EternalKnight
陸話-5-<無名VS勇名>
<SCENE071>
「見ろよディアス、アプラス――Aクラスの魔獣が三体も居やがるぜ、こりゃ大物だな。えぇ、おい!」
立ち位置と放った言葉から察すに、三人組のリーダーであろう金髪の男が口を開く。
――リーダー格、とは言っても感知できるエーテル量では、残りの二人も大して変わらない。
そして、その保有量から、あの三人組が概ねS〜SS程度の聖具持ちだと言う事も解った。――それは即ち、基準としては向こうの方が力が上である事を意味する。
「三体もどうするつもりなんですか、フィーク……大物といいましたが、貴方一人に私達の補助では正直厳しいと思うのですが?」
保有エーテル量が全てとは言わないが、イグニスやクリスは、概ね一般的なAクラス魔獣の基準値程度でしかない――らしい。
その戦力で――仮にも『魔獣狩り』を自発的に行なおうとする戦力に勝てるのか? やってみなければわからない事だが、こちらが不利なのは確かだと考えた方が良いだろう。
「そりゃ、流石に俺でも三体同時は無理だろうな――だからよディアス、お前とアプラスと俺とで一人一体ずつやれば、問題ないだろ?」
ならばどうするべきなのか? おそらく単純な戦力比では負けている此方が少しでもこちらが有利になる為には――相手の戦力を削る、それ以外には不可能だ。
幸いにも、三人組は誰一人、聖具を通常状態にしている様には見えない。ソレはすなわち、待機形態であるという事。
待機形態から一瞬で聖具を展開し、能力を発動させる事が可能かどうかは知らない。
「なるほど――だったら、相手はどうしますか?」
だけれど、遣らずに後悔するなら、遣って後悔すべきだ。だから俺は――奴等が話をしている隙に、敵のリーダー格を潰す。
両腕に握られたままの《名も無き者》に、この心に刻まれ、染み付いた得物――二挺の銃――のイメージを送る。
同時に、呪いによって底上げされた力を最大限に行使して、その銃口の先に獲物を捕らえて、引金を引いた。
両腕に収まる《名も無き者》達が咆哮を上げ、マズルフラッシュが発生する。ソレと同時に吐き出される弾丸も、エリニュエスとは比べ物にならないほど速い。
否、弾速が上がる事など、自身の能力の事だ。そうなる事は本能で理解していた、驚く事ではない。
そうして、撃ち出した弾丸は――金髪のリーダー格、フィークと呼ばれて居た男に命中した。否、その表現は正しくない。
撃ちだされた二発の弾丸は、フィークの頬をかすっただけに過ぎないのだから。だがしかし、弾丸がかわされた訳ではない。フィークは、銃弾に反応出来てなど居なかった。
――単純に、俺が外したのだ。絶対の自信をもって撃ち出した弾丸が、外れた。原因は恐らく、久しぶり――事実上数十年ぶり――に撃った事にある。
いくら、その技術が骨の髄にまで刻まれているからと言っても、それだけの年月が経っている以上、過去の精度など完璧に保てている筈が無い。
「ハッ、不意打ちか……随分と雑魚っぽい事してくれるじゃねぇかよ!」
弾丸がかすった頬から流れ出る血を片手で拭いながら、フィークが声を荒げて言った。俺は、その声に応えない。
先程の撃ち損じで解った。少なくとも、今の俺には、過去ほどの技術が無いという事が。それは、この戦いの不利さをさらに加速させる物でしかなかった。
「おいおい、だんまりかよ――まぁ良いさ。さっき不意打ちしてきた雑魚敵さんよぉ、テメェの相手は――この俺がしてやるよ」
瞬間、フィークの首にかかっていたネックレスが光となりながら解けて、剣の形に再構築された。そうしてソレは、当然の様にフィークの腕に収まった。
聖具の展開。ソレはつまり――完全な状態の加護を得たと言う事。――と、なれば……後はもう実力で倒すしかない。
一番強いであろうリーダー格と一騎打ち……ね。まぁ、いいさ。どっちにしても倒さなきゃココで殺されるだけだ、なら――やってやる。
《名も無き者》のイメージを、銃から剣に変える。使い慣れたブレードと同じ形状を、イメージする。
瞬時に、長方形の銃身を覆う黒は消え去り、中身の金の光もすぐさま散って、ブレードの形状に再構築される。その《名も無き者》を構えながら、俺は応えた。
「良いぜ、やってやる――テメェの相手は俺だ、ソレで良いな――イグニス、クリス」
そう言って、俺はイグニス達の方を見ず、真直ぐにフィークに視線を向けて、ブレードを強く握り締めてた。
――だが、銃の腕と同様に、剣の腕も多少、鈍っているだろう。以前の感覚はある、どう動けば良いかも理解している。
しかし、知識だけではどうにもならない領域も、存在する。だが、このまま戦いは始まる。つまりは――鈍った感覚は、実戦の中で取り戻すしかないという事だ。
「……分かった、死ぬなよ――ネス」
覚悟は決まった、イグニスの返事も貰った。後はもう、死力を尽くして、持てる力を全て引き出して、フィークを倒すのみ。
「ハッ、バケモノ連中が――一丁前に、仲間意識か? バケモノはバケモノらしく、勇者様に狩られてりゃ良いんだよ!」
――勇者? 何を言ってるんだ、コイツ。
「死ぬ前に教えといてやるよ、テメェを倒す俺の名を! その魂に刻み込め、俺の名は――勇者フィークだ!」
勇者……イタイ奴かコイツ? 否、単に聖具契約者に与えられる二つ名の事……なんだろう、きっと。
「そうかよ。生憎だが――俺はお前なんかに名乗る名前は持ち合わせちゃいないぜ、勇者様」
「ハッ、元から雑魚の名前なんざ、覚える気もねぇよっ!」
言って、フィークは地面を蹴り、こっちに突っ込んできた。ソレにあわせるように、俺も地面を蹴って前に踏み出す。
互いに踏み出した俺とフィークとの間にあった距離十メートルが、一気に零に近づく。ソレに合わせて、一閃。右手の刃を振るう。
走る刃は、当然のようにフィークが振り出した刃と衝突し、甲高い金属同士の衝突音を響かせた。
続けるようにもう一撃、今度は左手の刃を振るう――が、衝突の金属音が響く。二撃目の刃も、一撃目を留めた剣を傾ける事によって止められた。
そして、その衝突を最後に俺とフィークは、互いが元居た位置の中間地点で刃をあわせたまま、互いに動きを止めた。
「なんだ――雑魚の癖に案外やるじゃねぇか?」
「言ってろよ――油断してると殺すぜ?」
互いに一歩も譲らずに刃を力で均衡させ、刃の先に居る敵をにらみ合いながら、金属同士の擦れ合う歪な音を奏であう。
力と速さはイーブン。――と、なると後はフィークの聖具の能力しだいか。そう思考しつつ、刃に力を込め、フィークの仲間が居た地点に視線を向ける。
そこでは、イグニス達の戦いが展開されていた。――俺とフィークとの戦いとは違う、二体二の戦いが。
「ImperialDragonSword」
瞬間、呟く声が聞こえ、同時にフォースがフィークの剣を覆い始めるのを感知した。自然ではあり得ないエーテル関連物の動き、それは――能力の発動を意味する。
そうして、フィークの能力の発動により、均衡していた力のバランスが崩れ去り、俺は後方に一気に弾き飛ばされた。
崩れた体勢を空中で立て直し、衝撃を緩和しながら着地して、顔を上げて先ほどと同じ場所にいるフィークに視線を向ける。
すると、そこには刃をこちらに向けて掲げ、俺を睨みつけるフィークの姿があった。――掲げられた剣は薄い光の幕に包まれ、そこからはフォースの力を感じる。
……ソレがどんな類の能力なのか、俺にはまだ分からない。――そうして、剣を掲げたフィークが口を開く。
「雑魚が戦いの最中に余所見なんかしてんじゃねぇよ! ――この俺を相手に、そんな事していいと思ってんのか、あぁ?」
それだけ言って、フィークは地面を蹴って再びこちらに接近してきた。確かに、余所見をしていい相手じゃない。そして――力では押し勝てない事も解った。だったら――
近づいてくるフィークから距離を取るように、沈んだ姿勢から大きく地面を蹴る。
それによって後退するように大きく跳躍し、その跳躍の過程で、両腕に握る《名も無き者》に銃のイメージを送る。
瞬時に、刃を覆う黒が剥がれ落ち、中身の長細い金の光が分解される。コンマ以下の時間で長方形の金の箱を組み上げ、それを黒が覆い、再び銃身を構成する。
着地と同時にその工程は完了し、完成した銃口をフィークに向けて、俺は躊躇わずに引金を引いた。
それにより、銃身は咆哮をあげ、マズルフラッシュを発生させながら弾丸を撃ち出す。――だがしかし、今の俺の命中精度は、高くはない。
だけれど、的を絞らずに、ばら撒く様に撃つ場合は、命中精度なんて必要としない。つまりは、一撃あたりの質が落ちたのを、単純に量でカバーする、ただそれだけの攻撃。
引金を押し続けると弾丸が次々と撃ち出される機能は、この《名も無き者》にも実装されてある。ソレは、本能で理解出来ている。
幾重もの咆哮が響き、無数に発生するマズルフラッシュが視界を焼く。だがしかし、俺が目標を見失う事は無い。
《エーテル探知》極少数の魔獣のみが持つ、特殊能力。ソレを持つ俺には、能力を発動しているフィークの位置がわかる。
そして、エーテル探知で読み取れる情報から、今現在の状況も理解できる。この状態は、時間稼ぎにしかならない事が、理解できる。
その間に、少しでもフィークから距離を取るように引金を押し続けたまま少しずつ後退する。
「さて……どうするかな、この状況」
その中で、小さく呟いた。――銃身が発する咆哮音にかき消されて、フィークには聞かれては居ないだろうが、実際、この状況は拙い。
状況は均衡状態だ――このまま粘ってどちらかの味方がくれば、均衡状態は破られ一気に勝負はつくだろう。
だがしかし、俺達と奴等では、どうした所で総合力ではほんの少し奴等に軍配が上がる。
つまりは――認めたくないが、イグニスやクリス達も、フィークと一緒に居た守護者達に押されている可能性が高い、と言うことだ。
そしてソレは、等しく奴に増援が来る可能性が高いと言う事でもある。
否、イグニスとクリスは負けない。仲間を――信じるんだ。こいつをさっさと倒して、二人の力になってやらないと……俺はもう――仲間を失うつもりなんか無いんだ。
だけど……どうする、どうすればいい? ……このまま時間を潰せば、それだけイグニス達の下に駆けつけるのが遅れる。だから――早くしないと。
エーテルを込めたチャージショット……駄目だ《名も無き者》を片方、十秒間も使えないのはかなりの賭けだ。
ソレに、聖具使いなら、エーテル探知を持つ俺程では無いにしろ、ある程度以上のエーテルが収束すれば、流石に気がつく。
そんな状況下で、俺に攻撃を当てられるのか? ……射撃精度が落ちている上に、相手に警戒されていて、当てれるのか?
……当てれる自信は無い、だけど俺は――ココで死ぬつもりも無いし、仲間を失うつもりも無い。だから――勝負に出るしか無い。
そうして俺は、右手の銃口をもう一段階、強く押し込んだ。右手の銃身をチャージに移行させた事によって、視界を焼き尽くしていたマズルフラッシュが、半分に減る。
それによって、エーテル探知で感覚的にしか解らなかったフィークの行動が、俺の視界にも捉えられるようになる。そして、その光景は、予想通りのモノだった。
そう、フィークは銃身より撃ち出された高速の弾丸を、その手に握る刃で、一発残らず打ち落としていたのだ。
《名も無き者》より撃ち出される弾丸は、エリニュエスの数倍の速度を持っていると考えていい。
そして、ソレを叩き落す事を可能にしているのは、奴の能力――奴の剣を包むフォースの力――だ。
あの能力は恐らく、剣に纏わせたフォースを物理的なエネルギーにして、ソレを制御する能力だ。早い話が、刃の加速だ。
――などと考えている間に、迫る弾丸が減った事によって生まれた余裕を生かして、フィークが銃弾が撃ち込まれる地点から脱出した。
そして、一気にこちらに接近してくる。――その姿を捉えるように銃口を向けるが、横への移動も加えながら近づいてくるフィークに照準を合わすことが出来ない。
昔の技術があれば、移動先を予測して撃つ事も可能だった――だが、今の俺にそこまで出来るとは思えない。
「――ックソ!」
引金を押し込んでからまだ五秒も経ってない。既にかなりの量のエーテルが収束しているが、この程度では、必殺の一撃にはならない。
悪態をつきながら、フィークから距離を取るように、後方に跳躍する。残り五秒弱……片方しか無い武器で、一体どうやって時間を稼ぐ?
着地する瞬間「SacredThunder」と、声が――聞こえた。ソレと同時に、エーテルが収束するのを感じ取る。
その次の瞬間、エーテルが別の何かに変換されたのを感知した。――直後、何かが放電する音を聞き、それとほぼ同時に、体に電撃が走った。
「グァ――ッゥ!?」
ソレは――比喩ではない。正真正銘の電流が、俺の体に流れたのだ。そして俺は――その痛みに着地をし損ねて、その場に無残に落下した。
だけれど、右手の引金だけは、痛みにつられて離す事なく耐え切った。――コレは、俺の切り札だから……離す訳には、いかないのだ。
地面に倒れる俺に、フィークが歩み寄ってくる。チャージ開始から八秒……既に、膨大な量のエーテルが収束している。
だがしかし、それだけのエーテルが収束すれば、エーテル探知など無くても、十分に相手は気がつくだろう。
そして――気がつかれれば、一撃を当てる事が難しくなる。だが――ソレは承知の上の事だ。歩み寄るフィークの足が、止まる。――どうやら、気が付かれたようだ。
「……その右腕のモノに溜まってるエーテルはなんだ? ソレが、テメェの本当の能力か?」
「さぁ――どうだろうな?」
実際、能力は武装で、エーテルを収束させたのは《名も無き者》の付属効果に過ぎない。
「ふん、ハズレかと思ったが――どうやら当たりだったみたいだな。それだけのエーテルを扱えるとは、正直思ってなかったぜ」
「どうかな――お前にとっちゃ一番のハズレかも知れないぜ、俺は」
言って、ようやく右腕の銃をフィークに向けて、構える。
エーテルを溜め込んだ弾丸は、破壊力、効果範囲は広いが、撃ちだした弾丸が何かに触れなければその効果すら発動しない。
如何に強い攻撃、広範囲への破壊でも、そもそも当らずにかわされれば、それで終わりなのだ。
だがしかし、少なくともフィークが接近戦を挑んでくることは、なくなったと考えてもいい。
攻撃が可能な程に近づかれれば、必殺の一撃を当てれない道理は無い。――最も、自分も巻き込まれてしまうのだが。
と、なると、次にフィークが取ってくる行動は……先程の攻撃だと考えるのが妥当だろう。
遠距離攻撃を複数持つ意味など、あまり無い。大抵の場合、そんなものは一つあれば十分なのだ。
そして、予想通りフィークは左手をこちらに掲げて――「SacredThunder」と、呟いた。
瞬間、先程と同じエーテルの動きを感知する。だけれど、未だにその技を破る方法は見つかっていない。
どんな技かは、解る。アレは、エーテルを電撃に変えて、放出しているのだ。だけど、ソレが解ったところでその技を敗れる訳ではない。
そうして再び、エーテルが何かに変換される反応を感知した。放電音が響き、俺の体に電撃が走る。
電撃をかわす事など、出来ない。俺に出来ることは、間違っても右手の引金を緩めない事、ただ、それだけだ。
「グゥッ――」
歯を食い縛り、体を駆け抜ける電撃に耐える。――そのダメージは、即死になるモノでこそないが、相当な苦痛であることに違いは無い。
痛みに耐える俺をあざ笑うかのように、フィークが声を上げる。
「ハッ――SacredThunderを二発受けても悲鳴も上げねぇのか……バケモノにしちゃ、やるじゃねぇか……やっぱりテメェは当たりだな」
「クッ――」
何か――何処かに方法がある筈だ。否、無いのなら己が手で方法を作り上げろ。あの攻撃を破る方法なんてどうでもいい。
そんなモノは、奴を殺してしまえばいいだけの事だ。――故に、奴を殺す方法を模索し、思考し、その方法を探し出せ。
考えろ、俺の能力なら、何が出来る?
考えろ、奴の性能では何処まで対応してくる?
考えろ、奴はどれだけ俺の能力を把握出来ている?

――to be continued.

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