EternalKnight
伍話-12-<父〜届かぬ言葉〜>
<Interlude-ケビン->――深夜
ラビが時間を稼いでいる間に、なんとしても《クロノス》の一撃を撃てるだけの――最大まで――エネルギーをチャージしなければならない。
『ねぇ、ケビン――ラビにはああ言ってたけど、ホントに二分で《クロノス》を撃てるだけのエネルギーをチャージ出来るの?』
不安そうなセリアの声が通信機から聞こえる。だが――理論上、最速二分でチャージ出来る様に、俺はこのティターンを作り上げたつもりだ。
「出来る――だから、今から俺の言う通りにしてくれ」
『……解ったわ。まず何をすればいいの?』
そう答えるセリアの声に、不安さは感じられなかった。――俺を、俺の作ったティターンを、信じてくれているのだろう。
だから――一秒でも早く作業に入らなければならない。
「まずは、エーテル機関の稼働率を100%にして、次に、ナノマシン以外の自動機構を全て停止させる」
『――出来たわ』
コレで、自動機構に回されていたエネルギーがチャージ分に使用出来る。次は――
「ナノマシンの弾丸再生を止めて、全てエーテル機関の修復にまわしてくれ。ソレが出来れば、エーテル機関の稼働率を120%にする」
『120%って――そんな事したらエーテル機関が……』
俺の指示に、セリアが戸惑う――だが、その対策の為にナノマシンを機関に回すのだ。
「負荷がかかってる部分はナノマシンで補強されるから大丈夫だ――」
120%の稼働率までなら、修復は追いつく。
『――解ったわ、ケビン。……貴方を信じるわよ』
言って、セリアが答えた数秒後、けたたましい音が、コックピットにまで響いてきた。
稼働率120%――理論上普通に運転させれば三十秒もかからずに機関が崩壊する臨界突破運転。
ナノマシンでの常時補強、修復を行なうことで、崩壊を防ぐ――限界ギリギリの機関稼動法。
この方法であれば――零に近い状態から最大までチャージするのにも掛かる時間は、およそ二分。
早く――早く――早く。ラビの事は信じているが、焦りはつのる。そのせいか、二分が、とんでもなく長く感じられる。
モニターのエネルギーすら切っている今の状態では、外の状況――ラビが今どうしているかすら確認出来ない。
だけど――信じている。持ちこたえてくれると、チャージが終わるまでにの二分間、持ちこたえてくれると信じている。だから――
『来たわよケビン、エネルギー残量最大――《クロノス》何時でもいけるわ――』
――来た! 一瞬でモニターの電源が入り、全てのシステムが起動する。
そして俺は――「ラビ、チャージが完了したぞ」と、通信機に向かって叫んだ。
後は、何時でも――文字通り何時でも撃てるようにするだけだ。
「セリア! 《クロノス》のロックを外してくれ――《クロノス》を撃つのは、俺の役目だ」
『主砲、セキュリティB――解除』
その言葉とともに《クロノス》のセリア側のロックが外れた事が、モニターに表示される。
そして、機体に溜まったエネルギーが胸部の主砲――クロノス――に収束していく。
モニターに、エネルギー収束の完了を知らせるサインが表示される。
――コレで、後は、俺が管理するセキュリティを外せば、最強の一撃が、放たれる。ミスは……決して許されない。

<Interlude-ラビ->――深夜
時間稼ぎは終わった――だが、私が少年の近くに居たままでは《クロノス》は放てない。
拙い――一体どうやって、彼から距離を取る?
三度目の激突、放たれる拳はまたも互いに狙った対象に当たる事無く空を切った。
だが、私は全力の更に上で――肉体の制限を解除して――だ。対する少年は《禁忌》とやらの力を使わずに――すなわち、手を抜いて――だ。
それだけのハンデがあって――ようやく私達は、互角だった。
故に――彼を出し抜き離れる事は出来ない。出来るはずが無い。
だがしかし、どの道このままでは、残り何秒持つかわからない制限解除が――切れる。
三度目の激突も互いに無傷で終わり、後方へと跳躍する。そして――再び前に出ようとした、その時。
先ほどまで私に集中していた筈の少年が――完全に意識の内から私の存在を消した。
今――まさに今しか無い。距離を取るだけでは駄目だ、アレだけ無防備なら――いける!
そう確信して、私は四度目の前進を開始する。
――そして完全に無防備な少年に《近接形態》の腕を押し当てて《パイルバンカー》を打ち込んだ。
衝突の衝撃が、腕に返ってくる。それは――確かに、命中したという証。そうして、私の放った一撃が、少年の体を吹き飛ばした。
瞬間――研ぎ澄まされた感覚が消えて、同時に全身から力が抜けた。その後を追うように、全身に激痛も走りだす。
「ッァ――グッ……」
全身に気絶してしまいそうな程の痛みが、駆けぬける――だけれど、意識は手放さない。
だが、意識を繋ぎ止めた所で、全身を限界まで酷使した肉体が動く筈はない。故に、何の力も体に込める事ができない私は、そのまま地面に崩れ落ちた。
成すがままに崩れ落ちる体は、何の抵抗もなく地面に衝突する。――しかし、その痛みを感じる事は無い。痛みはより上位の痛みの前に掻き消されるからだ。
そんな痛みと戦いながら、この戦いの結末を見届ける為に、奥歯をかみ締め、痛みに耐えて――勝利の瞬間を目に焼き付ける為に顔を上げた。
瞬間ティターンの主砲から究極の白が放たれ、その白が、一瞬で私の視界を奪い去った。

<SCENE060>――深夜
予備の電灯しか点いていない薄暗い通路を駆け抜けて――俺は、恐らく研究所最深部への入り口だと思われる扉の前に立った。
この中に――何かに憑かれた父さんが居る筈だ……母さんとの約束――父さんを救う事――が、成功するかは判らない。
それ以前に、どうすれば救えるのか――その手段すら分からない。
だけど、それでも俺は、父さんに憑いた存在を、俺達の人生を狂わした根源的な存在である何かを、この手で倒したいと、そう思った。
「……行くか」
自分自身に言い聞かせる様に呟いて、俺はそのドアを蹴破った。
ドアの向こうに存在したのは、広大な空間――先程のフロアに匹敵する程の、巨大なフロアだった。
そして、そのフロアの中心と呼べる場所に、予想通り――白衣を着た影が存在した。その後姿を、俺は知っている。
「待っていた……待っていたぞ」
振り向きながら、影は第一声を放つ。それが――十年越しに聞く、父さんの声だった。
――しかしそこからは、かつて父さんが放っていた威厳の様な雰囲気は、微塵も感じられない。
「へぇ……わざわざ俺を待ってたのか?」
「貴様が、貴様がアウラを殺したのだろう、貴様が私の妻を――!」
激昂するように――吼える様に、父さんが叫ぶ。しかし、その姿は――威厳などまるで感じられないその姿が、何故か、本物の父さんに見えた。
何か憑かれたモノに操られているのではない、本心の父さんの姿に、俺には見えた。
「殺す、殺してやる――アウラを、私の家族を奪った貴様を、私は許さない!」
「家族ねぇ。ソレだと――俺もアンタの家族に入るんじゃねぇのか?」
どうやれば、父さんに憑いたモノを払えるかわからない。だけど、それ以前に父さんを説得しなければならない。
そして――伝えなければならない。母さんの、最後の言葉を――
「ふざけるな、貴様など家族では無い。私の家族は妻と息子だけだ!」
「だから、俺はそのあんたの息子――ネロなんだってば。だからいい加減落ち着いて、母さんの遺言でも聞いてくれよ」
――母さんは、最後まで父さんや俺の事を、家族の事を大事にしてくれていたのだと、知って欲しい。
「貴様がネロの筈あるか! ――まさか貴様、アウラだけではなくネロまで……私の息子まで殺したのか!」
――だけど、声は届かない。全くと言って良いほど、思いは伝わらない。そう思考していた瞬間――父さんがこちらに向かって駆け出してきた。
それにすぐさま対応して、左手のエリニュスの銃口を突っ込んでくる父さんに向けて、俺は迷わずトリガーを引いた。
エリニュスの咆哮とマズルフラッシュが発生し、弾丸が撃ち出される。さらに、トリガーを引きっぱなしにする事で、次々と弾丸が父さんに向かって吐き出されていく。
その間に、右手の装甲を展開しつつ、エリニュスを腰に戻し、ブレードを握る。
それと同時に、トリガーから指を離し、弾丸を撃ち出すのを止める。――これ以上は、無駄球だ。
吐き出された無数の弾丸は、一発残らずあの黒い腕に叩き落されたいた。
だが、しかし――十年前に見たソレと、今のソレは明らかに違う。十年前は、右腕だけだった――だが、今は……左腕も黒く染まっている。
父さんは、接近をやめ、足こそ止めていたモノの、両腕の黒で、弾丸を全て、エリニュスから放たれる弾丸を捌き切っていた。
――あの黒が、恐らく間違いなく父さんに憑いているモノ。両腕――と、言う事は、以前よりも侵攻が進んでいるのだろう。……十年も経てば――当然か。
服の上からじゃ、あの黒が何処まで広がっているかなど見えないが……一体どこまで広がっているのだろう?
あの黒を切り落とせば、父さんは元に戻す事ができるだろうか?
いや、出来る出来ないじゃない、方法が分からない以上、やるしかないんだ。――ソレが、母さんの願いだから。
両腕を切り落としても――ショック死さえしなければ、処置を的確に行なえば、死にはしない。
何をするかは決まった、後は――ソレを実行するのみ。
父さんが立ち止まった位置は俺から十メートル程離れた地点――父さんの動きを考えれば、互いに一歩踏み出せば、届く。
一瞬で、決着をつける――その決意と共に、左腕の武装をエリニュスからブレードに、慣れた動作で持ち替える。それを構えて、呟く。
「父さん……俺が、アンタをアンタに憑いてる奴から解放してやる――」
その宣言と共に、俺は前へと踏み出した。そして、互いに前に進んだ事により、一歩で互いの距離が詰まる。
――衝突の瞬間、父さんは左腕を大きく振りかぶり、こちらに一撃を加えようとモーションを取る。
だが、大振りの攻撃などと言うモノは、威力こそ大きくなるが、撃つ側に隙を生み出す攻撃に他ならない。
その隙を逃さずに――逆手に持った右腕のブレードを振り上げるように、走らせて――一閃。
振り上げた俺の刃は父さんの左腕を上腕部から綺麗に切り落とした。――だが、父さんの攻撃は終わらない。
左腕を切り落とされた瞬間には、既に右腕を後ろに引いて、突きのモーションに入れる体勢に移行している。
右腕での突き――母さんを突き刺した時と、同じ動き。あの後――十年前、父さんに貫かれた母さんが、何故ああなったのかは知らない。
だけれど――その一撃が俺達家族がこんな事になった原因の一撃でもある。
故に――その攻撃の回避方法は、あの悪夢を見る度に幾度と無く、自ら内で想定してきた――
突き出される右拳を、左足を右斜め後ろに引きながら体を半身にする事によって回避する。
理想の回避動作で、突き出された拳を回避した事によって、父さんに比べ、こちらの動きに自由が出来る。
そして――突き出された右腕は、余りにも無防備だった。
振り上げていた右腕で、逆手に握っていた刃を、一瞬で順手に持ち直し、そのまま刃を振り下ろして――一閃。
走る刃は、殆ど抵抗無く振り落とされて、今度は父さんの右腕を、上腕部から美しい切断面を残して切り落とした。
そして、刃を振り下ろした瞬間に、俺は地面を蹴って後方に跳躍して着地する。
ソレと同士に、切り落とされた腕が地面に落ちる音を聞いた。

<Interlude-ケイジ->――深夜
「んぁ……」
意識が覚醒する。最初に目に入ったのは、見慣れない天井だった。ココは――そうELPの研究所だ。
そして俺は……任された仕事をこなして、バルバと戦って、死にそうになって、《虚空》と契約して――勝ったんだよな。
それで《虚空》曰く、エーテルが残ってないとかで、眠気に襲われて――それでこんな所で寝たんだったよ……なぁ?
なんか不安になってきた。よくよく考えれば、《虚空》とか、なんだか現実味が無いし。
(現実味が無くて悪かったな、契約者よ……やっと目覚めたか)
……まぁ、こうやって声が聞こえる以上は、現実味が無くても現実なんだろうけど。
と、いうか――成り行きで契約したんだけど、お前一体何処に居るんだ? なんか心の声で会話できるみたいだけどさ。
(ふむ、そうだったな……実はだな、我には実体が無かったのだ。故に――契約者の所有物を器として使用させてもらった)
はぁ?――つまりアレか? お前は霊的な存在で、俺の持ち物に取り憑いてるって事か?
(そういう表現も出来るな……そして、我が器として選んだ汝の所有物は――汝が、右手に持っているモノだ)
俺が右手に持ってるモノって――バレルトンファーの事か?――なんか、見た感じはいつもとなんも変わってねぇけど?
(内部に魂として我が宿っているだけだからな、外見は変わらんさ)
ふーん……なるほどねぇ。――っと、所で《虚空》俺は、ドレぐらい寝てたんだ?
(時間にして十数分と言ったところか……この周囲のエーテルの回収はほぼ完了している――全快には遠いが、活動するには十分だろう)
そっか――それじゃあ、ネスさん達の援護に向かうか――詳しい話はこの作戦が終わってからでいいだろ?
(ふむ、まぁそれでよかろう――仲間とともにありたい思うその理由なき衝動こそが、我を引き寄せたのだからな)
「よっしゃ、それじゃあ行くか」
まずは集合場所に――!? なんだ、この揺れは?
俺がその場を立ち去ろうとした瞬間、地面が大きく十数秒揺れた、否、震えた。
……この揺れ、なんだと思う?
(さぁな……我にも解らな――……何?)
どうした《虚空》?
(契約者よ……残念だが、仲間を助けに行くのを諦めろ)
「なんだと! ふざけるなよ――俺は、皆を……仲間を守る為に契約したんだぞ!」
(今、強大なエネルギーの奔流と、SSSクラス並の反応を二つ認識した。恐らくどちらもSSSだろう――我の力で片方にすら太刀打ち出来ん)
「なん……だよ、ソレ――さっきバルバを倒したのはお前の力の一部なんだろ? お前の全力でも、勝てねぇってのかよ!」
(勝てぬなどと言う話ではない、完全な状態での全力でも、歯が立たぬだろうな)
そんな……アレだけ全身に力が漲った《虚空》の力でも無理だなんて――
(――まして、能力すら発動できん程エーテルを消費した我の力では、話にならん)
じゃあ――逃げろって言うのか? 勝てないから、仲間を見捨てて逃げろって言うのかよ!
(……ならば、好きにするが良い。運がよければ、一人か二人なら助けられるやもしれん)
――!? ホントか!
(嘘をついてどうする……我も消えたくは無いのでな――逃げると言うのなら、全力で汝を助けよう)
……ありがとう《虚空》。
(礼などいらぬ、ソレよりも急ぐが良い――汝の仲間を助けたいのならな)
「あぁ、そうさせてもらう」
声に出して言って、俺はまずこの建物から出る事にした。

――to be continued.

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