が起こるか分からないが――俺とお前なら、どんな罠があっても問題ないだろ、実際?
(だが、世界外の永遠の騎士達に我等の存在を知られるのも拙いだろう? 気付かれぬ様にやるのなら、できる事には限りがある)
まぁ、その通りなんだけどな――っと、少し上がるってのはあの階段か?
シュウとの念話をしていたので、ある程度近付くまで気が付かなかったが、通路の先に今までの様に階段が存在した。
(だろうな――と、言うか階段を上がってすぐだと思われる辺りに所に残る一つの反応がある)
って、事はそこにジュリアスが居る訳だ――まぁ、ここまでの流れを考えれば、奇襲や罠がある可能性は無いと考えて間違いない。
まぁ、それに対して警戒を怠っている訳では無いが、そもそも並みのトラップでは俺には通用しないし、聖具の力を使った罠なら、それだけで気が付ける。
そうこう思考している間に階段の前までたどり着く――この階段を上った先に、ジュリアスが居る。
(エーテルの反応があるだけで、ジュリアスと100%決まった訳では無いがな。それなりの知識と技術があれば、エーテルの反応を完全に消す事も可能だ)
言われなくても分かってる――本物と確認できるまで、力を解放して気が付かれる様なヘマはしないって。
早く倒さないと、ライルやロイド、それに親衛士団の連中が危ないしな。
――んじゃ、ジュリアスとやらと対面と行こうか。と、自分に鼓舞を掛けて軽く気を引き締めて、俺は目の前の階段を一気に駆け上がった。
そして、階段を上りきる。そこは、この城の今まで通ってきた広間の中では最大の広さを誇る広間で――
その広間の中央より今居る位置から見て少し奥に、煌びやか装飾から見て間違いなく王座と呼べるモノに座る存在が、確かに一人。
だが、その姿には見覚えがある。見間違いな筈が無い。つい先程見たモノを忘れるなんてあり得ない。
……金色の長髪、そして――女性にしては大柄な体躯。それはまさしく、先程ライルが引き止めると言って、今ライルと戦っている筈の、フィーエの姿だった。
(それも、聖具に能力の一つと考えれば不思議な事では無い。俺達がすべき事は、アレがジュリアスか確認する事だ)
最悪のパターンはさっきの広間に居たのがジュリアスだった場合なんだろうが――流石にそれは無いだろう、コレまでの流れから推測して、の話だが――
「良く此処までたどり着いた――が、君はあの集団の中では最強と言うだけで、実際にあの肉体より強いか分からない。早速だが――君にはテストを受けてもらう」
いきなりぶっ飛んだ事言ってるな――シュウ。こりゃ、ジュリアスと見て間違い無いよな?
(まぁ、そうだな――と、言うか……俺達以外の誰かが此処に来ていても意味不明だったんじゃ無いのか、さっきの発言は?)
確かにな――まぁ、わざとそうしている可能性もあるけどな。けど、俺達相手にあの発言は拙かったな。
(だな。何故ジュリアスが今まで力を試すかの様に敵を配置していたかも、ジュリアスの聖具の能力も一つも、分かったしな)
――にしても、いろんな意味で厄介な能力だな……だが、永遠の騎士に狙いを絞ってない辺り、聖具の契約者に与えられる補正はカウントされないって見ていいよな?
(だろうな――さもなくば、態々ただの人間を選ぶ意味が無い)
「――ん? あぁ、この外見に驚いているのか? 何、驚く事は無い――私はただ、フィーエ=クォーリアに擬態しているだけだ……本人と言う訳では無い」
シュウと念話していた俺を、呆けたいたと勘違いしたのか、ジュリアスはそんな事を言いながらゆっくりと王座から腰を上げて立ち上がる。
「――もっとも、性能は此処に来るまでに君が見たフィーエ=クォーリアと同じだがね?」
此処に来るまでに見た――ねぇ? 俺が親衛士団員では無いと言う事は既に割れているか……フィーエの記憶に俺の情報が無い辺りからの推測か? まぁ、良いさ。
「何、テストの内容は簡単だ。今から――私と戦うだけさ」
言い終わると同時に、ジュリアスは地を蹴り、一直線にこちらへ突き進んでくる。一直線に突っ込んでくる単調な動きだが、中々速い。
だが、ライルよりも遅い――つまりは、こちらの力を測ろうとしている、と言った所か……なら――
いきなり仕掛けるのは得策じゃない。相手がこちらを計りきったと判断して、気を抜いてから一気に仕掛ける。
――下手に仕掛けて俺が契約者だというコトがばれれば、いきなり永遠の騎士としての本気を出されれば、この世界に留まれなくなる。
別にこの世界に未練がある訳では無いが、世界にエーテルが希薄で且つ魔術が普通に使われているこの世界程、隠れるに適した世界など殆ど無い。
迫ってくるジュリアスの直線的な動きをシュウのサポートなしの俺個人の力で回避する。この程度の速度なら、本気になるまでも無い。
寧ろ、ジュリアスにはもう少しフィーエの肉体での限界で戦いをしてもらう必要がある――だが、こちらはゆっくりと相手をしていられない理由がある。
ならば――当然、こちらの性能を示す必要がある。勿論、聖具の所持者だと割れるのは拙いので、俺だけでの本気を見せるだけだが――
そんな思考を一瞬で済ませ、直線的な攻撃をかわすと同時に、すばやくジュリアスの背後を取って、そのままシュウを振り下ろす。――勿論、これで勝てる訳が無い。
俺だけの力ではライルと互角なのだ。――案の定、俺の振り落とした一撃は、振り返り様のジュリアスの紅い刃に弾かれる。
さらに、紅の刃はそれでは止まらず、勢いをそのままに、今度は俺の首筋に向かう軌跡を描く。速い――それ以上に巧い。
紅の刃が俺の首を刈り落とそうと走る――その刃の描く軌跡から逃れる様に、上体を後ろにそらし、その際の重心移動を利用して後方へと跳躍し、距離を取る。
そのまま、俺を追撃する事もなくジュリアスは俯くように立ち尽くしている。それは、余裕の現われか――それとも否か。
それにしても、先程の連撃……速度はライルと同等だが、技術面ではライルの上を行っているように見えた……否、実際問題ライルよりも上なのだろう。
――だが、まだ絶対に勝てないと言わせしめる差じゃない。――この程度だとは思えない。
つまりは、今の速度が限界では無いか――或いは、なんらかの切り札があるか……今の速度が限界でなかったのなら、俺だけの力で戦うのは厳しい。
まぁ、どっちかはやってみれば判る話か。
「……か……があった――」
そこで、俯きながらジュリアスがブツブツとなにやら呟いて居た事に、俺はようやく気が付いた。

――to be continued.

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