EternalKnight
力試し〜黒VS白〜
<SIDE-Leon->
「折角そっちが名乗ったんだ、こっちも名乗りを上げようかね」
言って、青年――ライルの名乗りに応えるように、俺もまた己が名を名乗り上げる。
「果ての存在レオン――レオン=ハーツィアスだ。折角だから、《俺》の全力で相手をしてやる」
「それでは、尋常に――」
もっとも、シュウの力は一切使わないがな。
(それでも、肉体の構成をエーテルに変えてる段階でお前自身の純粋な力ではないがな)
細かいツッコミを入れるなよ……ソレを抑えることなんて出来ないだろうが。
――大体、《俺》が本気でやるのはこの国の建国以来だろうが。そもそも、人と戦うのが既に久しぶりだわ!
(ツッコんでる暇があればお前も俺を構えろ。向こうはもう構えてるぞ?)
今更ながら――俺とシュウって相性悪いのか、両方ツッコミ属性だし。等と考えつつも、シュウを構え、ライルに視線を向ける。
視線は交差し、緊張が走る。――空間は風とそれによる木々のざわめきの音にのみ支配される。そして――
「――参る!」
その言葉が戦いの幕を上げる。同時に、ライルが地を蹴り、刃を下段に構えた状態でこちらに向かって駆け出す。だが――遅い。
人の肉体構造から考えれば限界に近い速度だが、あいにく俺は人間とは構成している因子から違う、人の限界では、俺のみにすら及ばない。
良い剣持ってるし、人としては限界近い能力でも、魔術が使えないんじゃ、やっぱりこの程度か。
流石に、これ以上基礎能力を落とせない以上、手を抜かなければ負けることなど出来ない。――だが、約束を反故する様な真似はしたくない。
故に――容赦などせず、一撃で終わらせる。意識さえ刈り取れれば、それで良い。コンマ秒の時間にそれだけ思考し、俺は地面を蹴り出した。
ライルを凌駕する速度で駆ける。流石に俺のみの力では、背後を取ることはできないが、それで十分だ。
相互に相手に向かって動いた為、一瞬で距離が詰まる。そうして俺は、シュウの刀身を寝かせ刃の側面でライルを殴る為、剣を振るった。
――瞬間、ライルの動きが急激に加速し、薙ぐ様に振るった刃の軌跡から逃れ、俺の左側に回りこんできた。
人の限界を凌駕した高速移動――今の俺では、その速度を視線でこそ追えるが、動きには付いていけない。――そう、今の俺では。
速度が足りないなら、足りるようにすればいい。だけれどシュウの力は使わない。何せこれは――俺自身の全力を使う戦いなのだから。
そう、俺自身の力を使うのには何の問題もない。コレは反則技でもなんでもない。何故なら単に相手の使った手と同じ手を使うだけなのだから――
空Lv2――発動。
詠唱の必要はない、発動したいと念じるだけで効果がある。久しぶりの発動だが、その効果と発動までの時間は、何ら衰える事はない。
左側に回りこんだライルは、その手に持った純白の刃で、未だ一撃目の動作途中の俺に刃を振るう。
だがしかし、身体能力を上げた所で、互角程度まで引き上げられたに過ぎない。基礎値に差があるのに、引き上げた段階では互角の力、等と言う事は、有り得ない。
つまり、ライルが行使しているのは、空のLv2以上――Lv3程度だと考えるのが自然だ。
そんな事より、今から動いたのでは、防御も回避間に合わない。そう、今から動いたのならば。
俺には既にモーションに入っている部位がある。そう、シュウを振り下ろした右腕だ。そして、その軌跡を僅かにずらせば、ライルの当てる事は不可能ではない。
防御も回避も行わずに、攻撃によって相手の攻撃を止める。それはまさしく、攻撃は最大の防御と言う言葉を表す、模範解答の様な動作。
そして――振るわれたシュウはライルの頭を捕らえた。
鈍い殴打音を発し、衝撃がシュウを握る俺の腕に伝わってくる。結構な重量を持ったシュウをかなりの高速で叩き付けた以上、唯ではすまない。
当然、殴られたライルは、その衝撃に逆らうことも出来ずに、左方向に吹っ飛んだ。
普通の人間なら即死だろうが、空のLv3をあれだけ使える相手だ、流石に死にはしないだろう。――まぁ、死なれたら死なれたで、寝覚めが悪いわけだが。
だが、俺にも出来ない空のLv3の多重併用で全身強化の真似事まで出来るんだ――流石にダメージは緩和してるだろ。
(まぁ、お前は魔術に関しては無能も良いところだからな――指導者なしとは言え、魔道書を持って、一つの属性の第五まで会得するのに500年掛かる奴はそうはいない)
――うるせぇ、魔術なんざなくてもお前の力がありゃどうにかなるだろ?
(まったく持ってその通りな訳だが――それでも、低級の応用ぐらい出来るようになれよ……)
そんな事を言われても、出来ないものは仕方ない。俺はどの属性に関してもまったく適正が無かった――それでいいだろ、もう。
って、おい。ちょっと待てシュウ――アイツはどこ行った?
(――何?)
先程までライルが倒れていた場所には既に誰もいない。挙句、微弱なオーラの反応も消えている。
ちっ――空Lv4か……あの若さで良く其処まで会得できたな。だが――アレで消せるのは本人の反応だけだ、集中さえすれば――
踏みしめる大地からの鼓動――振動――、風の声――流れ――。気配のない場所からの呼吸音に、地に生える草を踏みしめる音。
それらの情報からすばやく相手の位置を推測する――その位置は定石通り俺の背後。反応するように一歩前に踏み出して体を半回転させ、背後に視線を向ける。
その先には、気配こそないが、白い刃を構え、俺に走り寄ってくるライルの姿があった。
気配が消えた所で、一度でもこの目で捕捉できればそれでいい。上位聖具契約者――俺――の動体視力を持ってすれば、後は視覚からの情報だけでも戦えなくはない。
故に――ライルの姿を視界から外さない様に後方に大きく跳躍して距離を取り、仕切り直しとばかりに構え直す。
実力を測る――と言うならコレで十分だろうが、どうやらライルはやめる気は無いらしい。その証拠に、後退した俺を追う事はなかったが構えは解いていない。
――もっとも、俺も引く気など毛頭無い。本当に久しぶりに本気になった――コレだけやれば十分過ぎる。だが、本気を出したからには勝つ。
勝てば頼みごととやらを聞く破目になるだろうが、結局やるやらないは俺の自由意志でしかない。それに《俺》に頼みに来ている、という事は戦力が欲しいという事だろう。
シュウの力を使わずにとは言え、空の魔術を使っている俺と同等にやれる奴が助力を求めに来るって事は、相手となる存在は間違いなく永遠の騎士レベルだ。
――まぁ、聖具持ちじゃないにしても、それに近い戦力を持つなら、この世界を滅ぼされかねない。
そうなると、また隠れ蓑になる世界を探さなければ行けないが――それは面倒すぎる。魔術持ちが居るエーテル濃度の薄い世界の数はそう多くはないのだ。
――なんにしても、今考える事じゃないな……考えるのは、この勝負が終わって、話を聞いてから考えても遅くはない。
別に戦いに喜びを感じる訳でも無いし、今までの攻防で満足だ。故に――次の一撃で勝負を決める。
決心と同時に、ライルを見据えながらシュウを握る腕を掲げ、大上段の構えを取る。それは、次の一撃をもっとも読みやすく、同時にもっとも無防備な状態。
その俺の構えには流石に疑問を持ったのか、ライルが口を開く――
「レオン殿、それはなんの――「舐めてなんか居ないぜ、コレは大マジだ」
――が、その声を俺が掻き消した。そして、続く言葉を告げる。
「長々と戦うのも面倒だろ? だったら、この一手で勝負を決めた方が早くて良い」
その俺の言葉に、ライルは一瞬眉を顰めたが、次の瞬間には瞳を閉じ、軽く肯く。
「なるほど――確かに、そちらの方が良いかもしれません。長時間維持させることに気を使うより、一瞬で力を燃やし尽くす方が互いの力を測れそうだ」
そう応えて――ライルも構えを変る。体を俺から見て半身にし、刃を握る右手を俺から遠い位置に構え、残る左腕を俺に向けた所で、ライルの動きが止まった。
あの構えから考えられる動きは恐らく一つ。体の捻りを回転とした遠心力を自身の力に上乗せする一撃だろう――だが、それだけであるはずが無い。
勝負はこの《一手》つまりは一連の攻防……《一撃》では無い。もちろん俺は二撃目は用意してある、まぁライルの出方次第では別の手を打つかもしれないが。
しかし、遠心力に乗せた横薙ぎか……アレは威力じゃ大上段からの一撃に劣るだろうが、攻撃範囲は相当広い。正直、こっちが不利だ。
だが、今更構えをかえるつもりも無い。あくまで一撃目は大上段からの振り下ろし、一撃目は相手の次の動きを制限する為の布石でしか無い。
に――しても、かれこれ結構な時間にらみ合っている。……これじゃあ結局時間が掛かる。
後手の方が対応がしやすいだろうが、これ以上長引かせるのも、木陰に隠れたもう一人に悪い。
そして――俺は地を踏みしめる足に力を込めて大地を蹴り出し、ライルに向かって加速した。
だが、ライルはその場から動かない。しかし、俺から接近する事によって一方的に距離は詰まっていく。――最後の一手が始まるまで残り一秒。
そのタイミングで、ライルの構えが変わるのを見た。刃を握る右腕の肘を曲げて、さらに引く。その形が意味するのは――突き。
一撃目のモーションを変えることで、俺の戦略を根元から潰す算段だったのだろうが、俺にとってはその選択は寧ろありがたい。
何故なら、薙ぎ相手では出しにくかった最初に考えていた二撃目を放てるからだ。問題があるとすれば、あの突きをどう回避するか――それだけだ。
(いや、それが一番大事なんじゃないのか?)
――シュウの声は無視だ、相手にしている場合じゃない無い。既に構えの変化から半秒、互いの武器がギリギリ届く間合い。
だが、そのタイミングでは互いに動かない。相手に攻撃が届いたとして浅くては意味がない、故に――残り半秒分の接近が必要なのだ。
そして、最後の半秒は過ぎ去って――最後の攻防が始まる。
ライルの放った白い軌跡は、俺の右肩に向かって高速で伸びる。体を半回転させればかわせる一撃だが、それは同時に俺が攻撃を諦める事に繋がる。
当然、そんな選択肢は選ばない。だが、肩を穿たれては攻撃などまともに放てない。故に――回避するのではなく、軌道を逸らす。
それによって、二撃目に予定していた動作につなげなくなるが、そんな事は些細な問題だ。今放っている一撃を封じられるよりはよっぽど良い。
瞬時に結論を下し、開いている左拳を高速の突きの側面に――空Lv3発動――殴りつける。その一撃が、刃の軌道を逸らす、その軌道の先に右肩は存在しない。
この瞬間、シュウを振り下ろす為の目下の障害は一切なくなる。ならば、振り下ろさない理由など――無い。
黒い刃を振り下ろす。その軌道の先には、ライルの頭部。空の魔術で強化できるとは言っても、大上段からの一撃を受ければ、唯ではすまない。
その一撃を、ライルは腰を低く落としながら左足を軸に右足を引き戻す形で半回転する事で上手く回避する。
――さらに、その動作によって、突き出し軌道を逸らされた白い刃を持つ右腕は既に次の一撃の準備に入れる状態に移りつつある。
否、そればかりでなく、左手が振り下ろし、ギリギリの距離で空を切ったシュウを押さえつけ、こちらの行動を封じてくる。
だが腕で押さえられた程度では引き戻す事も出来る――筈だった……腕だけであったならば。
だがしかし、次の瞬間には、左腕だけでなくシュウはライルの右足に踏まれる形で動きを止められていた。
否、今でも強引に力を込めればシュウを引き戻す事も出来る。だが――それをすれば、引き戻した直後は体制を崩し、ほんの一秒程度だが無防備となってしまう。
故にそれは選べない。だが、一手の勝負であるが故、ココで止まる訳にも行かない。
(俺が忠告するのは反則かも知れないが、本気をだしたお前が負ける姿は見たくないから忠告しておこう。周りをよく見てみろ――とな)
周り? ……その言葉を聞いて、やっと気が付いた。今が……どういう状況かを。
久しぶりに感じた緊張感が、視界を狭めてしまって居たのだろう。だがシュウの助言で気が付いた。
俺は今、刃が封じられている状態にある。だが、刃を押さえつけるライルはさらに状況が悪い、と言うことに。
刃を封じることに右足と左手を自ら拘束し、左足は軸として地面に踏みとどまっている。故に、今ライルに自由になるのは右手のみ。
そして刃を握る右腕は、押さえつけるのに使っている左手と右足が邪魔で、刃を振るう為には圧倒的に自由が足りない。
故に――
「この勝負――俺の勝ちだ」
そう告げて、俺は左腕に力を込めて――空Lv5――ライルの額に掌底を放った。

――to be continued.

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