EternalKnight
陸話-4-<名も無き者>
<SCENE070>
「能力ってのはな、簡単に言うと、心に反応して生成されんだよ」
「――心?」
この場合の心は……魂を意味するのだろうか? だとすれば、魂の色に対応した能力の覚醒――か。
そう考えた場合は、イグニスの魂は赤、クリスの魂は青、という事になる。
しかし、ソレだと――自分で選べない……さっきのクリスの今後能力が決まると言う発現に矛盾が生じる。
つまり――この場合の心というのは魂ではない、という事だろうか? だったら本当に、魔獣としての能力は感情や精神的なモノが左右されるって事か?
「そう、心だ――因みに、魂の比喩表現じゃねぇぜ? 感情やらなにやらを司る心――つまりは精神性の事だ」
今しがた出た結論を改めて説明されてしまった……思考が早く回りすぎるのも考え物だろうか?
否、先に答えにたどり着いたとしても、あくまで自己完結に過ぎない。故に答え合わせだとでも思えばいいか……しかし――
「心に反応して形成されるって言ってるが、それでお前の《灼熱龍鞭》とかクリスの《氷結結晶》が出来るとはとても思えないぞ?」
――心でイメージしたモノ、ソレに近いモノが能力になるのであれば、少なくともクリスの能力は何をイメージして作られたのだろうか?
「それは、イメージや精神状態がダイレクトに能力に繋がる訳じゃないから、としか言えないと思うよ」
割って入ってきたのはクリスの声。そう、ダイレクトに繋がっていれば、クリスの能力など、まず誕生し得ないのだ。
「って、事は――基本的には心の持ち方とイメージ、後は運任せになるのか……」
「否、割合的にはイメージしているモノに近くなる事が一番多い。まぁコレはあくまで統計――それも十数人分でしかないけどな」
イメージしたモノの近くなるねぇ……だったら、イメージではなく、完全にソレを頭の中で構成出来る場合は、どうなるのだろうか?
「なぁ、イグニス――そのイメージって、聖具とか現象に近いモノを考えればいいんだよな?」
もしそれで、完璧なイメージから、同じく完璧な物を構築出来るとしたら――
「さぁな――大分前に、情報屋の爺から買った情報だからよ、詳しいことは俺にもわかんねぇ」
情報屋――今回、俺を置いて向かったのもそいつとの接触が目的だったな。
「そうか……」
まぁ、ソレならば仕方ない。前例が無いに等しい以上、自分で道を切り開くしかない。
否、仮に前例があっとして――今はそんな事は関係ないのだ。実際俺はその情報を入手できないのだし……
「それじゃあ、早速どんな能力になるか試してみればいいんじゃない?」
などと――突然そんな事を、クリスが言った。
「――試すって、どうやって? そもそも最初の発動が一番大変なんじゃないのか?」
確かに、今試してもいいが、どうせなら体力やらが完全な状態でやった方が――
「大変――ってのは、追い詰められた事に対する大変、なんだけどな」
追い詰められるから、大変? それはつまり――
「死にたくないと思う意思が、死に抗おうとする強い感情が――能力の発動のきっかけ、なのか?」
「それもすこし、違うみてぇだけどな……別に死に抗おうとしなくても、強い感情さえあれば発動できると思うぜ?」
感情と、イメージ……か。
「それでネス――能力の発動、試してみるの?」
「あぁ――出来るかどうかはわからないけど、やってやるさ」
言って、瞳を閉じて意識を精神の奥底に埋没させる。
「イメージするモノは決まってるのか? 何も考えて無いと、何が出てもおかしくないぞ?」
瞳を閉じて、何も見えないが、イグニスの声が聞こえる。――勿論、イメージはある。完璧に近いイメージが。
「解ってる――イメージなら、あるさ」
「そうか――じゃあ、俺からいう事はなにもねぇさ」
その言葉を境目に、言葉が全くなくなった。無言の静寂――重苦しい静寂。だが、精神を集中させ、落ち着くにはそれぐらいが調度いい。
感情――強い想い。今の俺が持つ感情が生み出すのは、どうあっても負のベクトル以外に考えられない。
怒り、憎しみ、悲しみ、無力感――それらは、負の方向へ巨大な力を生み出す。
基より呪われて、人でなくなった身――《呪詛》を消し去れるのであれば、どんな力であろうと、引き出してみせる。
イメージするのは――力のフォルム。想像する事でその形、性能を再現できるのならば……俺が望む形は一つ。
それは、最も使い慣れた、数十年使っていない今でも感触がこの手に残る、俺の得物の形に他ならない。故に、今こそ再び生み出そう、俺自身の力として――
腕に残る感触と、体に染み付いた感覚でその形を脳内で想像し、それを負の感情を持った大いなるベクトルに乗せる。――そうして、俺の力として再び得物を創造する。
力を感じる。自身に流れる力が、エーテル以外の力にも乗って腕に収束していく。
細部のディティールまでには拘らない。ただ、俺の得物をより使いやすい形で構築できるなら、それでいい。収束した力が、腕の中で形作られていくのを感じる。
瞳は閉じ、意識を集中させたまま、感情を負のベクトルに乗せて、使い慣れた得物をイメージする。
そして、イメージを再現し、感情を乗せた力がここに――俺の能力として、型を成す。
腕の中に確かに感じる、――だけれど、何処か握りなれないその感触の正体を確かめる為に、俺は恐る恐る、瞳を開いた。
そして、己が手に収まる物を見る。そこにあったのは、俺がイメージした得物ではなく、柄――銃で例えるならグリップ――部だけの物だった。
――よりシンプルに言うならば……それは、黒い色をした短い棒。しかも、片手だけでなく、両手に握られた物が、どちらとも――だ。
「なんだ――コレ?」
違う、俺はこんな物をイメージしていない。俺がイメージしたのは……あのブレードやエリニュエスだ。こんな棒な訳が――
そう思考した瞬間――右手の棒の片端から、金色の光が薄く伸びたかと思うと、その光の筋が瞬時に黒で覆われた。
そして、次の瞬間には、右手に握られた棒は――黒い刃に成り代わり、逆手に握られていた。工程は、一瞬で完了していた。
俺の目で見ても、その工程がコマ落ちで見える程――つまりソレは圧倒的な速度である事を示す。
「コレは――まさか……」
その工程を見届けて、未だ左手に握られた棒に視線を移して思考する――俺が望むのは、エリニュスだ、と。
瞬間、今度は両端から金色の光が伸びて、長方形を象る。そして、またしても黒がその光の外皮を包むように広がり――
次の瞬間には、エリニュスと殆ど変わらない長方形を作り出した。
「なる程――コレが、俺の力、か」
呟いて、本当にエリニュスと同じか、試しにその銃口を頭上に向けて、俺は引金を引いた。
――同時に、聞きなれたエリニュスの咆哮が響き、マズルフラッシュが一瞬、視界を奪う。
「完璧だ――」
引金を引くのに必要な力が、生前と違いない。否、魔獣になってから力が増幅したが、それを踏まえた上で感触を完璧に再現してくれているらしい。
問題は――グリップか。どちらにも使用出来るように構築されているので、握った感覚が、どちらも少しだけ違和感を感じるようになっている。
まぁ、でも――それにも、その内慣れるだろう。
「聞いてる限りじゃ、納得いくもんが出来たみてぇだな……うん。んで、モノは武装構築っぽいが――違うか?」
「そうだね、武装構築よりも現象武装だろうね――切り替え時に構築してるみたいだし」
現象武装――もっとも数が多いらしい、魔獣の能力の振り分けの一つ。
振り分けといっても、武装構築、現象発現、現象武装の三タイプしか分類項目がないが……
因みに、クリスの《消失結晶》は現象発現型で、イグニスの《灼熱龍鞭》は現象武装型になっているらしい。
なんか忘れてる――って……そうだ、コイツの名前だ。まだ、名前を決めてなかった。名前――俺の武器であり、相棒と言っていいほどの、武器。
コイツに名前を与えるのなら……シンプルになんの捻りもいらない名前で良いと、そう思う。
否、相棒どころか――これは、俺の半身だといって良いこいつは……俺と同じ名前を持つべきだと――そう、思った。
「んでさぁ、ネス。ソレの名前は何にするか決まったか?」
「あぁ、コイツの名前は《名も無き者-NameLess-》だ」
シンプルに捻りなく――かつて名乗っていた名前を、自身の半身に与える事にした。そして――その名が、俺の名にもなる。
「《名も無き者》――ねぇ、いいんじゃねぇの? 名前もネスのままで使えるしさ」
「うん、私も良いと思うよ――なんか響きがカッコイイし。でも、なんでその名前にしたの?」
もっともな質問だが――なんとなく、としか言い様が無い。使い慣れていた――と、言うのも大きな要因の一つだが、他に……思いつかなかったというのもある。
と、言うか――イグニス達の能力は名前付けやすそうだが、俺の能力は――なんか半端なく名前をつけにくい。
……自分でイメージしといてうだうだ言うのもおかしな気がしたから声には出さないけど。さて、なんて言いくるめようか――
「そんなことはいいじゃねぇか――ソレよりさ、情報屋になんか聞いてきたんだろ? その話を俺に――」
――結局、話を他に逸らす事で、その質問を回避することにした。コレで流れなければ……素直に話すしかないんだろうか?
「あぁ、聞いてきた事な――ちょいと個人的な事と……最近、三人組の守護者が魔獣狩りをしてっから気をつけろ――だとさ」
……なんともあっさりと、話の流れを変えることが出来た。まぁ、ソレに越した事はないので、このまま話を流す事にした。
「んで――その守護者の情報の詳細なんかは?」
今までに何人か守護者は撃退してきたが――俺ではなくイグニス達が、だが――ソレは今までは相手が一人だったからだ。
こちらと数が同じなら、情報があるに越した事は無いのだが――
「そこまではわかんねぇ――爺は知ってるみてぇだけど、知りたいならエーテル寄こせってさ。んで、必要ないと思って買わなかったんさ」
「私は買った方が良かったと思うんだけどなぁ……」
などと、イグニスに視線を向けながら、クリスが呟いた。――全く持って同感だ。そうして俺は、責める様に無言でイグニスに視線を向けた。
「……っんだよ、二人して――爺の情報買うのってさ、結構な量のエーテルがいるんだぜ?」
向けられた視線に耐えかねて、イグニスが弁解を始める。――が、しかし。
「イグニス、結構な量って言うけどね、シェディさんの情報の正確さを考えたら、ソレぐらい当然だと思わないかな?」
「でもよぉ、情報一つで下級聖具半個分の量のエーテルは取りすぎだと思わねぇか、どう考えても?」
情報一つで下級聖具判個分――ソレは、確かに高いと思う。――が、代価を支払っててでも必要な情報というものも存在する。
「確かに高いけど――相手は三人組みの守護者だろ? 対策を練る為の情報は必要だと思うぜ?」
「……分かった、分かったさ。今からもう一回、爺のところに行って情報を買えばいいんだろ?」
そう、イグニスは言った。流石に、二対一で――しかも両者から散々に言われれたという事もあって、簡単に折れてくれたのだろう。
――瞬間、ほんの少し、僅かな感覚だけれど、何か、大きな気配を捉えた。
あわててクリスの方を見ると、クリスもこちらを見て、俺と視線が会ったところで、小さく肯いた。
「それと、折角Aクラスに上がったんだしネスも一緒に来りゃいい――って、どうしたんだ二人とも」
俺とクリスの異変に気づいたのか、イグニスが言葉をとめる。だが、ソレをすればどうなる訳でもない。
大きな力が――少なくとも俺達に個々で匹敵する程の力の持ち主達が――近づいてきている。否――もうすぐ、それは現れる。
「イグニス――この世界から離れるんだ。ゲートを開けろ――早く!」
叫ぶ、いや――状況を理解できていないイグニスに頼むよりも、自分でこじ開けた方が早い。
そう判断して、腕を振り上げた瞬間、自分に備わった力――エーテル探知――でなくてもはっきりと認識で来る気配を、背後から感じた。
そうして俺は、その気配を方へと振り返る。その先には歪んだ空間が見えた。
「そういう事かよ……クソッ――エーテル探知が無い俺だけじゃねぇか、気づいてなかったのはっ……」
呟くイグニスの声が聞こえる。だけれど、イグニスが気づけなかったのは仕方ない事だ。
だけれど、今はまだ諦めるには早い。今からでも、逃げるには遅くない筈だ。
そう結論付けて、すぐに元の方向に向き直りって、空間をこじ開ける作業に戻ろうとするが――
「もう駄目だよ、ネス。今からじゃ――間に合わない」
そのクリスの言葉が聞こえた直後、門の開く音が聞こえた。――その音に、俺は空間をこじ開けるの止めて、門の方へと向き直った。
そして門の向こうから、二人の男と、一人の女が――現れた。
一人の男が、残りの二人を引き連れた居るように見える。――つまり、アレがリーダーと考えて間違いない。
三人の外見的と特徴は、全員が同じデザインの服を着ている事――アレは、恐らく前に聞いた守護者の大半が着ているらしい戦闘服だろう。
肌の色や瞳の色もそれぞれ同じ様な感じだが、髪の色はそれぞれ異なる。
先頭に立つ男は金髪で髪は全て逆立っている。その後ろに居る男の髪は橙色で、短く切り揃えており、女は腰まで届く藍色の髪をしていた。
そして、金髪が突如、俺達を指差して、口を開いた。

――to be continued.

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