EternalKnight
<矛と盾〜赤〜>
<Interlude-聖五->・・・夜
動きだすのが一瞬遅れる――
魔獣相手なら致命的な遅れでは無いハズだった――
っ!! 速いっ!
そう考えている間に距離が限りなくゼロまで近づかれる――
男の突き出す拳があたる直前で何とか地面を蹴り後退する。
俺を見つめながら男がつぶやいた。
「まだ進化して無いか――」
「進化? 何のことだ?」
「判らんならいい、進化してない割にはいい反応速度だな……」
(マスター! 危険です、進化した聖具相手では……)
進化って何なんだよ、お前は知ってるみたいだけど。
(……オーラの内包限界を超えた聖具は――)
(力を飛躍的に高めて、より高次元の聖具になるんです)
それが、進化?
《叡智》の返答が返ってくる前に男の拳が目前に迫る。
さらに一撃――
何とかかわすことが出来たが、次の一撃がすでに目前に迫っている。
かわせない!?
そう感じて防御しようとするが――
ダメだ間に合わない!
俺は目を閉じて衝撃に備えて歯を食いしばる。
[ガキィン!]
「な……に……?」
予想していた衝撃は訪れず、代わりに金属同士がぶつかり合ったような音が響いた。
瞳を開くと、そこには――
俺への一撃を純白の盾で防いでいる冬音と――
同じく純白の槍を男に向けて構えている春樹が映った。

<SCENE058>・・・夜
優男との間合いを詰め《創造》で切りかかる。
今まで切り裂いてきた優男の操る光の輪が三つ重り――
俺の振るう《創造》の一撃を止めた。
「はぁ、やっぱこんなもんか」
「っく……」
「まぁ、楽なほど僕としちゃぁ、うれしい限りなんだけどねぇ?」
「ふざ……けんなぁ!」
光の輪を弾き《創造》を連続で叩きつける――
2回叩きつけたところで三つ合わさった光の輪は砕けた。
「3回……か。まぁ、そんなもんかなぁ?」
背後からの声、砕いたその先には優男の姿はなかった。
「で……コレだけ絶望的な差を見せ付けちゃったんだしさぁ」
へらへら笑いながら、喋る――
「泣いて土下座でもすりゃ見逃してやるよ?」
その声がどうしようもなく、ムカついた。
「あっ……でも妹さんはもらってくけどね?」
コイツは、どこまでヒトを見下してるつもりだ?
「何度も言ってるだろ? 答えを変えるつもりはねぇ!」
「あっそ……それじゃあ聞いてるよな? 俺、そう言うの嫌いなんだ」
「お前が嫌いだろうがなんだろうが、俺には関係ない!」
うんざりとした表情で優男が言う。
「決めた、お前はあのガキ見たく両手足切り落としてやるよぉ」
「やってみろぉ!」
再び地面を蹴り踏み出す。
「遅いってば……いいからさっさと死ねよ?」
俺が優男に近づく前に光の輪が目前に一枚現れる。
「こんなもの……」
さっきと同様に《創造》で斬り――裂けない!?
今まで斬れていた物が斬れないという焦り――
ソレが一瞬の隙を作ってしまった。
よく見ると光の輪は二枚に重なっていた。
「お兄ちゃんッ! 後ろッ!」
「ハイ……片腕もらいっとぉ」
真紅の声の直後に優男の声が背後から聞こえてきた。
次の瞬間、俺は激しい痛みに襲われた。
そう――奴の言葉通り、腕が一本切り落とされていた。
「ぐぁぁあああ!」
「お兄ちゃん!」
真紅の声が聞こえ、意識が痛みで飛びかけるのが引き戻された。
「っ……真紅」
幸い落とされたのは《創造》を握る腕とは逆の左手だった。
「はぁ、はぁ……」
「そのざまいいねぇ?」
「――よぉ〜っし徹底的にいたぶるぞぉ」
「っ……くっそ」
激痛が走る、でもまだ《創造》を握れる――
だから、決して――いや、たとえ両手が落とされても、絶対にあきらめない。
「お兄ちゃん、大丈夫なの!」
「大丈夫だから、お前は……逃げてくれ」
「だめ! 私はお兄ちゃんを護りたいの!」
「今は無理だよ……頼むから逃げてくれ。……真紅」
「私が助かっても、お兄ちゃんが死んじゃったら――」
「私は、どうやって生きていけばいいのよ!」
「だからぁ〜俺が可愛がってあげるって言ってるジャン♪」
ふざけたその声が――
俺の全身も――
魂も――
怒りで……熱く、煮えたぎらせる。
激痛は絶え間なく走り続ける。
それでも、脳内は驚くほど冴え渡っている。
「そんな事を、させるかぁぁああ!」
冴え渡る脳で武器を、より強い武器を思い描く。
「クリエイションッ!!」
脳内情報を《創造》を通して物質化して、それを射出する。
「能力!?」
男は自身の周囲を飛ぶ光の輪を一瞬で集めて十枚近く重ねる。
瞬間――
俺の作り出した剣と光の輪の束と衝突し閃光が辺りを包んだ。

<Interlude-聖五->・・・夜
「お前等……いったいどうして?」
眼前の状況が理解できなくなり、軽いパニックに陥ってる。
「それはこっちのセリフだよ、まったく」
「こんなに身近に他の参加者がいるなんて思わなかったぁ」
そう、俺の目の前には春樹と冬音が聖具を構えて立っていた。
「三人――か」
「いいハンデだ……まとめて来い」
挑発的な態度を取る男――
「軽く言ってくれるわねぇ、いくらあんたが強くても3対1よ?」
言い返すように挑発し返す冬音。
「それが……どうした?」
「「(っ!?)」」
圧倒的なプレッシャーに俺達は言葉を失った。
冬音はそのプレッシャーに気がついていない……
「『それがどうした』とは中々言ってくれるじゃない?」
「冬音!」
いつもの軽さが完全に抜けた春樹の低い声が響いた。
冬音が戸惑った顔で春樹の方に振り返る。
「春……樹?」
「ほう? 小娘は別としても、そこの二人は中々見所があるな」
「自身と相手の力の差をよく理解している、中々楽しめそうだ」
「聖五、いけるか?」
「もちろん……で、冬音はどうする?」
「冬音は、元々戦いには向いてないんだ」
「それにアイツの聖具は防御型で攻撃に向いてない」
「そうか、それなら俺達二人でやるわけだ?」
「ああ、冬音、お前はそこで見てろ!」
「でも、私だって戦える!」
「いいから、お前の聖具は攻撃に向いてない、それに――」
「いざという時の防御役、守りの要だからな?」
納得した風な冬音の表情に安心したように春樹は男に視線を向ける。
俺も男に視線を移す。
「待たせたか?」
「いや、お前等と全力で戦えるのなら――」
「この程度の時間は苦にならんさ」
「改めて、いくぞ聖五!」
「おうよ」
(いきましょう、マスター)
(――ですが、油断だけは絶対にしないでください)
あのプレッシャー相手に油断するほうが無理だと思うが……
俺が地面を蹴って男との間合いを詰める。
男もほぼ同時に地面を蹴り間合いを詰められる。
とんでもなく速いが、俺は一人で戦ってるわけじゃないんだ。
男との距離がゼロになる直前で垂直に飛びあがる。
男の視線が、一瞬俺に移り――
すぐに俺の影に隠れていた春樹に視線を戻したのだろう――
「食らえっ!」
春樹の槍での一撃をあっさりと体をひねりかわしていた。
流れるような動きで春樹にカウンターを入れようとするが――
俺の頭上からの一撃に気付き、攻撃を止めて後方に跳躍した。
[ズガァンッ!]
俺の一撃はあたることなく失敗に終わった。
「完全に……動きが見えてやがるなぁ……くそ」
「ここまで違うものなのか……」
「中々の腕だ……合図も無く連携するコンビネーションは称賛に値する。」
「お前達二人に同時に出会えた事を、神とやらに感謝するとしよう」
再び構えなおした俺達は、今度は同じタイミングで攻撃を仕掛けた。
右から俺の拳が、左から春樹の槍が男に迫る――
男は春樹の槍での攻撃を先端を逸らして体にかすらせ、受け流す。
俺の拳は片腕を添えられ、あっさりと勢いを殺された。。
「「っ!」」
予想もしていなかった方法で攻撃を止められた――
俺と春樹は驚きのあまり動きが一瞬止まってしまう。
「何なのよ、アイツは・」
先ほどから俺達の戦いを静観していた冬音が声を上げた。
引き戻し忘れていた俺の拳を男はそのまま握り潰すようにしてきた。
爪型の装甲のとがった先端が《叡智》に食い込んでいく。
[メキッ]
(ぐっ……!)
「っ! やらせるかよっ!」
残った左拳を男に叩きつけようとするが――
男は力を緩めて握り潰そうとしていた拳を離した。
春樹は槍を引き戻して構えなおしている。
「大丈夫か?」
「なんとかな……それにしてもだ――」
「いくらなんでも差がありすぎるぞ、コレは……」
(ここまで違うなんて、完全に私の予測範囲外でした)
「進化していない聖具じゃこの程度か――」
「それにしても能力を使わずに勝てるとでも思ってるのか?」
「攻撃のタイミングがばれてちゃ、かわされるだけだろ!」
春樹が声を荒げる、こんな時になんだがコイツってこんな奴だっけ?
「って事は大型の技か……そっちのお前は?」
「お前に教えるつもりは無い!」
「それなら、別に良い」
俺達はにらみ合いながら聖具を構える。
どちらも動こうとしない――
「お前等から来ないんだったら、俺からいくぞ?」
次の瞬間、男が地面を蹴り一気に間合いを詰めてきた
「「っ!」」
「遅い!」
俺の目の前に拳迫ってきた・・・駄目か!?

<SCENE059>・・・夜
閃光がはれる。
「やったか?」
(判らん、だが気を抜くなよ?)
そんなことは百も承知だ。
「危なかったぁ」
「(ッ!)」
優男が無傷で現れた……
「七枚も貫通とはねぇ すっげー威力だ」
「警戒しとかないといけないなぁ――」
「くっそぉ」
「まぁ……連発して無いとこから見ても――」
「オーラの消費が半端じゃ無い事ぐらい解るけどなぁ」
男が壊れた分だけ光の輪を構築し直していく。
――おそらく限界数が決まっているのだろう
「そんじゃぁ、今の技の警戒だけして……その四肢切り取らせてもらうぜぇ?」
「くそぉ・・・」
すでに切り落とされた左腕の切断面から血が流れ出続けている。
くっそ……痛みで、集中できねぇ
「お兄ちゃん! 危ない!」
真紅の声に気づき、とっさにその場を飛び退いた。
俺のいた場所の足元を光の輪が通り過ぎていく――
「おっしぃなぁ、邪魔しちゃダメだろぉ、、まったく」
呆れたように優男がつぶやく。
「まぁ……後で俺に従順に調教してあげるけどね♪」
「お前は……何度俺を、怒らせれば気が済むんだ!」
「はぁ? 俺は自分の思ったことを言ってるだけだけど?」
「黙れ!」
「大体さぁ、その歳で妹にべったりってシスコンかなにか?」
「関係ねぇ、お前は俺がぶっとばす!」
「だからさぁ? そういうセリフがむかつくって――」
「何回言わせれば気が済むのさ?」
優男が光の輪を二枚ほど向かわせてくる。
それをジャンプしてかわす……
「ダメェッ!」
!?
真紅の声が響いた。
――が、それはもう遅かった。
背後から回り込んできていた光の輪に――
俺の右足は切り落とされたてしまった。
「っ! ぐぁぁぁあああ!」
そのまましっかりと着地することも出来ず――
地面に倒れ全身を強打した。
「はい、コレでもう逃げれないっとぉ」
右足を切られた痛み、今も痛み続ける左腕、そして強打した全身。
「っくそぉ」
意識が飛びそうになるのを必死にこらえる。
「じゃ、その残った足も落とさせてもらおうかなぁ?」
光の輪が目前に迫り――
あっさりと、俺の左足を斬り落とした。
「っ! がぁぁああ!」
「んじゃ最後に、その聖具を持ってる腕切り落として――」
「終わりにしようや?」
そういうと優男の周りの光の輪が五枚、杖の先端に収束して巨大な刃になる。
「じゃ、その腕を落すのとフィニッシュはコイツでいこうかぁ?」
「お兄ちゃん……逃げて!」
真紅の悲痛な声が聞こえる――
「そうは言ってもさぁ、もうコイツ両足無いよ?」
確かに左腕と両足はもう無い――
逃げることは出来ない。真紅を守ってやる事も……できない。
「じゃあ、その聖具持った腕、切り取らせてもらうな?」
優男は、軽い声でその巨大な刃を……振り落とした。
そこで俺の世界の音が止まる。
つまり何も聞こえない―――全ては静寂。
そして俺の目の前に……
俺と刃の間に《誰か》が入ってきた。
それが何なのか解っている――
ただ真実を認めたくないだけ。
《誰か》は巨大な刃に切り裂かれて――
赤い《なにか》が……噴出した。
暖かく赤い《誰か》の《なにか》。
それが《誰》の《なに》かは知っている――
だって、それは―――
紛れも無く、俺を庇おうとして斬られた――
シンクノチナンダカラ――

to be continued・・・

<Back>//<Next>

13/31ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!