EternalKnight
報酬〜空間凍結〜
<SIDE-Leon->
「さっきのライルの質問の答えを聞いて思ったんだけどさ――おかしくないか?」
不思議そうに、ロイドが手を上げてそう言った。
「おかしいって、何がだよ?」
「だってさ――ライルの力で人間最強レベルなんだろ? ライルより少しだけだけど強いフィーエ……団長を軽く屠ったんだろ、そのジュリアスって奴は?」
「確かに、団長と私の実力はほぼ互角です。ジュリアスの力を考えれば、今の私程度の力が人の限界だとは――」
――あぁ、そうかほぼ確定に近い未確定だから言ってなかったんだな。
「否、ライルの力は人の引き出せる限界に限りなく近い――まぁ早い話がだな、ほぼ間違いなく、そのジュリアスって奴も上位聖具の契約者だって事だ」
「「なっ――」」
その俺の言葉を聴いて、二人の表情が硬直する――ライルに至っては青ざめてさえ見える。――しかし、其処まで驚くもんか?
(お前とは感性が違うんだよ。人の限界と呼べる点すら軽く凌駕する化物が敵に居るなんて知りゃ、青ざめたくもなるわ)
あー、成る程そう言われればそうか――俺にしてみれば、上位聖具所持者なんて幾らでも居る内の一人って見方しか出来ないもんな。
(大体お前が感じる絶望感で言うなら、Lv9を二人同時に相手するぐらいに相当するだろう)
――いや、ソレは完全に無理だろ。Lv9とか、お前の力を全開にしてやっても一人に勝てるかどうかすら怪しいのに……
それも不意打ちする事を前提にしてだし……視られたら終わりだろ? あいつ等との戦いって。
(まぁ、そうなるな――所で、ロイド達に何も言わなくていいのか?)
しまった忘れてた……いや、どうせ念話なんだし大して時間使ってないって――
(俺との会話を始めて今で丁度15秒だ――いや、16秒になった)
16秒って――沈黙が場を支配してるなら、相当長い時間じゃないか、ソレ……
「そんなに驚かなくても良いさ――上位聖具って言ってもどうせ俺の敵じゃないさ」
シュウの力を封じたままでも大概の相手になら勝てるし――そう言う意味でシュウはもっとも万能に近い聖具だ。
相性の悪い相手なんて、極稀にしか居ないし――居たとしても、能力的にイーブンでしかない。
まぁ、アイツが相手なら相性は最悪だけど、アイツがこの世界に居れば絶対に分かるから、それもない。
「レオン殿の実力を疑っている訳ではありません……ですが――どうしてそう言い切れるのですか?」
顔を青ざめたままライルは言う。だが、根拠など説明のしようがない。正確には説明できなくも無いが、面倒なので詳しく説明するつもりはない。ただ、一言で言うなら――
「俺が普通の上位聖具所持者から見ると例外の存在だから――かな? どう例外なのかは面倒だから割合させてもらうが良いな?」
その俺の言葉に一瞬だけ逡巡して「――分かりました、レオン殿が言うのなら、そうなのでしょう」と、ライルは答えた。
「――お前はどうだ、ロイド。別に不満があるなら言ってくれて構わないぞ?」
「俺も別に構わない――そも、勝てると言う確信でもないと、無償で手を貸そうとは思わないと俺は思うけどな――まぁ、よっぽどお人よしなら話は別だけど」
まさしくその通り――と言いたい所だが、残念ながら俺は勝てる見込みがない相手とでも戦わなければならない。それが、広域次元世界を滅ぼす様な存在であるのなら――
それがシュウを《完全なる六》の一柱にする為に、世界と交わした契約。――っと、つまらない思考は止そう、時間の無駄だ。
「俺は間違ってもお人よしじゃないけどな――そう言えば、確かにまだ手を貸した時の報酬の話をしてなかったな――」
(本気で報酬なぞ貰う気か? 別に構わんが、どうせこの世界の外には持ち出せんぞ?)
分かってるよ。別に其処まで報酬に期待してねぇし、求めてもねぇっての……
「報酬か……何を渡すか特に考えてなかったけど――何か欲しい物はありますか? レオンさん」
あぁ、報酬貰えるのか。まぁ、貰える物は貰う主義だし、何か考えるか……そうだな――ロイド達に用意出来る物でオレが欲しい物……なぁ? 強いて言うなら――
「飯……かな? 王族が食う様な馳走とか……そんな感じの豪勢な料理を食いたい」
(飯か……確かに……妥当な選択ではあるか)
だろ? ここ数十年、野性味あふれるモノしか食ってないし。
(――捕らえた生き物の内臓を取り出して、後は直火で焼くだけだったしな)
そんなんだと、まともな食事ぐらいとりたくなるっての……
別に食事が必要な訳じゃないが《味》を楽しむ娯楽としては悪くない。食ったモノは体内に取り込まれるとエーテルだけ搾り取って、残りは分解されて外界に放出されるし。
割りとまじめに飯を報酬として要求した俺を、先程の血の気の引いた顔はなんだったのかと思うほど、ロイドとライルの表情を呆けさせて見ていた。
なんだろう、こんな反応されるとなんか妙に悲しいんだが――つーかさっきまでの悲愴な顔はどうしたんだよ。そこまで俺は変な事言ったか、シュウ?
(いや、食事と言う概念が存在しない俺に聞かれても困るんだが……――と、言うか報酬に要求するほど、食事は大事な物なのか?)
馬鹿野郎! 食欲は人間の本能に刻まれた三大欲求の一つなんだぞ? ソレを報酬として要求して何が悪い。
しかも同じ三大欲求の中の一つ――女を用意しろとか言うより断然料理の方が健全じゃねぇか!
(俺に力説されてもなぁ……ロイド達に言えよ)
考えろよ――そんな事したら俺が腹ペコキャラ扱いされるだろうが! ――等と念話でシュウに語って居る内に、ロイドは呆けた状態から回復し、口を開く。
「えっと……その程度で良いなら、ジュリアスを倒した後にでも国から最高峰の料理人を集めて用意させます」
苦笑いしつつそう言われると、なんだか妙な気持ちになるが――まぁ良い。元々報酬なしで受けるつもりだったんだが、貰えるなら貰うに限る。
(と、言うか――あの苦笑いはお前を腹ペコキャラだと認識したからこその苦笑いだと思うのだが……)
言われなくてなんとなく判るって……まぁ、別に長くなる付き合いになる訳じゃないんだし俺をどんな奴だと認識してくれても構わないか。
「んじゃ、この話は決まりだな。――さて、そっちの疑問を解決出来た所で、最後に俺から質問なんだがいいかな、ライル?」
終わるタイミングを今一掴み辛いこの話し合いの締めに入るつもりで、俺は掌を打ち合わせながら、そう言った。
「質問……ですか? 私に応えられる範囲でならお答えしますが……」
自分だけを指定した問いかけに多少驚いたのか、不思議そうな顔でライルは応える。――応えられる範囲で、と言っていたがそれなら当然応えられる質問を俺は投げ掛ける。
「何、明日の目的地の事さ――まさか、直接王都に向かう訳じゃないだろ?」
宿の入り口でこの世界――国――の地図を見たが、王都までは結構遠い。今日と同じペースで進めば軽く一月は掛かる距離だ。
経由で幾つか町や村に立ち寄るにしても、直接は進まない筈だ。――ライルの話だと、親衛士団の団員はまだ割りと多く生きているらしいし、合流しない筈は無いだろう。
世界そのものの規模が小さく、海の無い世界――巨大な川が流れていたりするが、基本的には陸の面積が圧倒的に多く、大陸は一つしか無い。
その大陸全土を領土としたアルティリア王国の首都は言うまでも無く大陸中央に存在する。
つまり、ここは徒歩でも二ヶ月で世界を一週出来る程の小さな世界なのだ。――広域次元世界全体から見れば、本当に小さな……塵の様な世界だと、改めて実感した。
「そうですね、それでは説明しましょう――明日、と言わずしばらく先までの目標地点は――えっと、ココです」
座っていたベッドから立ち上がり、部屋の壁にも飾られてあった世界地図の元まで歩み寄り、その地図中の一点を指差しながらライルは言った。
「リウ……レイオス? そこがとりあえずの目的地か?」
ライルの指差した地図上の一点にはリウ=レイオスと表記された町が存在している。
「そうです、生き残った親衛士団員の集合場所になって居ますので、ここを拠点に王都の奪還を行おうと思っています――次に現在位置ですが……」
と、言いながら、ライルは指を動かし、今度は地図の端の方に位置する町を指差し、口を開く。
「――名称はレオ=レイアスと言います。見ても判る様に、レオ=レイアスからリウ=レイオスまでの距離は遠いです。今日のペースでは四日でも移動しきれないでしょう」
直線距離で見れば三日も有れば行けそうだが――地図を見た感じ、ちょうど道をふさぐ様に山が存在している。
「直線で移動すれば三日で付きそうですが、山が道を遮って居る為直線では進めません、山を登るとさらに時間が掛かりますし――」
確かに、山を登るなら標高によるが三日じゃ済まないだろう。と、ならばもう一つのルートを使うしかない。山を迂回するなら――距離的に四日、或いは五日程か……
「――山を迂回する様に作られた街道を歩くのがもっとも得策だと思われます」
街道――か。まぁ、ルートがそれしか無いなら仕方ないか。俺一人なら一時間も掛からないだろうが、俺一人で町に行っても何の意味も無い。
と、いうか一人で行くなら王都に直接向かって、ジュリアスとやらを一人で倒した方が断然早いだろうな。
まぁ、折角暇が潰れるんだし、別にジュリアスとか言う奴が無差別に人を殺しているとの情報も無い以上、急ぐ必要など無いだろう。
(無差別に人を殺している、と言う情報が入ってきてないだけかも知れんぞ? 一瞬で一つの町の住人を皆殺しに出来れば情報が漏れる事も無い)
それも無いだろ。それだけの力が行使されれば、派手にやらずに最低限まで制限してても俺等が気付く筈だ。
(まぁ、それもそうか……)
「ですので、リウ=レイオスまでの移動には街道を通ろうと思うのですが、如何でしょう? ロイド様、レオン殿?」
と、説明を終えたライルが許可を求めてくる――が、正直な話俺はどんなルートだろうが問題ない。
「良いんじゃ無いか? 俺は別にどんなルートでも構わないぜ」
「俺もそれで良いと思う、まずは明日から、そのルートでリウ=レイオスを目指し、親衛士団の皆と合流しよう!」
そう、ロイドはベッドから立ち上がりながら、拳を振り上げ、絶大なる信頼を寄せられるカリスマ性を魅せつけながら、高らかに言い放った。
そして、それに応えてライルが「応ッ!」と叫びをあげた。
――だが、ソレは人が多く居て初めて様になる訳で……三人しか居ないこの部屋の中では、気まずい空気を生み出すだけに過ぎなかった。
テンションをあげて高らかに宣言したロイドは手を下げながら俯いて、応える様に叫んだライルは硬直している。
俺は俺でロイドの声に応じれなかった事によって、場の空気を凍らせた責任を感じさせられている。
――しかし、まったく王族らしさを感じなかったロイドがここまでのカリスマ性を持ってたなんてな……少しばかり予想外だ。
(王としての教育は受けていなくても王族――と、いう事か)
だろうな――だけど、一体どうすりゃ良いんだよ、この空気。……二人ともまだ固まってるし。
(ノリが悪かったお前が全面的に悪いって事だろ、要するに?)
やっぱりそうなるのか……否、でもアレだ――明日になれば元通りだって、きっと。だから今日はさっさと寝ればいいんだ。
(寝るのは構わんが、外部流出の自動管理を外した場合、どうなるか分かっているだろうな?)
分かってるよ。精神的嫌がらせをこれから先延々と繰り返すって言いたいんだろ? 別に自動制御を解除したりしないって――俺はただ、この空気から逃げたいだけだ。
(まぁ、好きにしろ――)
そんな感じでシュウとの念話を終わらせて、凍った空気に当てられた二人に声かける。
「それじゃあ、明日の為に俺はもう寝るわ――お前等も明日からの事よく考えて早く寝ろよ」
その俺の言葉で、ようやく凍結した空気が元に戻り始め、ロイドとライルが活動を再開する。
「分かりました――それじゃあ、お休みなさい」「お疲れ様でした――私達もそろそろ就寝します」
そして、それぞれの言い方で、俺の言葉に返答した。――良かった、なんとか氷解させる事が出来た。やっぱ凍った空気をどうにかするには、話題転換が一番だな、うん。
(それは単なる逃げでしかないがな――)
そんなシュウのツッコミを無視しつつ、俺はベッドに潜り込んで瞳を閉じ、意識を闇に沈ませて行った――

――to be continued.

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