EternalKnight
陸話-2-<新たな仲間>
<SCENE066>
「うっし――んじゃあ、次の質問だ。お前さ――人間だった時、聖具使いだったか?」
聖具――か。それなら知っている。その使い手と戦った事もある。
意思を持つ装具品であり、身体能力を強化し、魔術にも似た特殊能力を与える、最上級の魔術兵装。――ソレが、聖具。
少なくとも、俺の知る限りでの唯一の聖具の使い手――エストーク――はそう言っていた。そして――もちろん俺はその使い手ではなかった。
「いいや、俺は使ってない――戦った相手にその使い手が一人居たけどな」
その俺の言葉を聞いて、彼等の表情が驚きに変わる。
「――生前に聖具の契約者に、聖具を持たずに勝ったって事?――凄いことだよ、ソレ」
クリスタルはそう言いながら笑顔になり、イグニションは眉をひそめた。
「倒したつっても、Dクラスぐらいまでなら、科学技術が発達してればどうにでもなるだろ? ――倒した相手のクラスはわかるか?」
向こうの質問が全て終われば、ギブアンドテイクである以上、それ以上の情報を手に入れることが出来なくなる。
「――それも質問になるんじゃないか?」
少し卑しいが、質問できる数、得れる知識は多いに越した事はない。
「相手のクラスを知ってるなら、問い一つ分で良いけど、知らないなら質問に答えてないからカウントは出来ない」
まぁ、ソレはそうか……
「残念ながら、俺にはわからない――そもそも、聖具にも魔獣みたいにクラス分けがあるのか?」
その俺の問いに、先程まで眉をひそめていたイグニションの目が笑みを含んだものに変わって――
「それも、質問に入るんじゃねぇか?」
――そう答えて、さらに口元を歪ませた。
「確かに――そうだな、今の質問は別に答えなくてもいい、代わりの質問をさせてもらう」
どうせ、聞くまでもなく聖具にもクラス分けはあるのだろう。だが、ソレは今の俺には直接関係ない事だ。
故に――他に、何か聞いておくべき事を考える。自身が呪われ、魔獣と呼ばれるモノになった。その魔獣の踏んでいく段階についても聞いた――
自分に関する事での質問はもう無い。だったら、俺が欲しい情報は――俺の全てを狂わせた、奴の情報――それ以外に在りえない。
「アンタ達――《呪詛》って知ってるか?」
俺が奴に呪われた以上、魔獣を生み出す呪いのシステムに噛んでいる事は、ほぼ間違いない。
だったら彼等ならば、少しは奴の情報を持っていてもおかしくは無い筈だ。――と、そう踏んでの問いかけだった。
知っているか、と言う問いになら、彼等が《呪詛》の味方であっても戦いにはならない筈だ。
だが、その問いで――今度こそ、イグニションとクリスタルの表情が、どちらとも驚きに変わった。
「お前――聖具に関する知識を持ってないのに《呪詛》を知ってるのか?」
――と、イグニションが叫んだ。クリスタルは、ただ目を丸くして、言葉を発さない。
「名前だけ――な。その様子だと、あんた等は何か知ってるみたいだし――分かる範囲で、俺に教えてくれないか?」
その俺の言葉に、イグニションも口を一旦閉じて、眉をひそめてから、言葉を発する。
「《呪詛》ってのは《究極の七》の一つだ。んで、その名前と階位から、全ての呪いの原因とも言われている……って、まさか――」
突如、イグニスは俺の肩を掴んで固定し、目を大きく見開き、俺の瞳を覗き込み、問いかけてくる。
「まさか、お前を呪ったのは《呪詛》だった――なんな事は……無いよな?」
これも質問ではあるけれど、もうさっきの様な掛け合いをする気はない。自分の質問から派生した問いには答えよう。
「――俺を呪った奴は自分の事を《呪詛》だと言っていた。それだけは確かだ」
その俺の答えに、イグニションは肩から手を離し、見開いた目を閉じて、左手で顔を覆った。
「――《呪詛》が本当に殺した相手を呪えるってんのなら……《呪詛》が全ての呪いの原因って話も本当かもしれねぇな……」
そう、イグニスは静かに呟いてから、今度は上を見上げた。その傍らから、クリスタルが声を掛ける。
「――コレで、やっと明確な目標が決まったね、イグニス」
「あぁ、そうだな――しっかし、思わぬところで情報がみつかるもんだね、全く――爺でも知らなかったってのによ」
見上げたまま言って、イグニションが顔を下げて、俺を見つめてくる。そして――にこやかな笑顔で、言葉を紡いだ。
「それじゃあ、次は俺の質問なんだけどな――お前、俺達の仲間にならねぇか?」
「はぁ?……つーか、一体何処からそんな話になるんだ?」
呆れてしまう――と、いうか……互いの目的もはっきりしてないのに仲間になれ――って、どう考えてもおかしいだろ。
「おかしくはないよ、君の目標って《呪詛》を倒す事でしょ? だったら、仲間が居たほうがいいとは思わないかな?」
クリスタルが、笑顔で言う――と、いうか……なんで俺の目的がばれてるんだ?
――と、そんな俺の疑問を他所にイグニションが言葉を続ける。
「そうそう、事情は違うが、俺達も《呪詛》が目標になったしな。だから手を組む――って、それだけの発想なんだが?」
確かに、発想としてはおかしくないんだが――
「そもそも、あんたらの話の前提条件である、俺の目的が《呪詛》を殺す事だって、なんで断言できるんだ?」
その俺の言葉に、イグニションとクリスタルが互いに向き合い、視線だけで会話をかわして――
「そりゃお前、お前が今まで喋ってきた言葉と――」
「――君が喋ってる時の表情を見てれば、大体わかるよ」
――と、答えてきた。……前後に文章を区切っって二人で言う事に意味があったのか、謎だが。
「まぁ、間違いじゃないけどな……ソレとあんた等と組む事とは別問題だ――」
「因みにだな? 別に――俺達はテメェが絶対に必要って訳でもねぇんだ――仲間は多いほうがいいとは思うけどな」
そうだ、俺よりも――彼等の方が強い。じゃあ何故――彼等は俺を仲間に誘おうとするのか?
「でもね――同じ目標を持つ人とは、その人と競うよりも協力した方が――絶対にずっと楽だから、だから君を誘うの」
――それは、違う気がする。彼等二人が協力すれば、今の俺など、歯牙にすらかからない程だろう。
そんな奴は、協力しても、足手まといにしかならない。――否、それも違う。
それでも、頑張れば――必死に己を鍛え上げれば、いつかは届く日が来ても、おかしくは無い。ケイジが――そうしていた様に。
ソレが彼等の考えなのか、それとも、そんな事を思っているのは俺だけで、何か俺の使い道があるのか――
彼等がそう考えているとは――今までの会話から少し考えられない。それに、仲間がいるのは悪くないと思う。だから――
「……わかった、あんた等の話にのらせてもらう」
ソレが――俺の答えだった。
「オッケー、それじゃあ改めて名乗っとこう。俺の名はイグニション――イグニスとでも呼んでくれりゃいい」
にこやかにな笑顔を作り上げて、イグニスが言い、微笑を浮かべながら、クリスタルがその後に続く。
「えっと、それじゃあ私も改めて……えっと、私の名前はクリスタル――クリスって呼んでもらえると嬉しい……かな?」
笑顔で自己紹介ってのも悪くはないが、それよりも気になる事がある。
「つーか……さっきも気になったんだけど、イグニションにクリスタルって――ソレ、本名じゃないだろ?」
その俺の言葉に「あ! そうだ――そういや、説明してなかったっけか?」と、思い出したようにイグニスが言った。
「言い忘れてたけどよ、俺等の名前は本名じゃなくて、自分の能力から取った名前なんだよ」
「能力って――なんだ?」
その俺の言葉に、クリスも苦笑いしつつイグニスを見ながら言う。
「そういえば――イグニスってソレも説明してなかったよね?」
その言葉に一瞬イグニスは沈黙するが、「すまん、俺が悪かった」と、軽く頭を下げた。それによって全員が沈黙し、数瞬の間が流れる。
その静寂を破るように、イグニスが口を開いた。
「つーか、もう仲間になるって決まったんだし、これから生きて行く上で必要そうな知識は先に全部教えとこう。うん、決定」
――《牙》とは違う雰囲気の仲間達だが、彼等とも、うまくやっていけそうな気がした。

<SCENE067>
「――って、事だ。コレで概ね全部話したつもりなんだが――なんか質問はねぇか?」
説明開始から数時間、ようやく魔獣や呪い、それに聖具や魔術に関してなどの、イグニス曰く、基礎知識を聞き終わった。
クリスは、知っている話で眠くなったのか、少し離れた場所で、座ったまま寝こけている。――が、そんなことはどうでもいいだろう。
「質問ねぇ――」
魔獣に関して――最初に聞いたとおり、人間が魔獣か《呪詛》に殺されたことによってその魂を呪われて誕生する者。
数値がデカイ方が上だと考えた五階位性で、第五階位を除いて共通しているのは、銀髪、褐色肌、赤い瞳の三つ。
見分け方云々は、第一が全長三メートル程度の獣に近い人型、第二は全長四メートル程度のこれも獣に近い人型。
第二までは、呪われた魂に肉体の制御権はなく、延々と獣の様に人を殺す光景を見続けさせられる。
さらに、第三は全長二メートル程度の人間に近い形だが、歪な突起物などがついてるのが特徴。
この階位で呪われた魂が肉体の制御権を持つようになる。――が、その時までマトモな精神を保ってる固体は多くないらしい。
確かに、自分が人間を獣みたく殺し続ける光景を延々と見せられれば狂気に呑まれても仕方ないとは思うが……そして、この第三階位が今の俺の階位らしい。
そして、第四――この階位になると、肉体の形状が人間だった頃と同じになるらしい――と、いうかその実例は今目の前に居る。
ただし、髪や肌、瞳の色は魔獣のモノと変わらないから、ソレが第四と第五を見分ける違いらしい。
言うまでもない事だが、人間の頃と比べ、あらゆる性能が桁外れになっているらしい。つまりは、外見が元に戻るだけ――と、いう事だ。
この階位がイグニス達の階位だ。そして――条件から考えるに、母さんや最初に会った時のあの少年もこの階位だったのだろう。
この階位から、魔獣は固体ごとに特殊能力を得るらしい。そして――大抵の者は、その能力から自分の呼称をつける事が多いらしい。
イグニスの能力は《灼熱龍鞭-IgnitionWhip-》と言う名で、クリスの能力は《消失結晶-VanishingCrystal-》と言う名らしい。
所で、第四階位であった筈の母さんは――能力など使っていなかったが、アレは俺の為に能力の行使を抑えてくれてたんだろうか?
ちょっと待てよ――そういえば、母さんが言っていなかったか? 『私の魂は、不完全だから――だから、言えなったの』――と。
魂が不完全? アレはどういう意味だったんだろうか? ――その意味が、イグニス達なら解るかもしれない。
「じゃあ、とりあえず聞きたい事が一つ――」
「ん? なんだよ、わかんねぇ事でもあったか?」
何やらめんどくさそうに、イグニスが俺の声に反応する。
「魔獣にとって、魂が不完全って――どういう意味なんだ?」
その俺の問いに、イグニスは眉をひそめて考え込む様に数秒の間黙って「分からねぇな――ソレがどうかしたのか? って、言うかそんなの聞いた事ないぜ?」と、答えた。
「否、分からないならいいさ――」
アレだけの知識を持っているイグニスでも知らない事か――っと、教えてもらった事に対する質問を考える方が先か。
最後に、第五――この階位に関しては、実際情報が少ないらしいが、話では外見は人間の頃と寸分違わぬようになるらしい。
個々に持つ特殊能力は殆ど変質せず、代わりに身体の能力などが跳ね上がるらしい――と、ココばかりが曖昧に表現していた。
個体数の少なさから来る、具体的な情報の欠如が、大きな原因だろうが。うん――魔獣に関しての質問はもう無いな。
次に、聖具に関して――
聖具とは、エストークの言っていた通り、意思――魂――を持ち、契約者に力を与える装具品の総称らしい。
そして、俺達の倒すべき、俺にとっての復讐すべき敵である《呪詛》も――聖具と呼ばれているのだそうだ。
しかも《呪詛》は聖具の階級分けの中の最高位であるEXクラス――通称《究極の七》――と呼ばれるモノに含まれるらしい。
今の俺達では、どうあっても歯が立たない相手――なのだそうだ。――だが、いつか、俺は……ヤツを殺す。その為に今も生きているのだ。
話を戻そう――その《究極の七》を含め、EXクラスとその一つ下の階位――SSSクラス――との総称を《二十八士》。
その下のSS、S、A、Bの四つまでの聖具との契約者が《永遠の騎士》と呼ばれる存在になるらしい。もちろん《二十八士》もその《永遠の騎士》に含まれる。
その《永遠の騎士》の中にもグループ分けがあり、世界を守るだの、大層な理想を掲げて戦う奴等を《守護者》と呼ぶ。
他に、自分の思うままに、それでも徒党を組む者達を《破壊者》、何にも縛られず、本当に自由にやっているモノを《ハグレ》と呼ぶ。
しかし――不老化と身体能力の向上ねぇ……五聖天の連中も聖具を探して契約すれば、もっと簡単に不老になれたのにな……
まぁ、今は関係ないし、今じゃなくても俺には関係無さそうな話だ――
そして《永遠の騎士》と呼ばれるモノより下の階位C、D、E、F、Gの下位に存在する聖具は、能力の加護のみ受けるらしい。
聖具に関しては、魔獣程詳しく聞けなかったが、今貰っている範囲の情報に対する疑問点は――とりあえず無い。
魔術に関しても、その存在を習っただけだが、実際使い手と数度戦っているので、概ね把握は難しくなかった。
「――他に、疑問はない」
結論を出してイグニスに伝えると、イグニスはその声に静かに肯いた。
そして、いつの間にやら地面に寝転んで眠っているクリスの下に音も無く近寄って行き、耳元で手を添えて「起きろ! クリス!」と、彼女の耳元で叫んだのだった。

――to be continued.

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