EternalKnight
伍話-13-<呪詛〜約束の結果〜>
<SCENE061>――深夜
「痛い、いたい、イタイ、痛い――――っ!」
両腕を切断された父さんの絶叫が響く。その間も切断面から血が流れ出すが、それらは例外なく金色の霧になって霧散して行く。
その光景を――その叫びを――構えを解く事無く傍観する。
――今までの戦闘で身体能力は五分程度だと分かった。そして、その条件で両腕を切り落とした以上、勝敗は決したと言って良い。
さらに、父さんに憑いた存在の基点だと思われる、黒い腕も切り落としたのだ――コレで、決着の筈だ。
「アウラを殺して、ネロも殺して――私も殺すつもりか!」
狂った様に、父さんが叫ぶ――父さんに憑いている筈の存在の基点である両腕を落としても、未だ父さんは元に戻らない。
――否、単純に、腕が基点じゃなかったのか? それとも――一度侵食されれば、基点など関係しないとでも言うのか?
「許さない、許さないぞ――貴様ぁ! 殺してやる、殺してやる殺して殺るコロシテヤル!」
狂った様に、吼える様に、父さんに憑いている何かが叫ぶ。だが、両腕を既に失っている以上、狂ったように紡ぐ言葉が実行される事は無い。
五体満足で、僅かながらだが、俺の方が勝っていたのだ――両腕の無い状態で、一体何が出来るというのだろうか?
そもそも、俺と父さんに憑いているモノとの差は、経験だ。能力は互いに互角程度なのだ――つまり、勝敗を分けたのは単純な戦闘経験の差。
故に――相手が今のままの力であるなら、俺が負ける事はまずありえない。
だが、しかし「《呪詛》よ、奴を殺す力を私によこせ! お前なら出来るだろう!」と、突然父さんに憑いたモノが何かを言い出す。
――《呪詛》とはなんだ? と、考えている間に、異変が起きた。両腕が無い状態で叫びを上げる父さんの全身に、黒い脈の様モノが徐々に浮かび始めたのだ。
「殺す、殺してやる――完全な《呪詛》の力なら、お前は一瞬でお仕舞いだ! アウラの仇も、ネロの仇も私が取る!」
父さんは、更に狂った様に叫ぶ。否、父さんの形をした、狂った何かがそう叫ぶ。
そして、顔に浮かび上がる脈が、殆ど隙間無く広がった所で、父さんの体は――服だけを残して、黒い光になって、砕け散った。
「なっ……ぇ?」
何が起きた? 父さんは何処だ? ――まさか、今ので憑いたモノもろとも、父さんも死んだのか? ――そんな、そんなのってありかよ。
これじゃあ、母さんとの約束を――守ることが出来ないじゃないか。
「俺が、追い詰めたから――こうなったのか?」
俯いて、自らに――或いは、誰でもない何かに、返事など存在する筈無いのに――そんな言葉を投げかける。
だが、その言葉に――「あぁ、そうだな」と、言葉が返ってきた。その声は間違いなく、今、消滅した筈の父さんの声で――
「父さん!?」
俯いた顔を上げると、そこには――先程まで父さんが居た場所と同じ位置に、同じように父さんが立っていた。
しかし、その服装は先程までとは全く異なっており、全身を黒一色の服で統一されていた。そして――先程まで着ていた白衣は、その足元で踏まれている。
否、最大の違いはそこではない、先程までと違い――完全に落ち着いているのだ。その父さんが、言葉を続ける――
「お前がゼオを追い詰めてくれたおかげで――俺はこの器を完全に乗っ取る事が出来た、感謝してるよ、ネロ=エクステル」
――しかしその言葉は、声こそ父さんのものだが、父さんとは別の何者かが紡いだ言葉だ。父さんは、《俺》などとは言わない。
「10年か――まぁ、魂を持つ存在を器に選ばなけりゃ、一瞬で済む話なんだが――物を器に選んでいては、俺の目的が果たされないからな」
なんだ、コイツは誰だ? 一体、何を言ってるんだ?
「っと――始めまして……だな、ネロ=エクステル。俺の名は《呪詛》、全ての世界の王となる者だ」
何だコイツは? 父さんは何処に行った? 器を完全に乗っ取るとはどういう事だ? 解らない、コイツは一体、なんだ?
「……聞いてるか? まぁ良い――所でお前、ゼオを俺から開放するだのなんだと言ってたな? 残念だが、そりゃもう無理だぜ?」
「無理、だと?」
――父さんを助けることが出来ないだと? そんな馬鹿な事があってたまるか!
「あぁ、絶対に無理だ。ゼオの魂は完全に俺が取り込んだ――俺を殺さなきゃ、輪廻の門にすら還れない、永劫に俺の中で呪われたままだ」
輪廻の門? そんな物は知らない。だけれど――目の前の存在が言っている言葉の大まかな意味は――父さんがどうなったのかは、理解できた。
父さんは、あの《呪詛》とかいう奴に、利用されていたのだ。全ての原因は奴――《呪詛》――にある。
そして、奴を殺さなければ父さんが救われないというのなら――
「だったら、お前を殺して――その呪いとやらを解いてやる」
「俺を殺す? 馬鹿言えよ――俺を誰だと思ってるんだ? 俺は、魔獣の王にして、究極の七に数えられる、全ての世界の王になる者だぞ?」
――魔獣の王? 究極の七? 何だソレ、そんなもん俺の知った事じゃない。――その上、全ての世界の王だと? 知らない、そんなモノは関係ない。
「そんなもん知らねぇよ! テメェは、テメェだけは――この俺がブチ殺す!」
一秒でも早く――目の前の存在を殺したい。だから俺は、首の裏のボタンを押し込んだ。
同時に、首筋に痛みが走る。異物が、血液中に混ざりこむ。そして、異物は血流に乗って、脳に辿りつく。
そして、俺の感覚は研ぎ澄まされ、全身に力が漲った。

<Interlude-レイビー->――深夜
ソレを認識したのは、赤髪の女との三度目の攻防の最中だった。
三度目の攻防を終えた瞬間、僕は、力を感じた方向に視線を移す。そこに存在したのは――あの機動兵器だった。
ソレは、胸部の装甲を展開させ、こちらを向いている。開いた胸部の中心に――かなりの量のエーテルを感じる。
だがしかし、たかがあの程度のエーテルだけで、この僕がこうも恐怖を抱くだろうか?
否、断じて否。僕が、あの程度のエーテルを前に、臆する筈が無い。だが、事実、あの機動兵器の胸部に収束する光には、恐怖を感じる。
瞬間、不意に――完全に意識していない背後から、何か、強力な一撃を受けた。
致死の一撃でも、重症を負う程でもない。だが――完全に意識の外においていたモノからの一撃に、僕はバランスを崩されあっけなく吹き飛ばされた。
吹き飛ばされて、無様に地面に落ちる。瞬間――僕を吹き飛ばしたであろうモノの居る場所から「ッァ――グッ……」と、呻きが聞こえた。
次いで、地面に崩れ落ちる音。その方向に視線を移せば、赤髪の女が、地面に倒れていた。
そうか、僕は彼女との戦闘の最中に、意識をあの機動兵器に移したんだな、隙をつかれて当然か……ソレは、僕が悪い。仕方のない事だ。
その前に――あの機動兵器は? 崩れ落ちた体勢を立て直しながら、僕は機動兵器のあった場所に視線を移す――その瞬間、光が、白い極光が放たれた。
死ぬ。確かに膨大ではあるが、恐怖るほどでは無い筈の光が、迫ってくる。だけど、僕はその光に恐怖を感じた。――又、死んでしまう。もう、死にたくない。と――
――――《禁忌》!
言葉で伝えるよりも早く、心の中で叫ぶ。――あの光は拙い。当れば、恐らく今の僕でさえ――死に至る、そんな気がする……これは、純粋な恐怖だ。
だから、なんとしても防ぐ。思考速度は、限界まで加速する。視界を白で焼かれている以上、目測転移は既に不可能。故に――回避は不能。
ならば、威力を削ぎ、耐え切るしかない。
(了解……火、Lv7……土、Lv3……空、Lv6……起動)
全てが白に覆われて、何も見えない。故に、全てを《禁忌》に任せるしかない。
そう思った瞬間、白いの極光の中に、赤い光が生まれ出て、次の瞬間には、僕の視界は黒に埋め尽くされた。
しかし――僕を護る様に生成された黒は、あっと言う間に白い極光に侵されて砕け散り、僕の体は強大な力に曝された。
白い光に曝されて、その威力に侵されて、僕の肉体が壊される。
消える、死ぬ、もう一度死ぬ? 二度と死にたくなかったのに、王にこの不老の器を貰ったのに――僕の体が、壊れる。
瞬間、器――肉体――が消えると、もう駄目だと諦めかけた瞬間――白い光の蹂躙が、止まった。背後では何かの崩壊音が聞こえる――
そして、世界の白に支配されていた世界は、徐々に――白の極光によって焼かれた視界が元に戻るにつれて――色を取り戻した。
「僕は――生きている……のか?」
そうだ、僕はまだ生きている。あの白の極光を、耐え抜いたんだ。《禁忌》の力を最大限に活用したが、そんなことはどうだって良い。
「は、ははは――、あはははははは! まさかこんな奥の手を持ってたとはね……正直、僕も死ぬかと思ったよ」
「ぐっ……くそ、なんで――なんで《クロノス》を耐えれるんだよ、お前は――!」
地面に倒れ、苦痛に歪んだ表情で、赤髪の女が叫ぶ。――確かに、僕自身もよくあの一撃に耐えられたと思う。
女から視線を外し、前を見る――そこには、全てのエネルギーを使い果たしたかの様に力なく崩れる機動兵器の姿が見えた。
そして、そこから半回転した後ろ――その光景を見ると、自分が耐えられたことが不思議に感じられるような光景が広がっていた。
フロアの床や壁を削り、射撃直線上にある壁は深く穿たれている。
さらに、その孔によって緻密に計算されて作られた地下通路、地下フロアの天井は地上の重量に耐えられず、崩壊している。
凄まじい威力だ――だが、僕はその一撃に耐えた。そして、僕が耐え切れた最大の要因は間違いなく《禁忌》の力だろう。
そして、僕が助かったのは、今尚苦痛に歪む顔で僕を睨む、彼女のおかげでもある。
『――ところでお前、そのボロボロの服はどうにか出来ないのか?』
あの一言を彼女が発しなければ、その言葉に耳を傾けていなければ――MagiFormを発動していなければ――僕は死んでいただろう。
だから――彼女の問いには、どうせすぐに殺すけれど、敬意を払って答えてあげよう。
「何故僕があの攻撃に耐えられたか――だって? 《禁忌》の力さ――僕自身の力だけじゃ、流石にアレは防げないよ」
言いながら、機動兵器に視線を移す。既に機体の全エネルギーを使い切り、動く様には見えないが、あの機動兵器は破壊しておこう。
次にあの一撃を撃たれても、防げる保障なんて無い。僕に久しぶりに恐怖を与えたあの機動兵器にも敬意を持って――一撃で葬ろう。
《禁忌》――あの機動兵器を、焼き払う。――Lv7だ。
(了解……火、Lv7……起動)
――火属性の魔術、そのLv7と呼ばれる領域にある魔術……超高温体の瞬間生成。
ソレは、一機の機動兵器を焼き払うには――消し去るには――十分すぎる破壊力。
そして、《禁忌》の声が脳内に響くと同時に、機動兵器の頭上に青白い球体が出現し、機動兵器にめがけて落下した。

<SCENE062>――深夜
肉体の制限が外れる。時間切れがいつ来るか分からない以上、一秒でも早く決着をつけなければならない。
故に、俺は順手に持った右手のブレードを逆手で持ち直し、無言で大地を蹴って《呪詛》の下に跳び込んだ。
両手には先ほどからブレードが握られたままだ。そも、制限を外している間は銃など、弾丸の速度が遅すぎて使い物にならない。
一歩で距離を詰めて、右腕のブレードを着地の勢いに載せて振りぬ――けない。
逆手に持ったブレードを振りぬく前に――否、振り抜きに入る直前で、ブレードを握る手を押さえつけられたからだ。
――肉体の制限を外した俺の腕をあっさりと、止めたのだ。ソレは、スピードが見切られ、力が押さえつけられたという事。
つまり《呪詛》の身体能力が、制限を外した俺と同等――或いは、それ以上である事を示す。
更に言うなら――手を押さえることによって斬撃を防ぐ事など、普通は思いつかない。――故に《呪詛》は、戦闘経験すら持ちえている。
強い――最低でも、俺と同等の能力を持っていると考えて良い。そんな相手に、早く勝つ事など、果たして出来るのだろうか?
否、やらなければ……俺は死ぬ事になり、父さんは救われない。だから――掴まれた右手を引き戻し、引き戻しの動作を利用して左手のブレードを振るう。
勿論、そのブレードも同じ方法で《呪詛》に止められる――だが、そんな事は判りきっていた。故に、ソレはフェイクでしかない。
本命は右のブレード。先の引き戻しのタイミングで逆手から順手にすばやく持ち替えて、時計方向に捻った腰を戻す勢いに乗せて、ブレードを突き出した。
突きに対しては、ブレードを握る腕を止める戦術は使用できない。――だが、突き出された刃が《呪詛》を貫く事は無かった。
《呪詛》は、突き出された一撃を、当然の様に余裕をもって、半身になる事で回避したのだ。
「どうした? 俺の殺すんじゃなかったのか?」
そして俺の左腕を掴み、突きをかわしたままの体勢で《呪詛》はそんな事を言った。
「そのつもりだ!」
叫びとともに、突き出したブレードの刃を寝かせて、その刃を半身になった状態で居る《呪詛》に向かって振るう。
位置関係上、《呪詛》はこの一撃を回避は出来ない、さらに、体勢から考えて、先程の様に腕を止める事もできない。
今度こそ、取った――と、そう思った。しかし、次の瞬間――刃が《呪詛》に届く直前、握られたままだった左手に激痛が走った。
その痛みに気をとられ、ブレードを振るう速度が落ちる。
そして、鈍った刃が肉に食い込む感触を感じると同時に――左手に持ったブレードが地面に落ちた。
「づっ――ぐぁ……」
「どうした? 俺を殺すつもりなんだろう?」
言って、俺と視線を交差させる《呪詛》の左腕には、俺のブレードが中程まで食い込んだ状態で停止していた。
対する《呪詛》の右の手は、血に塗れていた。――それも俺の血で、だ。そう、《呪詛》は、俺の左の拳を、掴んでいた拳を――握りつぶしたのだ。
拳を握りつぶす程の――握力。最低でも《呪詛》にはそれだけの握力がある、という事。
そして、当然の事ながら、握力のみがそんなに特化している筈は、恐らく無い。
ソレが意味するのは――俺ではどう足掻いても――制限解除を使った今の状態でも、どうしようもない程の戦力差がある、という事。
「っ……クソッ!」
腕の痛みに耐えながら《呪詛》の左腕に食い込んだ右手のブレードを引き抜き、後方に飛ぶ。
能力差は絶望的だ――だけど、俺には約束がある。父さんを助けるという、母さんとの約束が。
生きて助ける事は出来なかったから、せめて《呪詛》の呪いからは助けないと――いけない。残された右腕に握られた、黒い血に塗れたブレードを――見つめる。
大丈夫――攻撃が効かないわけじゃない。ダメージが与えられる以上、勝機はあるは――ズッ!?
瞬間、全身から力が抜けて、代わりに全身に激痛が走り出した。――制限解除が、切れたのだ。
奥歯をかみ締め、痛みに耐える。――握りつぶされた左腕の痛みが、なんとも無かったようにさえ感じる程の痛みが。
早すぎる。まだ制限を外してから三十秒も経っていない筈なのに――飛びそうになる意識を何とか繋ぎとめながら、立ったままの姿勢を維持する。
拙い、絶望的なまでに――拙い。唯でさえ、無いに等しかった勝利の可能性が、更に遠ざかる。だけど、まだ――まだ俺は倒れていない……だから、――戦える。
「随分と苦しそうじゃないか……どうした? 左手がそんなに痛むか?」
「黙……れ」
俺はまだ戦える、戦えるんだ。だから――動けよ、体!
「……あぁ、なるほど――どうやったかは知らないが、肉体の制限を外したんだな、お前? その皺寄せが来た、と――そんな所か?」
――何で、ソレが……? 外的な変化なんか無いのに……
「肉体の制限さえ外せば、多少鍛えた人間なら、身体能力特化のAクラス程度の力なら引き出せるよなぁ――確かに」
何を、何を言っているんだ――コイツは?
「さて――どうやら俺の予想は当たってて、お前はもう戦えないだろうし――殺してやるよ。ゼオと一緒に、お前も俺に呪われろ――もっとも、行き着く先は違うがな」
瞬間、視界から《呪詛》が消えて、次の瞬間――俺の腹から、黒い手が生えてきた。
「――ごふっ」
そんな音と共に、喉の奥からせり上がってくる血を吐き出す。
「さて――人間の器も手に入ったし、これからこの世界でどう動いて行くかな……」
痛みは――感じない。
「あぁ、こっちも片付いてたんですね――王」
先ほどから全身に走るダメージの方が大きい。
「あぁ、器も完全に手に入った――それで、これからの事だがなレイビー」
《呪詛》と黒い少年の声が聞こえる――目にはもう何も映らない。
「すいません――僕の不手際で、侵入者が地下の外壁に孔をあけてしまいました」
より大きな痛みの前に、小さな痛みはかき消されるのだ。しかし、痛みの大きい方が致命傷になるとは限らない。
「そうか……なら、守護者どもが来る前に、この世界から離れるか……」
そして――俺の……僕の意識は闇の底に沈んでいった。

<Interlude-ケイジ->――深夜
建物から出た俺が目にしたのは、何故か地面が崩落して、その瓦礫で偶然出来たと思われる、地下へと続く路だった。
――ココからならすぐにでも地下に入る事が出来る。
(……契約者よ、様子がおかしい)
おかしいって、何がおかしいんだよ《虚空》?
《虚空》に答える様にそう考えながら、瓦礫の路に足を踏み入れる。
(SSSクラスの反応が、消えた)
消えたって事はネスさん達がそのSSSとか言うのを倒したって事か?
――穴は、地下まで続いている事は判るが、様子までは確認できない。
(否……今しがた、同時に反応が消えたのだ。しかもあの消え方は……門で外にでも出たのか?)
おい《虚空》また知らない単語が出てきたぞ?
(説明している暇はない……SSSが引き上げたのは恐らく――勝負がついたからだ)
ソレってつまり――ネスさん達が……やられたって事か?
(断言は出来んが、その予想で恐らく間違いない――)
「っ――!?」
だったら、確認しなければいけない。まだ生きているかもしれない以上、助けに行かなければいけない。
諦めて進むのを止めれば――昔と同じように、後悔する筈だから。だから――覚悟を決めて、進まなければいけない。
俺は、地下への一歩を踏み出して――そして、瓦礫の山を降り、巨大なフロアに出た。
そこには、巨大な半球体状に熱で強引に焼き空けられたような穴と、血溜りがあった。
「ラビ……さん――」
――血溜りには、褐色の肉片と、赤い髪が浮かんでいる。――見渡しても、フロアには誰一人居ない。
まだ……まだだ――ネスさんや、ケビンさんや、セリアさんの生死を確かめれていない。
ここに居ないのなら――他の場所に……フロアを見渡すと、奥に――扉があるのに気がついた。
だけど、あんな小ささじゃ、少なくともティターンは通れない。それでも――ネスさんが居るかも知れない以上、進むしかない。
――薄暗い通路を抜けて、さっきのフロア程ではないにしろ、かなりの広さを持つフロアに出る。
そのフロアの中央に、ネスさんが、倒れていた。
「――ネスさん!」
倒れているネスさんの下に走り寄る。だが、その最中に気がついた。――ネスさんの胸に穿たれた、大きな孔に。
「そんな……」
また、護れなかった。……一緒に戦う事すら、出来なかった。――俺は……無力だ。
(契約者よ……この様子だと、残りの仲間も――)
あぁ、きっとケビンさん達も……やられてしまったんだろう。だけど、探しに行こう。まだ生きているかもしれないから――
だが、ココより先に、少なくともケビンさん達は居ないだろう。引き返して、出来る限りこの研究所を探そう。
それでも見つからなければ、諦める他に道は無い。――多分、諦めなければいけない。
「畜生……」
誰も居ない広いフロアに、俺の呟いた言葉は響きもしなかった。

――to be continued.

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