EternalKnight
乱戦〜王城突入〜
<SIDE-Noie->
倒した筈の人々が再び動き出し、私に襲い掛かって来る。
唯でさえ、私の得物――レイピア――では多人数を相手にするのに向いていないと言うのに、これではいつか限界が来てしまう。
そもそも、再び動き出した人々は何故動けるのか? 私が戦いの最中に狙うのは敵対者の急所のみ――一撃或いは二撃で活動を停止させる点だけだ。
だと言うのに、一度倒した相手が動き出してくる……コレは明らかな異常だ――こんな事は今までに無かった。
「私にどうしろって言うのよ、こんなの――」
急所を潰しても立ち上がる敵――そんなの私の得物とは相性が悪すぎる。否、この様子ではルゼルにとっても相当相性が悪い。唯でさえ、ルゼルは手傷を負っているのに――
「まぁ、ルゼルにはサバスが付いてるから大丈夫――かな? 他人の前に自分の心配をしないと……っね!」
呟きながらも迫る敵の攻撃を避けては反撃を繰り返す――が、敵が減る事は一向に無い。否、寧ろ増えてきている。
囲まれている以上、一度に襲い掛かって来る敵の数はほぼ同じだけれど、このままじゃジリ貧なのも分かっている。
この状況を打開するには、敵対者の動きを封じる事ぐらいしか思いつかない。
私はそれを実現する力を持っているけれど、アレを使っても消費する精神力を考えればコレだけの敵を屠る事なんて出来ない――
でも、それでも……今の私に出来るのはアレを使う事ぐらいしかないから……だから私は、祝詞を紡ぐ――
「凍れ、凍れ、凍れ――我が刃を尖らせよ。凍れ、凍れ、凍れ――敵を穿つ刃を創れ。凍れ、凍れ、凍れ――名前の無い汝等に名を与えよう。その名は――」
紡ぎながら、襲い掛かって来る敵の攻撃を凌ぎ、その最中にイメージを広げる。私の武器の形を変化させると同時に、次に繋げる為の下準備をする為に――
そして今「――アイシクルラピエル」その力の名を紡ぎ、力が発動する。
詠唱と同時に、大気中の水分が私の得物を覆う様に収束し、それが急速に冷え固まる。そして、私の得物は凍てつく氷柱に覆われてその形を変える。
レイピアからスピアへと――
スピア――レイピアと同じく突きに特化した武器ではあるが、一撃の破壊力はまるで違う。もっとも、だからと言ってコレで敵を簡単に屠れるとは思って居ない。
重要なのは寧ろここから――しつこくも迫る操られているであろう人々の攻撃を捌きながら、チャンスを待つ。
そして――計ったかの様な絶好のタイミングで飛び掛ってきた敵の腹部に全力でスピアでの一撃を放ち、貫く。それと同時に、私は更なる祝詞を紡ぐ。
「凍れ、凍れ、凍れ――貫く牙の様に。凍れ、凍れ、凍れ――蹂躙する牙の様に。我が声に従いて、凍てつき、蹂躙し、貫く氷柱となれ――」
コレは、私の力だけでは再現できない力……だけれど、供物があれば再現できる力――
「――トランプルファングッ!」
唱えると同時に、スピアで貫いていた敵が干乾び、次の瞬間――周囲の地面を裂いて無数の氷柱が現れた。

<SIDE-Leon->
王城に突入すると、ある程度予測は出来ていたが、新たな敵が俺達の前に現れてた。
――のだが、立ちふさがる障害の数は今までと比べるまでも無いほど少ない――と、言うか恐らく三十人も居ない。
幾ら屋内で狭いからと言って、ここまで少ないと考えられる事は一つ。――単純に、今立ちはだかって来ている者達が今までの雑魚とは違う、と言う事しか考えられない。
推測でしかないが、相当腕の立つ連中――それこそ一人一人がロイドと同じ程度――親衛士団の団員レベルはあると見て良いだろう。
(それでも、俺達からみれば雑魚だろう?)
まぁ、その通りなんだが――もし推測どおりなら、ロイドにすれば脅威以外の何ものでもねぇだろうな……
――に、してもさっきからロイドもライルも喋らないし動かないんだが……どうしたんだ?
特にライルなら今まで通りなら、既に敵に突っ込んでても良い頃合いの筈なんだが――
そんな事を考えながら、横目で見たライルは、苦虫を噛み潰した様な顔で、眼前に存在する敵達を見つめて居た。
「……馬鹿な……何故だっ!……何故お前達がここに居るっ!」
その次の瞬間にはそんな叫びを上げていた。反対の位置に居るロイドも、叫びこそ上げないものの、険しい表情になっている。
(拙いな……知り合いでも居たか? ライルが戦力にならなければお前のみの力では少々厳しいかもしれんぞ?)
「落ち着けライル、何がどうしたのか説明してくれんと俺には分からんぞ」
シュウの言う通り、ここでライルまで戦力にならないとなると、シュウの力を最低限使ったとしても俺一人で二人を守りながら戦うのは厳しい。
ここは既に王城内――今の状態で、シュウの力が絶対に気付かれないと自信を持って言える限界の出力。今以上にシュウの力を使えば、いつ気がつかれてもおかしくは無い。
並みの聖具使いならもう少し上げても早々気付かれないだろうが、ここに至っても俺が気がつけない程エーテルを外部に漏らしていない奴が、並である筈がない。
思考は一瞬で完了し、俺の問いかけから少しだけ間をおいて、ライルが答えを返す。
「あの中に……リウ=レイオスに集まってきていなかった親衛士団の団員達がいます……それも、私の記憶違いが無ければ、団長以外は居なかった者……全員です」
あまり当たって欲しくは無かった推測通り――ホントに、士団員レベルかよ……
(レオン、今問題なのは其処じゃないだろ?)
あぁ、ライル達が其処に居る奴等と――戦えるかだ。
どちらにしても、このエリアをさっさと抜ける必要がある。今までのルール通りなら、ある程度進めば、連中は追ってこなくなる筈だ。
もっとも、基準がロイドと同じレベルであるなら簡単には逃げ切れないとは思うが――
「事情は分かった――それで、お前は自分の部下達と戦えるのか? ロイドも、顔見知りとは戦えるのか?」
出来れば全員で突破をかけたい――流石に、ロイドと同レベルの相手を一人で同時に三十人程も行う事など、今の力では不可能でこそ無いが厳しいのだ。
俺の問いかけにライルとロイドが答えを返す前に、敵が活動を開始する。それは偶然なのか――それとも考える時間を与えないつもりなのか――
(どちらでも良い、来るぞ!)
言われなくても分かってる――と、その声に応える様に思考し、俺はシュウを構えて向かってくる敵がライルとロイドの元に向かわない様に前に出た。
瞬間、後方からライルとロイドの答えが聞こえた。その声――彼等の答え――は……
「戦えます」「戦えるっ!」
(まぁ、別に今までの戦いからも殺す必要が無い、と言う事が分かっていたしな――当然と言えば当然の回答だ)
成る程――そりゃそうか……肝心な事忘れてたみたいだな、俺は。まぁ、ライル達が戦えると決まれば――
「よっしゃ! だったらこいつ等がついて来ないぐらい先に進むぞ!」
――こんな所に長居する必要は無い。

<SIDE-???->
「こんな世界など――力を元に戻すための糧にしかならないと思っていたが……まさかあれ程の存在が居たとはな」
否、そもそも聖具無しで奴程の力を発揮できる存在など存在しないだろう。そう言う意味で、私は実についている。
私だからこそ、アレを有効に活用できる。あれ程のポテンシャルを秘めた肉体の存在等聞いた事が無い。言うなれば、アレは人として最強の存在……人類最強。
人を超越した上位の聖具使いの相手にはならないが、間違いなくその性能は人類最強としか言い様が無い。
「アレであの力が使えれば――間違いなく二十八士を超越できるだろうが……否、それも今となっては不可能な話か」
(しかしマスター、彼が今の状態でなくては、貴方は私との契約を行う事が出来なかった)
まぁ、その通りではあるな。もっとも、今の状態でも効率よく雑魚の永遠者を狩れる様にはなる――それだけで、消費が激しいあの力を使える回数も増やせるだろう。
(マスター、あの力はそんなに何度も使う物でも無いと思うのですが?)
そんな事はお前に言われなくても分かっているさ。――あの力は余程の事が無ければ使わない。だがそれでも、アレのお陰で普段からの雑魚狩りが相当楽になるだろうな。
まさに思わぬ拾い物と言うべきだ。今まで使ってきたモノとは別次元と言って良い性能だろう。それでも、あの力を使う為には彼が必要なのだが――
「に、しても――最後の抵抗がこの程度とは……アレが居た世界とは言え、買いかぶり過ぎていたか」
王都に存在する数千に及ぶ人形を通して得られる情報からは、予想以下としか言い様が無い被害しか届いていない。
百に満たない数では、この程度と言う事なのか……未だ殆どが第一防衛線の数しか取り得が無い雑魚の相手をしている。
唯一の例外になる三人は第三防衛線まで来ているが、それは殺した訳ではなくこちらに向かってきているだけに過ぎない。
「――あの調子では、私の元まで来ないか……否、そもそも此処に到着する訳など始めから無いか……此処に来るには、アレの相手をせねばならんしな――」
まぁ、なんにせよ――あの三人以外はもう用済みと見て良い。
折角仕込んだ種も無駄になると言うものだ。――もっとも、少し驚かす程度しかできないが……それはそれだ。
それに、人間としては強かったが、あんなモノは大した事は無い――少なくとも、あの程度の輩を屠れない程度の強さの存在には興味が湧かない。
「まぁ、後はどうにでもなるだろう……私は高みの見物でもさせてもらうとしよう」

<SIDE-Noie->
周囲に生えそむる無数の氷柱と、それに貫かれ凍りついた敵と、未だ無数に存在する敵が見える――逆に言うなら、それ以外の物は背景にしか見えない。
眠い――それにだるい……集中力が続かない。そんな中で私は接近してくる敵を得物で貫き――そして……
「……トランプル……ファング」
詠唱と同時に新たに数本の氷柱が地面から生え、敵を貫き、凍りつかせる。――今の詠唱で十回目となる発動を行った私に、さらに強烈な睡魔が襲い掛かって来る。
精神力を消費する魔術――その中でも人間を供物にするほどの大魔術を連発する以上、こうなる事は分かりきっている事だ。
体にも無数のダメージがある。本調子ならこの程度の相手に傷を負うことは無いが、睡魔に襲われている以上、このダメージも仕方ない事だと思う。
挙句、集中力も続かない――多少は敵も減ってきている気がするが、それでもまだまだ敵は居ると言うのに、限界が近付いている。
もう、魔術を行使するどころか、普通に戦う事も難しい……それでも、私は倒れる訳には行かない。
朦朧とする意識の中で、相も変わらず迫ってくる敵の攻撃をどうにか捌き……きれずに恐らく背後からであろう一撃を頭に受けて――視界が白く染まり――意識が飛ぶ。
だけれどそれも一瞬だけで、衝撃ですぐに意識は覚醒する。それと同時に、振り向き様に背後から一撃を加えてきたであろう相手を振り払う様に得物を振るう。
「く……っう……」
痛みに耐え切れず、情けない呻き声が口から漏れ出る――が、痛みのお陰で睡魔は少しだけマシになった……これなら、まだもう少し戦える――
――もう少し戦えた所で、それが何だというんだろう? 私は、何の為に戦っているんだろう?――不意に、そんな疑問が頭に浮かんでしまう。
それを打ち払う様に、右手に握るスピアを振るって、薙ぎ払い、突き刺し、迫る敵を退ける。
――だけれど、その程度の攻撃では敵を止める事など出来ない事は既に分かりきっている。
「もう……駄目かも……」
そもそも、魔術を使わなければこんなまだこんな事にはなっていなかった。だけれど――魔術を使っていなければ、今凍りついている敵も未だに動いていただろう。
敵はもう増えていないみたいだけれど、これ以上減らす事も出来ない以上、どうにも出来ない。せめて、誰かが援護にでも来てくれれば――助かるかもしれない。
誰かと言えば――私の隊の皆は無事だろうか?――まぁ、大丈夫か……皆強いし、途中で見かけたサバスの隊の戦い方を見て、二人一組で戦う様に指示したし――
そんな中、声が聞こえた。
「大地よ集え、我が槍の元に。砂よ、土よ、泥よ、石よ、我に力を分け与え給え。大地よ集え、我が求めに応じよ。大地を穿つ巨人の長槍を我が手に――」
それは、滅多に聞く事は無いけれど、確かに聞き覚えのある声で――紡がれるその詠唱も、私は知っている。コレは――
「ジル……ム」
そう、あの声は、あの詠唱は――滅多に喋らない、だけれど仲間思いな彼のものに間違いない。そして、紡がれる力の名が――響く。
「――アルバサリッサ」
その声と同時に、私の思考は途切れた。

――to be continued.

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