EternalKnight
出陣〜王都へ〜
<SIDE-Leon->
翌朝、リウ=レイオスを出発する準備が整い、士団員達と、ギルドから派遣された腕利きの傭兵達が町の外れの広場で一同に介していた。
ライルに聞いた話だと、ライルを除く士団員38名とギルドからの傭兵が29名、それに俺とライルとロイドを加えた総勢70名が王都へと向かう事になるらしい。
永遠の騎士相手では人数など関係ないが、70人と言うのはいくらなんでも少数精鋭過ぎはしないだろうか?
相手がジュリアス一人でないのは承知の上でこの人数しか用意していないのか、それとも単純に人数を集められなかっただけなのか。
王政に反する地下勢力がどれ程の規模かは知らないが、危険視される程なら確実に数百は居ると思うのだが――
永遠の騎士程桁外れた存在なら一騎当千も実現できるが、人間に出せる性能ではどうあがこうと、質は量に劣ってしまう。
どれだけ強かろうが、連戦を繰り返せば疲労は溜まる――永遠の騎士にもそれは言えるが、効率が違いすぎる。
例えば……拳で殴り殺すのと、銃で撃ち殺すのとでは、同じ殺すという概念でも、必要な労力は別次元に違うと言える様に――
だと言うのに、総勢70名――俺を除けば69名――この人数で、制圧されている可能性が高い王都を奪還すると、そう言うのか?
(まぁ、人数をどう思おうとお前の勝手だがな、レオン――この人数で良い判断したのは彼等だ、俺達に口を挟む権利は無いさ)
――それはそうだが……
(心配しても仕方ないが――お前だってライルの強さは分かってるだろ? アレ程じゃないにしても親衛士団ってのは精鋭な訳だろ? だったら大丈夫だろうさ)
……今日はやけにまともな事言うな、シュウ。
(お前が詰まらん事でうじうじ考えてるからその説教だ――助け、助けられるからこその相方だろう?)
それもそうか――スマンな、つまらない事考えてさ。
(分かれば良い――まぁ、お前に俺を助ける事等不可能だろうが、今までの分を含めていつかきっちりと返せよ?)
一言多いんだよ、お前はいつも。
その俺の念話には応えず、鼻で笑う様な感じを残してシュウは次の言葉を発さなかった。
『まぁ、似合いもしないクサイ事言ったから照れてるんだろうが――』
等と考えていると――突然、凛とした「全員、準備は整ったか!」と、そんな声が響いた。そして、その発信源を探す事は容易に行えた。
何故なら、この場に居る全員の視線が一斉にそこに向けられたからだ。――もっとも、探すまでも無く、その声から誰の言葉かは既に認識できてはいるのだが。
69名の視線が集まる先、其処には、いつの間にか用意されていた足場に上り、カリスマ性を持った王者の雰囲気を纏い、全員を見下ろすロイドの姿があった。
「我等はこれより、王城――そして、恐らく占拠されているであろう王都の奪還に向かう!」
力強く、されど王族たる気品を纏ったまま、自身に視線を向ける者全てに語りかける様に――言葉を紡ぐ。
「王城を落としたジュリアスと名乗る男の力は未知数、王都を占拠しているだろう敵兵の数も未知数。それに対して、我等の総数はあまりに少ない――」
先程俺が――否、恐らくここに居る全員が分かっていながらも、改めて自分達の数の上での少なさを認識した今、あえてそれに触れ――
「だがしかし、汝等は皆一騎当千と言える勇猛なる戦士達だと、私は知っている! ならば、敵が幾ら居ようが我等に敗北はありえない!」
それすらも、戦意を上げる鼓舞へと変える。そして確認こそしていないが、事実として――ここに居るのは一騎当千とまでは行かなくとも、十分な実力の戦士達だ。
例え百に満たない数だとしても、敗北するなど、考えられない。それを簡単に滅ぼしうる力は――世界の理法から外れた存在は、俺が叩き潰せば良い。
故に、この百に満たない戦力は、負けはしない――
「我と共に――否、己が戦友達と共に、我等が王都を取り返して見せようぞ!」
ライルの高らかな叫びに続き、誰からとも無く上げられた戦士達の叫びが――澄み渡る青空に響いた。

<SIDE-Leon->
休憩を挟みながら、俺を含む70人は王都に向かって進行していた。
今日でリウ=レイオスを出発して十六日――その間、一度も街には立ち寄らず、王都に向かって進んで来た。
その間、何の妨害も無いまますんなりと進攻を続け、遂に王都の目前まで迫っていた。
十六日に渡る行軍を行ってこそ居るものの、歩む戦士達には疲れの色は見えず、いつでも戦えると言わんばかりの顔の者しか居ない。
本来は、王都前の町を制圧し、休息する予定であったが、それも無くなり――このまま王都に進攻する事も、既に昨日のキャンプの段階で決定していた。
リウ=レイオスを超える広さを持つアルティリア王都は、まだ遠いながらも、目前に広がる平原のお陰で、遮られる事も無くはっきりと見える。
このまま後半日も進めば、王都に到達できるだろう。だがしかし、依然敵が仕掛けてくる様子は無い。
もう数時間も歩けば、ジュリアスは兎も角、王政が崩れる事を願う地下勢力の連中が出てくるだろう。そこからが、俺の戦いだ。
何故なら、ここでの勝利を見届けてからでは、ほぼ全員で敵勢力の居なくなった王都を進み、ジュリアスとの戦いを事情を知らぬ者達に見られる可能性が生まれるからだ。
そうなれば、ジュリアスを倒したのは俺だという事実を隠蔽できなくなる――そうなっては、困るのだ。
故に、この平原での戦いが起こっている間に、ライルを引きつれ王都に進み、誰かが王城に到達する前に、ジュリアスを倒す必要がある。
昨日のキャンプの段階で、なんとか王都に少数で突入する作戦は決定している。
反論の声は多かったが、士団員もギルドの傭兵も、結局ライルの出したこの作戦を通すしかなかった。
それぞれ、上官の意見、そして雇い主の意見に反してはいけないからだろうが――唯一ライルと対等に近い立場だったサバスも、コレに反論しなかった。
理由は判らないが――まぁ、反論されないに越した事は無いのでそれについて聞きはしなかったが……
もっとも、ジュリアスとの戦いは見られる訳には行かない、と言う事実に気付いたのは昨日で、王都制圧時の作戦に急遽変更をかけた訳だが――
総指揮官であるライルが欠けても、個々に部隊長が存在するので、士団が指揮官を失って崩れる事は無い。
ギルドからの参加者に関しては、そもそも指揮官が居ない方が戦いやすいと思う奴が多い――と言うか大半がそうだろう。
そうなってくると、ロイドの存在が問題となってくる。王城の奪還が目的のこの戦いでは、事実上ロイドの死は敗北を意味する。
アルティリア王家の血を引くのは、ロイドを含むその弟と妹のみで、その二人は流石に幼児ではないが、あまりに幼い。
故に、王城を奪還しても、新たな王として直ぐにその座につけるのはロイドだけなのだ。
――直ぐに王座につけないなら、王城奪還後も、くだらない王権をめぐる争いが発生するのは目に見えている。
この世界の行く末がどうなろうと、俺が関わるべきではない。故に、そうなってしまえば、諦めるしかない。
だがしかし、俺とライルは王城に向かい、各部隊長達は自分の隊の指揮があり、ギルドからの参加者の実力は分からない。
ならば、誰がロイドを守るのか? 決戦の幕が上がる直前の今になってもまだ――それは決まっていない。
(何を考えているかと思えば、そんな事か。その結論ならもう決まっていると思うがな――)
決まっている……だと? 何を根拠にそんな事言ってるんだよ、シュウ。
(まったく、いつまで経っても世話の焼ける契約者だな――お前は。いいか? 戦いの直前に、重要事項を決めていないのに――それを置いておく様な男か、ライルは?)
それは――置いておく訳無いだろうけど……それなら俺にロイドの護衛がどうなっているかの話ぐらいしてくれても良いんじゃないのか?
(そうだな、護衛を頼んだのに、誰がロイドの護衛をする事になったのか教えないのは、そしてお前がその護衛から外れたと言う事実を告げないのはおかしいよな?)
あぁ、ロイドが何も言ってこないのは明らかにおかしい、ってのは分かった――けど、それがなんなんだよ? どうするかライルも悩んでるだけかもしれないだろ?
(では、こう考えればどうだ? ロイドの護衛はお前が引き続き行う――つまり、護衛役の変更など考えて居なかった、と言う事だ――コレなら納得できるだろう?)
馬鹿な――そんなの、危険な場所に自分から突っ込むようなもんだろ――幾らなんでも愚策過ぎる。大将が少数で敵本陣に突っ込むのは、幾ら何でも馬鹿げている。
(馬鹿はお前だろ――考えてみろ、ロイドにとって、今この世界でもっとも安全な場所は何処だ?――どう考えても、お前の隣になるんだよ)
そう言われると、納得せざるを得ない。――が、幾らなんでも、ライルが其処まで考えているとは思えない。――思えないが、絶対に考えて居ないとも言い切れない。
(まぁ――全て俺の推測だが、概ねそれで間違っていないと思うぞ? 真実を知るには自分でライルに聞くのが一番手っ取り早いだろうがな)
そうだな――そうと決まればとりあえず聞きに行ってみるか。

<SIDE-Leon->
結論から述べると、王城に突入するのは俺とライルとロイドの三名になった。
そう、今しがたそれは決定したのだ。――やはり、シュウが考えていた通りにはライルは考えていなかった。
――単純に、俺と同じ様にロイドの護衛を誰に任せるか考えて居た所だったらしい。
もっとも、選ぶ可能性の低い一つの選択肢として俺達と共にロイドに王城に乗り込んでもらう、と言う策も思いつきはしたそうだが。
結局、自分では決める事はできなかったそうだが、ロイドにどうしたいか聞いてみた所、一緒に乗り込むと二つ返事で返されて、決定したらしい。
(――それは、誰に対する説明だ?)
決まってるだろ、声に出してない段階で、お前以外いないじゃねぇか。
(俺も聞いていたからそんな事は知っている。お前もそれぐらい分かってるだろ?――それとも何か、俺の予想が外れていた事に対する嫌味か?)
別にそんな事は思ってないさ、うん――全くもってこれっぽっちも思ってない。
(そう言う分かりやすい言い方が嫌味っぽいな――別にそうしているのは構わないが、別に俺はお前みたいに細かい事を女々しく引きずらないから意味など無いぞ?)
つまんねぇ奴だな、お前――
(心配するな、その分お前は弄り甲斐があってちょうどバランスが取れてるさ)
……何をどう心配しなくて良いんだよ――俺的にはすっげぇ迷惑な話じゃねぇかよ、それ。
等と、色々とシュウと念話しながら、徐々に王都に近づいて行く。いや、もう既にかなり王都に近づいていると言って良い――その筈なのだが、未だに敵が一向に現れない。
それはそれで、俺としては大変困るのだが……
――ジュリアスの差し金が現れないのは兎も角、明らかに怪しい集団が街に近づいてきているのにまったく地下組織の戦力が現れない、と言うのは不可解過ぎる。
或いは――誰一人残らず、既にジュリアスに殺されていると言う可能性も……
(安心しろ、それまず無い。街には人間程度の極少のエーテル反応が山の様に存在しているが見て取れる、騒ぎが起きている様子でもない――殆ど犠牲者は居ない筈だ)
――まぁ、俺よりも遙かに性能の良い探知範囲を持ち、その上探知感度まで高い、シュウが言うのだから、そうなのだろう。
否、驚くべきは、どれほど高性能な探知能力であろうと、人間のそれだと識別できる距離まで既に接近出来ている、と言う事か――
その上、今俺達が進んでいるのは、何の障害物も存在しない平原――普通なら、とっくに見つかって、敵の攻撃があってもおかしくは無い筈だ。
王都に辿りつくまでの推定時間は凡そ三十分それほどまでに接近しているのに、まだ気付かれない。なのに、人間は生きている……コレが意味するのは――
その条件で考えれば、普通は一つしかない、単純に地下勢力が王都にいない、と言う結論がそれだ――
だが、それは不可解すぎる――折角のチャンスを、みすみす見逃すとは思えない。
……なら、地下勢力の連中だけ、ジュリアスが倒したとでも考えるべきなのか? それも都合が良過ぎる――だが、ジュリアスの目的が不確かである以上、ありえなくはない。
「一体どうなってるんだよ……畜生」
敵が現れるのを願うのは、正直どうなのかと自分でも思うが――それを今は願うしかない。
少なくとも、このまま全員引き連れてジュリアスと戦う事になる事だけは避ける必要がある――この世界が腐らない様にする為には、絶対に――

――to be continued.

<Back>//<Next>

12/28ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!