EternalKnight
伍話-11-<禁忌〜圧倒的な差〜>
<Interlude-ラビ->――深夜
ネスがフロアから出て行くのを確認してから、強大な敵意なき殺意を放つ金髪の少年に声をかける。
「さぁ、ネスは行ったぞ――すぐにでも私は追いつきたいんでな……手早く決着をつけさせてもらうぞ?」
そう、強大な殺意を持つ者が、必ずしも強大な力を持つ訳では――ない。故に、気押される必要もない。
「手早く――ね。確かに、決着だけならすぐにつくけれど、ソレだと折角僕がやる気になってるのに、面白くないだろ?」
「大した自信だな――だが、そんな大口をいつまで叩いてられるかな?」
言って、私は地面を弾く様に蹴って、一気に少年との距離を詰める――その過程で《待機形態》から《近接形態》へと切り替える。
私が接近する間も、少年は全く動かない。――取った! その確信を持って《可変腕》を突き出す。
――が、腕を振り抜いた先に、少年は既に存在しなかった。
「なっ――に?」
あのタイミングでかわされた? 否、回避の瞬間が見えなかった……消えた――のか?
突然の出来事に頭が混乱している。落ち着け――そんな馬鹿な事がある筈がない、人間が消える筈など――
「MurderousIntentで狂わなかったし、Aクラスの同類を倒して来たらしいから、一応、期待してたんだけど――正直、期待はずれだよ」
突如、そんな言葉を、背後から掛けられた。ソレに反応して背後に振り返ると、そこには金髪の少年が立っていた。
「馬鹿――な」
背後を取られたのに、声を掛けられるまで気づく事が出来なかったのか?
凝縮されえた極限の殺意に、感覚を麻痺させられている――のか?
否――それ以前に奴は……どうやってあのタイミングで私の攻撃をかわした?
「今ので実力の八割ぐらいなんだろ? もう少しは出来ると思ってたんだけどなぁ」
「ふざっ……けるなぁっ!」
すぐ背後に立っていた少年との距離は一メートルに満たない。
その位置から、私は感情に任せるままに、振り返り、その勢いに乗せて右拳を少年に向かって打ち出した。
しかし、その一撃も先程の様に、突如消えた少年にかする事すらなく、虚しく空を切った。
「……もしかして――本当にそれで本気なのかい?」
いつの間にか、今度は私から五メートル程離れた位置に立った少年が、そう言ってくる。
「本当に、期待外れだったよ、君には。コレなら《禁忌》の力を借りなくても、僕の力だけでも十分だ」
少年がそう言うと同時に、その小脇に抱えられた本がバラバラとページ毎に散って、それらが金色の光の粒子に変わり始めた。
その光が少年の右手――否、指先に収束していく。収束したソレは、少年の右人差し指で光る銀色のリングになっていた。
先程の本と指輪がどんな仕組みでああなっているのかは、解らない。知った所で意味がない。
少年の言った「自分だけの力」という意味は解らない――だが、唯一つ、私が少年に舐められている事はわかった。
いや、実際あの少年にしてみれば、舐めてかかって問題ないと思える程の実力差なのだろう。
先ほどは感情に任せてしまったが、それで確信がついた――勝てない、或いは……勝てる気がしないと。
だけど、だけれど――だからと言って、諦める訳じゃない。まだこちらには――切り札がある。
それに、相手は――あの少年は油断している。だから、諦めるにはまだまだ早い。慢心が絶対な隙だという事を、教えてやる。
「さて、それじゃあ僕はあの機動兵器と戦うから――君はそこでしばらく僕を倒す手段でも考えてなよ……まぁ、無駄だろうけどね?」
そんな余裕の台詞を残して、少年は私を完全に視界から外し、ケビン達――ティターン――の元に向かって歩いていった。
そして、ティターンの元に歩む最中で「あっ!」と、声をあげ、思い出したかの様にこちらに振り返って、言った。
「そう言えば、僕はクラスが上がったんだったね――それじゃあ、君達が期待外れになるのも仕方なかった」
それだけ言い残して、少年は今度こそ本当に、私を意識から外して、ティターンの元に歩みだすのを再開させた。

<Interlude-ケビン->――深夜
『そう言えば、僕はクラスが上がったんだったね――それじゃあ、君達が期待外れになるのも仕方なかった』
そんな謎の言葉をラビに投げかけて、今度こそ少年がこちらに向かってくる。
「……勝てるのか、アレに?」
ラビとの戦い――少年にとっては恐らく戦いですらない、ソレを見て、まず最初に抱えていた感想がソレだった。
ラビが、手も足も出なかったという――事実。そして、このティターンは元々、複数の機動兵器や雑兵の群を蹴散らす為の機体だ。
そんな機体で、ラビですら手も足も出なかった相手と、戦えるのか?
『その機動兵器に乗ってる人さぁ――』
ゆっくりと、ティターンに歩み寄って来ていた少年が、口を開く。
『どうして――さっき僕と赤髪の人が話してた隙に、僕に攻撃しなかったんだい?』
ソレは――ラビにも当る危険性があるからでは無いのか? ――と、いうかそれ以上の理由など考えられない。
『一緒にラビにまで当るかも知れないでしょ――仲間を誤射する可能性があるのに、砲撃なんて出来ないわ』
『へぇ……それだけの理由かい? どうせすぐに殺される彼女の為に、僕にダメージを与えるチャンスを逃すなんて、勿体無い事するね』
圧倒的な余裕――モニターに映し出された彼の表情がそれを感じさせた。
事実、俺達を圧倒するだけの力が、少年にはある。だが、しかし――その油断が命取りだと、教えてやらなければならない。
外部への音声通信を遮断して、セリアに声を駆ける。
「セリア――全弾、奴に叩き込めるか?」
『大丈夫よ、残弾もエネルギーも最大だわ。だけど――《クロノス》の方が確実なんじゃないの?』
確かに、一斉掃射よりも《クロノス》の方が破壊力は大きい。
――だがしかし、ココは地下だ。こんな所でアレを放てば、崩落させてしまうのは間違いない。
「確かにそうだが――ソレは、一斉掃射が通じなかった時に考えよう」
『――わかったわ』『それだけ巨大な機体なんだから――僕が戦おうって気になれるような武装の一つや二つは積んでるんだろ?』
セリアの返事と同じタイミングで、外から少年の声が飛び込んでくる。
そして俺は、ソレに答える為に外部への音声を接続し直し、答える。
「さぁな――気になるんだったら、受けてみるか? ティターンの武装の味を!」
その俺の声に、少年は口元を歪まして、答える。
『あぁ、やってみなよ。――っと、ところで、さっきとは違う声だけれど――ソレ、二人乗りかい?』
「さぁな、自分で考えな」
少年の質問に、俺が答えた瞬間、モニターの隅に、複数の武装の名が同時に表示されるのを見た。
瞬間――《クロノス》以外の全ての射撃武装が一斉に展開し、弾丸、エーテル光、レーザーが少年に向かって一気に打ち出された。
最初に少年を打ち抜いたのはレーザーだった。最速、光と同速度の弾丸は、いくら動きが早くても回避できる筈が無い。
そのレーザーに続くように、エーテル光と弾丸の雨が、少年の居た一点に一斉に降り注ぐ。
そして――ティターンのエネルギーと弾丸が切れると同時に、暴風の様な攻撃が、遂に止まった。
少年が居た地点――全ての攻撃が叩き込まれた地点――の周辺の様子は舞い上がる煙に遮られてモニターでは全く捕らえられない。
「……セリア」
故に、先ほどの攻撃の成果――攻撃の結果を確かめるように、セリアに声かける。しかし――
『駄目……みたい』
――返って来たのは、考えたくは無かった……しかし、予想通りの返答だった。
そして、煙の奥から「Apocrypha」と、少年の声が聞こえた。瞬間――漂う煙が突如発生した暴風によって、一瞬で全て吹き飛んばされた。
その中心――突如発生した暴風の中心に、再び先程の書を抱えた少年の姿があった。

<Interlude-ラビ->――深夜
「Apocrypha」
ティターンの怒涛の攻撃によって発生した煙の中から、少年の声が聞こえてきた。
「――アレだけの攻撃で、まだ死んでない、だと?」
そして、突如とし吹き荒れる暴風が発生し、それによって舞い上がっていた煙も吹き飛ばされる。
そして、その中心に、ボロボロの服で佇む少年の姿が見えた。その小脇には、先ほど指輪に変わった本が、再度抱えられている。
流石に、あの攻撃で無傷、というわけではないが、大きなダメージがあるようにも見れなかった。
先程の攻撃はティターンが持つほぼ全て遠距離攻撃用武装での同時攻撃の筈だ。
――と、なれば、ソレに耐えたあの少年を倒せる可能性のある武装はもう……《クロノス》だけしか残されていない。
そして、当然の様に、私の攻撃では、まず彼を倒す事など出来ない。
「今のは効いたよ……けど、まだ僕の力だけで十分みたいだね。さて、どっちも階位の上がった僕の敵じゃないし――どうしようかな」
言いながら、私達を視界に収める様な位置まで歩いて移動して、少年は言う。
と、そこで――
『ラビ、お前が声を出すと気づかれるだろうから、何も返事をしなくて言いから聞いてくれ。――一つ頼みたい事がある』
イヤホン型の通信機から、ケビンの声が聞こえてきた。……頼みだって? この状況で……か?
『《クロノス》を使おうと思ってるんだが、その間、ティターンが奴に攻撃されない様に、お前が引き付けておいてくれないか?』
――随分と無茶を言う。私が奴に全く追いつけないのを解って言ってるんだろうか?
否、ケビンの事だ、承知の上で言っているのだろう。そうだ、どちらにしても《クロノス》を使う以外に道がないのなら――やるしかない。
『チャージは二分程で済ませる。その間……頼めるか?』
二分、かなり早いな……だけど、ソレぐらいなら、奴を相手に私でも稼げるかもしれない。
やるしか――ない。私の目的は、王とやらを殺す事だけ――だが、ココで死ねば、ソレが果たされることすら、永劫にありえない。
私は拳を握り構えを取って、少年を見据える。その私の姿を見つけた少年の口元が哂う様に歪んだ。
「へぇ……君、自分から先に死ぬ事を志願するんだ? それとも、僕に勝てる手で思いついたのかい?」
お前に勝てる可能性の高い手は、確かに見つけた。だがソレは、私が持つ手ではない。私は――単なる時間稼ぎに過ぎない。
二分――二分程、時間が稼げればいい。だが、普通に殺り合えば十秒も持つかどうかすらわからない。
故に――
「さぁ、どうだろうな。――ところで、お前がさっきから小脇に抱えてる本――それは一体なんだ?」
――強引にでも会話を引き伸ばして、時間を稼ぐ必要がある。
「知った所で、これから僕に殺される君には関係ない事さ」
「さっき自分の力だけ十分だ、とか言ってたが、それは――お前の力って奴なのか?」
ソレが違うという事は――それが《禁忌》と呼ばれる力だという事は――、今までの流れから認識できている。しかし、あえてソレを問う。
「違うね、《禁忌》は僕の力じゃない。――だけど、使うつもりは無いよ。さっきは単純に、煙を吹き飛ばす為に使っただけだし」
「煙を吹き飛ばす為にでも――使ったことに違い無いだろ?」
会話を繋げて時間を稼ぐ――後、どれだけ会話が持つかはわからないが――それでも続けるしかない。
「――なるほど。確かに君の言うとおりかも知れないなぁ。だが、使う使わないは僕が勝手に決めた事だ、従い続ける理由なんて無い」
「なんだ――そんな事言って、結局お前は、心の片隅で《禁忌》とやらの力を保険として何時でも使えるようにしてるんじゃないか」
今でどれ位経った? 一分か? 一分半か? それともまだ三十秒も経ってないか?
「そうかもしれないね――でも、僕は……死にたくないんだ、もう二度とね」
「それには同意しよう――私も死にたくなんかない。だから……ここでお前を殺して生き残らせてもらうぞ」
だめだ――会話が……続かない。否――まだ、行ける筈だ。
「――ところでお前、そのボロボロの服はどうにか出来ないのか?」
「あぁ――出来なくは無いよ。確かに、このままで居るのもどうかと思うし、アレを使うか――」
言って、少年は小脇に抱えていた本を真上に放り投げる。そして、小さく「MagiForm」と、唱えた。
言葉が紡がれると同時に、その放り投げられた本が、先ほど同様にバラバラとページ毎に散らばって行く。
そして――散らばったページが、少年の体に張り付いて行く。そして――張り付いたページが光だし、一気に拡散した。
表面のページが光る粒子になって弾け飛んだその下には、黒地に銀のラインが走るレーザーコートが存在した。
「さて――それじゃあ、いい加減に始めようか?」
もう、これ以上は、本当に引き伸ばせないだろう。
この際だ、死なずにこの状況を乗り越える為には、後の事など考えては居られない。生き残れば、次のチャンスはある、だから――
「《禁忌》の能力は使わないし、身体強化がされている分は手を抜こう――完全に僕だけの力で、君を殺してあげるよ」
――だから私は、左腕で首の裏の強化外装甲のボタンを押した。
小さな痛みが、首の裏に走る。打ち込まれた肉体の制限を外す為の薬品が、血流に乗って脳内に流れ込む。
そして、肉体が制限から――枷から――解き放たれる。
感覚は鋭敏化し、握る拳の力も、段違いに強くなる。コレで――制限解除が切れるまでなら、恐らく互角には戦える筈だ。
「――いくぞ」
言って、枷の外れた肉体の力を最大限に利用するように、私は地面を蹴った。
少年の元に近づく――その間も、景色がコマ飛びで流れて往く。脳の処理速度が、動きに間に合っていない。
二歩で少年の下まで距離を詰め、右拳――《近接形態》の《可変腕》――を打ち込む。
しかし、ソレを紙一重で回避され、次の瞬間には、クロスカウンターの容量で少年の拳が放たれていた。
――が、その拳はリーチの差で私の顔に届く事無く停止する。
「――なんだ、あんたなかなかやるじゃん」
そんな少年の声を聞きながら、地面を蹴って、後退する様に距離を取り、着地と同時に、再び前に跳躍する。
制限解除を発動させた以上、もう話をしている余裕などない。――この発動を無駄に終わらせたりはしない。
一撃を与える、倒せるまでの一撃である必要はない。唯単純に、私が――あの少年に痛みを与えておきたい――そう思っただけの事だ。
そして、二度目の攻防が始まる。
――私の一撃は触れるだけでいい。触れることさえ出来れば、《パイルバンカー》をお見舞いしてやる事が出来る。
だが、しかし、その触れる事が――出来ない。
放った拳はまたしても空を切り、また少年の拳も私に届く事無く空中で停止する。
そして、二度目の後退。着地と同時に三度目の前進の為に地面を蹴ろうとした瞬間――
『ラビ、チャージが完了したぞ』
――イヤホンから、そんな言葉が聞こえてきた。

――to be continued.

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