EternalKnight
一対三〜劣勢〜
<SIDE-Leon->
踏み入れた広間の中央に、小柄な人影が俯いて立っている。否、小柄と呼ぶに値する基準が何なのかが明確で無い以上、小柄と呼ぶべきではないかもしれない。
「アレが……親衛士団の団長? 女じゃねぇか――」
ライルより強いってイメージから勝手に男だと思ってたが――よくよく考えればフィーエなんて大概は女の名前だ。
体躯に関しては女性であるなら普通か、寧ろ少し大きい方だと考えるべきだろう。しかし、名前で気がつけなかったのは、俺が間抜けだからか?
(さぁな――一つだけ言える事は、今悩む問題では無いと言う事か)
シュウの念話が途切れるより少し早くフィーエが動き始めた――と言っても、腰まで伸びる黄金の髪を揺らして、ゆっくりとこちらを向いただけではあるが――
そして、フィーエは俯かせた顔を上げる。それによって見えるようになった黄金の瞳には、やはり光が灯ってはいない。
「はい……その通りです。――ですが、レオン殿があの方を気にする必要は無い。私が、ここで引き止めます」
言いながら、ライルは純白の刃を鞘から抜き、静かに構えを取った。その姿には、全く隙が存在しない――つまりは、本気だ。
「分かってる。俺のやるべき事はジュリアスを倒す事だけ――それで良いんだろ?」
そもそも、ジュリアスを倒せば全てが終わるのだ――操っている能力が全て聖具のモノであるのなら、聖具を破壊すれば全て無効になるのだ。
発動後は聖具の有る無しに関わらず能力を持続させる物も存在するには存在するが、ジュリアスの能力は規模や効果内容からもそれと違うのが分かる。
「自分勝手な事を言って申し訳ありません……ですが、私達の決着の事など気にせず、レオン殿はジュリアスを倒してください」
決着を付けれず、それが原因で怨まれる事になるとしてもそうするつもりだった俺にとって、ライルの言葉は予想外のモノだった。
「そのつもりでは居たんだが――本当に良いのか?」
決着が付けれないなら、態々勝てる見込みの殆ど無い戦いをする必要なんて――
「はい、操られている以上、手加減などしてこないでしょうから――すぐに決着は付くでしょうし……」
それはつまり、ライルが負けると言う形で決着がつく事で、すぐに終わると言う事なのか――
「心配は要りません、別に策が無い訳でも無いんです……ただ、結果がどうであれ、私の戦いは長くは続かないでしょう」
その策が成功する保障がどの程度あるのか、そもそも本当に策があるのかすら、俺に分からない――だけど……
「それじゃあ――ロイドの戦いの決着はどうなる?」
ロイドは魔術使いが相手とは言え三対一だ、すぐに決着が付く筈が無い。
「ロイド様が死ねば、誰がこの国を導くのですか? 例え決着が付いていなくても、早急に終わらせなければいけない」
その自分の応えにライルは「――自己中心的な私の言えた事ではありませんが」と、自嘲気味に呟いた。
「それじゃあ、もしお前が負けたら……誰がジュリアスを倒した事にするんだよ?」
すぐに付くと言うその決着でライルが死ねば――その話の適役が居なくなる。
「なら、相打ちと言う事にしておいてください。それに、私は負ける気などありませんよ。気にせず先に進んでください、こうしている間にもロイド様が――」
本当に自信があるのか、或いは俺を先に進ませる為のハッタリか――そんな事は、はり俺には分からない。だけど……否、だから――
「分かった、言ったからには死ぬなよ、ライル!」
――だからこうして、信じて、騙された振りをして……そして先に進む事しか出来ない。
「――勿論です」
力強くライルが応えるのと同時に、俺は一気に駆け出して広間の反対側にある出口に向かって走り出した。

<SIDE-Savath->
視界に、操られているのだろうジルムとノイエを収めて構えを取る。操っている原因は、ジュリアスとみて問題ないだろう。
ならば、どうやって操っているのか? コレまでの敵を見ていると、どう考えても死んでいる程のダメージを受けていようが操られ続けると言う事が分かっている。
だったら、仮説として死者を操れると考えてもおかしくは無いはずだ。だが、そんな事は今はどうでも良い。
今知るべきなのは、操る為にどんな工程を必要とするか――だ。ジュリアスが此処まで来ているとは思えない以上、なんらかの遠隔的な方法を使っているとしか考えられない。
遠隔的に他者を操る方法――そもそも他者を操る魔術等無い上、それを遠隔的に行うとなると、方法なんて俺には想像も出来ない。
だけど、遠隔的に操る事が出来るなら、何故俺をそれで狙わない? ジルムとノイエが操られている以上、親衛士団の上位陣を狙ってきているのは分かっている。
狙えない理由があるのか? だったらそれは何だ? ノイエの胸にあるアルバサリッサで抉られた穴の意味は?
普段あまり使わない知能をフル回転させて思考する。その間も、俺を見据えているジルム、ノイエを意識の外には出さずに構えたままの姿勢を維持し続ける。
――だが、どれだけ考えてもさっぱり分からない。そもそも分かった所で俺にはどうする事も出来ないだろう。
だったら、やるべき事は一つ――二対一だとしても……俺がやるしか無い。
親衛士団は壊滅的打撃を受けている。それでも――まだ少しでも残っている士団員達の為に、俺は死ぬ訳には行かない。皆を、助けなければ――
そんな思考を展開していた俺の背後から、聞きなれた声が聞こえてくる。
「自分と同程度の実力者を二人も敵対させても諦めないか、だが――」
その声には、先程のノイエの詠唱と同様に、抑揚が無い。最悪の場合として予測はしていたけど――こんなに早いとは思ってなかった。
声の聞こえる方を見るために、振り返る。その先に誰が居るのかなんて、声から分かりきっているけど……
「――三人が相手なら、どうかな」
振り返ったその先に居たのは、予想通り、光の灯らぬ死んだ瞳でこちらを見る、胸を穿たれたルゼルの姿だった。
ルゼルが殺られてから誰一人ルゼルの亡骸には近付いていない。そして、さっき死んだルゼルが操られている。これで――推測を確信に出来た。
理屈なんかは分からないが、ジュリアスは、自分が直接その場に居なくても、既に死んでいる人間を操る事が出来る。その事実だけを、俺は漠然と認識した。
だったら――余計に、早く……まだ戦っている仲間達が殺されて、その躯を弄ばれる前に――
そして、今弄ばれているルゼルや、ジルムやノイエ達を、解放する為に――俺は、戦わなくちゃ行けない。
「……お前が、ジュリアスか?」
今、ルゼルのから躯を使って話している存在に、声をかける様に問いかけると、その問いの答えがルゼルの口から紡がれる。
「不正解だと言っておこう、今の私はルゼル=アティーラでありジュリアス=ケルティヴィスを継ぐ者だ――理解したかなサバス=ラクヴェール」
馬鹿な――途中で名乗りを上げた俺は兎も角、何でルゼルのフルネームまで知ってやがるんだよ――
「驚いている様だが、驚く要素など何処にも無い――言っただろ。私はルゼル=アティーラでもあるのだよ」
何を、コイツは訳の分からない事を――
「ふむ、理解できないか……ならば折角だ、客人が来るまでの暇つぶしに簡単な説明してあげよう――最も、話を何処まで聞けるかは、君の実力と、客人の速さ次第だがね」
そう、ルゼルの躯が言い終わると同時に、俺の背後に居たジルムとノイエの躯が飛び掛って来た。
「――ッ!」
即座に振り返ると同時に、ジルムの攻撃をかわし、ノイエの攻撃はバルディッシュで受け流し、そのままノイエが先程居た場所近くに跳躍して逃げる様に距離を取る。
実力がかなり近い以上、二人を一気に相手する事など自殺と一緒だ。――だが、この状況でどうやって各個撃破して行く? 不可能にも程があるだろ……
警戒すべきなのはノイエだ――展開し続けるあの能力は、ただ単にレイピアをランスに変えるだけじゃなく、肌にカスればそれだけでその部分の体温を奪う――
ルゼルのアルバサリッサも危険だが、それ以外ではただの槍だ。穂先に捕らえられなければ致命傷を貰う事は先ず無い。ならば優先して倒すのは、危険度の高いノイエ――
そう決断を下し、バルディッシュを大上段に構えてタイミングを計る――ノイエ達は、距離を取った俺を追撃するようにこちらに向かってくる。
そして、ノイエ達の武器が俺を攻撃園内に捕らえる前に――俺の攻撃園内に入った瞬間――俺はバルディッシュを振り下ろす。
勿論をそんな見え見えの攻撃など躯とは居え、元の性能を再現するノイエ達には当たる筈も無い――が、それで狙い通りだ。
振り下ろされたバルディッシュをかわす為に、ノイエとジルムは回避行動を取った、その結果――ノイエは左にかわし、ジルムは右に回避した。
――コレこそが、今の一撃の俺の狙い。そのまま、振り下ろした得物の軌道を強引に右に曲げて、体を捻りながらジルムに向かって全力で叩きつける。
その瞬間――腕によく知った、相手を吹き飛ばした感覚が伝わる。が、薙ぎ払ったジルムに見向きもせず、捻った反動を利用してノイエにバルディッシュを叩きつけた。
だが、左手だけで放った一撃では力が足りず……その一撃を、ノイエは得物で軽く受け止めていた――そして、ノイエが抑揚の無い声で言葉を紡ぐ。
「そもそも、記憶と言う情報は脳と魂の二つの媒体に書き込まれる。脳には感情の様な概念は残されんが、記憶は情報として残る――それは、魂と違い肉体に付属する情報だ」
ジュリアスがノイエの躯に喋らせた言葉を半ば聞き流しつつ、武器同士の均衡を破る為にバルディッシュに右手も添えて押し上げる。
それだけで力のバランスが崩れて俺が押し勝ち、ノイエの躯は体勢を崩す――ここでトドメと行きたいが、出来ない。
体勢を崩したノイエに背を向けて、振り向き様にバルディッシュで迫るジルムのランスの穂先を逸らさせる。
――が、逸らしたと思った瞬間には、穂先は引き戻され、再び俺に向かって突き出された。
それを、体勢を崩しながらなんとか回避して、無理な姿勢から強引に跳躍し、距離を取る様にさらにもう一度跳躍して大きくノイエ達から大きく離れて体勢を整える。
「私の聖具《死操》は死者を操る能力を持つ――もっとも、肉体に残された情報を元に動く忠実な撲に変えるだけではあるが」
体勢が整いきる前に、背後からは抑揚の無いルゼルの声が聞こえ――
「ッ――らぁ!」
――整いきっていない体勢から背後に振り向き様に右手でバルディッシュを薙ぐよう振るうが、その一撃では、何の手ごたえも得られなかった。
だが、その勢いで振り返った先には、バルディッシュがギリギリ当たらない距離に立つルゼルの躯が存在し――
「そして、撲とした魂の入っていない空の器に、私の魂の一部を入れる事で、こうして話す事も可能となる」
――躯は、こちらに歩み寄りながら言葉を続けるが、俺にはその話を聞く余裕が無い――この距離は、拙いのだ。
この距離は、ルゼルの得物――カットラス――の攻撃範囲内一体三の戦いにおいては、少しの傷も不安材料になりうる。
――そもそも、一対三の戦いにおいて、誰かの話に耳を傾ける余裕などある訳が無い。
僅かに抑えきれて居なかったバルディッシュを振るった勢いを味方につけて、俺は右後方に下がりつつ体勢を整える。
態勢を整え、着地すると同時にルゼルの位置を捉えたまま、ノイエとジルムの気配を探し――捉える。
これで、ようやくルゼルも含めた三人の躯の位置を全て同時に把握出来た。だが――それが出来た所で、勝利は程遠い。
目下の最大の標的はノイエだ――コレはルゼルがアレを使わない限り変動しない。否、使った所で優先順位が並ぶだけか……
視界に納めた三人の動きに注意しつつ、頭の隅ではそんな思考を展開する。……ここまで必死になったのはいつ以来か――否、初めての経験かもしれない。
……に、しても変だ。先程から三人の躯は動かない。本来なら、休む暇など与えず攻撃を続けるのが数で有利な側の基本の筈なのだが――
そんな事を考えていると、ルゼルの躯を使ってジュリアスが言葉を発す。
「時間だ――ちょうど話の区切りも良いし、お前との遊びは終わりだ……後は私の人形とでも戯れていれば良い――」
客人が来るまでの時間にしていた話が時間が来たから打ち切られる、と言う事は――
ライルかロイドかレオン、或いは全員かが、ジュリアスの元にたどり着いたと言う事だ。――その戦いの結果は、この国の運命を握っている。
俺には何も出来ない、出来る事は――目の前の三人をどうにかする事だけだ。そんな思考をする最中、ルゼルの声が聞こえた。
「燃え上がれ、烈火の炎。我が声を聞き、我が声に従え、汝等が主は我なり。さぁ――汝等の主が命ずる、我が刃に隷属し、我が敵を屠る力となれ――ブレイジングエッジ」
それは、ルゼルの力を発現させる祝詞で、同時に今の俺を更なる窮地に追い込む歌だった。
そして、ルゼルの持ったカットラスが赤い光と、紅いオーラを纏うと同時に、ルゼルの躯は口を開く。
「さて、土産も残したし、私はこれで本当に退散させてもらう――客人の相手が終わって帰ってきて、まだお前が生きていれば――私が直接相手をしてやろう」
――その言葉を最後に、ルゼルは口を閉ざした。もし本当だとしたら、俺はこの国と運命共同体になったらしい。
団長が勝てなかった相手に、俺が勝てる筈など、無いのだから――
だけど――それでも……俺は、操られた皆を解放する為に、まだ生きてる皆を助ける為に、戦う事を止めれない――

――to be continued.

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