EternalKnight
乱戦〜バイオハザード〜
<SIDE-Leon->
群がる兵士達を屠りながら――と、言っても俺はあくまで意識を刈り取るだけだが――ついに王都の中心部、王城の目の前まで来ていた。
そして、少し前から、あれほど群がっていた筈の敵兵士達の姿が全く見えなくなった。
其処から想像するに、操られる際に、何処から何処までの防衛をすれば良いかを予め定められていたと見て良いだろう。
どおりで鎧を纏った兵士達との戦闘で前に進むのが遅れた俺達を追って操られた王都の住人達が押し寄せてこなかった訳だ。
――だが、そうなると疑問になってくるのが、そんな範囲の指定をする事に意味があるか、と言う事だ?
考え無しにそんな仕組みを用意する筈も無い以上、何かしら意味があるんだろうが――ソレが何なのか分からない。
もっとも――仮に分かった所で、俺のなすべき事が変わる訳では無い。故に――考えるのは時間の無駄だし、そもそも俺達には時間が無い。
蹴散らして来た敵兵達の実力を考えれば、もうじき士団の連中も追いついて、直ぐにとはいかないだろうが、兵士達を押さえて王城にまで進んでくるだろう。
だからこそ、急がねばならない。俺がジュリアスを倒したという事実を士団員に隠蔽しなければならない。
それを前提にして、可能ならばジュリアスを結界に取り込んだ上で倒し、外の世界に反応が漏れない様にする必要もある。
出来る事なら、この世界にもう少し姿を隠しておきたい。だが、此処に至っても今だエーテルの反応を感じさせないジュリアスの実力は相当な物だろう。
――それらを踏まえて考えると、やはり時間の余裕は多くあるに越した事は無いだろう。だから――立ち止まっている暇は無い。
流石に、此処までくれば士団員の誰かが聞いている筈が無いのだし、呼び方に気を使う必要も無いだろう。だから――
「さて、そろそろ行くか――ライル、ロイド」
俺は、王城を見上げながら、背後に居る二人に言葉をかけて振り返った。
その俺の声と視線に応え、ライルとロイドは小さくそれぞれの反応を返しながら頷いて、俺が前を向くのに要した一呼吸の間を空けて、俺達は同時に王城へと足を踏み出した。

<SIDE-Savath->
今まで屠ってきた人数の過半数が、再び動き出す。足のある物は立ち上がり、無い者は這いずって――
間接でもない部分が折れ曲がった者、腹部が陥没した者、腹が裂けて臓物の飛び出した者――
普通の人間なら明らかに死んでいてもおかしくない者が、平然と活動を再開するその光景は、悪夢か或いは地獄と呼ぶ以外に形容する方法を思いつかない。
コレではまるで、操られた人間と言うよりも――傀儡子に操られる人形だ。腹を裂こうが胴を両断しようが、活動を再開する――では、どうやって倒すのか?
とにかく何か打開策が出来るまでこの状況を凌ぐしか無い……思考の間も機械の様に得物を奮って近付く敵を薙ぎ払い、吹き飛ばし、両断する。
そうして屠った敵の大半が、今度は直ぐに立ち上がり、再び俺に向かって動き出す。このままでは増援もある以上、敵は増える一方だ。早くなんとかしないと――
そう思考する最中、小さな呻き声が耳に入った。嫌な予感がする……否、ソレは既に予感ですらない事は理解できる――そうしてソレを承知で、俺は声の元に視線を向ける。
その先には、最低限のダメージを与えて敵の動きを封じていたルゼルの姿と、そこに群がる大量の敵の姿だった。
そう、俺は敵の状態を問わずに屠っていただけなので、敵はまだ動けると言っても、腕が折れたり、下半身が無かったりするモノばかりだ。
だが、ルゼルは違う。操られていた者の事を考え、与えている傷は少ない、つまり――ほぼ無傷の状態の今までの敵が活動を再開したのだ。
加えて、ルゼルのカットラスは俺のバルディッシュの様に一撃で多くの敵を攻撃出来ない。そして、先程の声は、圧倒的な数の敵に押されて漏れ出した呻き――
「っく――」
なんとかルゼルの援護に向かいたいが、こちらも大量の敵が群がっている。バルディッシュに巻き込まれない様にルゼルが開けた距離が、今はとてつもなく遠く感じられる。
敵は減る事も無く、次々と現れる増援で増える一方だ――バルディッシュを奮う為のスペースすら埋め尽くされかねない。そうなれば、俺にはどうする事も出来なくなる。
だがしかし、どうやって数を減らす? 胴を両断しても動くような連中を――否、待て……よく考えろ。まだ地面に付したままの肉体はあるじゃないか。
こいつ等も動き出すのか? 否、そんな筈は無い。動き出せるなら、もっと早い段階で動いていた筈だ。
最初の一度は奇襲と言う意味もあるかも知れないが、二度目はそんな行為に意味は無い筈だ。
現に――最初の一体が俺の脚を掴んでバランスを崩しかけた瞬間、全てがほぼ同時に活動を再開したじゃないか。
――だったら、今倒れているのは行動を再開出来ないと考えて間違いない。
つまりは、壊れても立ち向かってくる、このバケモノと言う言葉が似合うようになってしまった王都に住んでいた人々を行動出来ない様にする方法がある、と言う事。
なんだ? 動けなくなった連中の共通点は一体なんだ? 確認できるなら行いたいが、俺の元に押し寄せてくる敵のせいで確認は出来そうに無い。
だけど、多少強引にでもソレを確認するしか無い。こうしている間にもルゼルが追い詰められている筈だ――その姿は押し寄せる敵のせいで、今はもう確認する事も出来ない。
動かなくなった敵の確認の為に――そして、群がる敵を吹き飛ばす為には、正直苦手な部類に入るアレを使うしかない。
――アレは少し精神力を使うんだが、今はそんな理由で出し惜しみしていいタイミングじゃない。
判断と同時に、俺は祝詞を紡ぎ始める。――その間も休むこと無くバルディッシュを奮う。
「風よ、我が声に応えよ。精霊の息吹よ、我が声に応えよ。今、我が元に突風の加護を。今、我が刃に聖風の加護を。さぁ、共に行こう、風達よ。我が敵を屠る為に――」
そしてここに「ブレードゲイルッ!」祝詞が完結し、その力は解き放たれる。
――風が吹く。それは聖風にして突風。立ちふさがる者を薙ぎ払う風の息吹。
その風が、俺の手に握られたバルディッシュを包む様に収束する――それを、俺は体を捻って大きく振りかぶり、薙ぎ払う様に振りぬいた。
同時に、圧縮された風が解放され、振りぬく刃は指向性を持って突風を生み出し、俺に群がって来る敵を一気に吹き飛ばした。
至近距離で当てれば爆風に巻き込まれ、唯ではすまないが、距離が開けば強烈な風でしかない風の刃の一撃で、先程挽肉に変えたのは数人。
――だが、今の俺の目的は敵を屠る事ではあるが、先程の一撃にそこまでの期待はしていない。精神力を消費してまでアレを使った目的は二つ。
敵の足元に隠れる、もう立ち上がらなくなった物がどんな常態か確認する為。もう一つは敵を振り払ってルゼルの援護に向かう為だ。
そして、俺は見た。既に動く事の無くなった操られただけの人々の残骸を――その、共通点を。
それを認識すると同時に、地面に朽ちる骸から視線を外して後方――ルゼルの元へ向けて動き出す。
動かなくなった骸の共通点。それは、頭が潰れていたると言う事だった。つまり――この操られた人々を解放するには――頭を潰すしか無いと言う事。
それは同時に命を奪う事になるのだが――残念ながら、俺は赤の他人の命よりも、自分や仲間の命の方が大切なのだ。だから――
ここからは、甘い考えは捨てる――立ちふさがる者の頭部を尽く破壊しつくす。敵対する者は――誰一人残さない。全てこの手で肉塊に変えてやる。
そうして「伏せろ、ルゼル!」叫ぶ。ソレから一息の間も入れずに、右側から薙ぐ様に、立った人間の頭部の高さにバルディッシュの刃を煌かせる。
声に反応し、一瞬で体勢を低くしたロイドのみバルディッシュの軌跡から逃れ、反応する事の出来なかった操られた人々の頭部がバルディッシュの一撃を受け、砕ける。
さらに、薙ぎ払いの力をそのまま維持し、右足を軸に半回転し、ルゼルと本当の意味で背中を合わせた。
「大分傷負わされてるみたいだが、大丈夫か?」
背後に投げ掛ける様に俺が問うと、怒気に満ちた声でルゼルが応える。
「サバスッ! 彼等は私が相手をしていた、何故横から割り込んできたッ! 否――何故殺した。彼等は私が相手をしていたのだぞ!」
俺には俺の考えがある様に、ルゼルにもルゼルの考えがある事は重々承知しているし、ルゼルのそれが――例え敵であろうと誰も殺さないと言う事も知っている。
敵であるなら、殺さないにしても、完全に四肢を破壊する程度の事は躊躇わずに出来る奴であるのは知っている。
だが、其処までするにしても――ルゼルが誰かを殺したのを、少なくとも俺は見た事も誰かにそんな話をしているのも聞いた事が無い。
――この状況はどう考えても異常だ。頭を潰さなければ動き続ける敵など、性質が悪いにも程がある。
そんなバケモノとしか呼びようが無い奴等を相手に、誰も殺さないだなんて戦い方で、操られているだけだからといって、四肢を落とす事もしないで――勝てる訳が無い。
戦えば戦うほど消耗して――いつか殺されるだけだ。
「お前――状況が分かってんのか? 理屈は知らねぇが、相手は頭をつぶさねぇと何度でも傷が無いみたいに動き出すんだぞ?」
そんな事、人体の構造上の弱点を狙って行動不能にさせる戦いをしているルゼルが一番良く知ってる筈なのに――
「頭を潰せば動かなくなるという事は今聞いて知ったが――群がっている彼等に真っ当な弱点が無い事は良く分かって居たさ――だが、それでも彼等は操られているだけだ」
――知っている筈なのに、こいつはまだ誰も殺さない気で居る。
「馬鹿か! そりゃ、出来るなら俺だって無関係の人間を巻き込みたくは無い――だけど、それを守る為に自分や仲間の命を危険に晒すなんて、そんなの間違ってるだろ!」
そうだ――今この瞬間にも得物を奮って向かってくる人々の頭を粉砕している俺だって――やりたくて操られている人達を完全に殺している訳では無い。
殺らなければ殺られてしまう以上、仲間の誰かがこの瞬間にも殺られているかも知れない以上――今の俺に出来るのは、その原因となりうる事象を取り除く事だけだ。
「お前にとっては間違いでも――私にとってはこれが正解だ! そして、ここで時間を稼ぎ続けていれば、副長が人々を操っている元凶をどうにかしてくれる筈だ」
そんな保障は何処にも無いと言うのに――団長ですら、成す術なく殺された相手を、そんなに簡単に倒せる筈が無い。
「そんなに上手く行く訳無いだろ! それに――仮にライルがジュリアスを倒しても、こいつ等が止まる保障なんて無い!」
否――寧ろ俺はライルに倒せるとは思って居ない。可能性があるならば、実力が完全に未知数であるレオンぐらいのものだろう。
ライルが態々探して連れて来た奴が、唯の凄腕程度な訳が無い。必ず、彼には何かがある筈だ。
それでも――ジュリアスを倒せる確率は限りなく低いだろう。アレは完全に――人間の領域を超越した何かだ。人の手でどうにか出来る相手じゃ無い。
「確かにその通りだ。分かった――頭を壊すのが最善の方法だと思うならそうすれば良い」
俺に背を向けたまま、ルゼルはカットラスを奮いながらそう応える。ようやく分かってくれたのか……これで俺も少しは安心して――
「だが――私が相手をしている者に手をだすな。偽善と言われようと、私は私の最善を尽くし、救えるだけの命を救う――」
――安心なんて、出来なかった。否――そもそも、十年近くも俺より長く生きてるルゼルの考えを変えさせる事等、もとより俺には不可能だったのかも知れない。
「――分かった、お前の相手に手を出したりしない。だから、これだけは約束してくれ……死なないと」
ルゼルの実力に関しては信頼している――だけど、今のルゼルは万全じゃない。
「心配されなくても、この程度で死んだりはしない。今回で自分の力の無さを実感させられた……もっと強くなって、一人でも多くの人の命を守る為の力が必要だ」
だが――自信に満ちた声でルゼルは俺の言葉に応えた。ルゼルが大丈夫だというなら、俺はそれを信用するしかない。
もとより、俺の考えとルゼルの考えは相反している――だから、もう俺はルゼルの手助けをする事等出来ない。
これ以上、ルゼルといがみ合う必要など――少なくともこの戦いの間には無い。そして――きっと手助けも必要ない。
否、手助けなど無粋だ。ルゼルは俺が手を貸さなくても生き残る。決意を抱いた人間は、簡単には負けたりはしないのだから――

――to be continued.

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