EternalKnight
異変〜王都アルティリア〜
<SIDE-Leon->
そして、そのまま何の妨害も無く、王都に入る為の門にまで到達してしまった――周囲に高い壁が作られている構造上、正面の門からしか王都に入るのが難しいらしい。
勿論、難しいであって不可能ではないそうだが――それはそれだ。いつ敵が現れるか分からない以上、出来るだけ、力は温存するに越した事は無いだろう。
「しかし、ホントにこんなに簡単に王都に入れて良いのかね?」
聳え立つ王城までは、まだもう少し距離があるが、それでも直ぐに到達できる距離だ。その間に――多くの敵が現れるとも考えづらいのだが……
強いて警戒するなら、この門を抜けた先――ここまで何の抵抗も見せず、あえて狭いこの門を利用して、戦いを仕掛けてくる可能性も無くは無い。
が、こちらが最高レベルの戦闘能力を持つ親衛士団だと言う事を、相手も知っている筈――
そんな連中相手に、既に自陣になっているとはいえどそんな戦い方をするのは得策とは思えない。
……まぁ、なんでアレ、この門を開けばその答えは直ぐに出る――のだが、基本的に門は内側からしか空けれない。外から空けれるなら、それは侵入者を拒む門として役に立たない。
「なぁ、この門ってどうやって開くんだ? 外からじゃ開けられないんじゃないのか、コレ?」
その俺の問いかけに、直ぐ近くに居たサバスが「一応、特殊だけど外から開ける手段も存在したりするらしいんだよ、コレが」と、答えを返して来た。
「特殊な方法――ねぇ? その方法は良いとして――何の為にそんな仕掛けを作ったんだ?」
方法が特殊だとしても、外側から開ける為の方法など、存在しないに越した事だと思うのだが――
「さぁ? 俺もさっきライルに聞いただけだしな。知りたきゃライルにでも聞けば良いと思うぜ? つってもまぁ、今から実践するだろうけどさ」
そう言って、サバスは視線を動かす――ソレを追う様に、俺も視線を動かす――その先の、門から少し離れた辺り、そこにしゃがみ込むライルの姿が見えた。
あんな所でしゃがみ込んで、何をするつもりなんだろうか? あそこにしゃがみ込むのと門を開くのと関係があるのか?
だとすれば、隠しスイッチの様な物でもあの辺りにあると考えるのが妥当だろうか――どんな仕掛けなのかに、少しだけ好奇心が芽吹く。
まぁ、多少なりとも体力を使うらしいが、門を使わずとも王都内に進入できる以上、其処まで大掛かりな仕掛けだとは思っては居ないが――
自然に足が前にでて、俺はライルの元に近づいて行く――が、そんな俺に、サバスが背後から「多分、何してるかは見れないと思うぞ?」と、声を掛けてきた。
見れない、ってのはどういう事だろうか――と、考えながらも、俺はライルの元に一歩、また一歩と近づいて行く。
そして、後十数歩でライルの直ぐ脇までたどり着きそうな所で、再び俺は声をかけられた。
「そこで停まれ、レオン=ハーツィアス。今、副長は門の開放作業中だ、その方法は国家機密に値する――副長に近づくのなら、容赦はせんぞ?」
聞き覚えのある声が聞こえ、その声の先に視線を向けると、其処には腰に挿した剣の柄に手を掛けるルゼルの姿があった。
確かに――侵入者を拒む為の物である門の開放方法を見られるのは拙いだろう。確かに、ルゼルの言う事には一理ある。
なるほど、コレがさっきサバスが言っていた――何をしているか見れない――理由か。
まぁ、開門方法に興味は惹かれるが、態々こんな所でイザコザを起こすつもりもないし、素直に引き下がるのが良いだろう。
「分かったよ、近付いたりしないさ――だから、そっちも警戒を解いてくれ、なんか妙に殺気だってて怖いんだよ、ルゼル」
言いながら、両手を上げて抵抗しない意思を伝えると、ルゼルは柄から手を離し、鬱陶しそうに「ならば奥にでも下がっていろ」と短く言って、俺から視線を外した。
なんだか、激しく嫌われてる気がするのだが――まぁ、考えてみれば当然か。
突然現れた良く知りもしない奴を、上司が自分より信頼してるって状況な訳だしな、ルゼルにとって。そりゃ、そんな状況が面白い奴なんざ、居ないわなぁ……
特に、今までまじめにやって来た奴ほど、そう言う時に感じる怒りも大きそうだし――それも、あくまで想像に過ぎないが。
まぁ――今は開門を待つしかないだろう。

<SIDE-Leon->
それから数分して――重厚な音を立てながら、門が開き始めた。想像していたよりも随分と早い開門だ。
手順さえ分かれば、十分もいらずに開門出来ると言う事になる――なるほどそりゃ、国家機密レベルの情報だろうよ、確かに。
等と考えている内に、門の開きは大きくなっていく。既に、人が一人は通れそうな具合だ――が、其処から見える王都の中には、予想外の光景が待っていた。
――普通に、人が歩いているのだ。別に、街を歩く人々は武装している訳でもなく、敵意すら放っていない。だが――何か、違和感を感じる。
その違和感に、多くの兵士は気が付いて居ない。――思わず、範囲の広さを犠牲にした高精度の探知を展開するが、道行く人々からは、一人分のエーテルしか感じない。
何だ? 何がおかしいんだ? 何かしら聖具の能力を受けていれば、エーテル量が普通より多く感じられる訳だから、聖具の能力でも無さそうだし――
――人を操作する魔術など、聞いた事がない。そもそも、魔術だろうと、エーテルを利用する訳だから、エーテルの痕跡が残っていてもおかしくは無い。
操作されている訳でもなく、武装して敵意を放っている訳ではない。王都をジュリアスに落とされてから既に一月は確実に経過している計算になる。
それだけの期間があったにも関わらず、永遠者が、この国の地下勢力が――何もしていない訳があるとは俺にはとても思えない。
加えて――この違和感だ、何かが絶対にある筈なのだが――それがなんだか分からない。
周囲からは、口々に安堵の声が聞こえてくる。一斉に統制が崩れて、複数の声が混ざり合い、雑音と化している。
違和感の正体を探ろうと、思考を巡らせている時、不意に視界の端に、道行く女性に話しかけようとする、ルゼルの姿が見えた。
王都で何が起こっていたのかを、聞くつもりなのだろう。そうして、ルゼルが女性に声をかけ、女性がルゼルに歩み寄った、その瞬間――
女性は手に持った買い物籠の様な物から、何かを取り出す動きを見せて、ルゼルにさらに歩み寄った。
それは異常なまでの接近――そして女性が一歩距離を離した瞬間、その手に、朱に濡れる銀色が――血に染まった包丁の様な物が見えた。
「何――だと?」
何故、彼女はルゼルを刺した? 別に、操られている筈などないのに――おかしい、そんな馬鹿な事が……だが、今はこれ以上の被害を出さない様に警告の声を発するべきだ。
そう思考し、声を出そうとした瞬間、俺よりも早く「ルゼル!」と、女性の叫ぶ誰かの声が聞こえた――周囲の視線が、自然に声の音源に向かう。
声を発したのはノイエで、そのノイエがルゼルに駆け寄る姿を目で追った為、俺達全員の目がルゼルとノイエに向けられていた。
そうして、俺達全員が、血を流すルゼルと、駆け寄るノイエと、刺した女性を認識した瞬間――街を歩く人々全てが、何かしらの武器を取り出し、俺達に襲い掛かって来た。
奇襲を受けたのは一箇所に集まって居た俺達の最外部に居た一部だけだが、それでも、元の人数が少ない以上、被害は甚大だと言える。
数では一人につき凡そ二人が奇襲を仕掛けただけに過ぎず、本来の実力や装備の差を考えれば、遅れをとる筈などありえない相手だった。
武器も、構えられたそれ等の殆どが、本来武器として使われる筈の無い物ばかりだった。
だが、門を越える前の張り詰めた緊張感から開放され、安堵し、その上で衝撃的な光景を目撃して、その場で襲い掛かる人々に対処できる者など、殆ど居なかった。
つまり――その奇襲だけで、少数精鋭で、ごく僅かな人数しか居ない戦力が、一瞬で数人分も減った。
否、被害はそれだけでは収まらない――奇襲を受けた中で、その一撃で殺られなかった数人も、少なからずダメージを受けている。
刃物で攻撃を受けた者は、致命傷か、かすり傷を受け、鈍器の攻撃を貰った者は、致命傷こそ無い物の、一撃で随分なダメージを受けている。
そして、奇襲を仕掛けて来た数人を退けたのと同時に、死角だった部分から次々と、武器になりうる日用品を持った者達が集まってくる。
それ等全てが、身を守る為の防具を何一つつけていない。唯の服を来ているだけだ。
訳が分からない、彼らは一体なんなんだ? エーテルの反応も相変わらず、ことごとく一人分の反応しか出ていないというのに――
そこで、気が付いた――次々と集まり、その数を増やして行く彼らの目が、等しくまったく精気を帯びていない事に。
いや、それだけじゃない。彼らは一言も喋っていないかった――それが、王都に入った直後に感じた違和感の正体。
そう、本来活気があふれる筈の王都でだと言うのに、人が居るにも関わらず――俺達の話す声しか聞こえなかったのだ。
――だけど、だとしたらソレが何だ? あの様子だと操られているのは確実だろうが、エーテルの反応が無いって事は、つまり聖具の能力でも魔術でもないと言う事だ。
この際、どうやって人々を操っているかなんかどうでもいい。こんな事が出来るのは、人間以外の何か――だ。
そして、今王城はその条件に該当する、人を軽く超越した存在が居る。
倒す事で洗脳が解けるかどうかは俺にはわからないが、それでも――元凶だと思える存在を淘汰するのが一番想像しやすい方法だ。
それに、俺はそもそもジュリアスを倒す為にわざわざここまで来たのだ、それをやめるつもりなど、微塵も無い。故に――
「ライル殿、ロイド様! ココは彼らに任せて、我等は王城へ!」
俺から二人が俺を見つけやすい様に声を張り上げた。
それに導かれる様に、ライルとロイドが同時に姿を現し、俺を見て、小さく頷いてから指揮官としてこの戦い最後になるだろう指揮を飛ばした。
「我々はコレより、三名で王城に突入する。皆にここは任せる! 部隊長は自部隊を率いて、陣形を組み迎撃に当たれ」
その声に、一箇所に集まり固まっている士団員達が一斉に声をあげて、応える。
その返事は皆同じ、了解の一声。その声が消えると同時に、今度は各部隊長達の指示の声が飛び交い始めた。
聞き覚えの無い声が混じるが、恐らくギルドの連中の声だろう。――俺たちが此処に居る意味はもう無い。
後は、いち早く王城に到達し、いち早くジュリアスを倒す事こそが、俺の役目だ。
次の瞬間、ライルが「立ちふさがる敵を蹴散らし、王城に乗り込む――行くぞ!」そう叫ぶのと同時に、俺達は王城の見える方向へと、三人同時に走り出した。

<SIDE-Savath->
ライル達が、王都に向かって走っていく――まぁ、少なくともライルが居れば、先程の様な奇襲を受けなければ、先ず安全だろう。
ロイドの実力ももうかなりのレベルだし、ライルのお墨付きのレオンもまぁ問題ないだろう。
ライル達を追う様ならソレを阻止するつもりだったが、武器を持ったどうみても一般市民な皆様は、どうやら追う気など無いらしい。
どいつもこいつも死んだ魚みてぇな目をしては居るが、その辺りの統率は取れている様だ。
まぁ、俺達へ攻撃するのを止める気は無いらしいのが、些かうざったくはあるが――
そんな事を考えながら、包丁やフライパンを振り回す、主婦っぽい人々の攻撃をかわし、受け流しながら、先ほど不意打ち的に刺されたルゼルの元に歩み寄る。
刺されたルゼルに真っ先に気付いたであろうノイエは、既に自分の部隊の指揮に戻っている。
そして、それに代わって座り込むルゼルの周りには、三番隊の面々がルゼルを守る様に円形に陣を組んで、応戦している。
その陣に適当に近付いた段階で、ルゼルに声を投げ掛ける。
「生きてるか、ルゼル?」
変に心配するのは俺の性に合わないので、軽口めいた口調でそう言葉を投げ掛ける。それに「お前に心配される程じゃあない」と、いつもよりも覇気の無い声で応えた。
「そうかよ――所で、いつまで自分の部隊の護衛を自分に付けてるんだ、お前――部下に守られるとか、恥ずかしくねぇのか?」
その応えに、いつもの調子で茶化す様に返す。もっとも、いつもは言いたい事を言ってるだけなんだが。
「そう言うお前はどうな……あぁ、そうか。お前の隊の命令はそう言う意味か――」
すげぇ――刺されてたのに、俺が第一部隊に出した指示聞いてたのかよ……俺には真似できねぇなぁ、とてもじゃないが。
「第三部隊員に告ぐ、二人一組で背後を守り合いながら、敵を黙らせろ――見た感じ、操られている様に見えるのでな」
まぁルゼルが俺の意図を察してくれた様で何よりだ――つーか、俺出した作戦をまんまパクってるじゃねぇか。操られてる云々は、気付いたけど言わなかったが。
ルゼルの指示に、第三部隊の面々も、俺の考えに気付いたのか、その指示に納得して二人一組でチームを作っていき、俺達の傍から離れていった。
「それで、なんでまた――サバス、私と組もう等と考えたんだ?」
その問いかけに、地面に座るルゼルに手を差し伸べながら、俺は応える。
「決まってるだろ? 背中を守ってもらうんだ、自分と同じレベルの奴じゃないと、信用できないっての」
その俺の応えを鼻で笑って、ルゼルは俺の腕を掴んだ。ソレと同時に俺はルゼルの体を引き上げ、立ち上がらせた。
立ち上がったルゼルはすぐさま俺に背中を向けて、腰に刺したカットラスを無言で抜いて構えた。
無言の中にある言葉を受け取って、俺も自身の得物――バルディッシュ――を構えた。

――to be continued.

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