EternalKnight
親衛士団
<SIDE-Leon->
実によく空気を読んでくれてありがたい限りだ。
――俺の自己紹介が終わったあと、流石に全員覚えるのには無理があるだろうと判断したライルは、各部隊長のみを残して他の士団員を解散させてくれた。
解散、とはいっても、この建物から出る事はないらしいが。
因みにココを出て王都に向かうのは明日の朝になるらしい――理由はギルドからの増援の準備が整っていないとかなんとか。
……正直な所、士団員だけでも十分なのだが、そもそもこの町が集合場所になった理由から考えても、ギルドに援助を要請しない筈がないし、口を出す事も出来ない。
まぁ、それについては良いとして、今は――彼等の名前を覚える事に集中すべきだ。
士団員が解散して、一層広く感じられる広間に残っているは、俺を除いて五人――言うまでも無く、ライルと親衛士団各隊の部隊長の面々になっている。
先程サバスと呼ばれていた、ライルと同程度の年齢に見える銀髪を腰まで伸ばした青年。
昨日町の入り口で番兵をしていたルゼルと呼ばれる男――ライルよりも歳を食っている様に見える。
残りは名前を知らない男女だが、先程呼ばれていた部隊長の名前を照らし合わせると、男がジルムで女がノイエと言う名前で概ね間違えていない。
……流石にこの人数なら、覚える事も不可能ではないだろう。
「それでは、一人ずつレオンに自己紹介して行って貰おうか――先ずは……」
そう言って、ライルが各部隊長を見渡すと、銀色の長髪をなびかせながら、サバスが一歩前に出て「それじゃあ、俺から自己紹介させて貰っていいか?」そう言った。
先程も感じたが、口調がライルやルゼルに比べると明らかに軽い――俺にはそれで良いかもしれないが、仮にも自分の上司に値するライルにその口調は良いんだろうか?
まぁ、良いんだろう。寧ろ、良いから今現在もライルがまったく注意しないと、自分の中で勝手にそう解釈した。
「あぁ、お前からで頼むよ、サバス――皆も、それで良いな? どうせ最終的には全員名乗る事になるから」
その言葉にライルも納得し、他の部隊長達に同意を求めると、サバスを除く三人の部隊長はそれぞれの方法で肯定の意を示した。
それを確認したライルは、サバスに視線を送り、それを確認してから、サバスは口を開いた。
「それじゃあ早速名乗らせてもらう。さっきから呼ばれてるから分かってると思うが、俺の名前はサバス、サバス=ラクヴェールだ」
銀髪をかき上げながら、サバスはそう名乗りを上げる。どうでも良いが、長髪だと戦う上で邪魔になるんじゃないだろうか……まぁ、大丈夫なんだろうが――
「因みに、俺は第一部隊の隊長を任されてたりする――歳は26で、ライル……否、副長殿と同い年な。因みに副長殿とは同じ村で生まれ育った竹馬の友って奴でもある」
――成る程、だから上司に値するライルにもタメ口なのか……それで納得して良いのかは謎ではあるが、別に俺が気にする事でもないだろう。
「後は――そうだな……とりあえず、様とか殿とか付けられるのは嫌なんで、呼び捨てにしてくれれば良い。他には特に何もないんだが――何か質問とかあるか?」
そのサバスの問いに、俺は首を横に振って答える。
「いや、特に質問は無い。これから短い間になるだろうけど、よろしく頼むよ、サバス」
そう言いつつ、俺は手を手を差し出した。それに応えて、サバスは俺の手を握った。
「あんた、士団の固い連中と違って俺と話が合いそうだな――こちらこそ、よろしく頼む」
それだけ言葉を交わして、ライルは俺の手を離し、一歩後ろに下がる。それと同時に、ライルが「次は――」と言いながら、各部隊長の顔を見渡す。
先程のサバスの様に自分から名乗り出る者は居ない――と、思った矢先、ルゼルが前に一歩踏み出しライルに「では、次は私が名乗らせていただきます」と述べた。
それに対して意見する者がいないか、ライルは軽く残り二人の顔を見てから「そうしてくれ」と頷いた。
ライルの了解を得たのを確認してから、ルゼルは俺の方へと向き治り、口を開く。
「私は親衛士団第三番隊の隊長を任されております、ルゼル=アティーラと申します。以後お見知りおきを――」
それだけ言って、ルゼルは元居た位置に戻った。……挨拶がそれだけかよ――まぁ、俺も人のこと言えないが。
サバスのように言っていなかったが、歳は恐らく三十台半ば程だろうか? 別にどうでも良い事なので、聞きはしないが。
それにしても、彼……なんていうか口調が堅苦しい。雰囲気的にもなんとなく付き合いにくそうなタイプだ。
しかし、サバスよりも彼の方が騎士的な感じはする……もっとも、どう感じるかは感性の問題だが。
「レオン――ルゼルに質問は無いか?」
黙っていた俺に、ライルが問いかけて来る――それに俺は「いえ、特にありません」と短く返した。
「そうか、では次は――ノイエ、お前の番だ」
そうライルが言うと、今現在この広間にいる中で唯一の女性が「分かりました、副長」と短く応えて、一歩前に出て口を開いた。
「私は親衛士団四番隊隊長、ノイエ=ティネーツァと申します――失礼ですが、以前どこかで会いした様な気がするのですが……」
言って、ノイエがさらに一歩俺に近づいてくる。
――俺の記憶力は当てにならないが、少なくとも、今回の件であの森を出る前の十数年間は一歩も森の外に出ていない以上、俺と彼女が出会っていた確率は無いに等しい。
否、無いと断言できる。その上で考えるのなら――単に俺に似た人物を見かけたか、或いは……王城の一室にあるらしい絵で見た俺をかすかに覚えているのか――
どちらにせよ、俺には覚えが無い以上、応えは決まっている。
「気のせいだと思います。残念ながら、私は貴方とは初対面だ――」
もし絵で見た俺をかすかに覚えていたのなら、早めに答えを与えるに越した事は無い。絵の事を思い出されれば、俺がこの国の有史に携わった獅子だと感づかれ兼ねない。
感づかれても、百五十年以上前の人間が生きている等とは思わず、単なる空似だと思うだろうが、出来ればその事実を思い出さないのがもっとも良いが――
「そうですか――私の気のせいでしたか……」
俺の回答を聞いてあまり納得できない様な表情でノイエは元居た位置へと戻った。
彼女、少しばかり厄介だな……絵の事を思い出すかもしれない……そうなった場合は――否、それはその時に考えれば良いか……
そうして、再びライルが俺に質問は無いかと尋ねてくるが、俺はそれに対して無いと言う意見を伝えた。
そして――最後の一人、消去法でフルネームこそ分からないが、彼の名前は分かっている、指揮する部隊が同じく消去法で何番隊か分かる。
ライルに名前を呼ばれ指示される前に、男――いや、二十代にも届いていない外見では、青年と言うべきか――は、一歩前に出て呟く様に言った。
「……二番隊隊長、ジルム=レーミットだ」
そして、それを言い終わると同時に、それ以上語る事等何もないとでも言う様に、ジルムは元居た位置へと足を戻した。
俺には彼の癇に障る様な事をした覚えはないし、そもそも彼と接点がある筈もない――故に、彼は普段からああ言う雰囲気なのだろうと察した。
まぁ、実際無口かどうかは誰かに聞けば分かる事だろう……そう言う事が聞きやすそうなのはライルか……或いは、サバス辺りだろうか?
「以上が親衛士団の部隊長達だ――レオン、君にはこの戦いが終わるまで、彼等と同じ部隊長級戦力として我等に協力してもらう――期待しているぞ?」
否、聞くまでもなく、今のライルの会話の運び方から考えれば、ジルムは普段からあんな感じなのだろう。
普段と態度が違うなら、ライルから何かしらの注意じみた話がある筈だし――と、今はそんな事に思考を回すべきじゃないよな……ライルの言葉に応えないと――
「私の力で宜しければ、親衛士団の為――アルティリ王国の為にお使いください」
そして俺は、そう恭しく一礼しながらライルの問い掛けに応えた。
俺の答えにライルは頷いて「よし――それでは早速今後の行動内容を説明する。レオン以外の部隊長各位は、必ず自部隊全員に報告する様に」と、言葉を紡いだ。

<SIDE-Leon->
今後の予定――王都への進軍ルートやの色々な説明が終わった後、各部隊長も解散となり、俺だけがライルの部屋に話があると呼び出された。
部屋には鍵がかけられ、誰かが侵入してくる心配も無い――防音は完璧では無いので、盗み聞きされる心配は多少あるが、まぁ――細かい事は気にしていてもしょうがない。
「それで、話ってのはなんだ、ライル?」
流石にこの状況下では、態々殿なんぞつけて話さなくても良いだろう――もっとも、使い分けるとややこしくなる恐れはあるが……
その俺の言葉に、レオンは一瞬思案するような表情をして「はい、レオン殿に戦闘時に行ってもらう事についての話です」そう応えた。
「俺が戦闘時にする事? 俺はただジュリアスを倒すだけだろ?」
そう、元々そう言った約束の筈だ。俺は間違っても、永遠の騎士以外の人間を殺すつもりは無い。それが敵であろうが、味方であろうが――だ。
知性のろくに無い動物に関しては、可哀想だとは思うが殺しはしているが――それでも稀に、だが。
「はい、確かにその様な約束だったと記憶していますが、我等の良く手を阻む者が現れた場合に限り、多少動いてもらいます」
「――行く手を阻む者、だと? そんな存在が居るのか?」
そんな事は初耳だ、仮に居たところで俺にはそいつ等を殺す理由が無い。永遠の騎士が関係しているなら――話は別だが。
「恐らく――王政に反発する地下組織の抵抗があると予想されます。彼らにすれば、ジュリアスは自分達の望みを叶えた存在な訳ですし……協力している可能性があります」
そこまで言って、ライルは言葉を止めて、再び思案する様な表情を浮かべてから、続く言葉を紡ぐ。
「いえ、仮に協力していなくても、彼らは独自に動いて我等の妨害をしてくるでしょう――彼らは得てして王政さえ無くなればそれで良いと言う考えですし……」
つまり、永遠の騎士……ジュリアスとは関係ない敵が存在するって事か――その場合だと……
「悪いがそいつ等に関しては俺は戦わないぜ? 永遠の騎士が関わっていないなら、俺は戦わない」
その俺の返答に、ライルは落胆の表情を一切見せずに当然の様にそれに応える。
「それは重々承知しています。ですが、その戦いの際貴方が動かないと他の士団員に不安がられる、故に――ロイド様の護衛をしていてくださいませんか?」
――成る程、王政を潰したいなら、彼らの狙いがロイドに集まっても仕方ないだろう。――なんせ、現存する最高位の王位継承者だしな……
果たしてそれを――敵側が知っているかは謎だが。王族を殺したのが永遠の騎士である以上、誰を殺したのかを人間に知らせる筈も無い訳だし――
「成る程な 確かに守る事が目的の戦いなら、俺はあくまで敵を追い払うだけで、ロイドに被害が加わらない様に見張れば良いと――そう考えた訳だな?」
それに、ジュリアスとやらもロイドを狙って来る可能性がある――何故なら奴は、王族を狙って襲撃をかけたから――だ。
王都を制圧したいだけなら、正面切って王城を落とせば良い。一騎当千に匹敵する永遠の騎士になら、一人で城砦落としも不可能ではないのだ。
それを態々王族の会議中を狙って壊滅させたのには、何か理由がある筈だと――俺は踏んでいる。単純に偶然が重なった可能性も無くは無いが、それは零に等しいだろう。
「はい。恐らく、ロイド様は前線に出ると仰るでしょうし、私にそれを止める事は出来ません。ですので、ロイド様が重症を負わぬように守っていただきたいのです」
「重症にならない様に――か、つまり軽症なら構わないって事か?」
重症、がどの程度からなのかの認識の違いにも寄るが、少なくとも先程の言い方では、軽症なら構わない、とも取れる。
「いえ、寧ろ軽症程度はして頂いた方が良いでしょう。ロイド様は自分が守られる戦いは望んで居ないでしょうから――なるべくロイド様の思う様に戦って欲しいのです」
確かに、王族としては守るべき対象だが、ライルにすればロイドは戦い方を教えた弟子でもある訳だったな、そう言えば。
それならば――生き残る事を前提に、多少の傷を負ってでも、戦場で戦って欲しいと考えるのもおかしくは無いだろう。
「成る程――分かった、戦闘になった場合は俺がロイドの護衛をしよう……だけど、その役はお前でも良いんじゃないか、ライル?」
「そうしたいんですが――私には士団指揮官と言う立場がありますので…・・・出来ないのです。しかし――レオン殿が引き受けてくれるなら私も安心して戦う事が出来ます」
そう言って、ライルは深く俺に一礼してきた。
「まぁ、危なけりゃ俺が助けてやるから、ロイドの事は任せろ。お前こそ――指揮の方、せいぜい頑張ってくれよ?」
「任せて下さい――もう誰一人として欠員を出すつもりはありませんから」
そう言って、ライルは拳をぐっと握り締めた。

――to be continued.

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