EternalKnight
最悪の展開
<SIDE-Leon->
「そう――ですか……」「そう……か」
俺の告げた言葉に、ライルとロイドは静かにそう呟いて、どちらも瞳を閉じて数秒俯き、何かを決意した様に顔を上げ、瞳を開く。
どちらの瞳にも、決意の色が灯っている――それが、何に対する決意なのか、俺には分からない――
だが、今するべき事は明確だ――死者であるなら、仮にジュリアスを倒してもその先にあるのは《死》以外にありえない。
既に死んでいるのなら――どうあっても助けられないなら――切り捨てるしかない。だから、逃げるよりも――この場で三人とも倒すのが最善の策だ。
魔術を使うだけなら、幾らでも対抗手段がある。寧ろ、魔術を使った遠距離攻撃が可能なら、捨て置いて先に進む方が難しい。
「だから、彼等は此処で倒して行く。俺達に立ち止まっている暇は無い」
言いながら、俺はライルとロイドよりも前へと踏み出す。――その瞬間、彼等に与えれらた範囲に入ったのか、魔力反応が生じ始めた。
――詠唱を用いず、魔法陣による強化を行う以上、発動にはラグが発生する。それでも、一秒程度だが――避けるには十分過ぎる時間だ。
魔力の強さから魔術の威力と効果範囲をある程度想定し、それに即座に反応して、前に踏み出す。そして――次の瞬間には背後で小規模な爆発が起こる。
爆破能力――つまりは火属性のLv5……予想通り中位クラスの魔術だ。問題ない、このまま俺一人でも――
「待ってください、レオンさん!」
そのまま一気に接近するつもりで居た俺の背後から、ロイドの声が響く。それは、何かの警告か、それとも否か――
もしもの場合を考えて、俺はさらに接近する前に、地を蹴り、跳躍する様に大きく後退する。
そのまま、元居た位置よりも少し後ろに着地すると、魔力反応も発生しなくなった。自分達は動かずに、一定範囲内に入れば攻撃するって事か……
そう考えると、実に嫌な位置に配置されている。この広間全体を覆う様な範囲――否、広間を抜けた後の一本道も範囲に入っている。
――と、そんな考察よりも、今はロイドが俺を止めた理由を聞くべきか。今は範囲から抜け出せているみたいだし。着地から数瞬でそんな思考を済ませ、ロイドに視線を移す。
その俺の視線に合わせる様に、ロイドは視線を向けてくる――その瞳には、やはり決意の炎が灯っている。そして、ロイドが紡ぎだした言葉は――
「此処は――俺に任せてください」
軽く、思考が停止する。何を言ってるのか、理解しがたい……自分に任せて欲しいだと?
「冗談は止めろ、この戦いにおける自分の立場を忘れた訳じゃないんだろ、別に?」
そう、この戦いは国を救う戦い。ジュリアスを倒しても、ロイドが死んでいれば、この国を救う事なんて出来ない。
別の誰かでは代役にならない。覚悟の無い人間に、国を導く事なんて出来る訳が無い。だけど――
「自分の立場は分かってる。だけど――俺は……父さん達を超えて、その上でこの国を導いていきたい」
(決意は固い様だが――どうするつもりだ、レオン?)
決意が固いなんて事は、あの目を見れば分かる事だ。
アレはもう、俺が何を言っても聞かないだろうし――そもそも、この世界の人間が選んだ選択に干渉する権利など俺には無い。
「分かったよ――お前の好きにすれば良い。ただし、ライルにも此処に残って貰う」
ロイドを守るのはライルの役目だ。その上、ロイドの気持ちも酌み、ギリギリまで手は貸さないだろう――
「いえ、私はここには留まれません――レオン殿と、先に進みます」
――そう、思っていたのに……ライルからの返事は俺の予想をあっけなく裏切った。
「なっ――正気か、ライル! ロイドが負けて死んだりしたら、俺がジュリアスを倒してもこの国は救われないだろ!? 此処から先は俺一人でも大丈夫だからお前は――」
此処に居ろと、そう続けようとした言葉はライルの紡ぐ言葉に遮られる。
「出来ません。勝手な事を言っているのは分かっています。ですが――ジュリアスの力が死者を操る事なら、必ずあの人がこの先には居る――だから!」
だから、自分はこの先に進むと、決意の瞳で、俺を見る。
そう……この世界の人間の行動を強制する権利など、俺には無い。そもそも、あの目をした人間を説得している時間なんて無い。
先に待つ未来なんて、俺には分からないけど――だからこそ、やりたい様にやらせるしかない。
「全く……ならどっちも好きにしろ――俺は、俺の役目を果たす。それで良いんだろ?」
そうだ、元より俺は――この世界にとってのイレギュラーであるジュリアスを倒すために来たのだ。その後がどうなろうと、それはこの世界の住人がどうにかするしかない。
「ありがとうございます、レオンさん――」「レオン殿、申し訳ありません――」
二人がそれぞれの言葉で謝罪と感謝の言葉を紡ぐ――だが、元より彼等が俺に謝る必要など無いのだ。
しかし、コレでもう俺が立ち止まる事は無い。此処はロイドに任せ、次の敵はライルに任せればそれで良い。ジュリアスと戦う事にのみ、集中出来る。
「それじゃあロイド、ここは任せた……行くぞ、ライル!」
「はい!」
ライルの返事を聞くと同時に、俺は前へと踏み出す。その瞬間に魔力反応が俺に向けられるが、魔法陣で強化している以上、俺には余程上手く使わなければ当たりはしない。
勿論、ライルにとってもそれは同じだ――走り去った後の後方で起こる爆発音を無視し、俺達はわき目もくれず、奥の通路に向かって走り抜けた。

<SIDE-Leon->
敵の攻撃園内からあっけなく離脱し、今は先へ先へと走り続ける。道が分からない俺は付いていくしかない――もっとも、先程からひたすら真っ直ぐ進んでいるだけだが。
「なぁ、ライル――」
走る速度を緩めないまま、前を走るライルに声をかけると、それに「なんでしょうか、レオン殿?」と、振り返ることも減速する事も無く、ライルが応える。
「この先に居る相手を知ってるみたいな口ぶりだったが――この先に誰が居ると思うんだ?」
確かに、ジュリアスの下にたどり着くまで一人だけ障害が居るのは分かっていた。
ライルの様子から考えると、俺が戦う必要は無いのだろうが、それでも――次の場所にたった一人で配置されている存在がどれ程の物なのか、気にはなる。
前を行くライルは、進む速度こそ緩めずに――しかし、問いに対して少しの間を開けて答えを返してきた。
「ジュリアスの下にたどり着くまでに後どれだけの障害が待っているか、私には分かりません。ですが、死者を操れるのなら、あの人は確実に操られている――」
(……質問した事に対する答えが帰ってきて居ないな。しかも、残る障害は一つでほぼ確定してるぞ?)
いや、ちょっと息継ぎに言葉区切っただけだろ? それに俺はまだその話ライルにはしてないし。分かったらつまらんツッコミを入れるな、シュウ。
「――フィーエ=クォーリア……親衛士団長。レオン殿とジュリアスを除けば、私を含めて、私の知る中で間違いなく最強の人です」
「……そうか」
親衛士団長って事はライルの上司に当たる訳だ――まぁ、それだけの役職に付くんだから、相応の実力はあるだろう、確かに。
だけど、ライルにしたって限りなく人として最強に近い力を持っている――仮に、人に可能な最大の力を持っていたとしても、今までの敵から考えれば計算が合わない。
仮に計算が合わない状態が正しいとしても、ライルも負けず劣らず強い。若干ライルが劣る程度だろうが、それでもほぼ互角の筈だ。
その相手に対して、自分を含めて間違いなく最強だと断言するその理由は何なのか? それとも単に、計算は正しくて、俺の考える以上に人の限界が深いのか――
どちらにしても、自分よりも絶対に強いと分かっている相手に挑む等、愚行としか言えない――自分でそれを認識しているなら尚更だ。
もしも、それが避けられない戦いであったなら仕方ないだろう。だが――ライルは自分でその戦いに挑もうとしている。
その決意に――どんな想いがあるのかなんて、俺には分からない。誰にでも、愚かだと言われても引き下がれない一線は存在するから。だから――理由は問わない。
聞いた所で、俺に何かが出来る訳じゃないし、そもそもこの世界の人間の意志に口を出すのは俺のすべき事じゃない。
そこで会話は止まり、走り抜ける靴音だけが通路に響く――
(レオン、オーラの反応が近い――そろそろそのフィーエとやらが拝めるぞ)
と、なると――この通路の先にある広間に居ると見て間違い無い――か。まぁ、此処までに上ってきた高さを考えれば――そろそろ遭遇しないと寧ろおかしいか。
まぁ、何であろうと俺は次の広間は通り過ぎる訳だが――
(――そう言えば、ふと気になったのだがな、レオン……ここでライルを置いていけば、道が分からなくなると思うのだが?)
否、此処までもほぼ真っ直ぐだったんだし、流石に大丈夫だろ? ライルも特に何も言わないし。最悪の場合はオーラの反応を辿れば何とかなるだろ?
(ふむ……まぁ、それもそうか)
そのシュウの納得した様な念が帰ってくるのと同時に、俺とライルは広間に足を踏み入れた。

<SIDE-Savath->
あり得ない――否、実際に起こっている以上あり得なくは無いのだが――俺の全く想像していない事が起こった。ルゼルが、殺られた――しかも、ジルムに。
他の対象を狙った一撃が運悪く当たったのではなく、間違いなく――ジルムはルゼルを狙って力を使っていたのだ。
背後から大地の長槍に胸部を穿たれた以上、生きている筈が無い――間違いなく、死んでいる。
そのジルムの行動に真意など、俺には分からない。否、例えどんな思惑があったとしても、許す訳には行かない。
ジルムも俺の仲間だったけれど――裏切った奴を仲間と呼べる程、俺の神経は図太くない。見つけた以上、誰か他の仲間に手を出す前に――この手で殺す!
「ああぁぁぁああああっ!」
喉の奥から叫びを上げて、バルディッシュを揮って、周囲の敵を薙ぎ払い、ジルムに向かって一直線に走り出す。
道を阻む雑魚を屠りながら真っ直ぐに突き進み、ジルムを攻撃園内に捕らえた瞬間、「ジルムゥッ! テメェ、何でルゼルを殺ったぁっ!」と叫び、大地を蹴って跳躍する。
跳躍によって距離は一気に縮まる。そして跳躍の加速力を乗せて、バルディッシュをジルムに向けて全力で叩き落す。
その一撃を、ジルムは己が得物――ランス――で止めるが、加速を載せている分有利な俺が力で押し通し、ジルムの体勢を崩させる。
競り勝った俺は体勢を崩す事無く着地し、すぐさま体勢を崩したジルムの首元にバルディッシュの刃先を突きつけて、質問の答えを待つ。
回りに敵がまだまだ居る以上、長くは待てない――それでも、何故ルゼルを殺したかは、聞いておきたかった。
ジルムは普段から無口だったが、必要な時は喋る――幾らなんでも無言を貫けば死ぬと分かっている状況で喋らない事なんて――
そんな事を思考していると、聞き覚えのある声が「……従いて、凍てつき、蹂躙し、貫く氷柱となれ――」聞き覚えのある祝詞を、抑揚の無いテンポで紡ぐのを聞いた。
拙い、この状況だと俺が裏切っていると勘違いされてもおかしく無い。
刃は突きつけたまま、あわてて声の方向へと視線を移しながら「待てノイエ、裏切り者は俺じゃなくてジルムなん――」声をかけようとして、言葉に詰まる。
視界に入ったノイエの胸には――ルゼルに付けられたモノと同じ、大地の長槍で穿たれた穴が開いていたのだ。
訳の分からない状況に思考が一瞬停止する。何が起こっているのか理解できない――否、あり得ない状況だ。やはりコレは、タチの悪い夢なのだろうか?
そうだとしても――夢だとしても、死ぬのは嫌だ。そもそも、夢か現実かの区別も付かない状況で、命を諦められる筈が無い。
そんな小難しい事を抜きにして、生存本能と、長年培って本能の域にまで達した騎士としての肉体が、俺を突き動かす。
「――トランプルファング」
抑揚の無い声で、胸を穿たれたノイエがその祝詞を紡ぎ終わるコンマ一秒程前に、俺はその場を飛びのいた。
そして、詠唱の完結と同時に、俺が先程まで居た位置に鋭利な氷柱が生え出したのを見た。
――背筋に、冷や汗が流れる。後一瞬飛びのくのが遅ければ、俺はあの氷柱の餌食になっていただろう。
そんな事よりも問題なのは、何故、ノイエがあの状態で動けているのか――だ。
――否、理屈は分からないが、そんなの分かりきっている。ついさっきまで、そんな状態だろうと問答無用で動き続ける相手と、戦っていたじゃないか?
だけど、それを認めると言う事は――ノイエが敵になったのを認めているのと同じだ。否、俺に対して力を使ってきている以上、もう敵だと認識した方が良い。
そして、勿論ジルムも敵になってしまったのだろう。そして、ルゼルも殺された――実力がほぼ互角の相手二人と、たった一人で俺は戦うのか?
「畜生――夢なら、さっさと醒めてくれ――……」
愚痴をこぼすように呟いて、すぐに自分の呟きに自嘲を漏らす。
そう、自分でも分かっている――コレは夢なんかじゃ無い。それはなんとなく――分かっているんだ。
何故なら、俺の見る夢で仲間が死ぬなんてあり得ないから――

――to be continued.

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