EternalKnight
決着〜依頼〜
<SIDE-Leon->
瞬間、腕に収束していたエーテル=魔力が一気に物理的な衝撃に変換され、掌から放出された。
その威力は勢いに乗った大質量の物体の衝突をまともに受けるのと同等――唯の人間なら即死してもおかしくない一撃と言える。
当然、ライルにその力を防ぐ手立てなどなく、ライルの体は後方へと大きく吹き飛び、そのまま後方にあった木の一本にぶつかりその動きを止めた。それと同時に――
(レオン ――それは流石に死ぬんじゃないのか?)
――と、シュウの声が聞こえてきた。だが、あの程度で死ぬとはオレは思って居ない。――そも、力試しの戦いで、相手が死ぬほどの攻撃等、オレは打たない。
空の第三を全身展開するほどの実力を持っているのだ、逆に、その全てを本来の能力の様に一箇所――皮膚――に収束すれば――
(なるほど、確かに薄皮一枚の上にそれを収束させれば、強固な外皮となるだろう――だが、そこまで使いこなせているのか、本当に?)
其処まで出来てれば立ち上がれるだろうが、出来なくても重症程度で死んではいないだろうよ。その場合はオレが治療すれば良いだけの話だ。
もっとも、俺が出来るのは治療ではなく、治癒力を促進させる事なのだが――
シュウと念話を交わしながらも崩れ落ちたライルの下に歩み寄っていく。その途中で突然ライルがピクリと動いた。そして――
「グ……ツゥ」
――うめき声を上げつつ頭を押さえて上半身を起し、そのまま頭を軽く振ってから、歩み寄る俺に視線を向けてきた。
(しかし、空の魔術を使用していたとは言え、人の身であの戦闘能力か……《剣皇》と契約すれば全力の我等と良い勝負になるんじゃ無いのか?)
さぁな――やってみないと判らないさ、そんな事。それに、《剣皇》がどこの世界に居るかなんて知らないしな。
そんな風にシュウの念話を流しながら、「俺の勝ちでいいかな?」と問いかけながら手を伸ばす。その先で、ライルは俺を真っ直ぐに見据えながら応える。
そして、俺の差し出した手をギリギリのところで取らずに、言葉を紡ぐ。
「もちろんです。あなたの力は十分にわかりました。――力を見てお願いするのは現金だと思いますが、恥を忍んでレオン殿にお願いしたい事があります」
「とりあえず、話は聞こう。だが、その前に――隠れてるもう一人が居づらそうなんで、なんとかしてやれ」
その俺の言葉を聴いて、小さく溜息を付いて、ライルは俺の差し出していた手を掴み、立ち上がった。
「やはり、気付いて居ましたか……分かりました。ロイド様、もう出て来てくださって結構です」
ロイド様……ねぇ? コレだけ腕が立つライルが様付けして呼ぶって事は――
(そのロイドとやらは王族と見て間違いないだろうな)
そうだな――と、シュウの念話に相槌を打っていると、小屋の近くの木の陰からライルよりも少し年下に見える少年が現れた。
!?(――なっ!?)
突然のシュウの驚きの声も仕方ないだろう。そもそも、声こそ漏らさなかったが俺の方が驚いた。何故なら――その少年の顔が、ゲーティにあまりにも似ていたからだ。
(……確かにかなり似ているが、他人の空似程度ではないのか? もう少し大人びていただろ、ゲーティムは?)
否、永遠の騎士になる前だ。アレは、昔の幼さが抜け切っていなかった頃のゲーティそのままなんだよ、シュウ。
(お前が俺と契約する前の話か……よくそんな昔の事覚えてるな?)
覚えてるもんは仕方ねぇだろ? なんなら、今から俺の深層記憶に潜って見てくればいい。年代は俺が彼と同じくらいの頃だ。
(――流石に面倒なのでそれは遠慮しておく)
すばやく念話を終わらせて、木陰から出て来たロイドと呼ばれた少年に視線を向ける。――うん、近くで見れば見るほど似ている。
そんな俺の視線にたじろぎながらも少年は「始めまして、えっと俺は……ロイド、ロイド=レイブン=アルティリアっていいます」と、言って軽く頭を下げた。
……アルティリア――って事は王族なんだろうけど、どうも口調がそれっぽくないな……いや、あの顔で堅苦しい喋り方をされる方が気になるけど。
なぁ、シュウ――面倒だろうがアカシックを辿ってロイドがゲーティの魂の転生先か知らべて来てくれ。
(……まぁ、それは俺も気になってた事だし、仕方ない――俺にはあまり向いていないし時間もかかるが、引き受けよう)
すまん、頼んだ。俺が繋いでる間に向こうに入ってくれ。数秒あればいけるな?
(無論だ。調べる為の入り口は一つだが、一度入ってしまえば出口はいくらでもあるしな)
そのシュウの念話を聞いてから、俺は名乗りを上げたロイドに、ライルに名乗ったのを聞いているだろうが、改めて己が名を告げる。
「こちらこそ始めまして、ライルに名乗ったのを聞いてたと思うが改めて名乗らせてもらおう――レオン=ハーツィアスだ、よろしく」
そう言いながら、握手を求める様に手を伸ばす。差し出したその手を、ロイドは「こちらこそよろしくお願いします」と、応えつつ、握ってくれた。
その手が握られた瞬間、シュウの加護の力が大きく弱まったのを感じた。――どうやら成功した様だ……後は、シュウの持って帰ってくる結果を待つだけ――か。
「さて――それじゃあ何も無いが、小屋の中で話でも聞こうか――アレだけの腕を持ってるライルが居るのに、俺に何を頼みに来たかのか興味もあるしな」
言って、俺は小屋に向かって歩き出した。

<SIDE-Leon->
「なるほどねぇ……」
こりゃ、俺が動かざるを得ないか……ライルよりも強い親衛騎士団の団長とやらを手玉に取れる程の相手で外見が人間だってんなら、間違いなく永遠の騎士だ。
しかも、所持している聖具の階位こそ分からないが、相当な実力者だ。
俺とシュウがこの世界に侵入したそいつに気が付けなかったと言う事実だけで、十分にそれは証明できていると言って良い。
例えBクラスの保持者でも実力的にはSSに相当する程だと考えて間違いないだろう。
流石に、SSSクラスだなんて事は無いだろうけど……それだけ上位の聖具がこんなにエーテル濃度の薄い世界に来るとは思えないし。
――どちらにしても、俺がライル達に手を貸す事は確定事項だ。
この世界を離れるのは惜しい。そして、放置していればその永遠の騎士がこの世界を制圧するだろう。そうなれば結局は出て行く羽目になる。
その事実があるのなら、シュウに確認を取る必要無くロイド達に手を貸す事を決めても問題は無いだろう。
実際戦うにしても、あそこでやれば外部へとエーテルは漏れないしな。
相手もエーテルの反応を隠してるあたり、守護者か或いは破壊者の両者に気が付かれたくは無い筈だろうしな。
「その話――手伝わせてもらおう。とりあえず、もう少し詳しい話を聞こうか そいつ……ジュリアスとか名乗ってる奴を何故倒そうとするのか、とかな?」
まぁ、こんなエーテル濃度の薄い世界に態々来るんだ、この自分に対等な者の居ない世界の神として君臨しようと考えている様な輩でもおかしくは無いだろう。
――シュウが結果を持って戻ってくるのにはまだしばらくかかるだろう。ゲーティの魂の転生体かを調べるには凡そ7000年分転生前の情報を辿らなければならない。
長寿な生物、短命な生物等を考えると予想値で1000程前の魂の所持者を探るのだ、アカシックの検索に優れた《根源》ですら十数分はかかるだろう。
それを、不向きである上に力を制限している状態のシュウでは、戻ってくるのに早くても三時間――遅ければ半日は掛かるだろう。
しかし、今更ゲーティの転生体かどうか調べてどうするのかね、俺は。――どうせ、輪廻の門をくぐり転生している以上、記憶など引き継がないと言うのに。
否、違うな……ただ、アイツとの腐れ縁が本当にあったのか、それが確かめたいだけなのかもしれないな……
等と、感傷に浸っている所で、先程の質問の応答に逡巡していたライルが口を開いた。
「わかりました。私と、そしてロイド様がココに訪れた理由をお話します」
まぁ、親衛騎士団副団長と王族がセットでこんな偏狭に居るかも分からない奴に合いに来る段階で大方予想は付くのだが。
「状況からお察しかと思いますが、我が国……アルティリア王国は――既にジュリアスと名乗る男に制圧されています」
予想通りか。しかし、そうなると気になるのは――
「さっきからジュリアスと名乗る男って言ってるが――そいつは個人で国を落としたのか?」
まぁ、永遠の騎士ならこの世界の並みの人間程度では束になった所で相手にすらならないだろう。
相手がAクラスだとしても、ライル並の力を持った人間でも最低三人でなければ話にならない。
それだけ、聖具を持つ物と持たぬ物では力が違う。上位聖具の所持者――永遠の騎士となれば尚更だ。
ライル以上の実力を持っていたらしい親衛士団長とやらも、人に再現可能な性能を考えれば、ライルよりも踏んできた場数が多い等、その程度の差の筈だ。
一人で国家を制圧可能なのは前提として分かっている――故に、ここで確認しておきたいのは相手の人数。
俺とシュウが気が付かなかった、という時点で少数精鋭なのは分かっているが、相手の人数によってこちらがどこまで力を出すかが変わってくる。
もっとも、人数よりも階位の方が重要なのだが、それがライルにわかると思えないので聞きはしない。
「私の知る限るでは一人です。団長がジュリアスに殺された段階で、生存する親衛士団員全員に王を始めとした王族の安全確保の命がだされたので……」
視線を落としながら、ライルが言葉を紡ぐ。――王族を逃がした、か。普通なら悪くは無い判断だ。――が、永遠の騎士相手にそれは意味が無い。
王族が残り、その者を筆頭に反乱軍が立ち上がったとしても、相手を倒すこと等出来る訳がない。
普通の人間同士の戦争なら、勝敗はどちらに傾くか分からない。だが、ただの人間と永遠の騎士では、勝負など行う前から付いている様なものだ。
王族を逃がした所で、何の意味も無い。王族など所詮は血筋だけであり、ただの人間に過ぎないのだから。
まぁ、一人なら余程の相手で無い限り、シュウの力を開放せずにどうにか出来るだろう。と、すると――なんとか、事の後もこの世界に留まれるかな?
「分かった――で、もう三つ質問なんだが……まず一つ。そいつの得物は何だった?」
「得物は――細い糸状の物だと思います……相手は素手の様だったのですが、手を振るうだけで団長は傷を負っていましたので……」
手を振るうだけで傷を負わされる――って事は、ライルの言うように糸か、聖具の固有能力か――最悪の場合は空Lv8の使い手……か。
空のLv8ってのは正直勘弁して欲しい所だな……まぁ、糸を武器にするなら初見じゃ不意打ちってのもあるし厳しいだろう。
それも踏まえて、ライルが頼みに来てるあたり、余程圧倒的な戦いでもされたのかねぇ……まぁ、いいさ。
「分かった。んで、もう一つ、そのジュリアスとか言うのに――俺で勝てると思うか?」
先程まで俺が使っていた程度の力なら、永遠の騎士と戦うのは難しい。ライルと互角だった段階で、もう分かっているとは思うが――
「勝てます。レオン殿一人でも十分だと私は思っています」
落とした視線を持ち上げて、ライルは応える。その答えに俺は思ったとおりの疑問を投げ返す。
「――相手の実力は未知数なのに、何故お前とほぼ互角だった奴と組むってだけでそう思える? お前より強い親衛士団長とやらは手玉に取られるように敗北したんだろ?」
俺の問いに――答え難そうに数秒逡巡してから、ライルは答えを述べた。
「先程の戦い――レオン殿は団長と同等の力だったと思います。ですが――何か、違和感がありました。何か――途方も無い存在を相手にしている様な、そんな感覚が……」
……少し、驚いた。外界へ漏れ出すエーテルは並みの人間程度に抑えてるんだが……まさかコイツ――それを感じ取ったのか?
否、勘……だろうな。そもそもライルにはエーテル等の力を感じ取ること等出来ない筈だ。
「つまり、さっきは俺が本気でやっていなかった――と?」
実際、俺は本気だった。ただ単純にシュウの力を一切使わなかった――それだけだ。故に俺は少し凄みを効かせてライルに言った。だが――
「端的に言わせてもらえば、全ての力を出し切っていなかったと、私は思います」
――躊躇う事なく、ライルはそう言い切った。
「なるほど――いや、なかなかどうして鋭いな、あんた。確かに――アレは俺の全力じゃねぇ。本気ではあったけどな」
最後の言葉の意味が分からなかったのか、ライルは首を傾げていたが、まぁ――説明も面倒だし分かってもらえないならそれでいい。
「それじゃあ最後の質問だ。ロイドを含めて――生き残った王族は何人だ?」

――to be continued.

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