EternalKnight
王都〜傀儡〜
<SIDE-Savath->
さぁ、背中は頼れる三番隊長様に預けた――これで心置きなくやれる。
久しぶりに、その破壊力から普段の訓練での使用を禁じられた俺の得物――バルディッシュ――を使えるんだし、その辺りの心配は無くしておきたい。
背中を任せないとこの人数は厳しいが、ルゼル程でなくては、俺のバルディッシュに巻き込まれる可能性が高い。
多少の手負いでも、狙った訳ではないバルディッシュに当たる等と言うヘマはしないだろう。
準備は整った、後は自らの鼓舞の意味を込めて。いつもの啖呵を切るだけだ。
「俺は親衛士団第一部隊長のサバス=ラクヴェール。向かってくるなら容赦なく潰すが、逃げる奴を後ろから潰す気はない。逃げるなら――今の内だぜ?」
周りに群がる主婦その他の目からして、聞いているとは思えないが――まぁ、良い。
例え何であれ、向かってくるなら潰すのみ――ソレが、操れている様にしか見えなくても――だ。
ルゼルの方針とは外れるが、俺は自分の隊を預かっていて、ルゼルは三番隊を預けられている。そこに、互いに干渉する権利など無い。
故に――背後からルゼルの溜息が聞こえたが、何も言ってくる事は無かった。
ソレを確認してから「さてと――それじゃあ、お約束もやったし、そろそろやるかね?」そう言いながら、俺はバルディッシュを横薙ぎに振り抜いた。
全長150センチ程のバルディッシュが、俺の警告後も全く後退しなかった主婦その他の集団の最前列の四人を吹き飛ばす。
その四人の体に衝突し、集団その背後に居た数人も巻き込まれて転倒する。
最前列に居た四人は、刃の部分ではないとは言え、相当重量のあるバルディッシュを腹部に叩きつけられた事により、少なくともアバラ数本は逝っていると見て良い。
あの状態ではまともには動けないと見て良い――やはり、今回も数こそ多いがバルディッシュで斬る必要がありそうな相手は居ない。
「それでも、この人数は相当やり応えがありそうだけどな――っと」
先の一撃で吹き飛ばした数人が立ち上がるよりも早く、その後ろに居た数人が俺に襲い掛かって来る。こっちが仕掛けた瞬間やる気を出した見たいだな、こりゃ。だけど――
「雑魚が何人居ても――同じだ!」
振りぬいたバルディッシュを引き戻す動作で襲い掛かってくる一般市民を再び薙ぎ払う。そのモーションで、数が多い事もあり、何人かの胴をバルディッシュの刃が両断する。
別に罪は無い操れらただけの一般市民だと思うが、この状況では、先程の様に、死なない程度のダメージだけ与えるのを全員に与えるのは不可能だ。
――故に、向かってくるのなら潰すしかない。ルゼルは全員戦闘不能にだけするつもりらしいが、俺の武器ではそんな細かい芸当は出来ない。
出来ない事なら仕方ないと割り切った方が良い。だから俺は――思考しながらも、バルディッシュを振るい、新たな肉片を生み出していく。
「もう少し、犠牲者を減らすように戦えないのか、サバス!」
その俺の行動を見かねたのか、遂にルゼルが口を挟んでくる。――それにしても、腹を刺された癖に良く其処まで気を回すな、ホント。
いや、こんな奴だからこそ――俺は背中を預けられたんだと思う。だけど、ソレは今関係ない。
「俺のバルディッシュじゃ、お前のカットラス程細かい芸当は出来ねぇよ――残念ながら……なっ!」
答えながらもバルディッシュで視界に入る敵を屠り続ける。俺の言葉に、ルゼルは納得し難い様に「そうか」とだけ答えてその会話は終わりを迎えた。
足元には、骨を叩き折って気絶させた者と、両断し肉片となった者がごちゃ混ぜになって転がっている。それでも俺は、バルディッシュを振り続ける。
次から次へと、敵が現れ続けるから――すこしだけ、ルゼルの居る後方へ視線を移すと、数十人分の外傷の少ない人が転がっていた。
人々の生き死にを問わず、屠っている俺よりも数こそ少ないが、其処に転がる人々は確認する暇など無いから断言は出来ないが――全員生きているだろう。
だが――ソレはルゼルのやり方であって、俺のやり方じゃない。今は、市民の命よりも、多くの敵を屠る事こそが重要だと、俺が判断し行っているのだ。
ルゼルの思想とは全く違うが、俺にとっては自分の命や仲間の命の方が、見知らぬ一般人よりも重いのだ。
だからこそ――一人でも多くの敵を早く打ち倒す。ソレが、俺にとってのこの戦いの全てだった。

<SIDE-Leon->
ロイドについて来れる速度で、先頭をライルが走りながら、群がる一般市民達を蹴散らして王城へと向かって走る。
最後尾にいる俺にはロイドを守る、と言う役目を受け持ったが――正直、やる事が無い。
行く手を阻むように群がる雑兵――一般市民――はライルが蹴散らし、ソレを免れロイドに襲い掛かる者も、攻撃対象であるロイドに屠られる。
俺はと言うと、二人の後ろを追いながら、適当に後ろから寄ってくる雑兵の相手を軽くする程度に過ぎない。
しかし――本当に妙だ。たったコレだけの相手しか、王都には居ないのか? 王城を固めている可能性が無くは無いが、それでも屋内では数に限界がある。
武器らしい武器を持って武装した敵が居ても、おかしくはないのだが――ここに至るまでライルが蹴散らした相手等を見ていると、明らかに、一般人のなりしか居ない。
そもそも、何故操られている?
――否、何をどうやって操っている? 魔術にしても聖具固有の能力にしても、外部から干渉しているなら、通常人間が持ちうるエーテル以上のエーテルが検出される筈だ。
自身の体を巡るエーテル量を外部に漏れ出さない様にすることは出来るが、何かしらの能力となっていれば、必ず反応は消せない筈なのに――何故ソレが無い?
契約者の持つ、催眠術か何かか? ソレもありえない。極少数な人数ならまだしも、アレだけの人数に、それも唯の一般市民にまでソレをする意味が無い。
それなら、元から体を鍛えている者達だけでも十分な筈だ。鍛えても居ない一般人にまで洗脳をかけるのはおかしい。
では、何か目的があるのか? 無駄だ、そんな物は考えるだけ時間の無駄に過ぎない。長く生き過ぎた人間の発想は突拍子も無い事が多いのだ。
(それを、お前が言うのか? お前より長く生きている存在など、この広域次元世界全体を探しても数える程しか居ないだろ?)
ソレ言うならお前もだろ? 俺よりも少しだけ生まれるのが遅かっただけだろ?
(少しだけ――か、お前と俺とでは十年程お前の方が長く生きてるのだがな――)
そんなもん、今まで生きてきた時間から見れば差とは言わないだろ?
そんな風に、シュウとの念話を続けながらも、俺に向かってくる者達を適当にあしらいながらロイド達の後を追う。
――その先で、遂に武装らしい武装を纏った騎士と呼ぶに相応しい姿の敵が集まり初めて居るのに気付いた。まだ王都までは少しあるが、何故今になって仕掛けてくるんだ?
ジュリアス以外に他人を操作できる者など居ない筈だが、それなら何故、ジュリアスはこんな真似をするのか?
一般市民と通常の武装兵士を分けた意味が分からない。それならまだ二つの混成された集団として存在した方がまだ一般市民の駒を失わずに済むだろうに……
何故態々捨て駒に使うような奴等に洗脳を施したのか――そもそも、本当に洗脳なのか。否、普通に考えれば洗脳以外に無い訳だが。
だが、考えている時間は無い。目前に集まり始めている武装兵士達を既にライルも見つけている筈だが、ライルは減速の気配を見せずに、寧ろ加速する。
一気に突破するつもりなのか――そうなると、ロイドの護衛って役目をやっと果たせるのか――
一対一なら恐らくロイドの方が強いだろうが、流石にあの数の集団の相手をするのはまだ無理だろう。
ライルが止まる事無く敵の集団の中を突き進み、相当の業物ではあろうが、聖具でもない唯の剣で無数に居る敵を屠りながら進んでいく。
――流石に、あの量を一撃で吹き飛ばす程の連撃で放つのには空の魔術を発動させてはいる様だが。
その姿に見とれているのか、ロイドは走りながらも無防備な姿を敵の前でさらす。――勿論それに付け込む様に敵がロイドに仕掛け様とするが、ソレを見逃す俺じゃない。
飛び掛った敵がロイドに到達する前に、地を蹴り、敵がロイドに到達する前に、その体を空中で殴りつけて叩き落とす。
空の魔術と自動的に掛かるシュウの補正をそのままに行った一連の流れは、ライルとの戦いでの動きを凌駕していただろう――最も、シュウの補正が相当大きいのだが。
さらに、今しがた叩き落した敵を追う様に飛び掛ってきた三人の敵も全員空中で叩き落した――まぁ、全員殴って地面にたたきつけたくらいだし、死んでは無いだろう。
(そうだな、エーテルの反応は消えていない。ついでに言うなら、ロイドもまだ誰一人殺してないみたいだぞ? エーテルの反応の数が減らないしな)
意識を刈り取るだけなら問題ないが、殺すのは拙い。それは世界への干渉になってしまう。もっとも、干渉してはいけない訳ではなく、俺が干渉したくないだけなのだが。
まぁ、今はそれよりも――
「見惚れてるなよ、ロイド――ライルが切り開いた道を通れ。そこならまだこの数相手でも楽な筈だ!」
ライルが強引に敵を押しのけ作った道は、直ぐに周りの兵士に防がれてしまう――そうなれば、ロイドは此処を突破出来ない。
今のロイドの実力で、アレだけの数を同時に相手など出来る訳が無い。――無論、俺ならば本気でやらずとも、突破は容易に可能だが。
俺の言葉にロイドは「はい!」と短く答えて、地面を強く蹴って加速し、ライルが切り開いた道へと飛び込んだ。
ソレを追うように、俺も集団の中に出来た一本の道へと進みだした。

<SIDE-Savath->
次々と沸いてくる操られた敵を、自ら得物を奮って薙ぎ払い、両断し、殴り飛ばす――敵が沸かなくなるまで、奮い続ける。
足元に転がるのは、死体の山――中には生存者が居るかも知れないが、バルディッシュで殴られて倒れ付している以上、骨の数本は確実に折れているだろう。
その俺の足元に築かれた山とは違い、ルゼルの周囲には、致命傷を負わずに恐らく気絶させられた人間の山があった。
その山の上で、ルゼルは相も変わらずカットラスを奮って敵を倒していくのが見えた――最初の傷が響いているのか、顔色が悪い様に見える。
しかし、まだ敵が現れる――この王都に住む人全てが操られているとすれば、他の団員が戦っている分を考えても、今まで倒してきた分と同量かそれ以上はくだらないだろう。
「俺はそれでも余裕として――ルゼルは厳しそう……か」
呟きながらも俺はバルディッシュを奮って、新たな肉塊を作り上げ、足元の山に加える。
ルゼルは厳しそうだが、もう少しは持つだろうし、ジルムやノイエもこんな連中に遅れは取らないだろうが――他の団員はどうだろうか?
一番隊の連中は無事だろうか? まぁ、あいつ等も十分に強いからこんな連中の一人や二人なら何でも無いだろうが――流石にこの量が相手では厳しいだろう。
それに――万が一知り合いに遭遇してしまうと、危ういかもしれない。敵が操られた王都の住人であるなら、知り合いに遭遇しても、不思議ではないだろう。
俺が足元の山に加えた中には、知り合いとまでは言えないが、見た事がある他人、程度の奴等が何人も居た。
これ以上の部隊の欠損は避けたい――否、士団に欠員がこれ以上増えるのは避けたい。
その為に、俺はたとえ操られているだけの一般人が相手であろうと、その数を減らし続ける――その為に、バルディッシュを振るう。
新たなに目の前に居た数人を殴り飛ばし、両断し、次の目標を定めようとした瞬間――何かに足をつかまれバランスを崩しかけた。
あわてて体勢を整え、足元を見ると、足元の山の一つから生えた手が、俺の脚を掴んでいる。
――一瞬、思考が停止する。当然だ、その山に居るのは、最低でも骨が折れ、意識を失っている筈の人間と、両断された死体しか存在しないのだから。
だが、考えれば、骨が折れている、程度なら――少しなら動けても、おかしくは無い。その程度ならおかしくは無かったのに――
次の瞬間、俺の作りだした山から、何人も何十人もの敵が、立ち上がり、這い出して来た。
そんな光景だろうと、立ち上がってくる人間はまぁ、まだ許せる。俺はそいつ等を殺していないのだから――だというのに。
「冗談――だろ……性質の悪い夢じゃないよな、コレ」
その中に、山から這い出した中に、胴から両断された死体としか考えられない物まで混ざっているのは、どういう事なのか?

――to be continued.

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