EternalKnight
陸話-3-<第四階位>
<SCENE068>
人だった頃の仲間が――《牙》の皆がどうなったのか知らない。あの少年と戦った以上、俺と同じように呪われたのかもしれない。或いは、単純に死んだだけかもしれない。
……再会できる確率は限りなく低い――否、零と言っても差し支えないだろう。
――それに、仮に再び出会たとしても、アイツ等は俺を魔獣としか認識出来ないだろう。そも、あの戦いで死んでいないなら、もう寿命で死んでいると考えた方がいい。
魔獣に成っているのなら、狂っている可能性や、既に守護者に狩られ転生している可能性だってある。だから――俺と《牙》の仲間との物語は終わったのだ。
ケビン、ラビ、セリア、ケイジ――彼等と俺が再び手を取り合うことは、きっと無い。
だから俺は――新たな、この体になってからの、仲間――イグニスとクリス――と共に、これからの時を過ごす。ソレが、俺の選んだ道だ。
そして今、俺は――
「そこのあんた――あんたの心は生きてるか?」
言いながら、目の前の第三階位の魔獣に問いかけた。今はこうして、新たな仲間を探しつつ、自分自身の階位をあげる為にイグニス達と世界を巡っている。
そも、イグニス達が第三階位に覚醒してすぐの俺の下に、態々クリスの探知で探して来たのには、理由があったのだ。
魔獣とは、魂を持つモノを殺した経験に呼応して階位を上げる。勿論、殺した魂の質によって経験値は違うようだが――
だがしかし、如何に効率よく経験値を積もうが、殺したモノが呪われるというシステム上、結局は呪われる人が増える事になる。
故に、既に魔獣である者を殺す事によって経験値を稼ぐのが、最良の手段だと、考えた訳だ。
既に呪われている魂は、通常なら普通より経験値は少ないが、第三階位まで上がったのであれば、それでも十分なほどの経験値となる。
だが、心が生きている者を、再び地獄の中に落とすのは忍びない。故に――ソレを判断する言葉が、その問いかけだった。
「ガァァァァ!」
叫びと共に、目の前の魔獣が腕を振りあげる。こいつの魂は、既に死んでいる。それでも、腐っていないだけマシではあるが――。
そう、心の死んだ者は――問いかけの意味を理解できない、――そんな魂は、俺の糧となって、もう一度呪われてしまえばいい。
転生すれば、壊れた心も綺麗にリセットされる筈だから、気は進まないが、もう一度魔獣として最初の状態に戻しても、問題は無い。その魂は既に壊れてしまっているから。
そうすることで少ないながらも経験値を積んでいけば、自分の階位もいつかは上がるだろうし、新たな被害者が出ることもない。
そう、第三階位に上昇した魔獣を狙う理由は、そこにあったのだ――自分の意識が開放されるまで、壊れているすら、周りからはわからないから。
壊れていない魂を――もう一度地獄の始めに戻したいとは、思えないのだ。自分が一度体験している以上、それは特に言える事だ、絶対に――あんなのは、二度とごめんだ。
だから、壊れている魂のみを、こうして駆除する。――ココ十数年は、本当にソレばかり繰り返している気がする。
そうして、加速させた思考を止め、腕を振り下ろし始めた魔獣の腹に力任せの一撃――右拳――を打ち込んだ。
その一撃で、全長三メートル――俺より頭一つ分大きい巨体は、後方へと大きく吹き飛んだ。
「残念、心はもう死んじまってるみたいだな――まぁ、まともに生きてる奴が少ないだけなんだけどな」
俺が遭遇した事がある中では、心が生きてたのはイグニス、クリス――そして、あの少年ぐらいしかいなかった。
――詰まる所、俺に出会った覚醒したばかりの第三位は、悉く、俺が屠って経験値に変えたのだ。
十数年で、かれこれ数百体は屠ってきたが、階位が上がる兆しは、今のところ無い――イグニス達曰く階位が上がる時は突然来るらしいが。
っと、そんな事は今考えることじゃない。――コイツを、軽く潰さないとな。
「死んだ心じゃ、言葉は通じないだろうけど、一応言っとくぜ――悪いな、お前にはもう一度地獄を体験してきてもらう」
言葉は通じないけれど――俺の都合で再びあの地獄を体験してもらう事になるのだ、せめてソレぐらいの言葉はかけておきたい。
同じ階位でも、培ってきた経験が違う。何より――獣如きに負けるつもりは、無い。
人だった頃には、強化外装甲に頼らなければ引き出せなかった力を、この身一つで引き出す程のポテンシャルが、俺にはある。
ソレを使いこなす力も、俺にはある。だけど――あの頃の俺の方がまだ今の俺よりは強かっただろう。
何故なら、あの頃の俺には――今でもその感触を忘れない、得物があったから。そんな思考をしながら、俺は跳躍する。
そして――先の一撃で吹き飛ばされ、地面に倒れた体をようやく起こした同類に、跳躍の勢いと、腰や肩の捻りを乗せた拳を、叩き込んだ。
それで、決着が付いた。振り抜いた勢いと体重を乗せた俺の拳は、同類の腹部を貫いていた。
「……この殺り方は、好きじゃないんだけどな――」
《呪詛》が母さんと俺を殺した時と、同じ方法だから。だけれど、狂った同類を殺すには、一番効率がいいポイントでもある。
何故か、心が死んでる奴って腹に隙がかなりあるのだ。単純に、今まで能力の拮抗する生物と出会わなかったが故に、防御がおろそかになったってだけかもしれないが。
「まぁ、いいか――」
言って、貫いた腕を同類の腹から抜き出す。――同時に、引き抜いた傷口から一気に赤黒い液体が流れでた。
勿論ソレは、先ほどまで腹部を貫いていた右腕にも、ベッタリとついている。――まぁ、直にエーテルに還るのだが。
「今回は経験値だけだろうな……」
周囲を見渡せば、遮蔽物の無い草原が広がっており、見上げれば青い空が美しい。だけれど、この世界のエーテルの濃度は非常に薄い。
まぁ、木々や空はエーテルと直接的なつながりは無いので当然と言えば当然なんだが。
恐らく、先程糧になってもらった同類が死んだ事によって発生するエーテル程度の量では、俺が取り込む前にこの世界に吸い取られる形で霧散してしまうだろう。
そうこう考える内に、黒い血に塗れた腕から金の粒子が立ち上り始める。――同時に、地面に崩れた同類の亡骸からも、金の粒子は立ち上り始めていた。
立ち上る金色は、エーテルの枯れ果てた世界を少しでも潤そうと、俺が回収する間もなく、あっという間に霧散していく。
「やっぱ回収は無理か……――別にいいけど」
さて、イグニス達の用事もそろそろ終わるだろうし、戻るか。そう決めて、完全に消滅する姿を確認せずに、同類の亡骸に背を向けた。
……つーか、階位的に一番低い俺に狩り任せるって――実際どうなんだろうか? いや、経験地を貯める以上、俺がトドメを与える必要はあるが。
「それだけ信用されてるって事にしと――ぐぉっ!?」
独り言の途中で、視界が突然黒一色に染まり――全身に衝撃が走った。それに次いで――体が内側から、熱を帯び始めた。
「グァ――ッァ」
体が内部から焼かれる様な、俺の体の中の骨自身が熱を発しているような、そんな感覚に襲われる。
熱が、内部から全身に広がり、焼けるような熱さが、俺の中に――溢れてくる。
その熱に、思考能力は焼かれ、ただ『熱い』という、漠然とした情報が思考の半分を埋め尽くす。
何もわからない。自分の体には今、何が起こっているのか? そんなことすらも、今の俺には何も分からない。
内側から溢れ出そうとしているモノは何か? この熱の原因はなんなのか? それを考えることすらも、俺には出来なかった。
そして――唐突に、内側から溢れ出す熱が、感じられなくなった。それと同時に、視界を遮った黒も消えて――ほんの一瞬で、本当に何事もなかったかの様に元に戻った。
周囲には草原、見上げ――[ミシッ]――れば青い空――本当に、先程と何も変わっていない。
振り向いて――[ミシミシッ]――みれば、さっきの同類の亡骸は、未だ全てエーテルに還っていない――が、確実に分解はされている。
ソレは死んでいる証拠であり、同時に、俺に対して何も出来ないという証拠でもある。
じゃあ、さっきのは一体――なんだ? ……つーかさっきから聞こえる歪な音は……なんだ?
同類がゲートこじ開ける時の音に似てるけど――イグニスたちが来たのか? 否、ソレはない。周囲には反応なんか無い。
「なんなんだよ、さっきから――」
ぼやいて、押さえるように、右手を眉間に添えた瞬間――指が、崩れ落ちた。
「――は?」
間抜けな声を上げたのは一瞬で――次の瞬間にはその手を眉間から離し、右手を視界に入れる。その右手は……指先が崩れ落ちていた。
さらに、その手には――否、右手だけでなく、確認できる全身の至る所に――ヒビが……入っていた。
そして――[メキッ]――先程崩れた指先から、ヒビが広がり始め、肉体の崩壊が始まった。
「ちょっと待てよ。何でだよ、何でこんなことになってんだよ!」
俺はまだ《呪詛》に復讐していないのに――こんな所で死ぬ訳には、いかないのに……
否――他人を犠牲にして、それでも復讐をしようとした俺には、こんな末路こそが、相応しいのかもしれない。
右腕の崩壊は止まらない。だったら――もう諦めよう。何が原因でこうなったかは解らないけど、俺はココまでみたいだ。
瞳を、静かに閉じる。次に――次に転生して生まれ変わって時には、《呪詛》を、必ず殺してやるんだ。
次の生涯で駄目なら、その次の生涯で、必ず《呪詛》を殺してみせる。絶対に――絶対にだ。
転生すれば記憶が消えるのならば、この魂に刻もう。奴を殺すのは、この俺だと――ソレが、俺の使命なのだと。
――決意して、数分。いつまで経っても、死が実感できない。或いは、もう死んでいるのかもしれない。
否、エーテルの気配は先ほどから変わってない。だから、きっとまだ死んでない。だけれど、何故か――全身に、力が漲るのを感じる。
その力の漲りがなんなのか、解らない。このままずっとこうしている訳にもいかないので、閉じた瞳をゆっくりと開いた。
そこに広がっていた世界は――先程と変わらぬ様に、広がる草原と、青い空だった。少しだけ、先程までと違う気がするけれど。この違いはひょっとして――
ぱっと、自分の手を見る。その腕の色は、褐色だった……先程までもっと黒かったのに。更に良く見ると、突起の様なモノがついていない。
腕には勿論、少なくとも、見える範囲には何処にもない。
「コレはひょっとしなくても……俺の階位が上がった――だけか」
風景が少しだけ変わって見えたのは、俺の体格が三メートル近いバケモノから、人間だった頃の身長に戻ったからだった。
なんか盛り上がって損した気分だ……相応しい末路がどうだとか、考えてたし……
「なんか、ちょっと落ち込むなぁ……――まぁ、落ち込んでても仕方ないし、戻るか」
一人でそう呟いて――右手を振り上げて、勢いよく振り下ろす。ソレによって、いつもより遥かに軽い手応えで、空間の亀裂が生まれた。
「階位が上がるとこんなことも違うのか……」
単にスピードとパワーが上がったからだけかもしれないけど……まぁ、深く考えるのは止めとこう。
そうして俺は、空間の亀裂に指を差し込んで、力技で、世界の外に出る為の門をこじ開けた。

<SCENE069>
門の外側から再度亀裂をつくり、力技でこじ開けて集合予定の世界にたどり着くと、既にイグニスとクリスが居た。
と、いうか――階位が上がった事によって外見が変わったんだが、わかってもらえるだろうか?
否、いつも通りに話せば大丈夫か……すぐに気がついてくれるだろう。
なんだかんだで、もう十数年仲間でいる訳だし。
「戻ってくるの早いな、イグニス。――んで、どんな情報を貰ってきたんだ?」
「……ネスか? 外見が変わってるってこたぁ、遂にお前も――」
ネス――結局、その愛称で今は呼んでもらっている。名前が無いと不便極まりないからなんだが。
――っと、今はイグニスの話だな。まぁ、俺の質問は流されてるけど、どうせ後で教えてくれるだろう。
「――あぁ、コレで俺も、お前等と同じ第四階位だ」
「じゃあネス、自分の能力が何かは試してみたの?」
そう、クリスが問いかけてくるが、実際まだ一度も試してない。――と、いうかどうすれば良いのかが分からない。
「否、まだだ。――と、いうか。戻ってくるまでに門の外の世界で移動中に何度か試そうとしたけど、どうすればいいかわかんなくてさ」
その俺の言葉を聞いて、イグニスが「そういやぁ、最初の一回の発動って結構大変だったっけなぁ」などと呟きながら肯いていた。
「最初の一回って大切だよ、それで今後の能力が決まっちゃうからね――私みたいなのを引き当てると大変だよ?」
確かに、クリスの《消失結晶》は、かなり便利な力だが、デメリットもその分大きいしな。
「んまぁ、多少弱点を持ってようが、仲間どうしで補い合ってりゃ、なんとかなるだろ。俺とクリスみたいにな」
たしかに、それもそうか……俺は、俺にとって最良の力を得ればいいんだ。万能の力なんて、ありはしないのだから。
「んで――結局どうやるんだ? 発動って?」

――to be continued.

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