EternalKnight
再開〜傀儡の真相〜
<SIDE-Lezere->
右手に握られたカットラスで敵の攻撃をひたすら凌ぐ。全方位からの絶え間無い攻撃の雨――それを防げているのは単に相手の動きが単調だからだ。
操られているから単調なのか、それともそもそも戦いなれていないから単調なのか、今の私には分からない。
「……っ」
それでも、単調で居てくれた方が助かる。最初に不意を付かれて貰った腹部の傷が痛む――
傷を負ってすぐにノイエが施してくれ応急処置のお陰で出血こそしていないが、それでも痛みが消えている訳ではない。
痛みが無ければこの数相手でも、もう少しうまく立ち回れるだろうが、どちらにせよ殺すつもりが無い以上、今よりも少し楽が出来る程度でしか無いだろう。
「副長はどこまで進んだだろうな……」
この状況が続けば後一時間は持ちこたえる自信があるが、戦場ではいつどの様に戦況が変わってもおかしくは無い。
故に、出来る限り早く操っている者を倒し、操られている者達の洗脳を解いてくれるとありがたい――
――否、頼り切っていては駄目だ……副長も副長で最善を尽くしている筈だ。だから――私も自分に出来る最善を尽くすしかない。
とは言っても、相手を倒す方法が頭を潰す以外に無いとすると、私の力では何の役に立たない。つまる所――純粋な自分の力と技で耐え抜くしか無い、と言う事だ。
そんな思考をしている間も、勿論相手の攻撃の手は緩まない――そして、その攻撃の全てを回避、防御、受け流しで処理していく。
多少の反撃も行うが、それもあくまで牽制程度でしかない――操られている今は傷を負ってもすぐに動きを再開するが、それが解けた後、傷を無視して動ける道理など無い。
圧倒的なハンデ戦――それでも、諦める訳にも、妥協する訳にも行かない。例えそれが、偽善だとしても――
「大地よ集え、我が槍の元に。砂よ、土よ、泥よ、石よ、我に力を分け与え給え。大地よ集え、我が求めに応じよ。大地を穿つ巨人の長槍を我が手に――」
何処からとも無く突如聞こえ始めた詠唱に、背筋が凍る。この詠唱は間違いなく無口だがサバスと近い考え方を持つジルムのもので――
「待て、ジルム! 彼等の相手は私がしている――」
何処にいるかも特定できないジルムに伝わるように、声を荒げて叫ぶ。だが、しかし――その声が届く事も無く……
「――アルバサリッサ」
しかし、無情にも紡がれる詠唱は完結した。その、次の瞬間――
「なっ――!?」
――私の胸を突き破り、長槍が生え出した。否、コレは私の視点から見える光景に過ぎない、つまりは――背後から長槍に貫かれた、そういう事になる筈……
無口だが、あれ程仲間想いだったジルムが? そんな馬鹿な――コレはきっと、何かの間違いだ。
ズルリと、槍が胸に納まって――違う、引き抜かれただけだ――支えを失った私はその場に倒れこむ。
「なんっ……で?」
意識が急速に霞みはじめる――が、それでも胸を貫かれて、これだけ意識を保てている事が既に奇跡に思える。
もう、助からない――それだけは、はっきりと分かった。霞む意識には、痛みの感覚さえ存在しない。コレが、死か――
最後に――確認しておかなければ……コレは、何かの間違いなのだと。死んでしまって、あの世で仲間を恨みたく無いから。
最期の力を振り絞って、倒れた上体をすこしだけ持ち上げて、槍が伸びてきた方向を見る。
そこに、私が見たものは……いつも通りの、表情が読み取れないジルムの顔だった――

<SIDE-Leon->
王城の中を駆け抜ける、目指すのはジュリアスが居るであろう王座のみで、それ以外の相手をしている時間は無い。
――少し前から、過半数が親衛士団員で構成された敵が追ってこなくなっている。つまりは、彼等に与えられたエリアは抜ける事が出来た、と言う事だろう。
そして、出会う敵の力が徐々に強くなっている事、敵の集団と遭遇した場所が全て開けた場所である事――これ等から考えると、俺の推測ではジュリアスは……
(自分の元に現れる人間の力を試している、と言った所だろうな)
あぁ、推測に過ぎないがその可能性が高い。しかし――そうなると今ので敵は最後なのか?
(それは残念ながらハズレだろうな 。――今居る場所より上の階層には五人分のオーラを感じる)
五人か……それなら最後に四人の敵が待ってるって事か――ジュリアスが完全に反応消せてるなら五人待ってるんだろうが――
(残念ながらその読みはハズレだ――固まっている位置から割り出しただけだが、三人が一組と後は一人づつだ)
……ジュリアス一人と考えれば、三人組まではまだ理解できるが、残った一人ってのはどういう事だ?
徐々に敵が強くなって来ている流れから考えて、さっきの集団をよりも単体で強い存在って事だろ、つまり?
三人ならまだ分かる――ライルレベルなら二人も居れば先程の集団を相手できるだろう。だが、俺の見立てでは、一人ではまず無理だ。
否、一人となると、シュウの力を外に漏れない事を前提にした最高レベルで行使した全力の俺と同等だと考えていい。
――だが、其処までの力だと、もう聖具を持たない人間に到達できる領域を超えていてもおかしくは無い。
魔術での強化にしろ、結局それを学ぶのに時間がかかる――故に、人の身で到達できる性能には限界がある。
(思考するのは自由だが、そろそろ反応が三つ固まっている場所に出るぞ?)
――分かった。流石に、敵の強さから考えて、そろそろ余計な事考えながら進むのはやめた方が良さそうだしな。
等と考えている間に、上階へと上る階段が見えてきた。この上が、恐らく広間になっており、シュウの探知に間違いが無ければそこに三人の敵が居るのだろう。
それを知らないライル達は、立ち止まる事無くそのまま真っ直ぐに階段を駆け上がっていく。
――この先に待つ敵がどれほどの強さなのか……俺にはそれが少しばかり気がかりだった。
この上に居る三人を単体で凌駕する性能を持つ存在が、この後に控えているのが分かっていたから――それでも、進むしかないのだが。
階段を上る前に一瞬だけそんな思考をめぐらせて、ライルとルゼルの後を追うように、俺も階段を駆け上がった。そして、その先で見たモノは――
五十代の男と、ライルと同程度の年齢の青年二人が虚ろな瞳で立ち尽くしている姿と、その三人を見て愕然としている、ライルとロイドの姿だった――
「そんな……馬鹿な……」「なんで――父さん達が此処に……」
呆然としながら呟くライルとロイドの言葉にも、虚ろな瞳の男達は反応していない。ただ、木偶人形の様にその場に立ち尽くしたまま動かない。
それ以前に――今、ロイドが父さんとか言わなかったか? 王子であるロイドの親父って事はつまり――
(まぁ、国王以外には考えられんだろうな――もっとも、既にジュリアスに王城・王都共に完全に制圧されている以上、国王ではないのかも知れないが――)
その通りなんだが、おかしいだろ――王族はライル以外は殺された筈だろ?
(しっかりと記憶しておけ、正確にはライルとその弟と妹以外だ――今は、どうでも良い事だがな)
いや、それ以前に――仮に生きていたとして、その上で操られているにしても――この段階で戦力としては一般人と変わらない筈の王を使ってくる意味が分からない。
そもそも、中央に居る男は国王として、その隣に居る二人は何者なんだ。
「陛下も、リディア様も、レスティ様も――確かにジュリアスに殺された筈なのに、何故……」
別に聞いた訳でも無いのに、俺の疑問にライルが答えをくれた。もっとも、ライルは己が疑問を口にだしてしまっただけなのだろうが――
名前を聞きたかった訳じゃないが、ライルの呼び方を聞いていればなんとなく分かる。そもそも、ライルが様付けして呼ぶ相手と言うだけで、かなり絞れてくる。
ライルの立場は親衛士団の副団長――つまりそれより上の地位となると、自動的に王族、上位の貴族、そし士師団長に絞られる。その中から――
(別に、これから戦う相手の地位等どうでも良いだろ――問題は、相手が何をしてくるかと、何故殺された筈の人間が操られているのか――だろう?)
まぁ、シュウの言う事はもっともだ――だが、相手が何をしてくるかは、知り合いらしいライルやロイドが知っているだろうし、問題ない。
――と、なると……ライルが死んだ瞬間を目撃した死んだ筈の人間がなんで操られてるのか、って話だよな?
(だが、死者を操る能力は、まぁ希少ではあるが――存在しない訳ではないだろ?)
そりゃそうなんだが……いや、オイ待て。って事は――俺等は今まで凄い勘違いをしてたんじゃないか?
(俺も、今気づいた所だ。そもそも、死者からはエーテルの反応などしない――ソウルが肉体から離れるからな)
そうなると――なんであそこで突っ立ってる死んだ筈の三人から、エーテルを感じられるんだって話だ。
つまり――人間一人分のエーテルの反応が、ジュリアスが死者を操るのに使用したエーテルの量そのものって事になる、よな?
(あぁ――俺も同じ意見だ。それで、間違いないだろう)
全く――すっかりと騙されてた訳だ。情けねぇにも程があるっての……だが、これで疑問は消えたし、敵の能力が一つとはいえ割れた。
だったら、後はさっさと――ジュリアスの元にまで行ってぶっ飛ばしてやるだけって事だ――
(いや、その前にこの広間に居る三人をどうにかしなければならんだろ)
まぁ、そりゃそうか――でさ、シュウ。今さっきの俺とお前の念話、実際何秒ぐらいやってた事になる?
(心配するな、三秒前後だ)
それ聞いて安心した――まだ動いてないとは言え、流石に敵の目の前でトリップするとかやべぇし。
「――で、呆けている所悪いんだがな二人とも、あの三人の事知ってるなら――なんで此処に配置されてるかは分かるか?」
戦力にならない連中を態々此処に配置してくるとは思えない――故に、必ず彼等には意味がある筈なのだ。
「あの方々は――陛下と第一、第二王子、ロイド様の父君と兄君達で――」
表情を歪ませたままライルが応えるが、俺が聞きたいのはそう言う事じゃない。
「そうじゃなくて、その王族達が此処に配置されてる意味――彼等がどうして戦力として此処にいるかのかを聞いてるんだ」
魔術の存在が認識されている世界で、鍛えては居なさそうな王族が戦力になるのなら、魔術を使ったモノ以外は考えられない。
だが、仮にそうだとしても、今更低位の魔術などを使うのを三人集めた所で――意味などあるのか?
それとも、中位の魔術使いだと言うのか? ――ありえないだろ。中位クラスの魔術なんざ、本気で学ばなきゃ到達出来る訳が無い。
そして――王族である彼等には、そこまで魔術を学ぶ意味が無い。
「恐らく――上位の魔術を使えるからでしょう」
なっ……上位――だと?
(落ち着けレオン、この世界での上位魔術が俺達の認識上の上位魔術と一緒な訳が無いだろう)
まぁ、そう言われればそうか。
(まぁ、精々中位ぐらいの事を指してる筈だ――人間の寿命で、上位魔術の領域にたどり着ける訳が無い)
そうだな――そもそも、俺の認識上の上位魔術のレベルになると、この世界では存在すら知られては居ないだろう。
――それでも、王族が其処まで本気で魔術を学んでるとは思わなかったが。
「使える、と言っても――魔法陣を掘り込んだ腕輪で強化されて下位の魔術を上位にするだけだけどな」
魔法陣での強化――か、しかし何かに掘り込んだりした無限に使用できる魔法陣の効果って結構薄かったよな?
しかも腕輪サイズで下位を中位に強化するって、どんだけ細かな陣を刻んでるんだよ、その腕輪――それが、三人分もあるなんて……
「それよりもレオン殿――認めたくは無いですが、陛下や王子達は既に殺されています――それでは、何故陛下達はあそこで操られているのでしょうか?」
その答えを、俺は告げなくてはならない。きっとライルもロイドも既に分かっている。アレが、何故動いているのかを――
否、ここまで来るのに遭遇した全ての敵が、どういう理屈で操られているのかを、理解してしまった。
きっと、認めたくないのだろう。その上、非現実的過ぎる。だから、頭によぎった答えを否定したくて、俺に答えを求めたのだろう。
気休め等、無駄だ。きっとジュリアスを倒せば全て分かる事なのだ、だから――
「操られている人間が、最初から死んでるからだ。死者を操る、それが――ジュリアスの能力なんだろうな」
俺は、ありのままの真実を告げた。

――to be continued.

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