EternalKnight
暇人〜永遠の騎士?〜
<PROLOGUE>
右手に収まるシュウ――刃――がソレを貫いた感触が、腕に伝わった。貫いた何かが視えない……視界がボヤけている。
――はっきりと今の光景を映し出すことが出来ない。ボヤけた視界から理解できるのは、目と鼻の先程の距離に人が居るというコトだけだった。
だけど――それが誰なのか俺には判るし、理解している。滲む視界ではその姿を捉える事は出来ないが、ソレが誰なのか俺は知っている。
視界がボヤけて前がよく視えなくなっている理由も、わかっている。――俺の涙が視界をボヤけさせているのだ。
「すまんなぁ――レオン……後始末、させちまってさ」
目の前に居る――俺の一番の親友が穏やかな口調で言った。どうやら既に同化は解除され、《真理》はゲーティとの契約を破棄して逃げ出したらしい。
ソレはきっと、単にヤツが消滅したくないからだけなんだろうけど……それでも――最後にこいつと話せるのは、嬉しかった。
「俺は、約束を守っただけだ……ゲーティ」
震えそうになる声を抑えて、静かに言葉を返す。ボヤけて、しっかりと視えないけれど、視線はゲーティから外さない。
そうして、俺の手元から金色の光が立ち上り始めるのを感じた。だけれど、ソレは俺から溢れ出るものではない。――ゲーティのものだ。
「そうか、そうだったよな。でも……泣くなよ、レオン――男に泣かれても嬉かないぜ」
「……そうだな、男の泣き顔なんて、最後に見ても仕方ないもんな――」
シュウを握った右腕はそのままで、左腕の袖で視界を滲ませる涙を拭う。そして、滲みのなくなった今の光景が、はっきりと見える。
ゲーティの傷口からは血が流れ出し、ソレが地面にこぼれ落ちる前に金色の光に変わって散って行く。
同時に、ゲーティの手先や足先が徐々にその色を失い始めて居る――ソレが意味するのは、もう助からない、という事だけだ。
否、シュウを使った段階で、助けれない事は解っていたし、こうなっていなければ、俺が《真理》に同化されたゲーティに殺られていただろう。
「――なぁ、レオン。少しばかり迷惑な話かも知れないが……もう一つの約束も、守ってくれるよな?」
そこまで考えた時、ゲーティの声が聞こえた。もう一つの約束……俺達が聖具と契約してから交わした約束。
一つが、どちらかが聖具に同化されれば、残った方が、飲まれた方を殺すコト。
――シュウと俺は馬が合うから飲まれたりはしない――故に、コレは俺がゲーティを殺す為の約束だった。
もう一つは、どちらかが死んだ時は、残った方がアイツが同化されない様に、傍で面倒を看てやるコト。もちろん、守るつもりだ――だから、応える。
「任せろ、アイツの面倒は俺が見てやる。たとえアイツに怨まれても――オマエの辿った道を歩ませたりしない」
「――そうか、じゃあアイツの……妹のコトは頼んだぜ、親友」
ゲーティを構成していたエーテルが傷口から漏れ出して散っていく。――流出は止まらない。
同時に、構成する要素がなくなったコトによって、その体はさらに薄れていく。ソレを止めることは出来ない。
俺には、傷を治す力が無い。それ以前に、シュウで与えたゲーティの傷は、簡単には直らない。
さらに、聖具との契約が切れているので、傷口を治しても、長くはない。治らなければ、尚更だ。故に、ゲーティの死は……崩壊は――避けられない。
「約束は、守るさ――お前とのモノは特に……な。だから、お前は安心して、逝け」
契約が切られているので、次のゲーティは聖具じゃなく、他のモノに生まれ変わる筈だ。だから、もうこんな戦いには関わらずに済む筈だ。
「そうさせてもらうよ、親友。――もし、再会できても俺はお前を覚えてないだろうが――又、会えるたら良いな」
数え切れない程の魂が存在するこの世界で、再び巡り会える可能性なんて限りなく零に近い。だけど――
「俺もそう思うよ。だけどよ――そりゃ、いくらなんでも腐れ縁が過ぎるだろ?」
その俺の言葉に、ゲーティは苦笑いするように表情を崩して口を開く。その言葉は、もう音にならないけれど、その唇は確かに――違いない――と、そう紡がれていた。
ソレを最後に、ゲーティの体は、完全に崩壊し、視界いっぱいに、金色の光が舞った。――ゲーティを構成していた、エーテルの光が散っていく。
そして、散り行くその光は、渦を巻くように俺の周囲を回り、俺の体に取り込まれていく。
「だけど――俺達はきっと、そんな腐れ縁で繋がってるんだろうな」
そう、散り行く――俺に取り込まれる――光に語りかけて、俺は静かに瞳を閉じた。
――別れは終わりだ、俺は……コレからを歩まなきゃいけない。約束の為に、そして――全ての世界を護る為に。

<SIDE-Leon->
「暇だ……」
見慣れた――否、見飽きた天井を見つめながら、俺はそんな、言い飽きるほど呟いた言葉を再び紡いだ。
(まぁ、永遠の時を生きる者にとって、最大の敵は暇だからな)
これまた、聞き飽きたシュウの返答――この次にいつもなら溜息をつくのだが、その流れにも飽きた為、別の何かを言おうとしたが何も思い浮かばなかった。
「はぁ……」
結局、毎度おなじみの流れで、今回もまた溜息をついてしまった。――本当に、暇だ。
「なぁ、シュウ」
念話だと、喋り方を忘れると実感して以来、ずっと俺はこうしてシュウには声をだして話しかけている。
(ん? どうした、レオン)
「最後に、何かあったのっていつだっけ?」
まぁ、なんであれ本当に、暇なのだ。俺には食事も睡眠も必要無い――暇なので寝たり、食料を調達して食事を取ったりはするが。
寝るにしても体力が必要だし、睡眠が必須でなくても、寝すぎると寝れなくなる。
食事も、この近辺で取れる食料を使った物はとっくの昔に飽きてしまった。……それでもたまに食べるけど。
(いつだったろうな……あぁ、半年ほど前にはここを建てたことぐらいか?)
半年前、そんなに前か。えっと、あの時は――
「あぁ、地震が起きて壊れた小屋直したら、次の日に大雨が降った時か。んで、確かどしゃ降りの中、新しい小屋建てたっけなぁ……」
それでも暇が潰れたから楽しかったけど……
(しかし、地震で壊れるのは判るが、大雨程度で崩れる小屋を建てるなよ……)
「いや、壊れたら壊れたで建て直すので暇が潰れるから良いかなぁ〜って」
(……)
会話終了、そして場を包むのは静寂。――いや、そもそもシュウの声は俺にしか届いて無いから、傍から見れば、一人で喋ってる奴が黙っただけにしか見えないだろう。
話題話題――そうそう、三大欲求最後の一つ、性欲云々だが、睡眠、食事と同様、必須のモノではないのでしてはいない。
つーか、シュウとずっとリンクがつながったままで一人でなんて、そんな事が出来るかっての。
……そもそも、単体で不老不死に近い永遠の騎士には繁殖という概念など必要ないのだ。そういった機能は、あくまで人間だった頃の能力として残っているだけに過ぎない。
と――あまりに暇すぎてどうでもいい事に思考を巡らせる。
(レオン、思考が漏れて俺に伝わってるぞ)
「分かってるよ、別に隠す程の事じゃねぇし、聞こえてるならそれでいいさ、いつも言ってるだろ? 読まれたくない考えぐらい隠すっての」
(そうだったな……まぁ、好きにすればいいさ)
「おっ?」(――ん?)
その瞬間、俺とシュウは同時に気配を感じ取ったらしい。――まぁ、シュウの能力=俺の能力の様なモノだから当然ではあるのだが。
そんな事よりも、未開の地に等しい森のその奥に作った此処に人が来る、という事はすなわち――俺に、会いに来ようとしている、という事だろう。
「――久しぶりの来客……だよな?」
(だろうな。まぁ、反応から察するにこの世界の人間で間違いないだろう)
「んな事、言われなくても分かってるよ。そもそも、永遠の騎士やら魔獣ならもっと早く気づくだろ、普通」
どちらにしても、エーテル反応を消している俺の所に、そいつらが集まってくるとは思えないけど。
(まぁ、確かにな。それで――どんな対応をするんだ、レオン? お前の方針はできるだけ世界に関わらない事だろう?)
そうなんだよなぁ……どこの誰だか知らないけど、なんで俺に頼ってくるんだ? 確かに此処で仙人の真似事してるけどだな、この世界の事はこの世界で解決すべきだろ……
そりゃ、永遠の騎士が関わってるなら話は別だけど――そいつも外的要因な訳だし。 俺が関わるとマジで歴史とか動くからなぁ……
(もうすぐ此処にたどり着くぞ? どうするつもりだ?)
まぁ、話だけ聞く事にするさ。どうするかは、それから決めれば良いだろ。
(……そうだな、存在その物の真偽が問われているお前に会いにこんな森の奥まで来たんだ……会ってやらねば少し酷だろうな)
シュウを納得させたと同時に、小屋のドアが軽く叩かれ、その向こうから声が聞こえてきた。
「獅子殿はいらっしゃいますでしょうか?」
(獅子か……そういえばそんな呼ばれ方をされてたな)
そういや、仙人とか柄じゃ無いし、剣聖とかいうほど剣の腕にも自身が無かったから名前から安直にレオ――獅子――とか名乗ったんだっけ?
(あぁ、それが150年程前だな。アルティリア王国の建国の時だった筈だ)
アルティリアか……よく国の名前とか覚えてたな、シュウ。
(自分が建国に関わった国の名前を忘れるなよ……)
などと、シュウと盛り上がっていると、今度は強めにドアが叩かれ、先程よりボリュームの増した声が聞こえてくる。
「獅子殿はいらっしゃいますか!」
……まぁ、こんな森の奥に築半年の小奇麗な小屋があれば、誰か居るとは思うよな、流石に。
「確かに居るけど――あんた、こんな森の奥に住んでる俺にいったい何の用だ?」
その俺の問いに、扉の向こうの男は数瞬、間をおいて応える。
「獅子殿に頼みたい事があって参りました。ですが――その前に、私と手合わせをして頂けないでしょうか?」
――手合わせ、ねぇ?
(お前の力を量りたいんだろう? つまり、相手にも相当の自身があると言う事だな)
逆に言うなら、負ければこの世界に関わらなくて良いって事だよな?
(確かに、それはそうだな)
でも、わざと負ければ気付かれるかもしれないだろ? 久しぶりに体を動かすんだし、そうだな――お前とのリンクを切れば俺も人間レベルだよな?
(多少補正が掛かるが、空の魔術を発動させなければ、それでちょうどいい程度だろうな――まぁ、相手が相応の実力者であることが前提だがな)
「――受けて、くださいますか?」
なんか、向こうは俺が考え込んでると思ってるのかね? なんか言葉にさっきまでの勢いを感じないんだけど。
(まぁ、普通は実力を試させろなんて、頼みごとをしに来た相手に言う台詞じゃないしな)
まぁ、そうだよな。んじゃ。これ以上相手を不安にさせるのもアレなんで、話をつけようかね。そう決めて、俺はドアを開けながら言った。
「その勝負、受けてたとう――あんまり期待してもらっちゃ、困るけどな」
開かれたドアに向こうには、動きやすさを重視した様な鎧――と、いうよりは寧ろライトアーマー――を着込んだ二十台半ば程の青年が立っていた。
そして、一瞬の間をおいて、俺に目を合わせて「――よろしくお願いします」と、深く一礼した。
――おい、シュウ。分かってると思うが……
(分かっている。あの木陰にもう一人、男のツレが居るな)
無いだろうと思うけど、そっちがなにか行動を起こした時には、頼むぜ?
(まぁ、何かを頼みに来たのなら、そんな事はせんと思うがな――それ自体が、真実でない可能性もあるが)
まぁ――なんにしても、気配遮断を解除して、加護を最大に受ければ、SS以上の聖具持ち相手以外になら、たとえ魔術使いだろうが、Lv7以下に負ける気はしないけどな。
(いや、加護を無くしても、大概どうにかできるだろ)
いい加減、シュウとの念話を続ける訳にもいかないので、俺は青年に声をかける。
「それで、どこでやるつもりだ? 俺はここで一向に構わないが、ここだと狭いだろ?」
そう、この小屋が建っているのは森の中――小屋の周辺に多少なりとも木のない場所はあるが、真っ当な試合の出来るスペースなどない。
もっとも、木があるからこそ、青年のツレは隠れられている訳だが。
「いえ、ここで結構です――どんな状況でも、剣さえあれば戦えるよう、鍛えていますから」
「OK――なら早速、始めようか」
そう言って、俺はエーテルで作った鞘からシュウを引き抜く。
久しぶり――十数年ぶり――に鞘から出したにも関わらず、その刀身は錆などもなく、美しい黒を保っていた。
(……錆びてたまるか。聖具だぞ、俺は)
まぁ、下位の聖具なら、手入れが悪ければ錆びる訳だけどな。
(俺をそんな下位の聖具と一緒にしてくれるな)
冗談だって――そんな掛け合いをしつつ、俺がシュウを引き抜くのとほぼ同時に、青年も腰に下げた鞘に収まる己が剣を抜き出した。
その剣には、シュウと同じ様に無駄な装飾など一つとして付いていない、戦う為に生まれた剣。
だがしかし、そのシンプルさと穢れ無き純白の刀身には、その剣を芸術品であるかの様に魅せる力があった。
それは、間違いなく名剣と呼ばれる類の一品だろう。そして、それ程のモノをあの若さで持つ青年の力量は、かなりのモノだと予想できる。
そして、引き抜いた剣で虚空を数度切り裂いて、青年が名乗りを上げた。
「アルティリア王国親衛士団副団長――ライル=オヴァーブ。名高き獅子殿と一戦交える事が出来るのをうれしく思います」

――to be continued.

/<Next>

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